綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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42.機を逃さずに

 

取引とは言ったものの、ロシナンテは私に何もしなくていいと言った。実際にロシナンテがローを連れていなくなるまでは上手くいっていたようだし、と納得しかけて、思い出した。

 

「あのー、海軍に襲撃要請をするのは、ちょっと控えて置いた方がいいと思うの」

 

近い将来ローを連れてファミリーから離れた途端に海軍からの追跡がなくなって〜、なんて話したところで理解してもらえないだろうし、今後に不利益が出るのもいただけないからそこは省いた。ごめんよ、ロシー。何も聞かないで。

 

「ロシーが帰ってきた途端に海軍が襲ってくるようになった、って繋げられると、まだ困る段階でしょ?」

 

「…それは無理だ。襲撃のタイミングはおれじゃなく上層部が判断しているからな」

 

…たしかに原作でも、ドフラミンゴは来ないじゃないか、とおつるさんがセンゴクさんの愚痴を言ってる場面があったっけ。ロシナンテが報告したことに対して、知将と呼ばれるセンゴクさんが判断しているとなればまだ話は通じるかもしれない。けれど、それがもっと上の……そう、例えば、世界政府とかからの命令なら?ステューシーさんが私を襲った時点で想像はつく。今現在、ドフラミンゴは天竜人に命を狙われている最中にあるのだ。数多くの暗殺を乗り越えれば天竜人からの協力を得られて、七武海・国王・ジョーカーの顔を持つ原作通りのドフラミンゴになる。…ロシナンテにどうこう説得させたところで無意味だ。逆に何を言っていると怪しまれるだけだろう。怪しまれることは避けたい。じゃあこの案は却下。次!

 

「………うーん…じゃあ、バレそうな時用にフェイク作っておこう。海軍で何かない?居場所を発信する系の電伝虫とか」

 

「そんな電伝虫は聞いたことがないな…。一応、センゴクさんに掛け合ってみよう。…期待はするんじゃないぞ?」

 

「はーい。あとは……あ、そうだ。初代コラソンだけど」

 

「何だ?」

 

「今ーーうわぁっ!?ベビちゃん!?」

 

「!」

 

何気なく見ると扉が開いてて、そこからベビー5とバッファローが顔をのぞかせていた。私と目が合うと嬉しそうに笑って駆け寄ってきたので、慌ててロシナンテに能力を解くよう合図した。

 

「ルシーさん、コラさんと何してたんですか?」

 

口ぱくぱくしてた、と無邪気に寄ってきたベビー5を膝の上に抱き上げて、バッファローの頭も撫でた。

 

「………!」

 

「…ん?どうしたの、兄上?」

 

「…、………っ!」

 

ロシナンテは私の手を指差していて、何かよく分からないけれど怒られているらしい。

 

「…あっ!ルシーさん、手がまだ治ってないでしょ?使っちゃダメって言われてるのに!」

 

「そうだすやん!前もコラさん引っ張って悪化させたの若様たちに怒られてただすやん!」

 

うん、若様ってかディアマンテとピーカとグラディウスとジョーラが強烈に怒ってたね。グラディウスが私にガミガミ煩いのはいつものこと。あんたは私のカーチャンかっての。むしろお母さんも母親もあそこまでうるさくなかったわ。

 

「ごめんごめん。だって動くからさぁ。つい」

 

「ルシーさん…無茶しないで…」

 

「無茶してるつもりないんだけど…」

 

「してます!」

 

「無茶だすやん。無茶苦茶だすやん」

 

子どもたちにまで怒られた…。別にそれでロシーが守れたのだし、私としては全然問題ないんだけど。だって腕もお腹も痛くないし。そもそも痛いってどんなだっけ?最近痛いという概念すら忘れつつある。ますます人間捨てつつあるなぁ、私。

 

「………」

 

「あっ、コラさん…」

 

私の頭を撫でて、ロシナンテが部屋から出て行ってしまった。

 

(大丈夫、まだ時間はある)

 

ローが現れてから3年弱…実際には2年ほどだろうか。その間は、絶対に、ロシナンテは死なない。今までは原作の流れを変えることはできなかったし、変えたことの余波がどこにどの程度来るものか分からなかったから、大っぴらに動けなかった。けど、これからは違う。だって私はトラファルガー・ローの過去を読んで知っている。これから起きる事実を利用すれば、私なんかのほんの少しの力でだって、大きく捻じ曲げることもできるはず。

 

(でもローより先にデリンジャー加入だったよな)

 

そこまでは、ゆっくりしよう。かりそめの平和を享受しよう。

 

「ルシー…フッフッフ!なんだ、お前らもいたのか」

 

「若様!」

 

「おいベビー5、そこを退け。そこは俺の席だ」

 

「別にドフィの席じゃないですしー。ベビちゃんの方が素直で可愛いですしー」

 

「何だ、まだ拗ねてんのか?いい加減機嫌を直せよ、ルシー」

 

ロシナンテとは違う、大きな手のひらが私の頭を撫でた。私が何にどう怒っているのか、何を考えているのか、理解しようともしない人だ。私が泣いて縋れば、きっとドフラミンゴの怒りに触れない範囲であれば、第2倉庫の時のように望みを叶えようとしてくれるだろう。ロシナンテは、妹を助けるのは兄として当然のことだと言った。ベクトルは違う、それでも、ドフラミンゴとロシナンテは同じ私の兄なのだ。

 


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