綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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18.凡人なりの努力

今日はみんな出かけるから、と留守番を任された。もちろん私一人でなく、ヴェルゴもいるけど。悪魔の実を食べていないしまだ12歳だというのにトレーボルたちのグループに入って暴行恐喝なんでもやってるなんてすごいな、と思っていたら、覇気を使いこなして戦うことができているというのが彼の強みだったらしい。頬に朝食で食べたハンバーガーを半分くっつけたままで竹竿を振り回して訓練している。

 

「ヴェルゴ、忙しいところをごめんなさい。ちょっといい?」

 

「ああ」

 

ひとしきり武器を振り回して、一息入れたタイミングで声をかけると、ヴェルゴは快く頷いて近寄ってきた。

 

「何だ?」

 

「あんまり根を詰めてると脱水で倒れちゃうかと思って。経口補水液…ええと、出た汗と似た成分の水?作ったから時々飲んでもらいたいの。あと、ほっぺたにお弁当がついてるよ」

 

「弁当?…ああ、通りで今朝は量が少ないと思った」

 

ハンバーガーをぺろりと食べて、喉を潤した後、再び訓練に戻ろうとするヴェルゴの頬をタオルで拭いておいた。ハンバーガーのケチャップが血のようについていたのだ。微妙な顔をしつつ大人しく頬を拭われてくれる辺り、身内には優しい子どもだと思う。…この間街で大の大人を何人も半殺しにしていたのは、まあ、裏の顔ということで見て見ぬ振りをすることにする。

 

「……覇気って、どうやったら使えるようになるの?」

 

「は?何だ急に」

 

「いやー、私のも使えたらいいのにな、って思って」

 

覇王色の覇気と………なんだっけ?あと2つほどあった気がする。なんか声が聞こえたりするやつと?ヴェルゴが訓練で使ってて体が黒くなるやつ?あの黒光りする覇気は別にいらないけど、聞き耳立てられる覇気は欲しい。興味本位でヴェルゴに尋ねると、案外真面目に考えてくれた。

 

「ルシーはドフィの妹だけど覇王色の覇気は使えないだろうな。武装色の覇気は使えるように俺が鍛えてやってもいいが、まだ体が弱すぎるな。見聞色の覇気は……」

 

「…うん?何?」

 

ヴェルゴは一度言葉を止めて、じっと私を見てきた。……なんだよ、そんな熱視線を送られちゃ照れるじゃないか。

 

「…ドフィから聞いたけど、死にそうな目に何度も合ったんだよな?」

 

「うん。割と頻繁に」

 

「生命の危険に晒された時なんかに見聞色の覇気に目覚めることが多いんだが、そういうことはないのか?」

 

「ん?そういうことっていうと、どんな?」

 

「幻聴みたいに常時誰かの声が聞こえたり、目を凝らしたら何キロも先が見えたりすることだ」

 

「ない!です!」

 

そんなトンデモ状態になってたまるか。日常生活すら危なくなるわ。ただでさえ体がボロボロなのに。…あ、足の火傷は治癒したけれど跡が残った。足首から膝上まで茶色いシミのように広がっていて、水膨れが引いてシワシワに、しかも皮膚が溶けたのか何となくツヤツヤと光っている。あんまり見ていて楽しいものではないし、みんなも見たくないだろうと普段はズボンやハイソックス、ロングスカートで隠している。

 

「ルシー」

 

「ハイ、先生」

 

「お前には才能がない」

 

茶化して先生呼びをしたのにバッサリ切り捨てられた。しかも才能がないと断言された。いや、分かってたさ、所詮私なんて原作からしたらイレギュラーな存在なんだし、ぶっちゃけモブの中のモブみたいなもんなんだし、ワンピースの世界の花形代表みたいな覇王色の覇気とか使えるようなウルトラハイパービックリな超人じゃないってことは。それに精神も体もこの世界の常識…というかドフラミンゴの人生に付き合いきれなくてズタボロになる程度の弱さだ。武装色の覇気だって習得するのは無理だろう。でもせめて見聞色の覇気ぐらいは…身につけたかったなぁ。

 

「先生…せめて見聞色の覇気だけでも身につけたいです…」

 

「いや、優先度で言うなら武装色の覇気だ」

 

「なんで?」

 

「体が弱すぎるなら、武装色で補う必要があるからだ」

 

「お…おお!!!」

 

なるほど、と納得した。さすがは未来の出世頭だけあって頭がいい!見聞色の覇気で逃げの一手しか考えていなかったけれど、武装色の覇気を使えたなら、プロは無理としても少なくとも一般人に危害を加えられることはなくなる。私はまだ子どもだし、体は弱いし、割とすぐ潰れてしまうから、下手するとドフラミンゴたちの足手まといになってしまう。それなら足手まといなりに自分の身を守ることぐらいはすべきなのだ。それらの考えを加味した上で、ヴェルゴは私に武装色の覇気を覚えるよう言ってきたのだ。

 

「じゃあヴェルゴ先生、覇気の身につけ方を教えてください!」

 

「……いいだろう。途中で逃げ出すようなマネはするなよ!」

 

「はいっ!」

 

かくして、私のスポ根な夏が始まりを告げた。


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