ピーカ視点とグラディウス視点もご一緒にお楽しみください。
リクエストありがとうございました!
「若、ルシーが…攫われちまった…っ!!!」
駆け込んできたバイスが息も絶え絶えに言った言葉が、理解できなかった。
「……ルシーが攫われた、だと?」
若様の声に、ようやく、意味を理解した。けれど、不思議なほどに現実味がなかった。
「ルシーが…さらわれた?」
椅子から立ち上がったグラディウスが夢でも見ているように言った言葉を聞いて、ようやく、ようやく、本当のことだって、分かった。
「…そんな…」
ルシーさんが、いなくなった。みんなが同じ部屋にいるのに、そこにルシーさんだけがいないだなんて。そんなこと、想像したこともなかった。
「ーーー他の連中は幹部の指示に従え。敵の命よりもルシーの安全が最優先だ。いいな」
若様の言葉が頭を通り抜けてどこかに行ってしまったみたいで、私はどうしたらいいのか分からなかったけれど、グラディウスと一緒にピーカ軍として付いて行くことにした。
(ルシーさん…ルシーさん、迷子になってるだけよね?ねえ、誰かに攫われたなんて、そんなの、うそよね?)
ピーカとグラディウスの後を、全力で追いかけた。息が切れて喉やお腹が痛くなったけれど、そんなことどうでもよかった。ルシーさんに会いたかった。探しにきてくれたの?ありがとう、と笑う姿を見せて欲しかった。私の知らない間にバイスから話を聞いていたのか、ピーカが私に指示をしてきた。
「グラディウス、ベビー5、花屋で聞き込みをしろ。おれは隣街ごと歓楽街を壁で覆う」
「ああ…!」
「っ」
息を飲んだ。…花屋?歓楽街の花屋で、花を買ったことを思い出した。私が強く握ったせいで、萎れてしまった赤いバラ。ルシーさんはそれを大切そうに受け取って、長さを整えて小さな花瓶に活けてくれた。丁寧に、美しく飾ってくれたその花を見るたび、私の心はふわりと舞い上がるように揺れた。まるで、私のことも、そんな風に大切にしてくれたように思えたから。
「…分かったわ」
花屋の場所なら分かる。私が買った店じゃなかった。その次の店でもなかった。けれど3軒目で、昼間に花を選ぼうとしていた女性がいたことを突き止められた。
「大きな男に付き添われた、白い服の金髪の女だろ?確か昼過ぎだったな。熱心に選んでたのに、気がついたらいねェんだよ。男の方はまだいたのに変だなァ、と思ってたら、側にいたこれまた美人のねえちゃんがな、女に肩を貸して向こうに連れていったんだ。ありゃァ貧血か何かで倒れたんだな、と思ってな?通りの女にうつつ抜かしてやがる男の方に、お連れさんが行っちまうよ、って親切心で教えてやったわけ。けどそん時にゃもう2人ともいなくってよォ…」
ぺらぺらと仔細に話す花屋の男が疑わしく思えて、なぜそんなに詳しく覚えているの、と尋ねると男は首を捻りながら言った。
「んん〜…なんでかねェ…?あの時間帯にしちゃ妙に女が多かったからか…?…いや、あのねえちゃんがここらでもとびっきりの美女だったからだな!」
「山の方ね!ありがとう!」
建物よりも高い位置から街を見下ろすピーカの元へ走って、ルシーさんに類似した人の情報を伝えた。
「女の人が気絶した白い服の女の人を連れて、山側の方に行ったって…!」
「……分かった」
石畳の中を動き出したピーカを追って、途中でグラディウスにも声をかけた。
「グラディウス!向こう!」
「ああ…!」
ピーカの後を追って、山の倉庫の一つに飛び込んだ。丸い大きな石が見えて、もしかしてあの中に、と胸が踊った。
「ルシーさんっ!!!」
「ルシー!!!」
「っ…ここにいるよ!」
ああ、見つけた!ルシーさんがいる!ほっとして、けれどルシーさんを攫ったやつらが心から憎くて、能力で思い切り銃弾を浴びせてやった。
「ルシーさんに酷いことしたのね!?許さないっ!」
「…分が悪いわね。ここは手を引きましょう」
手を引く?手を引くですって!?だめよ、許さない。若様の前に引きずり出してやるんだから!ピーカが逃げ場を閉ざして、私とグラディウスとで攻撃を仕掛けたというのに、動物の顔をした男がピーカの石壁を破壊して逃げて行ってしまった。なんで…なにあれ、あんなことができるなんて…!
「チッ…あいつら…、絶対に許さないんだからっ!…ピーカ、ルシーさんに会わせて!」
あんなやつら、もうどうだっていい。この石の壁の向こうにルシーさんがいる。ルシーさんに会いたい!ルシーさんはきっと、いつもみたいに笑って抱きしめてくれる!ねえルシーさん、ルシーさんのことを私たちが助けたのよ!
「……ダメだ」
「えっ!どうして!?ルシーさんは無事なんでしょ?」
さっきのルシーさんの声は元気そうだったのに、どうしてピーカはそんな意地悪をするの!?ひどいわ!
「ねえ、ルシーさんっ!」
ルシーさんに会いたい。ルシーさんもきっと私たちに会いたいって思ってくれてるよね?だってルシーさんは家族が大好きだもの。私たちのことが大好きだって、いつも言ってくれるもの!邪魔な壁を殴りつけて、ルシーさんに呼びかけた。ルシーさん、ルシーさん!返事をして…っ!
「!ルシーさ、ん…」
壁が、ようやく崩れた。ルシーさんに会える、やっと会える。…そう、思ったのに。
「…!?」
(だれ、これ?)
ルシーさんじゃない…。北の海の街に積もったばかりのまっさらな雪のようなお姫様じゃなかった。いつだって白くて、ふわふわしていて、キラキラしていて、柔らかそうで、綺麗な……ルシーさんじゃなかった。踏み躙られて泥と混ざったような、汚らしい街の雪みたいになってしまった。取り引き先の商船で扱われているような、女の人たちみたいになってしまった。なのに。
「ルシー、さん」
私の声ににっこり笑ってくれる、この人は。どれだけ目をそらしたくても、私の大好きなルシーさんだった。
「…ルシーさん…っ!」
(何で泣かないの?どうして悲しまないの?こんなに、こんなにも酷いことを、されたのに…どうして怒らないの?)
こんな姿のルシーさんを見ていられなくて、ルシーさんに抱きついた。商船の女の人たちみたいに、泣き喚いて、暴れて、絶望してもいいのに。まるで人間じゃないみたいに、ルシーさんは笑ってた。ーー神さまみたいに。
「お迎えに来てくれてありがとう」
(そんなこと、言わないで…)
頬が腫れているのに、ルシーさんが顔を寄せてきてくれた。いつものように、私を抱きしめるように。ぐちゃぐちゃにされて、汚されて、でもまだルシーさんからはルシーさんの優しい匂いもしてて。本当に、本当にあの白くて優しい人が、こんなことになってしまったんだって、実感した。
「ピーカも、グラディウスも、ベビちゃんも…ありがとう。大好きだよ」
(ありがとうだなんて…私、ルシーさんの役に立ちたかっただけなのに…っ)
もう、手遅れだったのに。私がルシーさんに大好きなんて言ってもらえるわけ、ないのに。
(優しいルシーさんは、かわいそう)
誰かの食い物にされるだけのこの人は、かわいそう。