R15程度の表現があります
太い木の枝をへし折ったような音が聞こえた。体が揺れたような気がした。ちょっと呼吸しづらくなった気がした。何か大きな音が耳元で聞こえた気がして、もしかしてまた海軍からの襲撃?と欠伸をしながら目を開けた。いつものようにドフラミンゴのニヤニヤした顔が視界いっぱいにあるのかと思いきや、暗い部屋に何本もの人の足が見えて驚いた。
「……あなた、凄いわ。これだけ痛めつけたのに欠伸をしている人なんて私初めて」
軽やかな声が驚嘆を含んで聞こえた。コレって子どもの夢だろうか、と暗闇に慣れない目を何度か瞬かせていると、再び体に振動が加わった。え、地震?でも地震にしては一瞬だったぞ?
「あれ?地震じゃない?」
「…もしかしてあなた……脳の障害でもあるの?ドンキホーテ海賊団は能力者揃いだって聞いてたからわざわざ海楼石で繋いだのに」
暗さに慣れてきた目で見上げると、そこには綺麗な服を着た綺麗な女性が不思議そうな顔をして見下ろしてきていた。
(……歓楽街の女王、CP0のステューシーさん?なんでここに?)
髪型は違うけれど、漫画に出ていたままの美しさだった。ってことは海軍に捕まったのか。ん?いや、海軍じゃなくて政府にかな?ああ、でも綺麗だなぁ。
「あなたには聞きたいことがたくさんあったんだけど、痛みを感じないなんて…どうしようかしら。……ねえ、今は何を考えているの?」
「綺麗な人だなぁ、って思ってました。いいなぁ」
「あら、ありがとう。……そう、危機感もないのね。ハズレを引いちゃったかしら」
残念だと言わんばかりにステューシーさんはため息を吐いた。頬に手を添える仕草や眉をちょっとひそめる仕草など、そのちょっとした優雅な仕草にまでクラクラしてしまう。廃棄された倉庫らしき場所なのに、それすら彼女の美しさを引き立てる小道具のようだった。そして隣や後ろに立つのは、仮面を被った奇妙な男たちと、やや小柄な少年だった。こんな所に子ども?と不思議に思ってよくよく顔を見ると……獣人型に変身したロブ・ルッチだった。うわー!生だ!本物だ!カッコイイ!
「ねえ、ドゥルシネーアさん」
「何ですか?」
「あなた、アレを見たことがある?」
「といいますと?」
はぐらかすわけでもなく純粋に質問の意図が分からなくて首を傾げると、素直に言う気がないように見えたのかルッチ(小)に首根っこを床に押し付けられた。胸が潰れて肺が圧迫らせたらしく、ぐう、と潰れた声が出てきた。
「とぼけるな!」
「いやいや本当に…アレって言われる物の意味が分からなくって。もうちょいヒントください」
「マリージョアの国宝のこと」
「ああ、そっちですか」
「そう…やっぱり知っているのね」
ステューシーさんの声がワントーン下がった。あっ、違う違う!なるほどその話ですか、って意味で頷いたんであって!いや、でも何なのかもう原作で出たから知ってるっちゃ知ってるんだけども!?くっそう、知らないとは言い切れない…!
「そっちのこと、ってことは、他にも何か色々知ってそうね?」
「さっさと吐け…!」
「えー?いやー、ほら、政府って色々隠し事多いですし?噂とかならみんな知ってるでしょうし?私だけが知ってる隠し事があるとか、そんなそんな…」
恐れ多いです、と謙遜したのにルッチに腕を踏みつけられた。あっ、ボキッていった。あーあ、骨が折れちゃったか。久しぶりだなぁ。
「……痛みに屈しないなんて、どうしようかしら…。………ああ、そうだわ。ドゥルシネーアさん、あなた、処女?」
「へ?」
「いえ、答えなくてもいいわ。そうよね、ドフラミンゴが妹をいつまでも大事に大切に手元に置いているんですもの。きっと男性経験はないのでしょう?」
嫌な感じだ。とてつもなく、嫌な流れだ。おいおい…少年誌でそういうのってアウトでしょ?ねえ…!?
「あなたが素直にお喋りしたくなるのは、何人目からかしら。楽しみだわ。…ねえ、ルッチくん?」
「……契約外だ。おれは関係ないだろ」
「あら。元天竜人で病気もない綺麗な処女よ?こんなことができるなんて、きっと人類初だわ。最初はとても頑張ってくれているあなたにさせてあげたいのよ。あなた、筆下ろしもまだでしょう?」
「……チッ!」
「それじゃあ、素直にお喋りしたくなったら呼んでちょうだい。あなたたちも壊さない程度になら楽しんでいいわよ」
……えっ、マジで?ちょちょちょ、待つでござる待つでござるルッチ氏待つでござる!?ちょ、アンタ童貞ならもっと初恋の相手とかとヤッてこいよ!別にこれ、ルッチ夢とかじゃねーから!お互い後々のトラウマになるから!アッ待って待って服破かないで!アッーーー!!!レイプ漫画にありがちな感じでビリビリとワンピースもタイツも破かれて、ごろん、と仰向けに転がされた。下着と破いた服引っ掛けてるだけとか!私そんなエロ趣味で興奮しておっ勃てるルッチ氏見たくないでござる!!!
「っ……!」
馬乗りになっていたルッチが目を丸くしてわずかに身を引いた。立ち去ろうとしていたステューシーさんが何か起きたのかと、ハイヒールをゆっくり鳴らしながら近寄ってきて、私を見下ろして目を丸くして言った。
「ーーーあなた、あのドフラミンゴの妹でしょう…?どうやったらそんな体になれるの?」
「へぁ?どうやったらっていうと?」
ステューシーさんの細い指が、体の上を一つ一つ指差した。
「太い動脈の真上に銃痕…胸郭に大きな手術痕…肋骨を何度も骨折した跡…腕も何度も骨折を繰り返しているのね……それに、足の火傷跡…これは、昔のものかしら。体の5分の1は皮膚が死んでいるわね」
「子どもの頃に火炙りにされたり、暴行されたりしてたんで。この間も肺切除とかしたらしいですし。あはは」
あとは訓練で、と言う前に、ステューシーさんとルッチがギュッと眉根を寄せて奇妙な表情を向けてきた。
「あっ、それから私、触覚死んでるんで。不感症なんで。輪姦されても素直にお喋りしたくなりませんから、悪しからず」
だからレイプとか意味ないよ、とアピールしてみたら、ステューシーさんにとうとう頭が痛いと言いたげに大きなため息を吐かれてしまった。ああ、美人は苦悩する姿も綺麗だなんて羨ましい。
「今は自白剤も手元にないし…ドフラミンゴを強請るにもこっちの戦力が整っていないし………タイミング、間違っちゃったかしら」
「おい、どうするんだ」
「……とりあえず、物は試しだし一巡くらいはしておきましょ。そこで吐けばいいし、吐かないなら……半殺しぐらいにして世界政府に連れて行きましょうか」
一巡…?おいおいおい…マジで?輪姦続行?ショタと言ってもおかしくない年齢の子とか仮面被った何処かの誰かさんたちに馬乗りになられて腰振られんの?ちょ、やめてやめて!トラウマ確定だから!同じ女の方が女の嫌がることが分かるとはよく言ったものだ。ステューシーさんがくるりと背を向けて出て行こうとした。その時だ。
「ルシー…っ!!!」
「くっ…!」
「きゃあっ!」
ボゴッ、と床が大きく弛んだ。ああ、このソプラノボイス…ピーカだ。我が心の家族よ!私の上から動物らしく瞬時に飛び退いたルッチやステューシーさん、仮面の男たちがすぐさま視界から消えた。全方位から石の匂いがして、ピーカの能力で包まれたのだとはすぐに気付いた。
「ルシーさんっ!!!」
「ルシー!!!」
「っ…ここにいるよ!」
どうやらピーカ軍が探し当ててくれたらしい。ベビー5の声やグラディウスの声も聞こえた。意識はあるし無事だと返すと、それを聞いた彼らが各々の能力を駆使して攻撃に転じたのが分かった。
「貴様ら…っ!うちに楯突くとはいい度胸だな!!!」
「ルシーさんに酷いことしたのね!?許さないっ!」
「っ……分が悪いわね。ここは手を引きましょう」
「逃すと思うのか…!?」
「ええ。逃げさせてもらうわ!」
攻撃を受けているはずなのに、ステューシーさんの平然とした声が撤退を指示した。地鳴りのような音が聞こえたから、ピーカが周囲を覆って逃げられないようにしたのだろうが、ルッチの声と爆音が聞こえたからきっと突破されてしまったのだろう。悔しげに罵声を吐いたり舌打ちをした家族たちが、深追いは危険だと判断したのか、私の方へと寄ってきた。
「ピーカ、ルシーさんに会わせて!」
「……ダメだ」
「えっ!どうして!?ルシーさんは無事なんでしょ?ねえ、ルシーさんっ!」
ベビー5が泣きそうな声で石の壁を叩いてきた。別に会わせてくれてもいいのに、とピーカの奇行を訝しんだけれど、ふと下を見れば自分の素っ裸が目に入ったので納得できた。なるほど、気を使ってくれてるのか。
「…ピーカ、どうせこの格好じゃ帰れないし。グラディウスからコートでも借りれたら嬉しいっていうか」
「………なら、これを着ておけ」
「んぶっ!…ありがとう」
石からボコッと服が排出されて、頭の上に落ちてきた。ピーカの上着だと分かったので、大きすぎるんだけどな、と思いつつ羽織ってみた。案の定床を擦るほど長いし、袖も私の手なんて全然出せないくらいに長い。グラディウスの方がまだ着丈が似てるのに、と思いつつピーカが善意で貸してくれたことに感謝した。私が着たことを確認して、ピーカの石の壁がボコボコと崩れていった。
「!ルシーさ、ん……!?」
パッと喜色を露わにしたベビー5の顔が、ザッと青ざめた。グラスの向こうで目を丸めたグラディウスが、額に青筋を立てて聞くに耐えない罵声を吐いた。
「っ…あ、の野郎ども…ッ!!!」
「ルシー、さん…ルシーさん…っ!」
わあっ、と大粒の涙を零して、ベビー5が抱きついてきた。小さな体を抱きしめ返してあげたかったのに、両腕が折れていたのか、ぶらりと垂れて言うことをきかないから、仕方なく頬ですり寄った。
「…お迎えに来てくれてありがとう。ピーカも、グラディウスも、ベビちゃんも…ありがとう。大好きだよ」
「わああぁんっ!!!」
ベビー5の泣き声が一層大きくなって、私の背を支えてくれるピーカも、目の前で激情を押さえ込んで俯いてしまったグラディウスも、何も返してくれなかった。騒ぎを聞きつけたドフラミンゴたちがやってくるまで、ずっと。