綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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70.心の悪魔が囁いた

 

 

(ベビちゃんが恋しい…)

 

絶賛癒し欠乏中の私は部屋でダラダラしながらベビー5の笑顔を思い出してはため息を吐く生活をしていた。だってベビー5はドフラミンゴの仕事がますます忙しくなったからとバッファローと一緒にあちこち飛び回っているし。デリンジャーもラオGたちの訓練できゃあきゃあ楽しんでばかりでなかなか部屋に戻ってこないし。シュガーは言わずもがな…というか大人びすぎているから癒しとはまた違うというか。ニートらしくベッドに寝転がって悶々と考えていると、突然扉が開いてピンクの巨体が部屋に入ってきた。

 

「ルシー、寝かせろ」

 

またかよ。

 

「えー?いい歳してまだ続けるの?」

 

「……お前の横が一番眠れるんだ。仕方ねェだろ」

 

いや、そろそろ悪夢も克服できたでしょ。返答までにあった妙な間から察するに、これは単なる口実だ。人恋しいだけ。まったく、いい歳して!

 

「モネとかに頼んだら?」

 

「ダメだ。すぐ起きられねェだろ」

 

「じゃあ奥さんとか作りなよ」

 

「フッフッフ!却下だ」

 

「なら愛人は?」

 

「…前よりしつけェな。何だ、おれが来ねェ方がいいのか?」

 

その通りです、とうっかり言いかけた口をなんとか閉じて、私は布団に潜り込んできたドフラミンゴに抱えられつつ苦言を呈した。

 

「ってか、いい歳して兄上と寝るとかさぁ…。そろそろ妹離れしなよ、兄上」

 

目元からこめかみ、耳元へと撫でると、心地好さそうに目を閉じたドフラミンゴが微笑んだ。邪悪さの感じないその表情は、もう立派にオッサンだっていうのに、今までで一番可愛く見えた。……もしかしなくても、今までずっと気を張り詰めていたのだろう。いつからだろう。もしかして、子どもの頃に家が焼け落ちた時からだろうか。私にすら気付かせなかったけれど、一人で、ずっと…。ドフラミンゴの顔を見てようやく、私はそう察することができた。

 

「………フフ…無理だなァ…」

 

眉間のシワをいくらか緩めて、ドフラミンゴは眠りに落ちた。やっと安心して眠れる、そんな顔をしている。

 

(やっぱり、私の兄なんだな…)

 

私には、身内への情が断ち切れない。これが両親のように数年単位での、それもいつか終わりがくるものと割り切った関係であればよかった。だけど、ドフラミンゴは違う。殺されるかもと怯えたり、守ろうとしてみたり、ぶっ飛ばしてもらおうとしたり、離れたいと願ったりしたけれど。なんだかんだで、私はドフラミンゴに守られて生きていたし、ドフラミンゴが死にかけたら庇ってしまう程度には、ドフラミンゴのことが好きだったのだろう。

 

(でも、私はロシーを忘れられないんだよ、兄上)

 

私はロシナンテに、助けて、と言った。ロシナンテは結局は叶えてくれなかったけれど、ドフラミンゴから離れることを肯定してくれた。真っ当な感性を持つ兄が肯定したのだ。たから私はここを出て行く。絶対に。

 

(ドレスローザ編での民衆が怖いっていうのもあるけど…)

 

私には国民全員に恨まれる覚悟も強さもない。…だから、尻尾巻いて逃げる。逃げさせてほしい。さもなくば、ひと思いにーー。

 

(ひと思いに…?)

 

私は今、何を考えた?

 


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