そわそわ、と居心地悪そうにしながら、ベビー5が部屋に入ってきた。珍しい。
「ベビちゃん、どうしたの?」
「ルシーさん、あの…コラさんのことで…」
嫌な感じがした。ベビー5がこんな風に口ごもるのは珍しい。それに…このタイミング。ロシナンテがローを連れて離れてから半年が経った。つまり…原作でロシナンテが怪しまれるタイミングだ。しかもほぼ黒だという確信を持って。
「…ちょっと待ってね。デリンジャー、そろそろおやつの時間じゃないかな?ジョーラの所に行っておいで」
「おやつ!?おやつおやつおやつっ!ママは?ママもデリンジャーと行こう!」
「私もすぐ行くよ。先に行っててね」
「はあいっ!」
とんでもない力で扉を開けて、デリンジャーが飛び出して行った。鉄の塊である大砲の弾をひょいと持ち上げるぐらいだし、力が強いとは思っていたけど…やっぱりあの子すごいわ…。あとすごい音したけど扉壊れてない?大丈夫?
「…ベビちゃん、隣においで。ロシーがどうしたの?」
「……あの、ね…若様がピーカたちが…コラさんが、裏切ってたんじゃないか、って…!ねえ、ルシーさん!コラさん裏切ってたの?海軍に私たちのこと、殺させようとしてたのかなぁ…!?」
ひゅ、と喉がなった。この子は、こんな風に考えていたのか。殴られたり蹴られたりしても慕っていた相手に裏切られたこと以上に、相手が殺そうとしてきているとショックを受けている。それはつまり、ロシナンテがやっていた暴行を、ロシナンテの本心からではないと見抜いていて…許していたんだ。だから今はロシナンテが本気で殺そうとしてきたのだと悲しんでいる。
(やっぱりあなたは嘘が下手なんだよ、ロシー…)
じわりと目の端に涙が浮かんだ。
「そんなわけない!……そんなわけないよ、ベビちゃん。ロシーが家族を殺そうとするなんて、そんなことするわけないじゃない」
「っ…そうよね…!だって、若様も、ルシーさんもいるもの!きっと、何かの間違いよね…!」
ああ、疑われているなぁ。ベビー5は笑顔を見せてくれているけど、これは、本心からのものじゃない。私がロシーを信じているから、それを肯定するための笑顔だ。…時間がない。
(…デリンジャーもいないし、ベビー5に頼みごとをするなら今しかない…!)
頭をフル回転させて、どうすればいいのか考えた。どうすれば『裏切り者のロシナンテ』の今後の逃げ道を作れる?海賊団も海軍も敵に回して、きっとお金も食料も手に入らなくなる。どうしたら、私が『ドフラミンゴの無知な妹』を演じていられる?
「……ベビちゃん、私、ロシーに手紙を送りたいの。ほら、電伝虫の番号は私知らないし、ロシーは喋れないでしょ?本当に裏切ってないのか知りたいから…」
「そうね!じゃあ私が…」
「ううん、ベビちゃんに手伝ってほしいけど、ベビちゃんも忙しいだろうし。だから、荷物をとどけてくれそうな商人を探してほしいの。…兄上の息がかかってない人を。もし私がロシーと連絡を取ろうとしてるなんて兄上に知られたら、私、殺されちゃうかもだし」
「っ!!!そんなのダメっ!」
だれか、私を卑怯者と罵って。私を慕ってくれる子どもに、自分の命を人質にして頼みごとをする、卑怯者でずるい私のことを、批難してほしい。こんなことはしたくないのに、こんなことしか思いつかないなんて。
「…ベビちゃん、お願い。私のために、手伝って」
「うん!」
走って出て行った小さな背中に、ごめんね、と囁いた。