綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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36.忍び寄る世界の闇

 

あれからドフラミンゴは私が言ったことなんてまるでなかったかのように振る舞った。…いや、少しは気にしているのか、家族ではなく自分の目の届く所に私を置こうとした。お前は粘着質なストーカーかヤンデレ彼氏なのか、というツッコミ待ちなんだろうか。めんどくさすぎるし鬱陶しいので、ロシナンテがいる時は避難するようにずっとくっついていた。ロシナンテも私がいると鬱陶しいはずなのに邪険にせず、頭を撫でたり、お菓子をくれたりと気を使ってくれた。やりたいことも多いだろうに…ごめんよ、我が心の天使…。代わりといっては何だが、転びそうになったり熱々の紅茶をすぐ飲もうとしたら、ドジをする前に止めてあげた。

 

「……ルシー、こっちに来い」

 

最近私が近付こうとしないことにちょっとは傷付いているのか、ドフラミンゴは私に呼びかけることが倍増した。いや、もしかしたら3倍増かも。

 

「嫌。ロシー兄上とイチャイチャするんだから、ドフィ兄上は邪魔しないで」

 

「………」

 

ムッとした顔をしたけど、私がまだ怒っているなら気が変わるまで放っておこうとでも考えているのだろう。諦めたようにため息を吐いて書類に手を伸ばしていた。ざまーみろ!傷付け!そしてその傷が元でくたばれ!…アニメの海星ちゃん可愛かったなぁ。あの子もバカ兄貴に苦労する妹キャラだったっけ。イライラがおさまらなくて、ふん、と鼻息荒くロシナンテのモフモフに抱きついた。うーん、タバコ臭い!そんな兄と妹に挟まれて困っているのか、ロシナンテは目に見えて狼狽はしないもののどうしたらいいか分からないと眉を八の字にしていた。間っ子って大変だ。

 

「……ルシー、気晴らしに街にでも行ったらどうだ?」

 

第三者に声をかけられてビックリした。あ、みんないたの?タバコを口の端に咥えつつ、セニョールが提案してきた。さすがはハードボイルド、機嫌を損ねた女に正面から対応しようとするのは逆効果だと分かっているってか。でもたしかにヴェルゴがファミリーを出てからは、なんだか買い物だ何だと外に出る機会が減った。ドフラミンゴが外に行くことを快く許可してくれなかったので面倒だったのもあるけど。…ってことはこいつのせいか!そう思うと、大して買いたい物もないのに、街に出かけたくなった。

 

「行く」

 

巨体のバイスとバッファローに挟まれて、華やかな街に着いた。どうやら裏のありそうなお店が多いらしい。歓楽街なんて前世でもなかなか行く機会がなかったし、今世では初めてだ。

 

「あっ!アイスだすやーん!!!」

 

「ちょ、バッファロー!?」

 

歓楽街に不似合いだけど妙に流行ってるアイス屋を目ざとく見つけ、バッファローが速攻で駆けて行った。まだまだ子どもだなぁ。…そういや原作でもアイスを食べてる描写が多かったっけ。私の護衛を言い渡された時にお小遣いをもらっていたから、早速使う気なんだろう。

 

「アイツもまだまだガキだイーン」

 

「だねぇ…」

 

呆れたように笑うバイスに同意した。しかし、歓楽街か…買い物も何もできないんじゃないだろうか。煌びやかな店の合間にたまに見るのは、夜の女の人や男の人たち向けの服屋、宝石屋、花屋、バーぐらいなものだ。列に並んでウキウキしているバッファローは放置して、バイスと一緒に服屋の前を通った。ショーウィンドウ越しに売っていた服は、やはりというか当然というか、露出の高い高価でエレガントなデザインの夜のお店向けのものだけ。服の露出が高いと火傷や手術、訓練での骨折の治療などでズタボロになった体が露呈するから着られない。どうせみんな気にしないだろうけど、私が気になるのだ。

 

「…花……」

 

服屋に隣接する小さな花屋には、色鮮やかな花が所狭しと売っていた。きっと男性たちが目当ての女性にプレゼントするんだろう。以前ベビー5が赤いバラをくれたことがあったな、と思い出して、お返しに花をあげようと思い立った。

 

「ねえバイス、ちょっと花を………ってオイ」

 

鼻の下を伸ばして綺麗なお姉さんたちをぼうっと見ていた。バイス、お前もか!護衛はどうした。

 

「ハッ!…あまりにタイプの女がいてな…すまなイーン」

 

「いや、どうせこんな昼間からヤバイ人とかいないだろうし、別にいいけどさぁ…」

 

悪いなァ、と笑いながらも浮ついた感じで通り過ぎる美女たちを眺めている。せやな、ヒョロヒョロの小娘の護衛なんかより道行くお姉さんたちの方が見ていて楽しいわな…。アッなんかつらい…。さっさと買って帰ろう、とベビー5の好みそうな花を物色していた時、ふといい香りが間近に漂った。

 

「……あなた、ドゥルシネーアさん?」

 

「へ?あっ、はい…ーーッ!!?」

 

ぐうっ、と息ができなくなって、急激に意識が薄れた。首を絞められたのだとは、とうとう最後まで気付けなかった。

 


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