46.大嘘付きの大博打
「おっじゃまっしまーす」
夕食後にロシナンテの部屋に行って、今後の相談をすることにした。
「…?」
「兄上」
手でドームの形を作って防音壁をお願いすると、ロシナンテがパチリと指を鳴らした。よく眠っているデリンジャーの背中を軽く叩きながら、ロシナンテの部屋の木箱に座った。ここでの商売が落ち着いてきたから、また引越しになる。今度は船での生活が主になりそうだ。
「どうした?」
「ローのことで伝えておこうと思って。あの子、兄上を刺すよ」
「……だろうな」
「いやいや、だろうな、じゃなくて。たぶん、ロシーの左脇腹。ゴミ捨て場で背後から奇襲してくるはず。ナイフが貫通しちゃうよ」
「ルシー、なんでそんなことが分かるんだ?」
「へ?あー…うーん……あっ、見聞色の覇気で?なんか?未来が見えた的な?うん、まあ、そんな感じ」
「何だって!?」
思わず、と立ち上がった勢いで躓いてロシーが盛大に転んだ。あーあ、またドジして…。
「無駄な怪我はやめたほうがいいよ。だからこれ、背中に巻いといて」
しょっちゅうデリンジャーに齧られる私のために、ドフラミンゴとトレーボルが仕入れてくれた防刃帯を渡した。
「そ、そんなことよりお前…見聞色の覇気だって!?そんな、未来が見えるなんて…!」
鬼気迫る顔で迫ってきたロシナンテに落ち着けと言っておいた。どうどう。ちなみに嘘を吐いてドッキドキしてる私の胸にも落ち着けと暗示をかけた。どうどう…。
「で、前に言った電伝虫、どう?」
「…あるにはあるらしいが、海軍から受け取る術がない」
せやな。幹部のコラソンが海兵と接触とか、裏切り行為も甚だしい。何より、その海兵がヴェルゴかもしれないのだし。…あっ、そうだ忘れてた。
「兄上。ヴェルゴが海軍でスパイしてるよ」
「!!!」
あ、また転んだ。
「でもたぶん泳がせておいたほうがいいと思う。なんでバレた、ってなったら、きっとドフラミンゴはロシーを怪しむから」
今はヴェルゴを泳がせておいてもらわないと、今度は私の知らない誰かをスパイとして送るかもしれない。そうなったらもうどうしようもないから。
「……けど、センゴクさんに報告しねェと」
「……じゃあ、名前は伏せて報告したらいいと思う。少なくとも、ロシーがスパイをやめて海軍に戻るまでは、できる限り内部情報を漏らしてることをドフラミンゴにバレない形を取るべきだと思う。海軍にスパイがいるのだし、変に騒ぐとすぐバレるよ」
ドフラミンゴの嗅覚は猟犬並みだから。ドフラミンゴの相棒のヴェルゴだって優秀なのだし。本心からそう進言すると、ロシナンテは少し考えて、そうだなと納得したように頷いた。
「…分かった。おれの任務はドンキホーテ海賊団の内部を洗うことだ。…まだバレるわけにはいかないんだ」
さっさと海軍に帰っちゃえば、と言いたい。こんな綱渡り、しなくていいじゃないかと。でも、ローに会ってしまったから。ボロボロで、本当に小さい頃のドフラミンゴそっくりの目で、何も信じていないと言ったあの子を助けるには、オペオペの実しかないんだから。
(ローの人生に、ロシーがいなくちゃいけないんだから)
「…フレバンスのこと、みんなと一緒に調べたらいいよ」
「どういう意味だ?」
「世界政府があの子に何をしなかったのか、海兵なら兄上も知るべきだから」
じゃあね、とデリンジャーを抱いて部屋に帰った。大きく、大きく、息を吐き出す。
(これで、もう、後には引けない)
ロシナンテがローに刺されるのを阻止する。ロシナンテがオペオペの実奪還時にヴェルゴと会ってしまうことを防ぐ。…そしたら、きっと、ローは助かり、ロシナンテも…銃で撃たれたりはするけど、致命傷までは受けずに逃げ延びる道が出てくる。うまくつる中将と連絡をとれば…海兵嫌いのローは嫌がるだろうけど、ロシナンテとローは海軍に保護してもらえるはずだ。
(でもって、どさくさに紛れて私も逃げよう)
私は外出禁止令が出されているから、きっと船でデリンジャーと一緒に留守番をさせられるだろう。鳥かごを抜けたドレークが海軍に保護してもらったように、海軍に顔の割れていない私も保護してもらえたら…。
(……あ、でもCPには顔バレしてたわ)
その辺は…どうしようかな。でも、そんなことを考えられる頃には、きっと私は檻から出て自由の身になれているはずだから。
「がんばらなきゃ」
デリンジャーのことだって、守らなきゃいけないのだから。