Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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しばらくはこの長さで行きたい、22話をどうぞ!


第22話『彼の記憶―接触―』

アスファルトで倒れている光太郎は、自分に近づく老人を見た。背は低く、今時珍しい和服を纏っている。深く刻まれている皺だらけの顔に不似合いのギョロリとした目で光太郎を観察している。常人であれば驚き、逃げ出すような容姿であったが、光太郎は臆することなく、老人の視線に堪えている。自分の顔に何かが付いているのであろうか?程度にしか思えないようだ。

 

老人――間桐臓硯は光太郎が自身で付けた傷が直ぐに治癒したことに興味を抱いた。確か聖堂教会の埋葬機関に同じような輩がいた事を思い出しながら、先程光太郎が自分の下腹部を傷つけた瞬間に僅かながらとてつもない力が流れたことを感じ取っていた。

 

「ふむ・・・どうやらあの小僧の中にその『何か』があるようじゃな」

 

500年もの長い時間を生き抜いた臓硯の直感は伊達ではない。力の源を見抜いた臓硯は空いている左腕をゆっくりと上げる。

 

「傷を付けてもすぐに閉じてしまうのなら」

 

臓硯の指先からが次第に割れていき、ボロボロと落ちていくと同時に、その肉片は何匹もの羽虫に姿を変えた。

 

「食い尽くして中身を確認すればよい」

 

ニヤリと笑う臓硯が杖を一度床をつつくと同時に、無数の蟲が光太郎の血肉を食らうべく群がっていった。しかし、臓硯にとって予想外のことが起きる。

 

光太郎に蟲の一匹が鋭い牙を突き立てようとした瞬間、光太郎の腹部が赤く、激しい光を放ったのだ。その閃光を浴びた多くの蟲は燃え上がり、灰がパラパラと光太郎の周りに舞い落ちる。

 

「ぬぅ・・・」

 

あまりの眩しさに手で光を遮る蔵硯は、間逃れた蟲を自分に呼び戻し、密度を高める。段々と光は弱くなり、そこには相変わらず仰向けで倒れている光太郎の姿があった。

 

「……………」

 

先程『食事』を取ったばかりであることもあり、左腕そのものが消える事はなかった蔵硯は警戒しながら少年を見つめる。老人は、自分の蟲を跳ね除けた事に関しては物ともしなかった。

それが目の前にいる者が年端もいかない子供であってもだ。自分に抗うだけの力を持っている…ただそれだけのことだと納得した蔵硯は光太郎の放った力に関して自分の知るあらゆる分野で分析を始めていたが、少年の言葉を聞いた途端にその思考は凍りつく。

 

「おじいさんも…ゴルゴムなの?」

「…なんじゃと?」

 

光太郎は明確に老人が『驚いている』顔をしているのが見えた。明かりがほとんど届かない裏路地においても、光太郎の強化された視力は、相手の表情がはっきりと見分けらている。

 

(あれ…?違ったのかな)

 

ゴルゴムの名を口にして、驚いた老人はすぐに無表情…いや、何か考えているように光太郎には見えた。自分を攻撃してきたのだから、てっきりゴルゴムの手先ではと思ったからだ。それでは、なぜ自分に向けてあんな虫を飛ばしたのだろう…と光太郎が疑問に思っている間に蔵硯は懐から何かを取り出す。見ると携帯電話であった。慣れた手つきでボタンを操作する老人は携帯電話を耳に当て、誰かと会話を始める。

 

「儂じゃ…鶴野よ。今から言う所に車で来い。そしてそこにおる小僧を家に連れ帰れ。よいな」

 

それだけ伝えると相手の返事などお構いなしに携帯を再び収納する。

 

「……」

 

老人は光太郎を一瞥すると裏路地の奥へと消えていった。どうやら自分に興味を抱いた様子だったが、言葉を聞く限り気が済めば始末するのだろうか…それならそれでいいかもしれない。しかし、そう簡単に死ねるのだろうかなどと、年齢にそぐわない、どこか達観してしまった光太郎には自分の命が危ないという危機感が、欠けてしまっていた。

 

もし死ねるならどのようは方法だろうと自分が殺される状況を思い浮かべている間に車のブレーキをかける音が聞こえた。やって来たのはずいぶんと柄の悪い男だった。

 

「こいつかよ…クソ、あの妖怪爺!俺を召使いと勘違いしやがって…」

 

悪態を付ながらも光太郎を持ち上げ、後部座席に放り込んだ男はすぐにエンジンをかけて車を発進させた。

 

(あのお爺さん…そんなに怖いのかな)

 

乱暴に扱われている自分よりも、車を運転する男と老人の力関係が気になる光太郎の思考に、不謹慎と思いながらも、ライダーはその光景を見て笑ってしまった。

 

(そういう所は、相変わらずなんですね)

 

 

間桐家に到着した男…間桐鶴野は動けない光太郎を担ぎ、空き室のベットへ乱暴に放り投げる。掃除が行き届いてないのか、光太郎がベットに接触した途端に埃が辺りに舞い散った。

 

「ちっ…親父もこんな薄汚ないガキを拾うなんて何考えてやがる。おい、この家の中を勝手に出歩くんじゃないぞ!」

 

言うと同時に鶴野は車で移動中に立ち寄ったコンビニで購入した水・パンといった食料を袋ごと光太郎と同じように床に放ると乱暴に扉を閉めていった。

 

「…ベットなんて、久しぶりだな」

 

この半年間、まともな寝床を確保出来なかった光太郎にとっては、埃まみれのベットすらありがたい待遇であった。食事に関しても同様だったが、今は指一本動かせない。それも少し眠れたら回復するだろうか。そう考えながら光太郎は久しぶりに熟睡することが出来た。

 

翌日

 

目を覚ました光太郎は鶴野が用意した食事を摂取するために神経を研ぎ澄ましていた。

 

「そーっと、そーっと……」

 

未だ力加減が上手くいかない光太郎にとって、食品の袋を破る・ペットボトルの蓋を開ける行為すら、砂で作った城を崩さずに移動させる並に困難な作業であった。

 

「あ」

 

おにぎりのビニールを裂こうと摘まむ指に集中するあまり、逆の手で掴んでいたおにぎりそのものを握り潰し、米や海苔、そして梅干しが手のひらにこびりついてしまった。

 

「…ッ!!」

 

手のひらに広がった赤い梅干しを『何か』と連想してしまった光太郎は床で手を拭い、開封に成功していたペットボトルの水を一気に飲み干す。半年以上の時間が経過しても、養父が惨殺された光景が…特に血や赤に近い物を見てしまうとフラッシュバックしてしまっていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

呼吸を整えようとする光太郎の耳が、誰かの足音を捉える。歩き方からして、自分をこの部屋まで運んだ男のようだ。そして推測通り、鶴野がノックなしでドアを開けると蔑む眼差しで光太郎を見下ろし、顎で部屋から出るように指示を送る。

 

「親父が呼んでいる」

 

 

光太郎は言われるままに鶴野の後に付いていき、一室の扉の前に到着した。

 

「親父、連れてきたぞ」

「入れ・・・」

 

今度はノックをして入室の許可を得る鶴野。臓硯の低い声を確認し、ゆっくりと扉を開くと、日中だと言うのに蝋燭一本しか室内を照らす明かりのない部屋の奥に彼はいた。昨夜と違い、臓硯は興味深そうに入室する光太郎を見つめていた。部屋の扉が閉まってから、後ろに立つ鶴野が妙にソワソワしていることに気付いた光太郎はその原因であろう室内のあちこちに潜む存在を強化された視力と聴力で確認する。

 

(こんなにたくさんいたら、落ち着かないよね)

 

家具の上や隙間、物陰をゴソゴソと蠢く『蟲』。昨日のように飛ぶタイプではないようだが、それでも常人にとっては不気味なことには変わりはない。

 

「さて、これから儂のする質問に答えてもらおう。なに、一宿一飯の恩を返すと思えば安いものじゃろう」

「まぁ、確かに・・・」

 

それで納得してしまうのですねと、先程から見えるようで視界に入らない蟲に怯えながらライダーは事の成り行きを見守っている。

 

「昨晩、小僧は儂を見て、ゴルゴムと言ったな。それについて詳しく聞かせてもらおう」

「・・・知ってることは少ないよ」

「かまわん」

 

もしかしたらこの老人はあいつらに関して何かを知っているかもしれない。そう考えた光太郎はあの日、親友と共に拉致された日からの出来事を語り始めた。

 

後ろにいる鶴野は非現実的な話に呆れ顔になっていた。当然だろう。話している光太郎ですら空想話であると言えばまだ納得する内容だ。しかし、目の前で座っている老人は違った。最初こそは笑っていたが、話が進むに連れて険しい表情となり、創世王の名が出だ際には一瞬だったが、目を見開いていた。

 

「・・・儂ですらその名しか知らん奴らが、まさか実在しこの国に潜伏しておったとはな・・・」

 

話が終わり、クックックと笑いながら肩を震わす臓硯は思わぬ提案を光太郎に持ちかけた。

 

「光太郎といったな。貴様の身、この家で預かる」

「じょ、冗談じゃないぞ親父!!」

 

光太郎よりも早く反応した鶴野は強く反対する。

 

「俺は嫌だぞ!このガキが話すことが事実だったとしたら危ないのはこっちじゃないか!?」

 

当然の話だ。いつ自分を狙ってゴルゴムの手先が来るかわからない。しかも光太郎自身が連中と同じく怪人に変わってしまうのだ。鶴野が抱く恐怖も真っ当であったが、彼にとっては臓硯こそが最も恐怖する存在のようだ。

 

「・・・儂の決定に逆らうのか?」

「ぐっ・・・な、ならずっと『蟲蔵』に閉じ込めておくんだろ!?は、ハハハ!!それがいい!化け物同士お似合いじゃないか!!!」

「・・・遠坂の娘と同じく養子とする。戸籍の準備をしろ。今すぐにだ・・・」

 

臓硯が言うと同時にに部屋中にいる蟲が一斉に動き出しす。身がすくんだ鶴野は悲鳴を上げながら部屋を飛び出していった。

 

「・・・あの人、虫が苦手なんですか?」

「まぁの。出来の悪く、吠えることしか能のない息子じゃ」

 

言う割は鶴野の挙動を面白そうに見ていたこの老人も変わった人だというのが光太郎の印象であった。

 

「して、どうする?この家の人間となるのか?」

「・・・・・・・いいんですか?昨日みたいに燃やしてしまうかもしれませんよ?」

 

先程の話を聞いていた様子から、この老人が同情して迎え入れるとは思えない。なら、この老人は…自分を利用するつもりなのだろう。ならこの家に入れた事も、養子に関しても辻褄が合う。理由までは推測出来ないため、昨晩の出来事を持ちかけてみたが、老人の方が上手であった。

 

「儂を殺すのなら少々火力が不足しておるよ。それに、ああなると分かっておればやり方など何十もあるわい」

 

ニヤリと殺し文句を言う笑う老人に観念した光太郎は、条件を受け入れることにした。臓硯の言葉に乗せられた、というより逃亡生活に疲れた方が強い。しばらくして体も精神も万全になったら逃げればいい。そうすれば逃げ出した男や?この老人に迷惑がかかることはないだろう。

 

「…わかりました。よろしくお願いします。『お爺さん』」

「歓迎するぞ。『間桐光太郎』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は同じく養子となるあの子との初対面です。

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