(ハイ、かりそめの平和終了〜)
腕の中に赤ん坊を抱いて、あやしながらミルクを作る。ギリギリまで母親と一緒にいさせてあげたけど…写真や映像で母子の姿を残しておくことはできたけど、当然のように若くて美しい彼女は高値で買われてどこかに行ってしまった。これからは母親の彼女が付けた名前より、ドフラミンゴが付けたコードネームで呼ばれることが増えるけど、それでもベビー5のように親から捨てられたという感覚はないままに育つことはできるだろう。
(だって原作でもあんなだったし…)
ドンキホーテ海賊団に染まりきって、笑顔で人を殺せるようになるはずだ。…でも、あの喋り方はちょっと直したいところだ。原作読んでてもガチで女の子だと思ってたし。
「…こんなもんかな」
何度も何度も作っていればミルクの作り方なんてすぐ覚える。ただ、私は温感がないから、毎回温度計で温度確認しなきゃいけないんだけど。洗い物が増えるからそこはちょっと手間だ。
「はーい、デリンジャー。ごはんだよー……ってオイまたか」
空腹に耐えかねたのか、母親と間違えたのか、デリンジャーが私の首筋をガッツリ噛み締めていた。ワーオ、なんて熱烈なキスマーク…ってか歯型。そう、驚くことにこのデリンジャー、もう歯が生え始めている。しかも原作通りのギザギザな歯。むず痒いのか、よくベッド柵やおもちゃを噛みちぎっていて、なんだか将来が末恐ろしくもある。そう、木のベッド柵を噛みちぎるほどの顎の力ということは、私の首なんてすぐに抉られるわけで。
「っキャーーー!!!ルシーがまたデリンジャーに食われてるざますー!!!」
「そんなカニバみたいなこと言わないで!?」
ジョーラが悲鳴を上げて騒ぎ始めた。何だまたかと言いつつも青ざめた顔で駆け寄ってくる家族たちは…ちょっと過保護すぎると思う。別に痛くないってのに、大げさなんだから。
「オーイ、ルシー!お前ちゃんと防具付けろって言ったじゃねェか!」
ディアマンテがデリンジャーの首根っこを引っ掛けるようにして持ち上げた。あっ、口元が血まみれで吊り下げられてるのに遊んでもらってると思ってるのかこの満面の笑み!すごい!こいつァ将来有望ですな!…なんて笑っていられない。怖…生まれながらの海賊って感じ…。
「お嬢、ここに座りなされ」
「おい、遅いぞ!消毒液はまだか!」
「ルシーさん、タオルを首に当てますね!」
わあわあと私を取り囲みながら、家族たちが手当てを始めてくれた。
「あっ、ディアマンテ。ミルクの温度が下がっちゃうから、デリンジャーにあげてくれない?」
「おれが?こんな物騒なガキの世話なんざできるかよ」
「ディアマンテならきっと正しい抱き上げ方で上手くミルクもあげちゃうんだろうなぁ〜」
「おいおいよせ、それじゃまるで…」
「ディアマンテは育児もできる天才でしょ?」
「そこまで言うなら任せとけ!!!」
ちょろいな…。早くも首がすわっているとはいえ、まだ不安もあるデリンジャーをディアマンテは上手く片手で抱き上げていた。やればできるのになんでおもちゃみたいに扱うかなぁ、この人。襟元のボタンを外して傷口を晒し、慣れた手つきで消毒を始めたベビー5が、私を見て顔を顰めた。
「ルシーさん…ちゃんと寝てる?」
「うん、もちろん。ちょこちょこ睡眠とってるよ?」
「うそ!だってデリンジャー、昨日も夜中にすっごく泣いてたわ!ルシーさんの声も聞こえたもん!」
「あら…起こしちゃってごめんね」
「そんなのいいの!…ルシーさん、クマもできてるのに」
痛そうな顔をして、ベビー5が私の目の下を撫でてきた。ベビー5は口調が砕けてきて、よそよそしさがなくなった。ちょっと強引になってきたところを見ると、やっと少しずつ自分のことを優先できるようになってきたということか。子どもっていつも成長してるなぁ、と微笑ましくなってたら、ぐいっと髪を引っ張られた。
「おい、ちゃんと寝ろ」
「大丈夫大丈夫、寝てるって。てか夜泣きしてたらみんなが寝られないでしょ?」
「お前が気にすることじゃねェ。それにガキなんざ勝手に泣かせておけばいいだろ」
「グラディウス、ちゃんとルシーさんを抑えてて!」
ベビー5に怒られて、私の髪をかきあげて首と肩を固定し直したグラディウスは、まだまだ文句を言ってた。なんだかんだと結局はみんなで育児をすることになってるし。赤ん坊だからと血の掟は免除だし。ラオGなんて素っ気ないフリして可愛い帽子なんか被り始めたし。デリンジャーの母親も、これなら安心してくれるんじゃないだろうか。
(……デリンジャーが一人で座れるようになった頃…ローが来る)
楽しみだし、怖かった。私はちゃんと、原作を変えられるだろうか。