綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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24.鬼教官からの卒業

 

「10年近く訓練してて覇気が出ないってのは、むしろもう一種の才能だイーン!」

 

ヴェルゴに投げつけられるボールは割と避けられるようになってきたけれど、相変わらず覇気のはの字すら現れそうにない私に、マッハ・バイスがいっそ清々しいくらいに断言してくれた。もはや諦めの境地にいる私も、せやな、と頷くしかできなかった。怒りすら出てこない…。

 

「でも風邪ひいたりしなくなったし、走っても息切れしにくくなったし!ヴェルゴ先生のおかげです!」

 

船の中を一周走っても途中で酸欠で倒れることはなくなったし、病気も本当になりにくくなった。ボールをぶつけられる訓練を繰り返していたおかげで、動体視力も心なしかアップした気がする。

 

「……よく頑張ったな、ルシー」

 

「ヴェルゴ先生…っ!!!」

 

「むしろここまで諦めなかったコラソンを褒めてやれよ!おれなら1日で諦めるがな!ウハハハハ!」

 

せっかくのキラッキラした青春を台無しにする男、ディアマンテ。本当にコイツは人の心を踏みにじるゲスだな!でもその通りだと悔しさを噛み締め、ヴェルゴに握手を求めた。

 

「本当にありがとう。私の先生があなたでよかった」

 

「?これで終わりみたいな言い方をするんだな?」

 

「え、まだコレ続けんの?」

 

「いや。覇気の訓練は一度終わりだ」

 

覇気の訓練『は』……ってことは他の訓練をするのか?鬼教官再び?マジで?

 

「次は護身術を身につけろ」

 

「ゴシンジュツ」

 

目から鱗なことを言われた。たしかに、見聞色も武装色も、我が身を守るために習得しようと思っていた。なら護身術を身につけるということも立派な身を守る術だ。普通は覇気とか言う以前にすべきなんだろうが、ワンピースの世界ということで覇気を身につけることが優先だと偏見を持っていたらしい。

 

「分かった。じゃあ、また鬼きょ…ヴェルゴ先生、よろしくお願いします!」

 

「おれは忙しい。ドフィの仕事を手伝うからな」

 

ズバッと切り捨てられた。え、ヴェルゴ先生に見捨てられた…?地味にショックを受けてへこむ私に、ヴェルゴはにっこりと笑って後ろを指差した。

 

「安心しろ、代わりは見つけてある。ラオG、グラディウス」

 

「ああ。よろしく頼みますぞ、お嬢」

 

「………途中で音をあげるなよ」

 

「ラオGとグラディウス…ってことは武術と銃?剣とかはいいの?ってか銃ならジョーラもいるけど?」

 

「おれじゃ不満だって言いたいのか…!?」

 

プクーッとグラディウスの顔が膨らみ始めた。いや、比喩でなく。たまたま商売で流れてきた悪魔の実を、巨額になるから売り飛ばすかと調べた時に、パムパムの実という破裂の能力があるということでうちのファミリーで活用することになったのだ。ヴェルゴ、ラオG、グラディウス、ジョーラの誰が食べるかという話になった時に、真っ先に手を挙げたのがグラディウスだった。ドフラミンゴとしては幹部で唯一能力者でなかったヴェルゴに食べさせたいと思っていたらしいが、能力者のドフィが万が一海に落ちた時に助けられるからとヴェルゴ自身が身を引いたのだ。あとはトレーボルたちや私がグラディウスならばと推薦したのもある。閑話休題。みるみるうちに膨らむグラディウスに、違うと否定した。

 

「グラディウスの腕はうちで一番だって知ってるよ。不満なんてないない!むしろ嬉しいなあ!私グラディウス大好きだしヴェエ…」

 

「黙ってろ!!!」

 

ふざけたことを言いやがってと怒ったのか、顔を赤くしたグラディウスに思いっきり頬を引っ張り上げられた。おい、なんでみんな微笑ましそうに見守ってんの!ねえちょっとこの子止めて!?おたくらの王様の可愛い妹の頬が超ピンチなんですけど!?血の掟どこいった!

 

「おれが棒術、ディアマンテが剣術を教えてもいいが、いざという時にそういった類の道具がなければ意味がない。それにお前の筋肉量では返って武器を奪われて危ない目にあうだろう」

 

「おっしゃる通りです」

 

その辺は胸を張って言える。…あ、胸といえば第二次性徴期で胸が育ってきた。前世のツルペタが嘘のように巨乳だった。ジョーラの爆乳には負けるけど。…信じられるか?ジョーラの胸…片胸だけでも下手したら人間の頭ぐらいあるんだぜ…?

 

「今までの訓練で動体視力はそこそこみられる程度になっているからな。ラオGには相手の力を利用した戦い方を教えるように言っている」

 

「専門外だGAな…の「G」ィィィ!!!まあ、なんとか教えてみせよう」

 

「ありがとうございます、よろしくお願いします!」

 

ラオGの専門は老化の痛みが何か強さに変換される?とかいう謎の武術なので、老化はともかく痛みを強さに変換というのは私とは最も相性が悪い。だが、相手の急所を突いたり、体を動かす方法を教えてもらえるのはありがたい。いざという時に役に立てそうだ。

 

「銃の腕はそこまで期待していないが」

 

「やる前から期待皆無!?」

 

「まあ聞け。そもそも女の腕で扱える銃は少ない。その中でも特に反動の少ないものを厳選しなければお前の肩程度、すぐに反動で外れるだろう」

 

「え…銃ってそんなヤバイもんなの?」

 

路地裏ではナイフを使っていたグラディウスが、ファミリーに入ってたった数年で神がかった腕前になっていたから、銃はそんなに扱いが難しいものではないと思い込んでしまっていた。それにドフラミンゴだって今の私よりもずっと細くてヒョロヒョロだった幼少期に普通に銃を使っていたはずなのに。

 

「反動の少なくお前の腕でも扱え、さらに外れた時に備えて装弾数が数発はあって小型で常備できるものとなると威力は虚仮威し程度のものしかない。引き金を引くだけでもお前にとっては相当な力と時間をかけなければならないだろう。…敵がそれをわざわざ待つと思うか?」

 

みんなに守られている私が銃を使わなければならないほどの場面になってしまって、しかもモタモタしながら銃を準備するだなんて、確実に死んでる。久しぶりに命の危険というものを意識して、ぞくりと背中が粟立った。…触覚がないからあくまでも気持ちの問題だけど。でも、そうか、ドフィが手広く商売をするに従って、みんなが守ってくれるから安全、船に隠れていれば安全、という話ではなくなってきているんだよな。下手をするとすぐ人質に取られて、うっかり殺されかねないのだ。

 

「…速攻で殺されて終わりだと思う」

 

「そういうことだ。…グランドラインにはバルジモアという国があるそうだが、少なくともそういった国で作られた特殊な武器でもない限り、お前に扱えるものなどごく僅かだ。だが、護身となれば虚仮威し程度で十分だ」

 

「へ?」

 

さっきと言っていることが矛盾していない?殺されないための護身術が、イコール虚仮威しとはならないはずだ。だって虚仮威しで変に刺激してしまえば逆上した相手に殺されるんじゃないだろうか。

 

「グラディウス」

 

「…麻酔弾や催涙弾、催眠弾の扱いを教える。飛距離も威力もないが、火薬の量が少ないから反動も僅かだ。当たりさえすれば敵を無効化できる。催涙弾は当たらずとも顔の近くに撃てさえすればいい話だからな」

 

「お…おおお!!!」

 

それなら相手を殺してしまう心配もない。…そう考えて、自分の甘さに気付いて内心笑えた。今までドフラミンゴたちがどれだけ人を殺してきたか知っている。その殺しによって私が美味しくごはんを食べたり綺麗な服を着て柔らかなベッドで眠れていることも。なのに、自分の手を汚すことを未だに恐れているだなんて滑稽だ。うっかり笑ってしまったのを見られて、何がおかしい、とグラディウスに尋ねられた。

 

「いや……私、人を殺すのが怖かったんだなー、って思ってね」

 

何を甘いことを言っているんだ、と怒られるだろうか。けれど、誰も怒ったり笑ったりしなかった。ただ、ヴェルゴが私の頭を撫でて、こう言った。

 

「ああ…そうだと思っていたよ」

 

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