第17話
(何なんだよ一体…)
学校での激闘が終わり、校舎を後にした間桐慎二は義兄、義妹、そしてライダーと夕食をとっていた。献立も桜の得意料理となった洋食が中心であり、それは慎二に取ってもはや当たり前となった光景だ。しかし、それは場所が間桐家であり、同席者がいなければである。
「あら、この鶏肉のソテー美味しいじゃない!」
「ええ、見事の一言です」
「えへへ…ありがとうございます」
しっかりと下味を付けて程よく焼かれた鶏肉を頬張る凛とセイバーの賞賛に満面の笑みを浮かべるエプロン姿の桜を見て、隣に座る慎二は深く溜息をついた。
「どうした慎二?箸が進んでないけど、苦手なものでもあったか?」
「……………」
慎二の正面に座っている士郎は、ずれた質問をしながら添え物のブロッコリーを口元に運んでいた。慎二は無視してポテトサラダを箸で摘まむが、義兄の余計なフォローに口を開かざるえなかった。
「そこは心配いらないよ衛宮君。慎二君は何でも食べれるから!ね?」
「何だよそのうちの子は大丈夫的なフォローは!?それに食べなれてる味に何コメントつければいいんだよ!!」
「ふむ…つまりいつもと変わりなく美味しいとを遠回しに言っているのですね」
「曲解もいい加減にしてもらえない!?」
光太郎の隣に座り、慎二の言葉を照れ隠しでならではの発言と解釈している眼鏡をかけた女性・・・ライダーは彼の声など物ともせず、コップに注がれた日本酒を煽っていた。
「あらら~。ライダーさんって行ける口?初めての日本酒でそこまでグイっといけるなんてすごいわねぇ」
「お酒は国境を越えます…」
「おおぅ、素敵な一言頂きましたぁぁぁぁ!!こうなったらこの家に眠るとっておきを出しちゃうぞ~!」
「藤姉!それ組から貰った正月に開けるヤツじゃなかったのか!?」
弟分の言うなど耳に入れず、秘蔵の品を取りに台所へ駆けていく藤村大河教諭の姿を見て、慎二は再び溜息を付いた。
慎二達は現在、自宅ではなく衛宮家の食卓を家主と共に囲っていた。なぜ、士郎達と食事をすることになったのか、それは数時間前に遡る・・・
ビルゲニアが逃げ去った後、戦いを終えた光太郎達は一つに問題に直面していた。学校の後始末をどうするか、ということである。学校の生徒、教師達が集団催眠に合い、校庭は再生怪人達との戦いでボロボロであった。外部の人間に知られる前に、収拾を着けなければならない街の管理者である
遠坂凛は迷いに迷った上である人物へ協力を仰ぐことを決意した。
「・・・桜、携帯電話貸して貰える?」
「は、はいっ!」
突然の氏名に驚きながら、桜はいそいそとポケットから自身の携帯電話を取り出し、凛に差し出す。が、凛は桜の携帯電話を見た途端、目を丸くして動きを止めてしまう。
「・・・遠坂先輩?」
いつまでも受け取らずにいる凛を不思議に思った桜は声をかけるが、凛は手を震わせ、まるで未知の物体を目撃したような表情を浮かべていた。何故こうまで彼女が桜の携帯電話にここまで怯えているのか。それは桜の所持する携帯電話が凛の知る二つ折りでボタンを押すタイプではなく、画面に直接触れて操作する最新の機種だからだ。父親譲りの機械オンチである凛にとっては先ほどのゴルゴム以上の脅威である。そんな凛の状態を察した士郎は実姉の挙動に首を傾げている桜の肩を叩いた。
「・・・桜、遠坂が言う番号をかけてやってくれ」
「は、はい・・・」
士郎の助け舟に余計なことを・・・と言いたげに睨む凛であったが、つかさず霊体化している自身のサーヴァントが耳打ちをする。
(凛・・・ここは素直に頼りたまえ。これ以上時間をかければ目撃者が出るぞ)
(わ、分かってるわよ!)
紆余曲折の末、番号を押された桜の携帯電話を手にした凛は耳に当てながら、連絡相手が出るのを待つ。コール音が数回鳴った後、ガチャリッと受話器を持ち上げられた音を確認し、凛は覚悟を決めて切り出した。
「…綺礼?私よ」
『君は、電話で名乗る時は本名を告げないように教育を受けていたのかね?』
「遠坂凛よ・・・確認取るまでもなく、言峰綺礼よね」
『その通りだ。しかし聖杯戦争が始まって間もなく連絡をよこすとは関心しないな。それとももうサーヴァントを失ったのかな?』
「そうじゃなくて、相談したい事があるのよ!」
『ほぉ・・・』
開口一番、電話相手の皮肉に凛は青筋を立て、怒りの声を上げようとしたが何とか飲み込み、電話の相手…聖杯戦争の監視役である
神父、言峰綺礼へ本題を持ちかけた。凛は聖杯戦争中に起きた事件、事故を秘密裏に処理をする聖堂教会の助力を得ようと監視役である綺礼に連絡を取ろうと考えたのだ。
しかし、凛にとって綺礼は兄弟弟子の間柄でありながら犬猿の仲であり、本来ならば最も頼りたくない相手でもあった。
『なるほど…しかし、君の言う通り今回起きた出来事はあくまで聖杯戦争とは無関係の戦いだ。その隠蔽に我々が動く訳にはいかんな』
「くっ…確かにそうだけど…」
『しかし、話を聞くとその戦いにサーヴァントが関わってしまったのであろう?ならば無視出来ない事態であることでもある』
「え…?」
凛は綺礼の意外な対応に声を上げて驚いた。元々期待していなかった分、あの綺礼が手を貸してくれるということが逆に凛を不審に思いつい問い詰めてしまった。
「…やけにこちらの言うことを聞いてくれるわね」
『あくまで監視者としての判断だよ。サーヴァントという規格外の存在が残した痕跡を残すわけにはいかんのでな。それに…』
「?」
『君に貸しを作っておくこともまた一興だと思ってね』
電話越しに、真っ黒な笑みを浮かべる神父の姿が易々と浮かんでしまう凛であった。
「ちょっと!?本音はそれじゃないでしょうねぇ!?」
『では、これから私は近くで潜んでいる他の監視役に連絡を取らなければならん。君達は一刻もそこを離れるように』
怒鳴る凛のことなど構わずに要件だけ伝えて綺礼は通話を終了させる。凛は行先のない怒りで肩を震わせるが、士郎の呼びかけにどうにか
抑え込んだ。
「と、ともかくこれで学校のみんなはどうにかなるんだろ遠坂?」
「まぁ…ね。はぁ…まさかこんな形でアイツに借りなんか作るなんて」
「それほど恐ろしい相手なのですか?その神父は」
「ああ…ライダーは直接会ったことはないもんな」
凛の様子を見て監視役が気になったライダーの疑問に付け加えた光太郎は、初めて言峰綺礼を顔を合わせた時を思い出す。
光太郎は聖杯戦争参加の表明するために、監視役のいる言峰教会を訪ねた際に綺礼と初めて顔を合わせたが、それ以降会おうという気にはなれなかった。掴みどころのない人物ということもあったが、それ以上に自分を見る神父の目が不気味であったのが原因だ。聖杯戦争についての説明中も、獲物を
見つけた蛇に睨まれている心境であり、その重圧に耐えるのが精一杯で話の内容など微塵も覚えていない。説明中も終わり、ようやく帰路へつこうと重い扉を開けた際に言われた彼の一言に、光太郎は心臓を抉り出されたような気持ちになり、無意識に振り返ってしまった。
『君が聖杯に選ばれた時に『君の心からの望み』が叶うことを祈ろう』
それを聞いた時、自分がどのような顔をしていたかはわからない。ただ、その顔の唯一の目撃者である言峰綺礼は、見た方が凍りつくような冷たい笑みを浮かべて礼拝堂の奥へと姿を消していった。
(彼とは、違った意味で恐ろしい存在だな)
自分を観察しているという意味では、あの金髪の青年と一緒ではあるが、根本は全く異なる。青年は光太郎の行動そのものを見て楽しんでいる節があるが、綺礼は光太郎の心のを見透かして最も触れられたくない部分を見出そうとしている・・・苦手という以上に怖いと思える存在だった。
「まぁ、綺礼はあれでも仕事はきっちりとやるタイプだから任せて大丈夫よ。となれば・・・」
携帯電話を桜に返した凛は視線を光太郎へと向ける。
「あいつらについて説明をお願いできないかしら?仮面ライダーさん」
「・・・」
本来であればゴルゴムとの因縁とは無関係の人間には聞かせるべきではないと断るところではあるが、今回の件はそう言い切れない。敵の狙いは自分ではなく、義弟の友人、そして彼のサーヴァントだった。そしてビルゲニアの言う言葉通りならまた現れる可能性も高いと光太郎は考えた。
「・・・わかった」
「おい光太郎っ!」
光太郎の返事に食いついたのは慎二だった。彼が言いたいことはわかっている。もしゴルゴムの話をするとなると、当然自分についても説明しなければならない。口が悪く優しいこの義弟のは自分以上に心配してくれる。それだけでも、光太郎は嬉しかった。だから、その心配を削ぐ為に、少しばかり弟の真似をすることにした。
「遠坂さん、俺達も奴らに対して持っている情報はそれほど多くない。でも、協力してもらった以上は遠坂さん達の質問に『可能な限り』答えようと思う。それでいいかな?」
「・・・ええ。それで構わないわ。なにも知らないよりは遥かにマシだしね」
上手く逃げたなと慎二は光太郎の言葉を聞いて思った。今の言い分であれば核心を突いた質問も知らぬ存じぬで誤魔化せるだろう。まだ腑に落ちない凛に続いて士郎へと顔を向けた。
「・・・衛宮くんにも、今回は済まなかったね。令呪を一つ消費させてしまって」
「い、いえ!それを言うなら俺だって以前助けて貰いましたし・・・」
「なんと、以前にもシロウを助けて頂いたのですか?」
クモ怪人から救われたことに関して強く反応しのは彼のサーヴァントだった。さらに詳しく聞こうと光太郎には問いかける彼女の姿は戦闘中の銀色の甲冑ではなく、白いブラウスにスカートを着用している。その姿を見て、どこか羨んでいる気配を、光太郎はライダーから感じていた。
彼らのやり取りを遠目から見ている凛は、隣に立つ桜へと尋ねる。
「桜、貴方もそのことも知ってるの?」
凛の質問に桜は笑顔で頷く。
「はい、。あ、でもさっきのお話はちゃんと光太郎兄さんから聞いて下さいね?ずるはダメです!」
「む・・・」
見抜かれていた。流石は我が妹・・・と会話に乗じてなにか得られるかと凛は期待していたが読まれていたようだ。
(残念ながら、ここぞという時にしくじるのは君だけのようだな?)
(るっさいわね!!)
アーチャーのあ茶々入れに目くじらを立てながら、光太郎達を見つめる桜の横顔を眺める凛。桜は、まだ遠坂の家にいたあの頃・・・ひょっとしたらその時以上に笑顔で幸せで暮せているのではないのか。それを考えると、あの光太郎という人物と、認めたくないが慎二には今回以上の借りを作っているのではないだろうかと考えた凛はここで少しは精算するべきだろうと、光太郎達の元へ歩いた。
「さて、お喋りはそこまでにして移動をを開始しましょうか。場所は衛宮君の家でいいわよね?」
「ああ、俺は構わないけど」
「なら決まりね。それと・・・光太郎さんと呼ぶべきかしら?」
「なんだい?」
「貴方のサーヴァントを、少し借りてもいいかしら?」
「ライダーを?」
凛の要求に、光太郎と指名を受けたライダーは思わず互いに目を合わせた。
「そんなに警戒しなくてきわ。これはさっきとは別件。今まで冬木をあいつらから守ってくれたことを、管理者として御礼がしたいだけよ」
間違ってはいないが、あくまで建前である理由を述べた凛に、光太郎以上に周りの人間にが動揺した。
「と、遠坂が、御礼・・・?」
「シロウ・・・あそこに立つリンは本物でしょうか?」
「あんた等ねぇ・・・」
赤い悪魔に睨まれた士郎とセイバーはそれ以上口を開くことは無かった。
「いや、俺達はそういったことの為に・・・」
「光太郎兄さん」
「桜ちゃん?」
断ろうとした光太郎だったが、桜が実施姉へ尽かさずフォローに入る。
「どうか御礼を受けちゃって下さい。じゃないと、遠坂先輩は受け取るまでずっと兄さんにあの手この手で付きまとってしまいますよ?」
(笑顔で言うことじゃないな・・・)
内心、逞しくなった義妹の発言に複雑な思いを抱く慎二も、後に続くことにした。
「受けとけよ光太郎。そうすれば遠坂も満足するだろうし、これ以上グダグダすることもないだろ?」
「慎二君まで・・・」
手間を省くためという義弟の言葉に、光太郎はライダーの顔を伺う。ライダーはしばし悩んだ後に無言で小さく頷いた。
「・・・わかった。ありがたく受けるよ」
「なら、善は急げね。ライダーは霊体化して私に付いてきて頂戴。後の皆は、衛宮君の家に行くこと。では解散!」
凛の号令の元、光太郎達は学校を離れ衛宮家へ移動を開始した。
光太郎、既に愉悦部にロックオンされておりました。
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