綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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22.奇抜なセンスの持ち主

 

 

手の傷が深かったので、怪我をしたと速攻でバレた。立ち寄っていた島の医者にも怒られたし、ピーカやヴェルゴからも怒られた。でもって、グラディウスを追いかけたことを知っているドフィとピーカがグラディウスのせいなのかと問い詰めたら、グラディウスが自分のせいだと言ってしまったらしい。なぜそうなる!

 

「ルシー…本当にその怪我は自分でやったんだな?」

 

「だからそうだってば。落ちてたグラディウスのナイフを掴んだまま転んじゃったのよ。あの子に刺されたならこんな傷にならないでしょ?ねえ、ディアマンテなら刃物に詳しいから分かるよね?」

 

「さあなァ…俺はそんなに詳しくねェからな」

 

「いやいや、うちのファミリーで一番詳しいでしょ?」

 

「よせよ、そんなおれのことを専門家みたいに言いやがって…」

 

「じゃあヴェル…」

 

「そこまで言うなら見てやろう!」

 

なんだこのコント。トレーボルのベタベタに捕まってるグラディウスを解放するよう説得するにも、なぜかドフラミンゴはご機嫌斜めで私の説明だけでは納得してくれないのだ。自分の知らないところで私が怪我をしたのが気にくわないからだろう。

 

「…まあ確かにルシーの言い分通りだろうよ。ヒョロヒョロのソイツが切りつけたならこんな深い傷になんざならねェ」

 

「ほらね!だから血の掟とかナシ!今回は適応外!」

 

「……仕方ねェ。おいグラディウス。今後一切おれの妹に怪我させるんじゃねェぞ」

 

「はっ…」

 

拘束を外され、ドフラミンゴに深々と頭を下げたグラディウスに申し訳なく思った。まさか私の怪我一つに対してドフィたちがこんなにガチで怒るとは思わなかったのだ。

 

「グラディウス、巻き込んじゃってごめんね。まさかあんなに疑われるなんて」

 

「ついて来るな」

 

「……うん……ごめんね…」

 

申し訳なさすぎてグラディウスについて行くのを諦めた。本当にもう、年々過保護になっていく幹部連中がうっとうしくなりつつある。なんとか仲直りしたいなぁ、と船から遠くを見ていると、後ろから声をかけられた。

 

「ルシー」

 

「なにー?」

 

「これからはこの服を着ていろ」

 

ヴェルゴに渡された紙袋を開けると、中からは白いワンピースが出てきた。しかも洗い替えで何着も。さらに言うなら膝丈。おいおい、火傷跡が隠せないじゃないか。

 

「何これ、誰の趣味?いくら私の顔が母親似で可愛いからって変態ロリコンに狙わせる気?」

 

半ばマジで文句を言うと、ヴェルゴが顔をしかめた。コレを用意したのはお前か!

 

「な、なーんて…冗談冗談!ウワー、カワイイナァー!…で、なんで急に服の指定?」

 

「それなら怪我をしたらすぐに分かるからだ」

 

「はぁ…左様で…」

 

「今回もそうだが、深い傷をお前が気付かずに放っておくと死ぬこともあるんだからな。いくら体が丈夫になったとはいえ油断してもいいわけじゃないんだ」

 

子どもに説教をされるなんて不思議な気分だ。けれど、私を心配してくれているのだと分かるから、ちょっとくすぐったい気もする。

 

「…じゃあ、着ておく」

 

「ああ。お前も怪我に気付いたらちゃんと報告するんだぞ。いいな」

 

「はーい。でも足が見えちゃうよ」

 

「足?」

 

「ほら、火傷の」

 

カーテシーのようにスカートをめくって膝下を見せたけれど、ヴェルゴは気持ち悪がりもせず、なんてことないように首を傾げてきた。

 

「それが何だ?」

 

「え?いやいや、気持ち悪くない?」

 

「そうか?」

 

気を使ってるのではなく、ガチでどうでもよさそうだった。日本の子どもなら、あざ一つ見ても気持ち悪いとか言いそうなものなのに。ここの世界の子どもは強いな。

 

「ヴェルゴって男前だよね。見た目で偏見されないってすごく嬉しいわ」

 

「ふざけたことを言ってねェでさっさと着替えてこい!」

 

「はーい」

 

ちょっと頬を染めたヴェルゴに怒鳴られた。可愛いやつめ。あんまりからかっていると鬼教官が出てきそうなので、部屋に戻ってさっそく着替えてみた。サイズはちょっと大きい気もするけれど、ブカブカすぎるほどではない。私の今後の成長に期待というところか。けれどやっぱり膝下に見える火傷の跡が目立つ。かといってハイソックスというのもどうかと思って、せっかくだからと街に買い物に行こうと思った。

 

「今空いてる人いる?ちょっと個人的な買い物に付き合ってもらいたいんだけど」

 

「買い物か。ラオG、ピーカ、お前らはどうだ?」

 

「ええ、構いません。行きますぞ、お嬢」

 

「ルシー」

 

ピーカがいつものように手を伸ばしてくれたので、握って一緒に船を降りた。店が多く、そこそこ繁盛している街のようだ。早々に下着屋を見つけたので、肌色でデニールの単位が大きいタイツをいくつか購入した。火傷跡を完全に隠すことは難しいだろうが、薄く見せることはできるだろう。早速ひとつその場で履かせてもらうと、意外と上手くごまかせたようだった。同じ女として気遣ってくれたのか、店員がラメや模様のあるタイツも紹介してくれたのでそれも購入した。なんでも、普通のタイツより模様があるものなんかの方が火傷跡やあざなどをごまかしやすいらしい。

 

「終わったのか?…なんだ、それだけでいいのか」

 

「うん。これだけあれば当分は保つよ」

 

ピーカに袋を持ってもらって、帰りはピーカとラオG二人に手を引かれて歩いた。ラオGは私を気遣ってか少し体を傾けて手を引いてくれた。体幹が斜めになっていても、まだ腰の痛みとかはないらしい。彼にもぜひとも長生きしてほしいものである。本当に子どもになったような気分で、ちょっと浮つきながら街を横目に歩いていると、ふと、奇妙なぐらいの極彩色が視界に入った。

 

(わぁ……すごい。すごく細かくて繊細な絵なのに色使いが凄まじく派手な絵!)

 

目に痛い色彩を一般人ウケする色合いにするだけで人気が出そうなものなのに。私があまりにじーっと見ていたからか、ラオGとピーカが立ち止まってくれたことにも気付けなかった。

 

「…気になるのか?」

 

「うん。斬新って感じ」

 

もしくは奇抜。しっかりした画材だし、額縁もすごいものを使っているのに、路上に並べて売っているなんてちょっと不思議だった。他にもいろんな人たちが絵を路上で販売しているけれど、大抵がただの紙に描いたり、白黒だったりするのに。描いた人は誰なんだろうか。それとも…もしかしてこれ、盗品?

 

「あらっ!あーた、この絵が気に入ったざますか!?見所があるざます!!!」

 

(こ、このご時世にザマスだと…?)

 

ドフラミンゴのような吊り上がったデザインの、でも薄い色のサングラスをかけた女性が満面の笑みで駆け寄ってきた。ヒェッ!圧が!すごい!奇抜な色と形の髪は置いといて、口調とマダム風の衣類からも、ふと前世の国民的アニメのとあるキャラを思い出した。スネちゃまどうしたザマス?とか言ってほしい…。いや、声優さんが違うだろうけど。

 

「お嬢、わしの後ろへ」

 

「ちょっと!あーた邪魔ざますっ!」

 

ラオGが庇ってくれて、ピーカに後ろへ下がるよう連れられ、そこでようやく女性の全体像が見えた。圧がすごいと感じたのは急に駆け寄られたからだけじゃなかった。ラオGよりもガチで身長が高かったからだった。……あと、とっても、既視感がある。もしかして原作でファミリーにいた?

 

「はじめまして。私はドゥルシネーアです。あなたの名前は?」

 

「おいルシー、関わるんじゃねェ」

 

「あたくしはジョーラ!あーたはどこの子ざます?あたくしの芸術をもっと披露して……あっ!どこに行くざます!?」

 

「逃げるぞピーカ!」

 

「しっかり掴まっていろ…!」

 

「待つざますー!!!」

 

家のことまで聞いてきたジョーラさんを警戒して、ラオGとピーカが私を担ぎ上げて走り出した。でも見た目的に逆にピーカたちが誘拐犯扱いされそうだ。それにあのジョーラさん、たぶんファミリーに加入する人だ。なんで勧誘するにちょうどいいこのタイミングを逃してしまうのか!加入しなかったらどうしよう、と嫌な汗が流れた。いや、別にただの芸術家をファミリーに加入させる必要はないんだけど、たぶんあの人は悪魔の実の能力者だから、実力重視のうちのファミリーに入ってもらっても問題ないだろうに。

 

「え、ちょ、何で逃げるの?」

 

「あいつは危険だ」

 

「どういうこと?」

 

「点で視線を送っていたことやあの手の独特のタコ…恐らく、銃器使いですぞ」

 

「暗殺者か?」

 

「その可能性は高い」

 

「銃?能力者じゃなくて?」

 

「能力者かは分からねェが…何だ、知ってて話しかけたのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

 

船に逃げ帰ったのに、まだあの高い声で、待つざますー!と叫ぶ声が遠くで聞こえてる気がする。絵もそうだったけど、なかなか強烈な個性だな。でも、うん、絶対ドンキホーテファミリーにあの人いたって。妙に確信を持って言える。

 

「ねえ、あの人も家族にしようよ」

 

おいお前嘘だろ、って顔をされた。でも私がファミリーのことについて口出しするのは珍しかったからか、ピーカはドフラミンゴにジョーラさんのことを話したらしい。かくして島を出発する頃には、ジョーラを含む新しいメンバーたちがファミリーに加入し、次の島に上陸するまで残っているのは妙にタフな精神力でファミリーに粘り着いた彼女一人だけとなったのである。

 


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