「ウワッ!?ちょっと…今日はまたひどいねぇ…」
「ル"ジーざん"…っ!」
ドフラミンゴの脚にしがみついて泣いていたベビー5が駆け寄ってきた。今度は私にしがみついてめそめそと泣きじゃくるベビー5の背を撫でて、怪我は?と聞くと、大丈夫、と首を振っていた。いやいや、知ってるぞ?さっきチラッと見えたけど頬に殴られた痕があったじゃないの。
「兄上…どうしたの、これ?」
「勝手に賞金首に挑みやがったんだ。額としちゃ小物だが、こいつらにはまだ早かったってだけだ」
まったく、と呆れたようにため息を吐いて、ドフラミンゴはネクタイを外した。なるほど、自分から危険に突っ込んで行ったってことか。…ん?こいつら?
「え、ベビちゃんと誰……あ、もしかしてロー?」
「ああ」
大男の名前はなんだっけ?確かローの過去編でベビー5とローが死にかけて、それをドフラミンゴやロシナンテたちが間一髪助ける的なシーンがあったはず。自分の力試しとでも考えていたのか、賞金首を見つけて気が急いたのか、それともうちの海賊団のみんなよりも額が低いからって侮ったのか…。とりあえず、バカなことをしたことは確定だ。
「ーーーベビちゃん」
「はい…きゃっ!?」
燃える熱い想いを込めて、ベビー5の丸い額にデコピンを食らわせてやった。じっとりと見つめてやれば、やはり後ろめたさでもあるのか、そっと目をそらされた。涙目で。可愛い……いや、アホの子である。私と違って殴られたら痛いし悲しいだろうに、なんでそんな無謀なことをするのか。
「私はとっても怒ってます。何で怒ってるか、分かる?」
「………」
ぎゅっ、と唇を噛み締めて耐えているようだけど、大きな目からはぼろんぼろんと大粒の涙が落ち始めた。私がいつまでも甘いと思うなよ。
「ベビちゃん」
「……私が、ちゃんと…できなかっだ、がら"……っ!」
アホだ。アホの子だ。そうでなければ……可哀想な子だ。ちょっとはマシになってきたと思ったのに。
「あなたが危ない目にあったからよ」
「…っ」
ああ、やっとこっち向いた。鼻水まで垂れてきたバカ娘の顔を、手近にあったタオルで拭ってやった。…あ、これデリンジャーのよだれ拭きだ……いや、今はそんなことより。
「私はあなたが大好きよ、ベビちゃん。でも、そんな風に無策に危険に突っ込んで行くような子は、嫌い」
「っ!やっ、嫌!ルシーさん、ルシーさんごめんなさい!嫌いにならないで…!」
(…やっぱり…意味、分かってないか)
私がなぜ嫌うのか、という言葉の『なぜ』を理解できないで、『嫌われる』にしか意識がいってない。この子の生まれ育ちがズルズル重しになって引きずってるからだよなぁ。……生まれ育ちというか、ベビー5が母親から捨てられた経緯に関しては、ちょっと思う所はある。あれは本当に母親が好きでしたことなのか、って所だ。だって原作ではベビー5の走馬灯的な感じでチラッと出ただけだし、肝心の母親の顔は黒塗りで目だけギョロッとしてただけだし。
(飢えてるっぽかったし、邪魔なら殺して食うとか売って金に変えるぐらいはしそうなのに)
けどこれは私の妄想。ちょっと今は関係ないし、おいておこう。それに、そもそもなんで子どもだけで挑んだのか不明なままだ。…ドフラミンゴが与えてるお小遣いだけじゃ足りなかったのか?
「…賞金首を倒して、どうしたかったの?」
「………若様と、ルシーさんに…」
え、何?懸賞金を贈呈って?いやいや、そんな俗物的な…。あっ、もしかして私がお金好きだとかロシーから聞いた?違うのよ、あれは子どもの頃の逃走資金のためであって!なんて内心慌てまくってたら、ベビー5が涙ながらに訴えてきた。
「私が、強くなったって、見せたかったの……だから…っ…!」
あ、そっち?賞金首を狩れたら強くなったってって証明になるって?いや、そんなわけないでしょ。能力の差とか色々あるんだし。何より経験も体も出来上がってない子どもが大の大人を倒したとして、それを実力ととる人がいるわけない。偶然だろうと片付けられるだけだってのに、ベビー5はそんなこと思いもしなかったようだ。そういうところが、まだまだ子どもだと思う。
「……やっぱりベビちゃんってバカね」
「う…ぅ……ゔうぅ〜っ……!」
「そんなことしなくても、ベビちゃんがちゃんと強くなってるって、みんな知ってるよ。焦らなくていいの。まだこんなに小さいのに、…無茶しないでよ、ベビちゃん。ねえ?兄上」
「ああ。お前らの代わりはいねェんだ。自分のことも大事にしろよ、ベビー5、ロー」
「………」
向こうでジョーラに手当てされているローの顔は見えなかったし、返事も返してはくれなかったけど。ローの小さな背中が、なんとなく…寂しげに見えた。