もうすぐスワロー島に到着する、という段階で、見張りをしていたディアマンテが声を荒げて船長室に走ってきた。
「ドフィ!ミニオン島の周辺に海軍が…本部のおつるだ!コラソンがやりやがった!あいつら取引の日までバレルズを警備する気かもしれねェ!とりあえず予定通りスワロー島に着けるか!?」
「……海軍…なんで?」
(なんで…このタイミングで!)
海軍がミニオン島を守っている、それはいい。ドフラミンゴとロシナンテが合流するスワロー島に海軍がいないことこそが、ロシナンテを裏切り者と決定付けるピースを欠けさせる手段だったから。ロシナンテがセンゴクさんにどう言ったかは分からないが、合流地点のスワロー島でないとなれば、バレルズの隠れるミニオン島か、取り引きをするルーベック島に海軍が配置するのは自明の理。そのどこかで海軍はドフラミンゴを捕らえようとしているんだろう。それもいい、むしろ海軍としてはそうするしかないだろう。だけど、なんでこのタイミングでロシナンテが疑われるの。ロシナンテの不在から生じる不自然な点は何もなかったはずだ。
(ロシーの不在中も海軍に居場所を伝えて襲わせたのに…落ち合う場所に海軍はいないのに……なんで…っ!)
どうして、原作と同じ流れになっていってしまうの!
「フ……フッフッフ…」
「……兄上?」
「フッフッフッフッ!!!……いや、このままミニオン島に上陸する。警備の手薄な所を狙え…コラソンの狙いはオペオペの実だ。全員で行くぞ」
「あにうえ、だめ」
ろれつが回らない。頭が上手く動かない。影からできる限りのことはした。手を尽くした。けれど、修正されてしまう。どうやったって、こうなってしまう。どうして?どこで間違えたの?なんでロシナンテは裏切り者とされているの!?額に青筋を立てて、それでも不気味に笑い続けるドフラミンゴの手を引いた。だめだ。ここで行かせてはいけない。だめ、だめ!ロシナンテが殺されてしまう!
「ーーールシー…何が、ダメだってんだ?」
「え…」
「おれたちはコラソンとローに会いに行くだけだ。コラソンが守備の海軍の目を盗んで先にオペオペの実を奪うってんならおれたちはそれを支援するだけだ。何もしやしねェさ」
「……ほんとうに?ロシー兄上に…だって、ディアマンテが…」
やりやがった、とディアマンテが言った。文脈から考えて、コラソンが裏切った、という意味だっただろうに。戸惑ってドフラミンゴを見上げると、ドフラミンゴは部屋の明かりを背に、私の頭を撫でて、読めない表情でこう言った。
「デリンジャーと一緒に、『おとなしく』留守番をしていろよ、ルシー。何があっても外へは出るな。…いいな?」
頭が揺れる。船の振動か、撫でてくるドフラミンゴの手か、あるいは……ドフラミンゴが覇気を漏らしているからか。私には…頷くしか、できなかった。
(うそだ…あんなの、うそだ。嘘…!)
険しい顔をして船から降りていく家族たちの背を見つめた。ドフラミンゴも、家族たちも、私の顔を一度も見ない。ねえ、それは、これから私の大好きなロシナンテを手にかけることを…私に対して少しでも後ろめたく思っているから?それなら、ねえ、そんなことやめてよ…!
「っ、ロシーを許してあげて!!!」
船の縁にしがみついて、そう叫んだ。
「ーーールシー…」
「お願い…っ、お願いだよ、みんな…!私の、私の兄上を…殺さないで……っ!!!」
「…部屋に戻ってろ、ドゥルシネーア」
「ドフィ…!!!お願い…っ!」
私が縋り付くことを、喜んでいたドフラミンゴは。この時だけは、私の懇願を、聞き届けてはくれなかった。
(逃げて…ロシー…!!!)
鳥かごが発動して、銃声と悲鳴が轟いて……鳥かごが消えて、ドフラミンゴたちが帰ってくるまで。この世界にいやしない神様に、私は祈ることしかできなかった。