ローはあまり私に近付いてこない。というより、まだ家族でもないローをアジトに上げるわけがないし、私は外出禁止令が出ているしで、接点がないのだ。それでも、ゴミ捨て場に座ってじっと海を見ているローのことは、窓からよく見えた。
(…あ、こっち見た)
遠く離れているのに視線を感じるのか、ローが時々こっちを見て、すぐ違う所に移動してしまうのも日課になりつつある。それでもあの子は目立つから、どこに行ってもすぐ見つけられるんだけど。
(向こうは12番倉庫や13番倉庫の方か………ん?今日ってみんなが帰ってくる日だよな。先週から大掛かりな仕事があるって出かけてて…)
記憶の中の原作をぺらりと捲る。確かフレバンスの話の回……ローがロシナンテを刺す直前。あの子、12、13倉庫の方にいた…!
(ロシナンテ…!ちゃんと防刃帯巻いといてよー!?)
ひやひやしながら玄関で待って、待って、夕方になってようやくロシナンテが帰ってきた。
「!あにうべふっ」
「………!」
ロシナンテに持ち上げられて、部屋まで連行された。えっ、ちょ、傷は!?
「け、怪我は…!?大丈夫だったの?ロシー!」
指をパチンと鳴らして防音壁を張り、ロシナンテは大きな息を吐いた。顔色は…悪い。汗が流れている。
(お、お腹………あっ、傷が、ない…!)
前面から見て、ロシナンテの左脇腹に血のシミや刃で貫かれた跡はなかった。
「………お前の言う通りになった…」
「うん、でしょーね。後ろ向いて」
言ったのに向いてくれなかったので、デリンジャーを抱いたまま私が背後に回った。モフモフコートを引っ張って、刺されて穴の空いた趣味の悪いハート柄の服をめくりあげて、大きな体に防刃帯が巻かれていることを確認した。…そこにも穴が空いている。うそ、子どものくせにどんな力で刺したんだよ。冷や汗を流しながら帯を除去して…その下のロシナンテの体に傷がないことを確認した。
(傷が…ない)
は、と息が漏れた。緊張しすぎて息が止まっていたみたいだ。どこも怪我してない。傷がない。
「……よかった…ッ!」
ふっと体の力が抜けて、床に座り込んでしまった。腕の中のデリンジャーが驚いて泣いている。ああ、でも、よかった。どこも怪我していない。
「…ルシー…すごいよ、お前は。お前がおれを守ってくれたんだ…!」
「うん…ゔん"…っ!」
「ありがとうな…ルシー」
ぎゅう、と抱きしめられたロシナンテからは、血の匂いなんてしていなくて。
(私にも、ロシーを助けられる…原作を変えられるんだ…!)
嬉しくて、嬉しくてーーー涙が止まらなかった。