綺麗なまま死ねない【本編完結】   作:シーシャ

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80.生意気な女になりたい

 

 

「ルシー」

 

「なに、あにうえ…」

 

「なんでこうもタイミングよく病気になるんだ、お前は」

 

「…病原体に聞いてよ…こほ…こほっ」

 

前回の世界会議から4年が経ち、ドレスローザ陥落から数えると6年目の現在。私は見事に風邪をひいていた。昼間だけでは無理だと判断して真夜中に、しかも視界の悪い嵐の中で逃亡しようとしたのが悪かったのか、見事に体調を崩してしまった。久々の熱は昔よりもずっとひどく感じる。歳食ったなぁ…。日々体力の衰えを感じちゃう。ちなみになかなかいいところまで行けたんだけど、嵐の夜に船を出す人なんていなくて待ってたら捕まった。クソッ!ふぁっきん!

 

(だって世界会議とかクッッッソめんどくさい所に出席とかしたくないんだもの!)

 

ドフラミンゴと違って所詮私は偽物だ。生まれながらの天竜人でもなければ、生まれながらのカリスマもなく、王族ですらない。中身は普通に普通の一般人だ。そんなのが世界会議に行ったところでドレスローザの品位を落とすだけだし、何よりそんなめんどくさいのは絶対に嫌だ!現在の世界会議が楽しそうなのは!ビビ王女やレベッカやしらほしちゃんが可愛いからであって!サボが潜入しているからであって!彼らのいない世界会議に行ったところでつまらないだけであって!!!

 

「…チッ」

 

しばらくベッドにいる私を見下ろしていたドフラミンゴが、舌打ちをして背を向けた。年々柄が悪くなってるなぁ。特に服のセンスが。昔はスーツ着ててなかなかイケメンだったのに、今はもうただのチンピラである。

 

「兄上、どこいくの…?」

 

「フフ…お前の風邪を治してやる」

 

「こほっ……まさか、マンシェリーちゃん?やめて、っ…こほっ…兄上、またマンシェリーちゃんを利用したら、怒るからね…!」

 

あんな可哀想なめに合わせて、まだあの子にムチ打とうとするのか。

 

(いや、待てよ?マンシェリーちゃんをここまで連れて来たら、無理やり逃すことができるかも?ああ、でも小人族に今から連絡なんて取れないし、でも彼らも王宮内にいるはずだからマンシェリーの姿を見て……いやいや、手の中に隠してしまえば姿なんて見せずにここに連れて来れるんだって…!)

 

熱のせいか考えがまとまらないし、咳も止まらない。ぐるぐると頭の中で考えている私がどう見えたのか、ドフラミンゴは不機嫌そうに戻ってきてベッドに座った。

 

「あれも嫌、これも嫌とはなァ……おれの素直で可愛いルシーは一体どこに行っちまったんだ?」

 

「兄上、知ってる?」

 

「あ?」

 

「んんっ…。素直な女は天国に行けるけど…こほっこほっ……生意気な女は、どこにでも行けるのよ」

 

「…フフッ…フッフッフッ!そりゃ誰の虚言だ!?現に今!お前はどこにも行けてねェじゃねえか!!!」

 

今はね、と言いかけた言葉を咳と一緒に吐き出さず、ごくりと飲み込んだ。言えばますます機嫌が悪くなるのは目に見えていたから。

 

「じゃあ、どこにも行けない、私は…今年も、留守番してるわ…」

 

「……フッフッフ…本当に、来なくていいんだな?」

 

「?どういう…こほっ!」

 

意味深なドフラミンゴの言葉を読み取れず、けれど尋ね返しても答えてくれることもなく。ドフラミンゴはご機嫌そうに笑いながら、それでも、咳をする私の背を大きな手のひらで摩り続けた。ドフラミンゴのこの言葉の意味を、後に私は理解することになる。

 


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