他、アップが終了しましたら、ピーカ視点とベビー5視点もご一緒にお楽しみください。
若の声に、全員があっけにとられた。
「ルシーが…さらわれた?」
そんなはずはない、そう言いたかった。だが、ハッとして周りを見回せば、ドジなコラソンを含む幹部たちが全員揃っていた。
(っ…今日は幹部が護衛じゃなかったのか!)
バイスとバッファロー…なぜあんなやつらを護衛にしたんだ!一体誰が!?実力はあるが女に目がないバイスのことだ、歓楽街の女にうつつでも抜かしたのだろう。…だが、昼間に女が歓楽街を歩いているものか?いや、そうでないならバイスがルシーをみすみす手放すわけがない。それに、ルシーはよく誰かと手を繋ぎたがる。バッファローが護衛だったならバッファローと一緒にいるはずだ。バッファローもろとも攫われたのか、と思った。だが、すぐにバッファローがバイスを追って戻ってきたのを見て、ブチ切れそうになった。
(なんでテメェがここにいるんだ!!!)
感情が昂り破裂してしまいそうになった時、ピーカが若を呼んだ。そうだ、一刻も早くルシーを探さねェと!若の適切な指示に従って、歓楽街へ向けて走った。陽が傾き賑わい出した街の連中が目障りで、全て殺してしまいたくなった。
「オイ!昼間に女を見なかったか!?白いドレスを着た、金の長い髪の女だ!」
「ひぎぃっ!し、知らねェ!知らねェよお!!!」
「チッ!」
みっともなく震える男を捨て置いて、目に付いた花屋を片端から尋ねて回った。女を見なかったか。白いドレスの女だ。金の長い髪を今日は編んでいた。これくらいの背丈の、弱い女だ。どれだけ脅しても、怒鳴っても、楽しそうに笑って側に寄ってくる、美しい女だ。
(どこに行った…ルシー!)
「グラディウス!向こう!」
息を切らしたベビー5がアジトと反対側を指差した。先導するように石畳の中を移動するピーカを追って、山の中へと駆け込んだ。虱潰しに倉庫や廃墟の中を見て行くピーカが、大きな音を立てて動いた。
(あそこか!)
「ベビー5!」
「はい!」
飛び込んだ先にいたやつらに、砲撃を食らわせてやったが、致命傷を負わせることはできなかった。ベビー5もだ。能力や技術の問題ではなく、奴らの方が強く、練度が上だった。
「分が悪いわね。ここは手を引きましょう」
連中の中で一等華やかな女が合図を出した。あいつが主犯格か!
「逃すと思うのか…!?」
「ええ。逃げさせてもらうわ!」
逃げさせてもらうと言うだけの実力で、やつらはピーカの壁すら突破して逃げてしまった。若の顔に泥を塗りやがって!
「チッ!あいつら…殺してやるっ!」
苛立ち紛れに近くの瓦礫を吹き飛ばした。あいつらを、この手で殺してやりたかった。
「ピーカ、ルシーさんに会わせて!」
ベビー5の悲痛な声に、ルシーのことを思い出してピーカの側へと駆けた。もう敵はいない。だというのに、なぜルシーを出さないんだ。
「……ダメだ」
なぜ、ルシーを出さない。
(まさか)
まさか、と思った。おれたちにすら見せられないのか。そんなにも酷い目に遭わされたのか。
(ーールシーは、『ルシー』でなくなったのか?)
若の妹は、あのまっさらな女は、死んだのか?ピーカとルシーがぼそぼそと話して何かのやり取りをした後、ピーカの石の壁が崩れていった。じれったいほどに、ゆっくりに思えた。
(ルシー…!)
暗い倉庫で微かに輝くような金色が見えて、たまらず身を乗り出した。
「ルシーさ、ん……!?」
ベビー5の声がひどく遠く聞こえた。
(これは、『ルシー』か?)
コラソンやおれたちとの訓練で負った怪我など、些細なものだった。そこにいた女は、凌辱されたように、佇んでいた。白く滑らかだったはずの頬が腫れて変色し始めている。美しく編んでいた髪が、掴まれて引き摺られた後のように乱れている。ピーカのコートを羽織っているのに、胸元深くまで見える肌が、足がーーー。
「ーーーーー!!!」
自分が何を口走ったのか、覚えていない。ただ、とんでもない言葉でも吐いたのか、目の前の女が目を丸くしていた。素直に、驚いていた。
(……この女は、『ルシー』だ)
穢されても、まだ清い。いや、体臭からして、既に強姦されたというわけではないのだろう。だがそれに近いことをされてなお、ルシーは『ルシー』のままだった。ああ、安心した。まだルシーはルシーのままだ。こいつの心は壊れていなかった。あんな連中に穢されてはいなかった。…だが、ルシーが狙われた。これからも危険な目にあうかもしれない。穢されてしまうかもしれない。それなら、それならばいっそ、おれがーーー
(…っ!?おれは今、何を考えた…!?)
あいつらとおれと、何が違うっていうんだ。
「ピーカも、グラディウスも、ベビちゃんも…ありがとう。大好きだよ」
おれの汚い考えなど露ほども知らないで、ルシーは笑っていた。おれたちには触れることすらできないのだと、おれたちとは違う世界の存在なのだと、思い知らせるような…清い笑顔で。