では、12話です
間桐光太郎は身体がどれ程回復したかを確かめるため、運動時に着用するジャージに着替え、間桐邸の庭へと移動した。
「んっ…と」
柔軟体操を終えた光太郎はその場からジャンプする。その高さは光太郎の同年代の平均どころか、世界記録を大きく上回っていた。光太郎は滞空中に身体を丸め、前転すると着地地点に『何か』をイメージし、それに目掛け右足を突き出して落下する。
「トァッ!」
ドスンッと鈍い音を立て光太郎の右足が地面に接触したと同時に周りに土埃が舞う。
「ゴホッゴホッ…痛みはないし、傷はもう大丈夫みたいだな」
咽ながらランサーに刺された脇腹を叩いてみる。傷は勿論内部も完全に治癒し、変身して戦うことも可能だろう。
「次は筋トレ…の前に後片付けか」
光太郎は頭をかきながら辺りを見回す。自宅の庭とはいえ地面に大穴を空け、その穴に本来あるはずの土が庭を飛び越えガレージや玄関近くまで飛び散っている惨状であった。
「…桜ちゃんに怒られる前にやっておこう」
義妹の絶対零度の微笑みを思い浮かべながら、光太郎は箒を探し始める。
「手伝いましょうか?」
「ら、ライダー…何時からそこに?」
慌てて声の聞こえた方へ振り返ると、箒を持ったライダーがゆっくりとした足取りで近づいていた。
「先程コウタロウが豪快に飛び上がる所から…ですね。どうぞ」
「あ、ああ…ありがとう」
丁寧に答えるライダーから箒をぎこちなく受け取った光太郎は周囲に散った土の回収を始める。
「………?」
光太郎の態度に首を傾げるライダーだったが、予備の箒を持ち、マスターと同じ行動に移った。
暫くの時間、無言で掃除をする2人であったが、光太郎の心中は穏やかではなかった。
(…き、気まずい。あの夢を見てから猶更…)
マスターはサーヴァントの過去をレイラインでの繋がりから夢として見ることがある。光太郎はライダーの過去を盗み見してしまったような気まずさがあり、彼女を召喚したばかりの頃のようにどのように接すればいいか迷っていた。
(過去、か…)
自身の過去を思い浮かべる光太郎は手を止めてしまう。もし、同じようにライダーも自分の過去を夢として見ていたのなら、どう思うのだろう。
光太郎と同じく自分と似た境遇と考えるのか。もしくは…あんな事が起きても生き延びて、新しい家族と生きる道を選んだ自分を図々しく思っていないか…
さらに、見た過去の中に『聖杯戦争で戦う理由』があり、彼女に知られたら…と嫌な予感だけが延々と駆け巡っている心境であった。
力を合わせてタカ怪人を倒したあの時、ようやくライダーと通じ合えたと思った光太郎は、自分と彼女の共通する事をあんな悲しいことだけにはしたくない。彼女とは、それだけで繋がっていたくないと、光太郎は考えるようになってしまった。
「って、何を考えているんだよ俺は」
「なんの話ですか?」
「うおわぁッ!?」
二度の呼びかけに、今回は前回を上回る驚きをする光太郎。流石に心配になったライダーは不安げに尋ねる。
「コウタロウ、やはりまだ傷が…」
「いや、ないない!ちょっと考え事しててさッ!ライダーが心配するようなことじゃない!本当だよ!?」
「そう…ですか」
シドロモドロに答える光太郎だったが、ライダーはどことなく落ち込んでいるように見えた。
「あの…ライダーさん?」
思わずさん付けで尋ねる光太郎。
「…私は、それほど頼りないサーヴァントでしょうか?」
「そんなこと…」
「いえ、コウタロウがランサーと戦った時も、貴方が傷を負うまで私はだまっていることしかできませんでした。しかも、突然の事とはいえ、敵の奇襲から貴方を助けるどころか、貴方に守られてた。私は…」
「ライダー…」
彼女が自分の過去を見たのかは今の時点では分からない。しかし、今考えるべきなのはそこではない。今、ライダーを不安にさせてしまっているのは間違いなく今の自分の態度だ。ライダーは、ランサーとの戦いで光太郎が負傷した事を今でも気にしている。
見守っているように言われているに関わらず、だ。どこまでも真面目で、優しい彼女に対して、光太郎はゆっくりと自分の手をライダーの頭に乗せる。
「コウタロウ…」
「あの時は、色々とタイミングが悪かったんだよ。誰も予測できないさ」
「ですが…」
「それに、俺もライダーを頼りにしなかった」
「え…?」
光太郎の言葉にライダーは視線を上げる。
「情けないよな。直前に2人でお互いを守り合おうと言っておきながらあの様だからね」
「いえ、私が攻撃をしっかりと避けていればあのような…」
「だからさ。これで終わりにしよう」
「終わり…?」
「そう。何があっても、自分がしっかりしてなかったからとか、自分の責任…というのはこれで最後!この先の戦いで失敗しても、大きな怪我を負っても、どちらかの責任じゃない。俺達2人の戦いなんだから、責任は半分ずつ」
「……………」
ライダーは一度目線を落とすと、ゆっくりと口を開いた。
「本当に、我儘なマスターですね」
「自覚はしてるよ」
「それは、さらに性質が悪い」
「手厳しいな」
「ええ。これからは遠慮など、いらないのですからね」
「覚悟しないとな」
「はい、覚悟をお願いします」
厳しいことを通達する彼女の口は、あの夜よりも優しく微笑んでいた。
「あの、コウタロウ…」
「ん?」
「そろそろ…頭から…手を」
「…っと!すまないッ!いつも桜ちゃんにやってる癖で…」
「あッ…」
言われ慌てて手を引く光太郎だったが、ライダーが今度は残念そうに声を漏らす。気になった光太郎は無礼を承知でライダーに尋ねた。
「えっと…まだ乗せてた方が…?」
「い、いえ!そうではなく…」
「うん…」
「あの…あのように男性に撫でられるのは…初めて…で」
この時の光太郎は知らなかったが、ライダーにとって170cmある身長はコンプレックスの一つであった。姉達にも散々その長身をからかわれ、『殿方を逆に抱きかかえる方』とまで言われ続けられた。その彼女が自分の身長を上回る光太郎から、撫でられるという(ライダーから見たら)女性としての扱いを受けた事に戸惑いと嬉しさの感情が同時に押し寄せてしまったのだ。
「………………………」
「………………………」
先程とは別の意味で気まずくなった光太郎と、俯いて動こうとしないライダー。特にライダーは長い髪で光太郎の目には入らなかったが耳は赤く染まっている。
どれ程の時間がたつのだろう…と考えた時、ガレージの方から光太郎の携帯電話が響く。
「あ、ごめんライダー」
助かったと思いながらガレージ内にある作業台上で震える携帯電話を操作する光太郎。
「慎二君か。まだ昼前までなのに何か」
あるのかと言い切る前に光太郎は携帯電話を収納すると、同じ作業台にあったヘルメットを被ると急いでバイクに跨り、エンジンを付ける。
「何かあったのですか」
「ああ、二人が危ない!…ライダー、いけるか?」
「無論です」
光太郎は頷くと、ガレージから急発進。ライダーもそれに続き、その俊足で光太郎を追った。
慎二から光太郎の携帯電話に届いたメールには簡単にこう記してあった。
『学校に ゴルゴム』
いちゃつくというのはこうですか?わかりません
最近戦闘が全くないですが、次回からようやく動いていきます
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