やっぱり、私はドフラミンゴと分かり合えない。マンシェリーの一件で強く思った。時々廊下や謁見の間などで小人族がマンシェリーのことを聞いている姿を見かけたけれど、彼らは私を見ただけで慌てて姿を消してしまうから、接触すらできなかった。身体中の傷痕は、全て無くなった。けれど、どこもかしこも痛くてたまらなかった。
(私のせいだ…友好の証なんて言葉を全部否定して、すぐに逃してあげればよかった…)
いや、そんなことは無理だ。だってドフラミンゴは私の部屋に潜伏していたのだから。逃がそうとした時点で締め上げて…それこそ、原作でジョーラがしたように、握りつぶして体液を絞り出してでも、私を治そうとしたかもしれない。そう考えて、ぞく、と背筋が震えた気がした。ドフラミンゴならやりかねない。
(どうすればいい、どうすればマンシェリーに報いることができる?……せめて…せめて、小人族と話だけでもできたら)
私から逃げるのなら、私以外に伝言をお願いできれば。そう考えて、でも城の人たちはドフラミンゴの息がかかっているだろうからと考えて、考えて……一つだけ、思い当たることがあった。
「…兵隊さんだ」
そう、キュロスだ。確か……キュロスが片足の兵隊になったのは、シュガーとドフラミンゴ…あとは幹部ぐらいしか知らないだろう。そしてシュガー以外のみんなが記憶を失っているはず。だとしたら、私が片足の兵隊に接触しても、誰も危機感を覚えることはない。…はず。
(不安要素だらけだけど…)
かりかり、と手紙を書いて、小さく折りたたんだ。それを胸元に隠して、部屋を出る。真っ先に出会ったラオGに、シュガーに会いたいから幹部塔に連れて行って欲しいと頼んだ。
「あら、お嬢様?また来たの?」
「うん。また人形たちを見て回ってもいいかな?」
「…ええ。でもまだお昼だからそんなにいないわよ?」
それは大丈夫、と返して、荷運びをする人形たちを検分した。原作で、片足の兵隊はレベッカの誕生日祝いのケーキを買うために身を粉にして働く描写があった。ドレスローザを陥落させて日が経ち、ディアマンテが原作通りにスカーレットを撃ち殺したとして……時期的には、ギリギリだろう。…いや…無理かもしれない。何せ私はスカーレットたちに食料を送り、街に近付くなと警告をしている。
(…いや、スカーレットが殺されていなくても、お金や食料なんかはいずれ必要になる。必要になるけれど、王家に不信を持つ街まで彼女たちが行くことはできない。片足の兵隊が働いて妻子に街で買ったものを届けるというストーリーも成り立つ。つまり、いずれにせよ片足の兵隊は働かざるを得ない)
それはつまり、片足の兵隊がここで働いている可能性は十二分にあるということだ。
「ちょっとそこの方。片足の兵隊の人形をご存じないですか?」
「…いや、見ねえな」
「…そうですか。…ごめんなさい」
人形一人一人に尋ねるけれど、片足の兵隊を見たという情報は得られない。
「…ごめんなさい。人形にして、ごめんなさい…」
立ち去るときにそう伝えて、逃げるように次の人形に尋ねる。それを繰り返していると、さすがに目に付いたのかシュガーが近寄ってきた。片足の兵隊のことを聞かれないよう口を閉ざすと、シュガーは大きなため息を吐いて私を見上げてきた。
「…やめなさいよ、そんなこと」
「…いいでしょ。私の自己満足だよ」
「そうね。自己満足だわ。お優しいお嬢様は、いつもそう」
何も、言い返せない。だけど私は間違ったことをしているとは、どうしても思えないのだ。
「そんなんじゃ、いつかまた心が壊れちゃうんだから」
どこか憐れむような目をして、シュガーは幹部塔に戻って行った。その小さな背中に、それはモネのように?そう尋ねかけて、やめた。言ったところで意味がない話だ。
(しばらくしてからコロシアム付近を張った方が確実かな…)
ドフラミンゴは過激な殺し合いの場を民衆に、と日々コロシアムの改造に勤しんでいるらしい。口の軽い使用人たちからは、天竜人たちから海楼石を流してもらっている、という噂も聞く。
「あの…」
「ん?あら、あなた…」
幹部塔に初めて来たときに、無言で私を見上げたおもちゃがまだここにいた。気まずそうに私を見上げて、彼はおもちゃの口を開いた。
「片足の兵隊、見たことあります。一昨日の夜にここで働いてました」
「本当!?」
「はい。でも私たちと違って、彼、毎日働いてるわけじゃなさそうで…」
私に見下ろされてもぞもぞと居心地悪そうに言っている人形を抱き上げた。周囲をちらりと見回して、誰にも聞かれていないことを確認した。
「じゃあ、ちょっと渡して欲しいものがあるの」
手紙を取り出そうと胸に手を突っ込んだ時に、キャッ!と人形が目を隠した。もしかしてこの人形、元は女の子とか?いや、オッサンという可能性も………考えるのはやめておこう。
「この手紙を彼に渡して。…人形にされたあなたたちを救いたいの」
「……本当に?あなたは、私たちを、救ってくれるんですか?」
べたりと塗りつけられた虚ろな目が、私を見上げた。ずきり、ずきり、胸が痛む。だけど私はあえて笑って、人形に語りかけた。
「私じゃない。私には、手助けしかできないから…ごめんなさい。あなたたちのことは、あなたたちが救うの」
「………」
「8年は長いけど、でも、必ず助かるから」
人形の体の一部に、手紙を小さく折りたたんで挟み込んだ。パッと見て分からないし、動いても落ちることはないだろう。
「諦めないで」
(私も、諦めないで抗うから…)
壊れた方が楽だなんて、そんな悪魔のささやきには、私も負けないから。