コラソンがヴェルゴになるらしい。何を言っているか分からないと思うが(略)。要するに、ヴェルゴはドフィから別の任務を任されたらしい。そしてコラソンという幹部の座からは外れて、ヴェルゴとして活動することになったと。任務の内容は言えないがな、と頬に朝食のおにぎりをくっつけたまま荷造りをするヴェルゴの背中を見ていると、じわりと視界がぼやけてきた。
「寂しい…」
なんやかんやでドフィを除けば、訓練だ護衛だと私のそばに一番長く一緒にいてくれたのはヴェルゴだった。才能皆無な私に根気強く付き合ってくれたし、訓練をつけるのがラオGとグラディウスになっても、時々様子を見てくれていた。鬼教官が恋しいのではない、けれど本当に血の繋がった家族のように育ってきた彼が船からいなくなってしまうことが、たまらなく寂しかった。おかしいなぁ、私、こんなに寂しがりだっただろうか。とうとう雫が目からこぼれ落ちてしまった。歳をとると涙腺が緩むってこういうことだろうか。ぼっとぼっとと泣き出した私を見て、カケラも慌てずヴェルゴはため息を吐いた。
「何も生涯会えないわけじゃない。…ドフィの妹がそんな不細工な顔をするな」
「失礼な人だな!」
つい大声で言い返した私をからかうように笑って、ヴェルゴは頭を撫でてきた。まるでこれが最後だというように。
「ドフィを頼むぞ、ルシー」
「…役立たずの私に頼むくらいなら、任務なんて行かなきゃいいじゃない…」
「お前だから頼むんだ」
袖で私の顔を雑に拭って、ヴェルゴは言った。
「お前はおれの弟子だろう?」
鬼教官はめちゃくちゃ怖かったのに、その言葉があんまりにも優しくて、また泣けてしまった。
「……でも私、いつか独立するかもしれないよ」
「お前が?…まあ、やれるものならやってみりゃいいさ」
どうやら、お前には無理だろうがな、と言われたようだ。そんなことない、と言い返したかったのに、言ってはいけない気がした。だってヴェルゴは私にドフィを頼んできたのだ。言い返したらヴェルゴのことを否定したのと同じになってしまう。そろそろ時間だ、と荷物を持って出て行こうとしたヴェルゴの手を掴んだ。買い物に行く時、敵船に襲われた時、訓練で立てなくなった時も、いつも手を握ってくれていたことを思い出した。ああ、触覚と温感が今戻って欲しい。手を繋ぐのはこれが最後になるかもしれないのに、ヴェルゴの手がどんな手だったかも記憶できない。ヴェルゴは黙って荷物を片手でまとめて持って、もう片方の手で私の手を握ってくれた。家族たちに後のことを頼むと言って船から降りてしまうまで、ずっとずっと握っていてくれた。