綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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58.かつての懺悔と夢見る未来

 

 

「ーーールシー、おれはお前に謝らなきゃいけないことがある…!」

 

「なにー?」

 

ごおお、と通話の向こう側で嵐の音が聞こえた。これ、原作のあの時のだよね…?ローがロシナンテに海兵なのかと尋ねていた時の。…電話してて大丈夫なんだろうか。

 

「……あの日、母上は…出て行ったんじゃないんだ。あの日、母上は…」

 

絞り出すような声に何事かと思っていたら、ずいぶん昔に亡くなった母親の件だったらしい。

 

「ああ、それ。うん、知ってる。天国にいっちゃったんだよね?」

 

「!!!い、いつ…どこで知ったんだ!?」

 

「いや、みんなわんわん泣いてたし、ドフィの言葉に父上もロシーも悲壮感満載だったし。ってかそもそもロシーも母上に花束、とか言ってたよね?」

 

ロシナンテがショックを受けているようだったので、あえて明るく言ってみたけれど、逆に私が無理してるとでも思ったのか、懺悔のように謝られた。

 

「…っ…悪かった…!お前が、悲しむと思って…!」

 

「てか嘘ついたのはドフィだし、兄上と父上は泣いてただけじゃない。大丈夫、気にしてないよ。そもそも兄上、嘘下手すぎだし。…向いてないよ、スパイなんて。ローと一緒に旅でもしてる方が、ずっといいよ」

 

「ウウ……ル"ジー…っ!」

 

あーあ、本格的に泣き出しちゃった。ああ、そうだ。これからのことを伝えなきゃ。

 

「兄上、覚えてる?私たちが住んでた北の果ての島」

 

「ずびっ……?ああ、覚えてるさ…」

 

「一緒に、庭に財宝を埋めたでしょ?もし島の人に見つかってても、きっと一つくらいは残ってるはずだから。だから……逃げて、兄上。ローと一緒に」

 

まくし立てるように、私は喋った。殺気立った家族たちは各々出航の準備をしているから、奥の部屋に籠るだけの私の元へは来ない。唯一出入りするベビー5も、さっき出て行ったばかりだし。

 

「スワロー島のとなり町にいるシロクマ宛に、兄上とローの荷物を送ってるの。そこに電伝虫も入ってる。受け取ったら、ちゃんと連絡してね。私も後を追うから。…ロー、聞こえる?兄上がボロボロになってたら、あなたが引っ張って行くのよ。分かった?」

 

「……分か、った…!」

 

たぶん財宝一つでも家一軒余裕で建てられるはずだ。それを持って逃げよう。行き先は東の海がいいかな。でもフーシャ村は世界政府加入国の村で危ないから、そうだなぁ…グランドライン前半のアラバスタとか。大丈夫、戦争になりそうだったら一時的に逃げればいいんだし。それかドラム王国でもいい。Dr.くれはにローを弟子入りさせちゃったりしてさ。オペオペの実のローはきっとあの国を救えるから。

 

「…ル"ジー…ごべんな…っ!今度ごぞ……一緒に、行ごゔな…っ!」

 

ああ、と頬が緩んだ。ロシナンテは、私が一緒に行かなかったことを、今でも後悔していたんだ。血肉にまみれたタラップを踏みしめる時に手を引けば涙を流してごめんねと謝っていて、一緒に行こうよと海軍の所まで連れて行こうとしていた。あれは悲しかったり寂しかったからではなく、妹を…私を助けられない自分の無力を、嘆いていたのだと。今、やっと分かった。あの時の私は自分のことに精一杯で、ロシナンテの気持ちなんて考えられてなかった。

 

「……ロシー兄上のこと、ずっとずっと大好きだよ。…いってらっしゃい、また後でね」

 

電伝虫の通話を切って、床にしゃがみ込んで泣いた。窓の外の嵐の音に紛れて、遠くで家族たちが船を出す音が聞こえる。神様。かみさま。あの優しい人を死なせないで。私の家族に、殺させないで。

 


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