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では、10話です!
「ようやく始まるか」
金髪の青年は鉄塔の最上部に腰を下ろし、目下で対峙する光太郎とランサーの姿を見ていた。
「我との戯れからどれ程成長したか…見せて貰うぞ『黒陽』」
「トアッ!!」
先に仕掛けたのは光太郎だ。アスファルトを蹴り、ランサーの顔目がけ拳を放つ。
「へッ」
ランサーは首を逸らし回避。しかし、光太郎の攻撃は止まらない。
着地した左足を軸足に背中を狙い回し蹴りを繰り出すが、ランサーは振り返ることなく前へ一歩出るだけで光太郎の攻撃を空振りにさせた。
「どうしたい、その程度か?」
「まだまだぁッ!!」
ようやく振り返ったランサーへ光太郎は次々とパンチとキックを繰り出していくが全てが空を切るだけで終わってしまう。それでも休むことなく、攻めに徹する光太郎。
戦いを見守るライダーはただ闇雲に仕掛けるマスターの行動に疑問を抱いた。
(…ランサーに攻撃をさせない為に『先の先』を取っている?いえ、コウタロウが考えなしにそのようなことをするとは考えずらい)
今まで怪人とは違い、相手は過去に英雄と称えられ、英霊へと祀り上げられた存在。小手先の通じると思うはずがない。だが光太郎は我武者羅に向かい、体力を消費しているのに過ぎないのでは、と考えていたライダーだったが
「オオオオォォォッ!!」
(コウタロウ…まさか)
(コイツの攻撃…かするだけでもヤバいが、当たんなきゃいいだけだ。おまけに…)
回避を続けるランサーは光太郎の攻撃の『癖』に気付いた。
(拳を2,3回繰り出した後に蹴りを打ってくる…そこを突かせてもらうぜ)
光太郎の攻撃を避けながらも隙を狙っていたランサー。次の攻撃…3回目の拳をかわし、蹴りを出そうと上げた足を槍で貫く。算段を決めたランサーは光太郎の放つパンチを心中でカウントした。
光太郎はランサーに向けて放つのは右ストレートパンチ。
(1発…)
ランサーが左に移動し、回避すると光太郎は続けて身体を回転させ左拳による裏拳でランサーを狙う。
(2発…)
顎を引き、これも回避したランサーへアッパーを仕掛ける光太郎。
(これで…3発!)
槍を握る手に力をこめ、浮いた左足に狙いを定めるが…
「ッ!?」
ランサーの待っていた光太郎の蹴りは打たれることはなかった。一度浮いたその左足は、光太郎の『4発目の拳』と同時に一歩強く踏み出されたからだ。
「トアッ!」
「ック!!」
ランサーに迫る光太郎の拳。だがその拳はランサーに届く寸前に狙いが逸れ、不発と終わる。ランサーが槍の柄で光太郎の手首を弾き、軌道を逸らしたのだ。
ランサーは後方へ跳躍し距離を取ると、楽しそうに笑いながら光太郎を見る。
「一杯食わされたぜ…やるなぁオイ」
「………………」
一方、光太郎は無言で再びランサーに向かい構えを取る。光太郎に取っては先程の拳でランサーが一瞬でも怯んだ際に必殺技を撃ち、勝負を決めるつもりでいた。
ワザと相手に自分の攻撃がパターン化していると思わせ、不意を突く…通じるかは賭けであったが、見事に失敗してしまった。今まで対峙した怪人達はゴルゴムの幹部がある程度の指令を出さない限り、元となった動物の本能に近い戦法だった。だが、目の前の男は違う。囮の動きとはいえ、光太郎の攻撃を全て避け、不意打ちも反射的に回避している。
長い戦いの中で培った戦闘経験。英霊の名は伊達ではないのだ。
(もし、先に仕掛けられていたらなんて…考えたくないな)
光太郎は金髪の青年が言っていた事を思い出す。人間でありながらその枠を超える力を持つ彼らの攻撃…目の前に立つランサーなら槍を使った一撃必殺を得意とするはずだ。
(同じ手はもう通用しない…ならば!!)
先にこちらの最大の攻撃を仕掛けようと、ベルトに両拳を重ねようとしたその時
「ランサー、一突きで決めて下さい」
今まで事の成り行きを無言で見守っていた相手のマスターの指示が出た。
「あん?無粋なこと言うなよ。これからって時に」
「これ以上長引いたら人除けを施しても流石に騒ぎとなる…それに、聖杯戦争はまだ始まったばかりです」
不満をぶつけるランサーだが、マスターのバゼットは構うことなく状況を伝えた。
「…ったく、せっかく盛り上がる所を…悪ぃな。マスターの決定には従わなきゃいけねぇ。だから…」
両腕で槍を構えたランサーの雰囲気がガラリと変わる。
「これで幕引きだ…」
仮面の下で冷や汗を流す光太郎。これからランサーが撃ち出すのはおそらく『宝具』による攻撃。英霊が英霊である証であるその攻撃に対して、光太郎も必殺技をぶつけようと構えをとるが…
あれは…アブナイ
そう頭に響いた気がした光太郎の行動とランサーの攻撃は同時だった。
「キングストーン―――」
「刺し穿つ―――」
「―――フラッシュ!!!」
「―――死棘の槍!!!」
光太郎の放つ閃光に向け、ランサーはその槍を突き立てた。
ガシャンッと落下した音の方へ桜は振り向いた。
「あ…」
「どうした桜?って、光太郎のカップか」
「はい…兄さんのお気に入りだったのに」
食事を終えた慎二と桜はリビングで一息入れている時であった。しっかりと棚に収納されていたはずの光太郎用のカップが床に落下し、無残にも砕けてしまったのだ。
(兄さん…ライダーさん)
未だ帰らない長兄と協力者の身を案じる桜であった。
互いの行動を終えた光太郎とライダーはその姿勢を保ったまま、微動だにしなかった。
光太郎はベルトの上に両拳を重ねたまま。ランサーは未だに槍を突き出した状態だ。
「……………………」
「……………………なるほどな」
先に沈黙を破ったのはランサーだ。
「お前が放った妙な光…あれでゲイボルグの『心臓を貫く結果』を歪めやがったか」
「………………」
「つくづく面白いなぁお前…だが」
「…………っ」
「避けるとまでは…いかなかったみてぇだな」
ランサーの槍は光太郎の脇腹を貫き、背中から血に染まった刃が突き抜けていた。
「コウタロウッ!?」
ライダーの叫びが聞こえた途端、光太郎は震える手で自分を串刺しにしている槍を掴む。
「…やめときな。もう終いだよ。俺がこのまま切り上げれば…ッ!?」
光太郎の意図が分かったランサーは光太郎の腹部に蹴りを叩き付け、同時に槍を乱暴に引き抜いた。蹴り飛ばされた光太郎は2回、3回と転がるとやがて動きを止めると身動き一つせず、ただ血液が流れ出るだけであった。
「…どうしたのですかランサー?あれ程の状態であれば」
「俺もそう思ったんだがよ…あの野郎、あの状態で槍を折ろうとしやがった」
笑いながらも汗をかくランサーは寸前の状況を思い出す。震える手で槍を握る。これ自体が囮であり、本命である反対の手で手刀を作り、今にも振り下ろそうとしていたのだ。
「ハァ…ハァ…」
「そんで、立ち上がるときたもんだ」
傷口を抑えながら光太郎は立ち上がっていた。肩で息をし、血液を多量に流しながらもその闘争心は衰えることはなかった。
「お前さんはよくやったよ。せめて止めは…」
槍に付着した血液を一度払うと、ランサーは止めを刺そうと光太郎に近づこうとしたその時。
「ブオォォォォォォォォォッ!!」
「なッ!?」
「ぐ、アァァァァァッ!!!」
突如、貨物を突き破って現れた怪人の体当たりを受けた光太郎は吹き飛ばされ、別の貨物に叩き付けられた。
「んだよ、さっきのお仲間か!?」
「もう1体いたとは…!」
ランサーとバゼットは乱入者…バッファロー怪人を見た。狙いはあくまで光太郎でり、自分達に目もくれず、ひしゃげた貨物に手を置いて立ち上がろうとする目標に再び突進した。
「く…」
なんとか立ち上がった光太郎だが、先ほどのダメージと出血により、足に力が入らず再び倒れそうとなるが…
「しっかりして下さい!コウタロウ!!」
「ら、ライダー…」
ライダーに抱き止められ、倒れることはなかったが、ライダー自身も足の負傷で光太郎を支えるのがやっとの状態であった。
「てめぇ、いい加減にしやがれッ!!」
「待ちなさいランサー!!」
マスターの制止を無視し、光太郎達にせまるバッファロー怪人の背中目掛け、槍を繰り出そうとするランサー。だが、その槍が届く前に『別の何か』がバッファロー怪人の背に突き刺さった。
「ブボッ!?」
「こいつはッ!?」
何かを悟ったランサーは急いで反転し、唖然としているマスターを背負うとその場から全力でジャンプする。
同時にバッファロー怪人は大爆発を起こした。
「あれは…一体?」
「さあな。けど、あんな芸当ができるなんて限られてると思うがな」
港から数キロ離れた場所に位置するとあるビルの屋上。そこでは黒い弓を構えた男が遥か先で起きている爆発を見つめていた。
「…すまないなマスター。仕留めそこなった」
「何言ってるの?確かに化け物を倒したじゃない」
「いや、近くにいたサーヴァントやそのマスターも纏めて始末しようとしたのだがね…」
特に残念がる様子もなく、淡々と状況の説明を隣に立つマスターへ報告する男は手に持った弓を消滅させる。
「あの状況で生きてるなんて…その黒いマスターってのも化け物じみてるわね」
風で靡く黒髪を整えながら、マスターと呼ばれた少女…遠坂凛はその場を後にしようと歩き出す。
「いいのか?もう一度狙えばマスターを確実に仕留められるが」
「いいわ。今回は様子見よ。それに、あの黒いのにはこの町を大分助けてもらったし…セカンドオーナーとして借りを返しておくわ」
「…そうか」
やれやれと肩を竦める男は凛の後に続いた。
「…無傷?あれ程の衝撃がありながら」
バッファロー怪人が爆発後、ようやく視界が晴れた際にライダーは2つの違和感を覚えた。1つは目の前に迫ったあの怪人が爆発したというのに、自分にはなんの余波も受けていない。そしてもう1つは、自分の手の中にいた光太郎の姿がなかった事。
その疑問は、周囲を舞う粉塵が消えた後に判明した。
「コウ…タロウ…」
ライダーが目にしたのは、彼女の前に立ち、両拳をベルトの上で重ねたまま仁王立ちをしている光太郎だった。
バッファロー怪人が謎の攻撃を受けて爆発する寸前、光太郎はライダーを自分の背後に移動させると、最後のパワーを振り絞り、キングストーンフラッシュで防護壁を張ったのだ。
「私を庇って…コウタロウ!!」
複眼から光が消え、元の姿となった光太郎は糸の切れた人形のように力尽きてその場に倒れそうになったが、再びライダーに抱き止められた。
「しっかりして下さい、コウタロウ!」
ライダーの呼びかけに返事はない。しかし呼吸は荒く、血液も未だに流れていた。
「早くここを離れなければ…しかし」
ライダーも足の怪我が災いし、光太郎を担いで移動することが出来ない。どうすればいいかと考えていた時、自分たちに向かい、何かが近付く音に気付く。また新手かと武器を構えるが…
「!?あなたは…」
ライダーの目の前で止まったのは、光太郎の愛機にて家族でもある生体バイク、バトルホッパーであった。何かを訴えるように、仕切りに頭部に当たるカウルを左右に動かしている。
「…乗れと、言っているのですか?」
肯定するように、エンジンがドルンっと音を立てた。
「…お願いします」
光太郎を背負ったライダーの搭乗を確認すると、バトルホッパーはランサー陣営が避難した方とは逆の方向へと爆走を始めた。
「……贋作屋か」
一部始終を見守っていた金髪の青年はその背後で水の波紋のように歪んでいる空間から出ているいくつもの武器を再び収納すると、バッファロー怪人を倒した男のいたビルのある方向を睨んでいた。
「まぁいい。サーヴァント相手に臆することなく戦う姿勢。因果律を歪めるほどの力を王石から引き出すか…」
光太郎の力を見て、不機嫌であったその表情はやがれ獰猛な笑みへと変わった。
「そうだ。そうやって成長を続けろよ。そうでなくては困るからな」
誰に聞かせるわけでもなくそう呟いた青年は姿を消した。
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