綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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62.叛逆の炎を燃やせ

あんまりにぐずぐず泣いてキノコ生えかけるレベルでじめっとしてたら、いい加減うっとうしくなったらしいドフラミンゴが行動に出てきた。

 

「ルシー、お前の女中たちだ。可愛がってやれよ」

 

「…ご機嫌よう、お嬢様」

 

「………」

 

(ご機嫌良くないしおたくの妹さんめちゃんこ不機嫌そうですけど???)

 

ずびーっと鼻をすすって、布団の隙間から見たら、そこにはモネとシュガーがいた。マジか。こういう展開か。

 

「……女中とか、いい。全部、一人でできる…」

 

「できてねェから付けんだ。最後に飯食ったのはいつだ。風呂は?着替えは?」

 

忘れました。てかあれから何日経ったのかも意識してなかったし。家族たちがちょこちょこローテーションで話しかけに来てくれたのは知ってるけど、みんな今日の日付けとかまでは言わなかったし。でも改めて言葉にされるとひどいな…トイレぐらいしか動いてないわ。え、もしかして臭い?臭いの?ならますます布団の中から出られんわ!風呂入りに行けないからさっさとここから出て行けー!

 

「……でも、女中は必要ない」

 

「ルシー……お前はこれから王女になるんだぜ。そろそろそういう環境に慣れとけ」

 

王女、と言われてぼうっとする頭の中で点と点が繋がった。

 

(えっ、もうドレスローザ過去編スタートすんの!?)

 

確かにシュガーが来た時点で…彼女がホビホビの実を食べるのはまだあと2年後だけど、国家乗っ取りの計画を立て始めるに今頃からが適しているんだろう。何せ、ドレスローザを手に入れることは、子どもの頃からドフラミンゴが計画していたのだから。……ローはロシナンテの機密文書をつる中将に渡しただろうか。渡して、もしかしたらローはつる中将に保護されたのかもしれない。だから海岸にいなかった?だとしたらロシナンテが死ぬ必要性がなくなる…ロシーは、死んでない?

 

(……ハッ…まさか)

 

ドフラミンゴが裏切り者を殺さないわけがない。家族たちが私に優しいのはそのためだ。ロシナンテは死んだ。それが全てだ。

 

「……ハァ。…お前ら、誠心誠意仕えろ。いいな」

 

「はっ!」

 

「はい、若様」

 

小さなシュガーにまで若様と呼ばせるオッサン……笑えねえ。

 

「お嬢様、一度お顔を拝見させていただけませんか?何か、必要なものなどもあればすぐにご用意させていただきますが」

 

モネは笑顔で優しく尋ねてきた。でも、その目は、笑っていない。

 

(………怯えてる?)

 

ぎゅっと握りしめられた手に、前髪に隠れた額に、じわりと汗が滲んでいる。それは無言で姉のエプロンを掴むシュガーも同じだった。よく見れば襟元から覗く首に、赤黒い跡が見える。

 

(ああ……奴隷だったんだ…)

 

奴隷として売られていたのを、ドフラミンゴが私用にと用意したのだろう。もしかすると、私の機嫌が直らなければ再び奴隷として売るとでも言い含めているのかもしれない。年若い姉妹を、心から哀れんだ。私の態度で人生が変わってしまう二人を、ただただ哀れんだ。

 

「……ごめんなさい、私、ひどい顔だから…タオルをもらってもいい?」

 

「っ!ええ、すぐに!シュガー、あなたはここでお嬢様のお相手を!」

 

バタバタと外へ走って行ったモネが、シュガーをここに残していった。…もしかしたら、タオルがあるドフラミンゴたちの所に連れて行くよりも、ここに残す方が安全だとでも思っているのかもしれない。

 

「……ねえ」

 

10歳にしては奇妙なほどに落ち着きのある声が、私に投げかけられた。

 

「…なあに?」

 

「あなた、えらいんでしょ?」

 

「……どうだろう。私はドフラミンゴの妹ってだけだよ」

 

「でも…私たちを殺させることができるんでしょ!?ねえ、お願い!私、死にたくない!あんな所に戻りたくないっ!ねえ、あなたなら何でもできるんでしょ!?助けて…!私とお姉ちゃんを、助けてよ…っ!」

 

布団にしがみついて、シュガーは懇願してきた。悲鳴のような訴えに、胸がじくりと痛んだ。見えない傷をもう一度嬲られるような、そんな感覚に、ぶるりと体が震えた。ああ、この子はあの日の私だ…。

 

「…何でもできるなら……よかったのにね…」

 

シュガーの言うように、私に何でもできる力があれば、ロシナンテを殺させずに済んだんだ。あの日、あの時、ロシナンテの正体を見破ってすぐに、ロシナンテをここから追い出せばよかった。ロシナンテの任務を遂行させてやりたいだなんて、おこがましいにもほどがあった。あの日私にだって、確かに未来を変える力はあったはずなのに。

 

(ロー…)

 

シュガーにローを重ねてしまう。…ローの方がシュガーより年上だけど、でもあの日、私はローのことを助けたいと思ってしまったから。…ロシナンテも、ローを……。

 

(ロシーなら、どうする?)

 

こんな時、あの優しい兄ならどうしただろう。ーーそんなの、考えるまでもない。

 

「お嬢様、タオルを…っ、シュガー!あなた何を…っ!?」

 

「っ!!?」

 

布団を揺するシュガーを止めようと近付いてきたモネごと、シュガーを抱きしめた。びくりと体を硬ばらせる姉妹を強く抱きしめて、私は宣言する。

 

「あなたたちは、殺させない」

 

「ぁ…お嬢、様…?」

 

「っ…うぅ…っ!」

 

戸惑うモネと、嗚咽を漏らすシュガーを腕に抱いて、私は呪いを唱える。

 

「私が、あなたたちを守るわ」

 

がらんどうの胸に、炎を燃やせ。

 

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