Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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主人公が重い宿命を背負っている作品は多々ありますが、個人としてはテッカマンブレードが印象強いですね。いや、特に登場させるわけでもないんですが・・・

今回も戦闘無し!18話です


第18話『敵の狙い』

間桐光太郎は新都にあるブティックの前で立ち尽くしていた。霊体化した彼のサーヴァントを連れた遠坂凛が店内の奥に消えて早30分…女性専門店の前で立ち続けることに若干の抵抗を感じている光太郎へ、出入りする女性客の視線が次々と注がれていた。

 

(やっぱり…付いて行くんじゃなかった)

 

身長180cmの男が店の前で突っ立っていれば嫌でも目にしてしまうだろう…と、光太郎は居た堪れない気持ちであったが、本人の思いとは違う意味での注目を浴びてしまっている。高身長で、顔も整っている男性を年頃の女性たちは見逃すはずがなく、中には光太郎へ声をかける事を押し付け合っている女子大生のグループまで出てくるほどだ。しかし、店から出てきた遠坂凛と光太郎と合流

した事で、興味を失った女性達はクモの子を散らすように離れて行った。

 

「お待たせ。いやぁ大変だったわ」

「…随分買い込んだね」

 

ご満悦である凛の両手には店のシンボルマークが描かれた袋が握られている。ここでの買い物が彼女の言う御礼になるのか…?と疑問に思う光太郎の思考は凛の後に店から出てきた彼女の姿を見て停止する。

 

「り、リン…私にこれほど服があっても」

「何言ってんのよ!せっかくいいスタイルしてんだから持て余すなんて勿体ないわよ?」

 

凛と同じように両手に袋を持って店から出てきたのはライダーだ。しかし、その姿は見慣れた戦闘装束ではなく、長袖の黒いセーターにジーンズと人間の服を身にまとっている。さらには両目を覆っていた眼帯を外し、眼鏡を着用。普段では決して見ることのなかったライダーの瞳がはっきりと目にする事が出来ている。

 

「……………」

「コウタロウ…これは、リンが…」

「どぉ?ライダーって手足が長くてピッタリのサイズが中々見つからなかったのよ。で、感想は?」

 

無言で目を丸くしている光太郎へ自分の姿を弁明するライダーだったが、笑顔の凛が割って入る。

 

「か、感想って…?」

「ほらあるでしょ?身近にいる人がいつもと違う恰好になったら、言いたいことが一つや二つ。それとも、何にも浮かばないとか…?」

 

凛に言われたから、という訳ではないが、改めてライダーの姿を見る。彼の視線に勘付いたのか、どこか恥ずかしそうに目を逸らしながら小声で尋ねてきた。

 

「やはり…私の背丈では、せっかくの服も」

「い、いや!別に変だとは決して考えないよ!むしろ…」

「むしろ…なにかしら?」

 

慌てて答えようとする光太郎を愉快に眺める凛は口を手で押さえながら2人のやりとりを楽しんでいる。先程別れた士郎より、『アイツは地の性格がちょっと…』とぼやいていた理由をようやく理解した光太郎だった。このニヤニヤと笑っている小悪魔が義妹である桜の実姉である事実を考えると、個性とは恐ろしいな…と心に思っても口には出せない光太郎は回答を待っているライダーへ顔を向ける。

 

「むしろ…なんでしょう?」

「あ…うん、ライダーが…」

「はい…」

「ライダーが…すごい美人だって事が改めて判った…」

 

公衆の前面であまりにもストレートな言葉であった。

 

何かまずいことを言ってしまったのだろうかと不安に思った光太郎は凛の方を見ると、からかっていたはずの彼女が逆に聞くんじゃ無かったと言いわんばかりに顔を赤くしている。どうやら光太郎の言葉は言った当人意外にもダメージがあったらしい。

 

「…こちらでの用事は済みましたし、セイバーのマスターがいる家へと向かいましょうか」

「あ、あぁ…?」

 

光太郎の感想を聞いたライダーはその場を後にして衛宮邸へと足を向けて歩き始めた。自分にとっては勇気を振り絞った言葉に対してあっさりとしたライダーの態度に少し寂しく思う光太郎だったが…

 

「ら、ライダー!前!!」

「ぶっ!?」

 

光太郎の忠告が間に合わず、歩く速度を落とさずに電柱へ顔を思い切りぶつけてしまうライダー。

 

「だ、大丈夫かライダー…?」

「は、はい…私の額はこれしきのことでは亀裂など走ることすら烏滸がましいので心配は入りません」

「ごめん、絶対大丈夫じゃない」

 

額を抑えて文法と思考が支離滅裂となったライダーはフラフラとした足取りで再び歩き始めた。光太郎の発言は思った以上にライダーに影響を与えたようである。

 

「…遠坂さん。ライダーの眼鏡って度は合ってる?」

「それはワザと言ってるのかしら?」

「いや、純粋な意味での質問さ。眼帯を外した状態のライダーが周囲を石化させないってことは…普通のものじゃないよね?」

「以外と鋭いところがあるようね…お察しの通り、あれは家にあったとっておきの品よ。それに普通の伊達眼鏡と変わらないから、視力がおかしくなるってことはないわ」

 

自分が居候している家主並に鈍感かと思った凛は真面目な顔で切り出した。

 

ライダーは石化の魔眼『キュベレイ』を宝具『自己封印・暗黒神殿』で常に封印している。そうしなければ自分の意思とは関係なく、彼女の視界に入るもの全てを石化してしまうからだ。

 

今ライダーが着用している眼鏡は、魔眼の力を封じることが出来る『魔眼殺し』と呼ばれる魔術品であり、一見は普通の眼鏡に過ぎないが、『自己封印・暗黒神殿』と同じようにライダーの目から発生する魔力を封じることが可能なのだ。過去、凛の父である遠坂時臣が市外に別荘を持とうとした際に出会ったとある設計士から購入したものであったが、遠坂に魔眼を持つ人間が現在も現れないため、持て余しているものだった。

 

「いいのかい?そんなものまでライダーに」

「いいのよ。ちゃんと御礼になっているみたいだしね。さっきの彼女を見る限り」

「ああ…」

 

普段ライダーは霊体化しているか、実体化してもあの戦闘装束の姿でしかない。以前、服装に関してファッション雑誌を持った桜が彼女にどのような服が好みか聞いた時は『自分には、似合いませんから』と興味を示さなかったが、学校でセイバーが甲冑から洋服の姿を見ていた時、どこか憧憬の眼差しで見ていた様子だった。口に出さないだけで、服装には憧れがあったのかもしれない。今回の買い物でライダーが楽しんでいてくれたなら…自分にとっても嬉しいことだ。

 

「ありがとう…こんな素敵な『御礼』を」

「あら、ちゃんと理解してくれてるんなら助かるわ。やっぱどこかの鈍感とは偉い違いね」

「あはは…」

 

なんとなく凛の指している人物像が浮かぶ光太郎は苦笑するしかなかった。

 

「それと最後に…」

「…?」

「今後は服の『中身』も期待していいわよ?」

 

含み笑いを浮かべる凛は手に持っている袋の中身をちらりと光太郎へ向ける。そこには様々な種類と色の下着が詰まっていた。

 

「……ッ!?」

 

顔を真っ赤にして後ずさる光太郎を見て、してやったりと満足顔の凛はライダーを追って行った。

 

「はぁ…衛宮君も苦労するな」

 

士郎と被害者の会を結成するのは近いかもしれない。そんな事を考えながら光太郎も後に続いた。

 

そしてライダーは衛宮家に到着するまでの間に電柱へ37回頭をぶつけたという…

 

 

「あらあら~珍しいお客ねぇ~」

 

衛宮家に到着した光太郎達を出迎えたのは、穂群原学園の英語教師、藤村大河女史であった。

 

「ふ、藤村先生…もうお帰りだったんですか?」

「うん!ほんとは学校のみんなと検査入院ってことだったんだけど、病院追い出されちゃったのだ!」

 

学校で眠らされた生徒教師全員は化学薬品を運んでいたトラックがドライバーの居眠り運転のため校舎へ衝突。その際に発生した薬品のガスによってその場にいた全員が昏倒した…ということになっている。

 

そしてこの教師は、病院へ担ぎ込まれた直後に目覚め、病人食を平らげた後に同じ病院へと搬送された生徒、職員達の様子を見る為に院内を駆けずりまわった結果、早期退院という形で追い出されてしまったらしい…

 

「ハハハ…相変わらずお元気そうですね、藤村先生」

「おぉ!そんな貴方は間桐君と桜ちゃんのお兄さん!弓道部合宿の時の差し入れ、ありがとうございます!」

 

義弟と義妹が所属する部活の顧問という間柄であり、顔見知りである光太郎はあの一件の後でも元気いっぱいである女性へ挨拶をする。

笑顔で返す大河の目に入ったのは高太郎の背後に立つ見知らぬ外国人の女性だ。それに気づいた光太郎は咄嗟に先程彼女と打ち合わせした経歴を紹介することにする。

 

「ああ、彼女はライダー。僕が通っている大学で同じゼミなんです」

「よろしくお願いします」

「ほほ~。家のセイバーちゃんといい、最近は変わった名前の外人さんが多いみたいね~。ともかく上がって上がって!」

 

大河に通され、衛宮家の居間へ移動した光太郎達は、不機嫌な顔で部屋の隅に座っている慎二であった。

 

「慎二君…どうしたの?」

「………」

 

無言の慎二を見て、これは相当機嫌が悪いなと察した光太郎に、台所にいたエプロン姿の桜が小声で説明した。

 

「実は…先程藤村先生に、今日はこちらで夕飯を食べていくように言われたんです」

「先生に?」

「はい…最初は断ったんですけど、その、藤村先生に押されてしまって…」

「やもなく了承した…ということですか」

「そうなんです…ってライダーさん!どうしたんですがその素敵な恰好!?」

「え…いや、これは…」

 

目を輝かせて言い寄る桜にあたふたするライダーを置いておいて、光太郎は家主の姿を探すが、急須と湯呑を人数分取り出した凛が行先を伝える。

 

「そういえば、衛宮君は?」

「…たぶん道場でしょうね。日課でセイバーと稽古してるみたいだから、そのうちこっちに来るわ。それまで寛ぎましょう?」

 

そうだねと、腰を下ろす光太郎達。学校からいままで、碌に休憩も取っていなかったので、これでようやく落ち着くことが出来る。

 

 

そして夕暮れ。間桐兄妹とライダー、衛宮士郎、遠坂凛、セイバー、藤村大河は食卓を囲んだ夕食は大河が騒ぎ、ずれた事を言う光太郎達へ慎二が終始叫ぶという内容で終えた。

大河は一足先に衛宮家を去った。学校は暫く休校という扱いだったが、別の病院に搬送された生徒や同僚の見舞いに行くために早めの帰宅するということだ。教師の鏡だと言った光太郎の意見に四者四様、複雑な顔をしていた理由は敢えて聞かずに本題を始める。

 

「さて、藤村先生が帰った事だし。話をしようか。『奴ら』に関して」

 

一同の視線は光太郎へと向けられた。ゆっくりと息を吐いて、光太郎は話を始める。自分の素性を表に出さないよう、暗黒結社ゴルゴムについて語った。途中で出た質問にも細心の注意を払い、慎二のフォローもあって自然で辻褄の合う内容で進行していった。

 

 

「………以上が俺達がしっているゴルゴムの情報だ」

「世界征服…ねぇ」

「話を聞くだけなら、あんまり実感がわかないけど…」

 

光太郎の話を聞いた凛も士郎も、学校で目にした怪人達の姿に納得さぜるえなかった。現実にゴルゴムは実在し、敵の狙いは自分たちが選んだ者以外を抹殺し、地球を我が物とする事…単純で、分かりやすい程の『悪』であった。

 

「そんで、ゴルゴムの怪人を倒して以来、因縁付けられて狙われることになった…と」

「そういう事。正直、迷惑以外何物でもないんだけどね」

 

疲れたように凛の質問に答えた光太郎。これは、士郎達へ付いた唯一の嘘だ。士郎達へ説明するべきではない。という以上に、光太郎が知って欲しくない事実であったからだ。それを理解しているからこそ、注釈していた慎二も、黙って聞いていた桜も何も言わずに光太郎の説明を見守っていた。

 

「それでは、私の剣を手に入れようとしているのは…」

「恐らく君の正体…というより、セイバーの剣の力を知った上でだろうね…ビルゲニアはゴルゴムの中でも、異常なほど力に固執してる」

「………」

 

セイバーの疑問に答える光太郎の口から出たビルゲニアの名に、士郎は周囲に悟られぬ用に歯噛みする。もしまた現れたのなら、今度は遅れを取らないようにここにいるみんなで対策を練れると思った矢先、凛の一言に思わず顔を上げてしまった。

 

「わかったわ。それじゃ、また奴らが現れたのならそっちに全部任せて大丈夫なのね?」

「ああ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ遠坂!」

 

慌てて立ち上がった士郎は凛と光太郎のあっさりした会話に待ったとかけた。

 

「今の話を聞いてなかったのか?ゴルゴムの連中は俺達人間の敵なんだ!光太郎さん一人で戦うなんて…」

「あんたこそ、話を聞いていたの?この場を設けたのはあくまでセイバーを狙った連中の正体を知る為。それに、今の私達には関係のない戦いよ」

「なっ…!?」

 

座ったまま瞳だけを士郎に向け、凛は話を続ける。

 

「確かに話を聞く限りゴルゴムは人類にとって天敵ね。けど、それを知ったからって私達に何が出来るの?」

「何って…光太郎さんだけじゃなく、俺達も手助けすれば…」

「そこから既におかしいのよ士郎。今、私達は聖杯戦争中ってこと忘れている訳じゃないわよね?」

「……………」

「士郎の事だから光太郎さんとサーヴァントの力が合わされば、なるほどね。今日見たいに追い払う事は出来る。けど、あんたのサーヴァントであるセイバーとライダーはともかく、あのバーサーカーがこちらの希望通りに力を貸してくれると思ってる?」

「それは…」

 

士郎には言い返せなかった。あの白い少女はこちらの都合などお構いなしに巨人へ士郎達を殺すように命令するだろう。

 

「他のサーヴァントなんて…言うまでもないわね。それに聖杯戦争だって何時までも続かない。セイバーやアーチャーだって戦いが終わればこの時代から元の場所へ戻る。そうなったら私達は以前の生活、私とアンタはただの魔術師に戻る。先の分からないゴルゴムとの戦いなんて、無謀にも程があるわ」

「シロウ…厳しいようですが、リンの言う通りです。あれは一介の魔術師が…士郎のようについ最近戦うようになった人間が太刀打ち出来る相手ではありません」

「セイバー…けど、俺は」

 

自身のサーヴァントさえからも告げられる現実。確かに凛やセイバーの言う通り、怪人達に立ち向かう力を半人前の自分では持ち合わせていない。けど、だからと言って光太郎一人に全てを委ねてしまってもいいのか?拳を強く握る自分の肩を、光太郎の手が優しく包んだ。

 

「衛宮君。ゴルゴムとの戦いは、俺自身が始めたことなんだ。だから、俺が決着を付けなければならない」

「光太郎さん…」

「気持ちは嬉しい。けど、衛宮君がすべき事はゴルゴムとの戦いではないだろう?衛宮君は、衛宮君の戦いを続けてくれ」

 

光太郎の言葉に士郎は今度こそ言葉を失い、自分の手の甲にある令呪を見つめることしかできなかった。

 

「…話が終わったんなら僕らは帰るよ。いいな桜」

「は、はい。今準備します」

 

立ち上がって玄関に向かう慎二に促された桜は付けたままであったエプロンを定位置に戻してパタパタ追っていく。

 

「…それじゃあ俺達も行くよ。ライダー」

「はい」

 

光太郎もライダーを連れて玄関に向かった。やがて足音も聞こえなくなり、立ち尽くしていた士郎は急ぎ居間を飛び出して玄関に向かった。

 

「…光太郎さん!」

 

靴を履き、義弟達と肩を並べて外へ向かっていた光太郎は士郎に呼び止められゆっくりと顔を向ける。

 

「どうして…そうまでして戦えるんですか?」

 

あまりにも大きく、邪悪な敵に光太郎は今まで一人で戦っている。それでも戦い続けるが戦い続けられる理由。それを士郎はどうしても知りたかった。

 

光太郎は、笑顔で答える。

 

「守りたくて、失いたくないものがある。それだけさ」

 

そう言って。手を並んでいた義弟と義妹の頭に乗せた光太郎だった。

 

 

 

 

 

「どう思う?アーチャー」

 

凛は光太郎達が去った後、外で見張りをしていた自分のサーヴァントへと意見を求めた。

 

「筋の通った説明だったけど、それならなんで慎二が言うことにいちいち目くじらたてたり、桜がちらちら私たちの様子を見てたか、分からないのよね」

 

あの説明中、事情を最初から知っているはずの2人が光太郎の話を気にするのは気になっていた凛はその場にいなかったアーチャーへ状況を説明する。

 

「さて、私としてはもっと別の部分が気になっていたのだがね」

「気にって…なによ?」

「そもそもだ。間桐の家には間桐桜という立派な才能の持ち主がいるのに関わらず」

 

 

「なぜ、魔術師でもない間桐光太郎が、守る対象である人間を殺さなければならない聖杯戦争に参加しているということにだ」

 




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