綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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75.いつか必ず報いを受ける

 

トンタッタ族はあの後すぐにお仕置き部屋を探そうとしたらしい。けれど途中でジョーラに会い、こんなところにいるわけないでしょう、と言われて納得してしまったのだとか。

 

(……ああああ!!!なんで!そうなるの!!!)

 

これは流れを変えてはいけないという原作の力なの?それともトンタッタ族がバ…素直すぎるからなの?どっち!?

 

「ど、どうしたらいいれすか?」

 

「……諦めずに、探して。王宮か地下の幹部塔を根こそぎ探して」

 

「わかったれす!」

 

「できるだけ姿を見られないようにね!」

 

「はいれす!」

 

返事だけはいいんだからもおおお!!!仕方ないと、私も少しは動こうと思って腰を上げた。

 

「片足の兵隊さんはどこ?」

 

街にいると聞いたので、さっそく動きやすい服に着替えて部屋を出ようとして……出る前に、一度立ち止まった。軽率な動きをしかけた自分を反省する。

 

(無策で行けるわけないっての)

 

机に向かって、手紙を書いた。片足の兵隊宛に、トンタッタ族と連携を取るようにと。特にトンタッタ族は騙されて計画をポロリしてしまうから、まず見つからないようにする、見つかったら逃げる、捕まっても逃げる、と逃げに徹するよう教育してほしいと書き込んで。手紙を胸元に突っ込んで、さあ行くぞと部屋を出た。

 

(ええと……街に出るなら、まずは王宮の入り口か)

 

外出が久しぶりすぎてドキドキする。まだ誰にも見つかっていない?広い王宮のあちこちにいる使用人たちの目を盗んで、隠れたり走ったりしながら確実に外へと向かった。

 

「あーーー!!!ママ!!!」

 

「ひっ!……でっ…デリンジャー…!」

 

嬉しそうに走り寄って来たデリンジャーは、体のあちこちを泥まみれにしながらも嬉しそうに笑っていた。

 

「きゃー!ママ!ママだ!久しぶりー!こんなところで何してるの?」

 

「ちょっとお出かけしようかな、って。デリンジャーは?」

 

「あたし?ラオGと訓練してたの!でもラオGったらあたしのことすぐ転がしてくるのよ」

 

デリンジャーはみごとな女口調に成長してしまった。…うちの家族の比率的に男の方が多いし、原作みたいにジョーラにべったりだからってわけじゃないはずなのに…気がついたら一人称があたしになっていた。ああ、決まり切った原作の力って怖い…。それともみっちり張り付いて男口調になるように矯正すべきだった?いやいや、口調なんて個人の自由だしなぁ。

 

「ねえママ、今日の護衛は?」

 

「いないけど?」

 

「じゃああたしがしてあげる!じゃなきゃ外に出るのは危ないわよ」

 

「危ない?」

 

まだ子どもだというのに、デリンジャーは私の護衛なんてものに名乗り出て来た。まるで船で生活していた時の真似事のように。その不自然さに首を傾げると、デリンジャーは当たり前のように笑って言った。

 

「トンタッタ族がママのこと恨んでるんだって若様が言ってたの。ママのせいでお姫様がいなくなったって。だからあたしがママのこと守ってあげるね!」

 

あっ、これ言っちゃダメだったっけ?と笑うデリンジャーの言葉に、息を飲んだ。デリンジャーに私が諸悪の根源だと名指しされたこともだけど、何より、ドフラミンゴがそういうやり方を選んできたことがショックだった。

 

(……ううん、事実、トンタッタ族が私を恨んでも何も不自然じゃないんだ)

 

シナリオとしてはこうだろう。白い服を着た王の妹がいる。怪我と病気を患っていて、治癒能力を持つマンシェリー姫が友好の証として派遣された。しかしマンシェリー姫は私から病気をうつされ病に倒れる。白い服を着た王の妹に近付いてはいけない。マンシェリー姫は王が保護している。…ドフラミンゴの考えそうなことだ。

 

(私が片足の兵隊に手紙を渡さなければ、トンタッタ族はもっと長い間マンシェリーが病気だと信じ続けていたんだろう…)

 

「…デリンジャー、一緒に散歩しようか」

 

「うん!ママと2人で散歩なんて初めて!」

 

きゃあきゃあと飛び跳ねて喜ぶデリンジャーと手を繋いだ。擦り寄る力が強いからか、体がぐいぐい横に押される。大きくなったな。強くなった。でも人の心を察することはできない超鈍感になった。誰に似たの?もしかして私?

 

(…人の、心…)

 

そういえば、私はずっと原作を元に心情を推測していた。その推測が合っているか間違っているか分からないけれど、今の私には顔を合わせれば雑談できる程度には家族との関係を築けている。

 

「ママ」

 

「なーに?」

 

「小人がママのこと嫌いでも、あたしはママのこと大好きだからね!」

 

「嫌な言い方するなあ!私もデリンジャーのことが大好きだよ」

 

「うん!知ってる!」

 

にんまりと笑ったデリンジャーは、当然のように私の答えを受け入れた。知っていると言いつつ、それでも、とても嬉しそうにしていた。デリンジャーと行った街で、私が片足の兵隊を見つけることはできなかった。ただ、街の国民たちから王女と好意的に呼ばれて、街にいくらか見かけるおもちゃたちに虚ろな目で見上げられただけだった。

 

(きもち、わるい。こわい。怖い、恐い…こわい)

 

いつか、報いを受ける。好意的な声や視線が、罵声と暴力に変わる。虚ろな目が嫌悪と憎悪の目に変わる。子どもの頃と同じ目に合う。

 

(逃げたいーーー)

 

逃げなきゃ、殺される。ドフラミンゴから与えられた以外でハッキリと命の危険を感じたのは、この時が初めてだった。

 


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