「ギィッ!?」
とあるビルの屋上。床に亀裂が発生するほど強く叩き付けられ、奇声を上げたその姿は異様だった。
緑色の皮膚、両腕に鋭利な鎌、巨大な複眼…昆虫のカマキリが人間と同じ大きさとなり人間のように四肢を持った姿。
まさに「怪人」だ。
カマキリ怪人は組織の命令通り、「切り裂きジャック」という通り魔に姿を変えて町の人間を襲っていた。
自分が近づくだけで人間は怯え、泣き、命乞いをしてくる。無力な人間を恐怖に陥れることを怪人は本当に楽しんでいた。それは怪人の素体となった人間の本性か、もしくはカマキリが他の生命を捕食する際にある本能から来るものなのかも知れない。
しかし、今その本能は恐怖していた。
カマキリ怪人はゆっくり立ち上がり、先ほど自身を鎖で縛り、床に叩き伏せた存在を睨む。
数メートル先で両手・両足を広げ、蜘蛛のように地面を這って様子を伺う相手。その姿だけなら『人間』だった。足や肩を大胆に露出し、紫色の長髪を持つ妖艶な女性。両目を大きな眼帯で覆われているのに、カマキリ怪人は自分を遥かに超えた存在に睨まれたように感じた。
「・・・・っ!?」
追いつかれた。
目の前の存在に気を取られたカマキリ怪人は、ゆっくりと自分に近づく女以上の『恐怖』へ振り返る。
全身を包む漆黒の体。赤い一対の複眼。腹部に銀色のベルトを身に着けた戦士はカマキリ怪人と対峙する。
「…もう逃がさんぞ!」
戦士がそう叫んだ直後だった。カマキリ怪人はなりふり構わず、漆黒の戦士に向かって駆け出した。
戦士は動じる様子もなく、次の行動に移る。
ベルトの上部で両拳を重ねるとベルトの中央部にある赤い結晶が強く発光する。右腕を前方に突出し、左拳を腰に添えた拳法のような構えから大きく両腕を振るい、右頬の前で握り拳を作るとさらに右拳を力強く握りしめる。そして高く跳躍し、眼下のカマキリ怪人を狙い落下していく。
「ライダー―――」
エネルギーを宿した右足を
「―――キィック!!」
迫るカマキリ怪人の胸板に叩き付けた。
「ギ、ギイィィィィッィィィ!?」
戦士が着地すると同時に、断末魔を上げるカマキリ怪人は燃え上がり、灰へと姿を変えた。
「――お疲れ様でした」
カマキリ怪人が消滅したことを確認した女性は戦士へ静かに声をかける。が、戦士は反応せず、自分が倒した怪人の成れの果てを見つめていた。それは感傷なのか。それとも―――
「一つ。言わせてもらいます」
再び声をかけられたことでようやく戦士は女性へ振り返る。
「貴方が『私闘』を続けることに私は何の不満もありません。必要であれば本日のように助力を惜しまない」
ただし――と女性は続けた。
「もう一つの戦いはすでに始まっていることを忘れないでください。貴方はライダーのサーヴァントとして現界した私のマスターなのですから」
言いたいことを終えたのか、ライダーは闇に溶け込み、その姿を消した。
月の光に照らされた戦士は、本来の姿に戻りポツリと呟きながら手の甲に刻まれた模様を見つめた。
「わかって…いるさ」
聖杯戦争。それが彼―――間桐光太郎が参加する戦いの名だった。
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