14話、どうぞ!
「ん…」
眠りから覚めた間桐桜はゆっくりと目を開く。今自分が体を横にしているのは使い慣れたベットの上でなく、体育館の冷たい床だと気が付くのに少し時間がかかった。
「私…なんで…?」
確か次の授業の準備をしていたはず…直前の記憶を思い出しながら体を起こすと、周りには生徒、教師たちが意識を失い倒れている。状況が掴めない桜の目に入ったのは、多くの人間が倒れている中でただ1人、こちらに背を向けて立っている男だった。
桜はその男の背中を見て、連想した人物の名前を思わず口にした。
「せん…ぱい?」
「目が覚めたか。間桐桜」
「…ッ!?」
振り返った男の姿を見て桜は身構え、警戒する。何故、あの男を見て、自分は思い人の姿と重ねてしまったのだろうか。桜が戸惑っていることに構わず、男…アーチャーは話を続ける。
「…なるほど。他の人間と比べ早く目覚めることが出来たのは、それか」
「…………」
アーチャーに指摘された桜は普段、その黒髪で隠されているうなじ辺りを手で押さえる。そこには、五円玉ほどの大きさに切り取られた円状のシールが貼られており、細かな文字が螺旋のように刻まれていた。そこには、シールが貼られた本人の身体の熱量が一定以下となった際に魔力を体全身へ緩やかに巡回させ、負担なく目覚めさせるという術式が組まれている。
これは聖杯戦争中、桜が敵陣営に捕まった事を想定して慎二が準備したものだった。
もし無理矢理意識を奪われてたなら目を覚ます時間を短縮させ、位置情報などを早く兄たちへ知らせる事が出来るように、睡眠以外は身に着けている桜の護身用の道具の一つだ。
余談ではあるが、これの説明を聞いた光太郎は目覚まし時計だねと笑いながら言ったため、必死に魔導書を解読して術式を組み立てた慎二の怒りは10日以上治まらなかった。
「貴方は…」
「警戒する必要はない。君たちに手出しはせんよ。むしろ、何か起きた時のためにいるようなものだ」
「なら、教えてください。学校で何が…」
後を向いたまま答えるアーチャーに桜は自分達の学校に何が起きているのか尋ねた。
「君ならば、ある程度見当が付いているはずだ。そして、この事態を止める為に誰が動いているかも…な」
(…兄さんッ!!)
アーチャーの遠回しな回答を聞いた桜は立ち上がると、出口に向かって走り出す。アーチャーは微動だにせず、どこかへ向かおうとする桜に向かって声をかけた。
「行ってどうするつもりだ?君が彼の元に行ったところで…」
「それでも」
立ち止まった桜は振り返りながら、アーチャーに笑顔を向ける。
「私は、行きます!私に出来ることをしたいですから」
「…なら、ついでに1階の入口で寝ているもう一人の兄も連れてってくれ。君たちを眠らせた香気も消え失せているだろうしな」
「え?」
「見張る対象が一人でも減ってくれたら、私も楽になる。それだけだ」
目を閉じたまま、慎二が倒れている場所を伝えるアーチャーに、桜はペコリと頭を下げる。
「…やっぱり、似ていますね。私の知ってる人に」
「誰の事かは知らんが、気のせいだろう。さっさと行け」
「はいっ!」
体育館の入口を抜け、走る桜の姿に目を開けたアーチャーはどこか、懐かしむように呟いた。
「変わらないな。本当に…」
「慎二を頼むぞ。桜」
屋上
変身した光太郎の姿を見て、士郎の怪我の具合を見ていた凛は知りつつもやはり納得できない様子であった。
「何よあれ…体を変質させる魔術でも人の形を保ったままあそこまで変質させるモノなんて聞いたことも…」
「遠坂…あれはああいうものらしい…ぞ?」
ブツブツと分析する凛に士郎は自信なく光太郎の変身を説明する。士郎はこの時、慎二の言った通り光太郎の変身を家系にある突然変異と信じたままであった。
「衛宮君!ここは俺とライダーで押さえるから、遠坂さんと一緒にその人を!」
先程までビルゲニアの催眠術にかかり、凛に気絶させられた用務員を指さす光太郎。目の前にいる敵にいつまた人質にされてしまうかも分からない状況だ。士郎は立ち上がると、隣にいる凛の腕を引っ張って用務員のもとへ向かう。
「行こう、遠坂!」
「ちょ、ちょっと士郎!?」
まだ思考中であった凛は突然腕を引かれた事に狼狽する。よほど光太郎の変身が納得できないようだった。光太郎の言葉が聞こえていなかったようなので、士郎は簡単に説明する。
「…まぁ、この場合その方がいいわね。それにしても…」
「…何だよ、遠坂」
倒れていた用務員を2人で左右から支えると、凛はジト目で士郎を睨んだ。
「…べっつにぃ。あの光太郎って人の話は素直に聞くんだなぁって思っただけよ」
「素直にって…遠坂の話だっていつもちゃんと聞いてるじゃないか。魔術とか聖杯戦争とか…」
「そういう意味じゃないわよこのバカ!!」
「…………」
凛の怒る原因が理解できないまま、士郎は彼女と共に用務員を連れて屋上を後にする。それをつまらなそうに眺めるビルゲニアは構えを続ける光太郎に向かい合う。
「フン。小僧の令呪など後回しだ。貴様を倒した後、ゆっくりといたぶりながら引きはがすとしよう」
「お前の狙いは衛宮君だったのか!」
「正確には小僧のサーヴァント、だがな」
(衛宮君のサーヴァント…たしか、『セイバー』)
義妹から、衛宮士郎は自身のサーヴァントをそう呼んでいたという話を思いだす光太郎。しかし、ゴルゴムであるビルゲニアがなぜサーヴァントを必要とするのか、間合いを詰めながら考える。
(ビルゲニアの狙いが最初から彼だったとしても、なぜこんな回りくどいことをする。学校の人々を眠させて…ッ!?)
光太郎は気付いた。なぜ、狙いを士郎だけにしなかったのか。そして、士郎をわざわざ眠らせている人々が収容されている体育館の見える屋上まで士郎を連れて来たのか。
「ビルゲニア!もしや衛宮君を脅すために…!?」
「ほう、よく気付いたな。調べたらどうやらあの小僧は自身よりも他人が傷つく方が耐えられないという変わった人間のようなのでな」
ニヤニヤと笑うビルゲニアに、光太郎はより強く握りしめた拳を叩き付けるため、跳躍した。
「許さんッ!!ライダー―――」
怒りにかられた光太郎は失念していた。今ビルゲニアが手にしているのは盾、ビルテクターのみ。前回での戦いでビルゲニアの主要武器であるビルセイバーは光太郎が叩き折っている。しかし、己の目的の為に手段を択ばないこの狡猾な男が何の準備もなしに、自分の前に立つはずがないと。
光太郎との距離が1メートルを切った瞬間、ビルゲニアは右手に刀剣を出現させ、光太郎の胸にその刃で切り付けた。
「グアァッ!」
ダメージを受けた光太郎はビルゲニアの後方に落下。胸を抑えながら前方に転がり、立ち上がると攻撃された胸に目を向ける。剣に当てられた箇所にはクッキリと跡が残っており、煙が上がっている。
「クッ…あの剣は、ビルセイバーではない!?」
「その通りだ!」
振り返ったビルゲニアはまるで見せびらかすように、赤い刀身の剣を掲げる。
「これこそは創生王様より授かった我らゴルゴムの聖剣、サタンサーベル!!そして、世紀王の証なのだ!!」
「せいき…おう…」
(世紀王…?)
バラ怪人と対峙しているライダーは、聞いたことのない言葉…『世紀王』がビルゲニアの口から出た途端、光太郎の動きが止まったように見えた。いや、よく見れば攻撃を受けた胸を抑える光太郎の腕は僅かながら震えている。まるで、怯えるかのように。
「くたばるがいい!!」
「コウタロウ、避けてください!!」
ライダーの呼びかけに我に返った光太郎。目の前に迫ったサタンサーベルを回避するため、真横に体を転ばした。直後、ガシャンッと音を立て、直前まで光太郎の背後にあった高架水槽を支えるコンクリートの柱が斜めに切り裂かれた。
「なんて威力だ!」
「次は貴様がこうなるのだ!死ねぃ!!」
「クッ!?」
サタンサーベルを振る上げるビルゲニア。光太郎は避けようと後方へ飛ぶが、サタンサーベルの切っ先から放たれた光線が直撃し、吹き飛ばされ校庭へと落下してしまう。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「コウタロウッ!?」
落下した光太郎を追うために、目の前に立つバラ怪人にかまわずにジャンプするライダーであったが、突如動きが止まってしまう。
「なッ!?」
バラ怪人がその触手でライダーの足を拘束し、滞空しているライダーを光太郎と同じく、校庭へと振り落した。
「アァァァァッ!?」
体勢を変えられず、背中から落下するライダー。ダメージを少しでも和らげようと受け身を取ろうとしたが、地面と衝突することはなかった。
「え…?」
「大丈夫か、ライダー」
「こ、コウタロウ…無事だったのですか?」
「ああ、なんとか着地できたよ」
先に校庭へ放り出された光太郎は落下する直前に、ライダーを抱き止めていた。
「あ…その」
「どうした…まさか、どこかに怪我を!?」
「いえ、そうではなく…」
「………?」
吃るライダーを心配そうに尋ねる光太郎だったが、ライダーへの異常は顔が少々赤くなっている以外見られない。原因を考える光太郎だったが、遠くから自分達を見る視線に、ようやく合点がいった。
昇降口の付近に立つ士郎と凛。恐らく用務員の男性を安全な場所まで運び終えた後、校庭に光太郎が落下した音を聞き、様子を見に来たのだろう。士郎は見てしまったことっを申し訳なさそうに苦笑し、凛は面白そうにニヤリと笑っている。
「………あ」
光太郎は現在、ライダーを抱きかかえているがその姿は俗に『お姫様抱っこ』と呼ばれる状態だ。
「す、すまないライダー!いつまでもこんな…」
「…いえ、大丈夫…です」
ライダーを下ろした光太郎は急いで謝罪するが、返事はどこかぎこちない。
「…………」
「…………」
((ま、まるでさっきの続き…))
間桐家の庭でのやり取りを思い出しながら互いに気まずそうに視線をそらす。しかし、状況は待ってはくれない。
「まだ生きていたか…しぶとい奴らめ!!」
「ビルゲニア!!」
いつの間にか現れたビルゲニアはバラ怪人を連れ、校庭の中央に立っていた。
「…間桐光太郎、知っているか?この地に聖杯がどのように現れるか」
「何?」
唐突に聖杯について語りだすビルゲニアに光太郎達は眉を顰める。こちらを惑わそうとする作戦なのか…それとも別の狙いがあるのか。光太郎の疑念に構わず、ビルゲニアは続ける。
「この冬木にある地脈…霊脈ともいってもいいか。そこに流れる力『マナ』が一定量に達し、条件満たされれば、聖杯が現れるのだ」
「……………………」
なぜ、ビルゲニアが聖杯についての知識を有しているのか。一番にそれを疑問視したのは光太郎ではなく、街のセカンドオーナーである凛であった。あれ程詳しいなど、監督役をしている聖堂教会でなければ知りえない事であったが、凛はこの時、ゴルゴムの影響下がその教会にまで達していたとは知る由もなかった。
「その地脈に流れる力は大小ある。ここに流れる力はそれ程でもないが…面白いことが出来る」
ビルゲニアは校庭にサタンサーベルを突き立て、柄に手を翳す。ビルゲニアの掌から放電状の力が放たれたと同時に、快晴だった空が急に雲で覆われてしまう。
「仮面ライダーに倒された怪人の怨念…地脈のマナ…そして俺の魔術とサタンサーベルの力が揃えば…!」
ビルゲニアの放つ力はさらに力を増し、サタンサーベルの刀身は赤く輝き始めた。
「さぁ蘇るがいい…怪人どもぉッ!!!」
ビルゲニアの叫びに答えるように、雲から雷が校庭に打ち付けられ、光太郎とライダーを囲うように地面がひび割れていく。
そして地面の内側から次々と這い出してきたのは、30体を超える怪人の姿だった。
次回はメシ使いがお留守番中のあの人を呼び出します。
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