綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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20.兄の壮大なる野望

 

 

ドフィが転んだからと街を焼いたり、ドフィを不快にさせたからと住人を皆殺しにしたりしながら、アジトを変えて生活すること数回。数年を経て栄養失調のドフィの体が年齢相応のしっかりした体になってきた頃、とうとう島を出ようという話になった。もちろん皆殺しにしてやる宣言通り、私たちを火焙りにした街の人たちは一族郎党皆殺し済みらしい。私が留守番をさせられている間に全て終わっていたから詳しくは知らないし、知りたいとも思わない。ほんの少し、父親やロシナンテをも火焙りにしたやつらに対して、私の心の悪魔がざまあみろと笑っているだけだ。

 

「ねぇ、名前は何にするの?」

 

「あ?何の名前だ?」

 

「え、海賊団の」

 

「海賊?」

 

おや?話が噛み合っていない。島を出るというからてっきり海賊になるものだと思っていた。ドフィは私の考えを読んだのか、悪い笑みで海賊か、と呟いた。

 

「いいじゃねェか、海賊!」

 

「いや、あの、別に海賊になろうって言ってないからね?盗賊とか山賊でもいいからね…?」

 

「フッフッフ!どっちにしたって賊じゃねェか!」

 

それもそうだ。そもそも今さらみんなが真っ当な職業に就いてるとか想像できないし、その辺はもう仕方がないとしか言えない。とはいえコレ、私が変にせっついてしまったせいで海賊団結成に繋がってしまったのか…。私じゃどうあっても原作の流れを変えるなんて無理だけど、まさか決まった流れはそのままに、早送りとかしてないだろうか。とっくに薄れた原作を思い出して、どうせたいして意味のないこととは分かりつつ、自分が変なことをしていないかと時々不安になる。

 

「なァ、ルシー!」

 

「…へ?あ、ごめん聞いてなかった」

 

「オイオイ、体調が悪いのか?」

 

大きくなった手のひらで額を覆われた。成長期真っ只中のドフラミンゴはぐんぐん背が伸びている最中だ。時々成長痛で体の節々が痛いと文句を言っていて、誰のせいだと色めき立つ幹部連中を宥めるのが私の日課になりつつある。同じく成長期に突入したヴェルゴやピーカは成長痛を我慢してるというのに。うちの兄は本当に困っちゃうぐらいワガママボーイだ。それでも素直に妹を案じるところはまだ可愛いけれど。

 

「今日はフラフラしてないからたぶん大丈夫だよ。んで、何の話だっけ?」

 

「海賊団の名前だ。ドンキホーテ海賊団でどうだ?」

 

「ドフラミンゴ海賊団でよくない?」

 

「それだとおれだけの海賊団になっちまうだろ。お前もいるんだ、おれたち兄妹の海賊団でなきゃ意味がねェ」

 

「……おおお!!?」

 

おれたち兄妹の海賊団…だと…?いや、そんな、えっマジで?驚くことにドフラミンゴは本気で私を自分と同格だと思っているようだった。そしてたぶん、ドフィと私だけを視野に入れての言葉ではないのだろう。

 

「ロシーも?」

 

「…あァ。名を挙げて、あいつを探し出してやろうじゃねェか」

 

あの日からなんとなくロシナンテの話題を口にしていなかったけれど、ドフラミンゴもまだロシナンテを兄弟として想っていたようだ。サングラスの奥でドフィの目がギラギラと欲望に燃えていた。

 

「おれが王でロシーとルシーは王弟と王女だ。そしていつかおれたちの王国を取り戻すんだ…!」

 

「いや、私王女ってガラじゃ……んんん?え、待って?なんかナゾな言葉が聞こえた気がするんだけど。え、王国?なにそれ?」

 

「そうか、ルシーはまだ小さかったから知らねェのか。…グランドライン後半の新世界に、ドレスローザって国があるだろ?あれは元々おれたちの国なんだ。おれたち天竜人が捨てていった国を、適当なやつらに新たな王を立てさせてやって使わせてやってんだ」

 

「…へ、へぇー…」

 

(そういやドレスローザ編ってそんな設定だったっけか…?)

 

しかしそれを建前でなく堂々と事実のように語るドフラミンゴにちょっと引いた。この人、国を乗っ取るためでなくガチでそう思ってたのか。しかもこんな年齢から、おとなになってからもずっと。ドンキホーテ家がドレスローザ国王だった時代なんて、一体何百年前の話だ。それでも、ドフィは自分の願いを叶えてしまう。しかも国民に熱烈に望まれる形で。…可哀想な人達を山ほど作って。

 

「…私、王女なんかにならなくてもいいよ。みんなと一緒に住めたらそれでいいよ」

 

ちょっと甘えてみせてそう提案してみた。本音と打算をまぜこぜにして。ドフラミンゴは肩をすくめてバカだなと笑った。

 

「それは大前提だろ。それにお前が王女なのも大前提だ。そこは決して揺るがねェ」

 

「…こんな庶民派な王女様がいてもいいものなのかなぁ」

 

「まあ気品だ何だってのは今まで出てくる場面がなかっただけだろう。なんたってお前はおれの妹なんだからな」

 

「ドフィ、眼科行ってくる?」

 

「フッフッフ!お断りだ!さて、そうと決まれば海賊船を調達しねェとだな。おいルシー、何か希望はあるか?」

 

「えー?うーん、可愛い船がいい。花柄ピンクのメルヘンなやつ」

 

「………まあ、考えておこう」

 

ドフラミンゴは難しい顔をしながら参謀のトレーボルに要望を伝えに行った。花柄ピンクのメルヘンな海賊船とか作れるもんなら作ってみろ。むしろ見たい!その中からいかつさしかないドフラミンゴたちが凶悪な笑みを浮かべながら出てくるとか………アッ、だめだ、想像しただけでギャップで笑える。ウケるー。可愛いは正義だ。たとえ凶悪な人殺し集団に成り果てたとしても、彼らに可愛いげさえ見出せたなら私はまだ受け入れられるだろう。ああ、大切なのでもう一度言っておこう。どんな悪党であれ、可愛いは『正義』だ。

 


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