乾杯、とグラスを掲げた。今日はようやくこの辺り一帯をしめる海賊団を殲滅できたらしい。元締めの首を獲って、ドフラミンゴが縄張りを丸ごと手中におさめた。つまり…北の海でのドフラミンゴの影響力がまた増したことになる。もう北の海トップといっても過言ではないかもしれない。…ロシナンテが険しい顔をしてるし。ってかロシー…幹部なんだから、もうちょい喜ばしいって顔しておかなきゃでしょうが…。
(お。ロー、何してんだろ?)
みんなの背丈に合わせて高さのあるテーブルに向かい、背伸びをして何かしようとしている。もしかしなくても、料理を取ろうとしているのか。
(でもって、ディアマンテたちはそれを見てニヤニヤしてる、と)
相変わらず性格悪いなぁ、と呆れた。料理を取るくらい手伝ってやれよ。あの様子じゃ何も食べられないだろうし、とデリンジャーをジョーラに預けた。ワイン飲んでるところをごめんなさいね。
「ロー、これがいいの?」
「……!」
びく、とローの薄い肩が震えた。勢いよく振り返って見上げる目の中に、やっぱり激情が見えた。…えー?私のこと、そんなに嫌いなわけ?地味にショックを受けていたら、ローが無言のまま立ち去ろうとした。
「あっ、ちょっとロー。ごはんは?」
「いらねェ!」
「いやいや、さっき取って食べようとしてたじゃん。取ってあげるよ?」
「いらねェっつってんだろ!放っておけよ!」
「それは無理。私、ローのこと好きだし」
いつかのグラディウスに言ったように言うと、ぴたり、とローが立ち止まった。おや?
「俺はあんたが大嫌いだ!」
「へえ。そう。だから?」
感情をぶつけてきたちびっ子相手に、大人げなくニヤニヤ笑ってしまった。ちっちゃいグラディウスだ!ちっちゃいグラディウス!おーい、グラディウス、今の見た?昔のあんたそっくりよ!これくらいの歳の悪ガキってみんなおんなじこと言う法則でもあるのか?
「…っ…いっっっつも人のこと見てるし!ウザいし!めんどくせェし!その顔も!その格好も…!見ててイライラするんだよ!」
「ちょっとロー!!!あんた、ルシーさんに何言ってんのよ!!!」
「ルシーさんにそんなこと言ってると拷問だすやん!」
ばしっ、とローの頭を叩いて睨まれたベビー5が、それでも珍しく、バッファローの陰に隠れて泣いて震えながらもローのことをぐっと睨んでいた。バッファローもわあわあと怒っているし。ローはベビー5たちに舌打ちをして、私を無視するようにして部屋から出て行こうとした。その肩を掴んで引き止める。
(要するに…私のこの格好が気にくわないと。家も道路も草木さえ白かった、白い町を思い出すから?)
顔の好みは知らん。ローが嫌いだと言っても、この顔は母親似で兄2人が気に入ってそうだから、変えるわけにもいかないんだし。というか、それならそうとちゃんと言いなさいよと思った。服の色が嫌だと一言言ってくれれば、白以外の服だって買ってもらって着るってのに。
「……そう。私が白いから嫌なんだ?じゃあ、白くなくなったらいいのね?」
冷静にならねば、と思いつつ、やっぱり私は冷静になれなかった。目に付いたワインの瓶が、誘惑するように蝋燭の灯りにピカピカ光って見えたのだから。
「ベビちゃん。後でお掃除を手伝ってくれる?」
「え?あ、はい!」
中身が酸化してしまっていると一口飲んで放置されていた赤ワインの瓶を手に取った。どうせみんな古いワインなんて飲まないんだから、別に私が使っちゃってもいいよね。目を見開いたローの前でーーー目の前で、ワインの瓶を逆さにした。
「っっ!!?」
ローは私の行動に驚いたのか、声にならない悲鳴を上げていた。そんなのどうでもいい。それより、早く染めてしまわないと、ドフラミンゴのパラサイトで止められでもしたらせっかくのチャンスが潰されちゃう。…ワインの瓶って逆さにしてもあんまり勢いよく出てこないんだな。めんどくさいけど瓶を上下に振りながら中身を出し切って、さて2本目とボトルを手にした段階でローがしがみつくようにして私の手を止めてきた。
(あ、みんな悲鳴上げてたんだ…。さすがに予告ぐらいしておくべきだった?いやー、でも止められたくなかったしなぁ)
どうやら、集中しすぎて周りの声が聞こえなかったらしい。…いや、単に私がカッとしていただけか。頭に血が上っていたことも、周りが目に入らなかったのも、いい歳した大人なのに恥ずかしい限りだ。
「や、やめろよーっ!!!あんた…何してんだ!頭おかしいんじゃねェの!!?」
頭おかしい扱いされた!ヒデェ!!!昔のグラディウスのバケモノ呼ばわりより断然傷つくぅ!
「ちょっと…止めないでよ。ほら、まだまだらじゃない?白いところが残らないように、ちゃんと真っ赤にしなくっちゃ」
「なんで…っ!!?意味分からねェよ!なんでそんなことするんだ!!!」
「だって私、ローと仲良くなりたいもの。私たちは家族でしょう?」
前髪から垂れたワインが目に入った。ああ、痛くないって最高!でも匂いがなぁ…全身からモワッと立ち上がる酒気に酔っ払ってしまいそうだ。
「…短い間でも、私は君と仲良くしたいよ、ロー」
億に一つもないけどオペオペの実の情報が流れてこなかったらとか、原作通り進んだとしてもロシナンテと一緒にここから出て行ってしまったりとか。どのみち、私がドフラミンゴといる限り、ローとは長く一緒にいることはないんだから。
「…っ…バッッカじゃねえの!!?」
あ、半泣きだ。おかしいなぁ、なんでローが傷ついたような顔をするんだろう。別に、服が一着ダメになっただけの話なのに。あ、もしかしてこのワンピース気に入ってたのかな?それならそうと先に言ってくれたら、ちゃんと別の服に着替えてからやるってのに。
「……泣かないでよ、ロー。喜んでくれると思ったのに」
「っ…ぅ…、…ないて、ねえよ、…っ!!!」
しゃがんでローの目線に合わせたら、ローはやっぱり泣いてた。瓶を持っていて濡れていなかった方の手で涙を拭ってあげたのに、ローは俯いてますます泣いてしまった。ローがなぜ悲しんでいるのか分からない。けれど、声を上げて泣くこともしないこの子が、なんだか不憫で、可哀想だった。