ちょいと都合により週末以降、投稿できるかわからない状況となりましたので、昨日続いてもう一本ん!の23話です
間桐光太郎となった少年の生活が始まった。
彼を養子として迎え入れた間桐家の主、臓硯は彼に2つの決まり事を約束させた。
一つは学校に通うこと。
人でなくなり、社会との関わりを絶っていた光太郎に最寄の学校へ転校することとなった。秋月家は世間では行方不明扱いとなっていたので、最初から『間桐光太郎』として各地を転々としていたというおまけ付きである。そこまで偽造された過去を用意できるとは、あの養父に当たる人物もすごいなと光太郎は鶴野に初めて感心した。
もう一つは週に一度、間桐家が懇意にしている診療所で体の調査を行うこと。
内容はレントゲン、血液検査など変わったものはなく、既に臓硯から事前に医者へ話が通っているらしく、異様な結果がでても、検査は黙々と進んでいった。
光太郎は何一つ反対せずに条件に従い、ひたすら日々を送り始めていた。
そして転校から数か月後、光太郎クラスで孤立していた。
当初は転校生ということでクラス大半から興味をもたれていたが、聞かれたことに短い返答しかせず、加えて無表情で答えることにクラスメイトが気まずくなり、距離を置かれてしまった。
そして元より成績が優秀で飲み込みが早い光太郎は瞬く間に学校でトップクラスの成績を収め、教師陣から注目を浴びていたが、それが気に食わない一部の心無い生徒達の苛めに合ってしまう。
どのような目に合っても動じない光太郎に対する行為は段々とエスカレートし、廃棄された木材で叩かれるまでに至った。
しかしここで事件が起きる。木材で体を打たれても表情一つ変えない光太郎に怯え始めた生徒達の一人が光太郎の顔面を狙ってしまった。光太郎の顔に当たった木材は真っ二つに折れ、跳ね返った木材は生徒の肩を掠めて傷を負ってしまう。掠めたところから血が滲み出ていることを確認した光太郎は大丈夫かと声をかけるが、顔を叩かれても傷一つ負っていない姿を見て、生徒達は逃げ出してしまった。
間桐は化け物。
この噂は一日と持たず広がり、光太郎へ自分から接触を図るのは教師しかいなくなっていた。
(痛がる振りしとけば良かったかな)
この件で光太郎が考えた反省点はそこだった。
養父…秋月総一郎に言われ何度も試している身体能力の低下。改造された光太郎にはかつての肉体はない。無駄に頑丈になってしまった体と常識を無視した怪力。
それを抑えるには改造される前の感覚を思い出すように脳から命令させるというのが総一郎の教えだったが、一向に上手くいかない。おかげで給食のとき、食器を破損させないように眉間に皺を寄せてまで集中している様子を見たクラスメートが怖がり、溝がさらに広まってしまった。
「どうすればいいかな?信彦…」
返事はないと分かっていながらも思わずいなくなった親友の名を呼びながら夕暮れの道を進み、家路へと着いていた。
間桐家の門を潜った光太郎の目に入ったのは見慣れない人物達が鶴野と庭で話している光景だった。後姿しかみえないが、恐らく父親と娘なのだろう。
父親は高級感漂うスーツを纏い、鶴野と会話している。隣に立つ黒髪の少女もどこかのお嬢様とも思える可愛らしい洋服を纏い、小さな手で父親の服を掴んでいる。空いている手で持っているのは、リボンだろうか…?
会話が終わると父親らしき人物は娘の背をそっと押し、少女もそれに従って進んでいく。少女が鶴野の隣に移動したことを確認した父親は振り返り、そのまま光太郎のいる門に向かい歩いてくる。
すれ違いざまにペコリと頭を下げた光太郎に対して、父親は柔らかい笑みを返して間桐家を後にした。涙目で自分を見つめる娘を気に留めず。
光太郎が彼を遠坂家当主、遠坂時臣と知るのは、もう少し後の事であっ。
「養子?あの女の子が…」
「そうじゃ。昔からの契約でな。今日から光太郎の妹ということになる」
「あと、慎二君にとってもですよね。海外にいるって言う…」
「いたのぅ。そんなのも」
学校帰りに寄っていた診療所から受け取った今週の診断結果を記した一覧を臓硯に届けた光太郎は名前でしか知らない、年齢的に義弟に当たる人物の名をだした。
しかし老眼鏡をかけている臓硯は慎二の名前を耳にしても気にも留めず資料を読み返している。
(家族に対して、それは…)
不満に思っても口には出せない光太郎は蔵硯の部屋を後にし、食堂に向かった。食卓を見ると人数分の食事がトレイに乗せられて用意されている。
「そういえば、お手伝いさんの姿ってほとんど見ないな…」
間桐家では使用人を雇っているが、住み込みで働く人間はいない。炊事や洗濯などは住人が外出している間…それも日中に済ましてはすぐこの家を離れているようだ。昔から間桐家に良くない噂が広まっており、そこで働いているとなると世間体に響くらしいのだが報酬が魅力的であるため、辞める人間はいない。
「ここで働くのがバレるのは嫌だけどお金は欲しい…大人って大変だな」
そんな感想を漏らす光太郎の目に、他と比べ量が少なく、デザートにウサギに見立ててカットされているリンゴの乗ったトレイが目に入る。
「あ、今日からあの子の分も用意してくれたんだ…」
それでも仕事をきっちりこなしている仕事ぶりに感服した光太郎は、握りつぶさないようにトレイを手にするとある一室に向かった。
(部屋に入ったまま出てきてない…当然だよな。親と離れたばかりだし)
自分の妹となった少女の部屋に向かう光太郎は、その心境を少なからずとも理解しているつもりだった。すでに親がいなくなっている自分と違い、家族が生きているのに引き離された悲しみは、計り知れないだろう。その証拠に、部屋に近づく度に少女が泣いている声が自分の強化された耳に届いていた。
部屋の前まで来た光太郎はノックしようと手を扉に翳すが、加減を間違えて穴を開けてはまずいと考え、声をかけることにした。
「…ちょっといいかな?食事を持ってきたんだけど」
「は、はい!」
慌てた幼い声が返ってきた。パタパタと駆け足で移動し、扉を開けた黒髪の少女は涙を拭ったばかりなのだろうか。目元が真っ赤に腫れている。
「…これ、今日の食事。食べ終わったら廊下に置いてくれればいいよ」
「は、はい!ごめんなさい…」
「?」
なぜこの子は謝るんだろう?と疑問に思った光太郎は視線を合わせるべく少し屈み、理由を少女へと尋ねた。
「どうして、謝るの?」
「えっ!?あ、え…だって…」
少女は益々混乱しているようだ。光太郎は落ち着かせるべく静かな声を少女に向ける。
「あ、あの…お兄さんが…こ、怖い顔してたから…」
「…え?」
予想外の答えだった。特に意識していなかったとはいえ、少女に怯えられるほどの顔つきなのだろうか?試しに少女の部屋の入口付近に設置された鏡で自分を見る。
(誰だ…コイツ?)
確かに自分の顔だ。だが、本当に自分なのだろうかと思えるほど、狼狽えている心と表情が一致していない。まるで自分の顔に似せて作った能面のような顔に見えていた。
自分でも驚くほどだ。これでは目の前の少女が怖がるのは仕方がない。
「…ごめん。怒っている訳じゃないんだ」
「え…?」
「なんて言ったらいいかな…僕、ちょっと顔が動かなくなっちゃったんだ。だから、君の事を怒っているんじゃないんだよ?」
「ほぇ…?」
ポカンと口を開ける少女の反応に光太郎は無理矢理過ぎたか?と次の言い訳を考えて始めていたが、少女の言葉が逆に光太郎を混乱させてしまった。
「魔術で…失敗したんですか?」
「え?魔術…?」
聞き覚えのない言葉に思わず反復する光太郎。これでは埒が明かないと考えた光太郎は無理矢理話題を変えることにした。
「…そういえばまだ名前を聞いていなかったね。僕は光太郎…君の、お兄さんになるのかな?」
「私、とお…間桐、桜です」
「桜ちゃん…か。よろしくね」
「はい…」
元気のない返事が気にはなったが、光太郎はトレイを桜に手渡して部屋を後にした。
扉を閉め、自室に戻る光太郎の耳には、彼女の声が確かに届いた。
『会いたいよ、お姉ちゃん』と
2人の会話を見ていたライダーは現在での差に驚いていた。今では笑顔で会話する2人が最初はここまでぎこちない会話から始まったとは思いもしなかったからだ。
「いえ…だからこそ、今の関係に至っているのかもしれませんね」
場面は切り替わる。
光太郎は自室の中央に立ち、日課となった訓練を開始する。目を閉じて集中すると光太郎の腹部から赤い光を放ち、彼は瞬く間にバッタ怪人へと姿を変えた。
当初はコントロールが上手くいかず、自分の意思に反して変わってしまう時期もあったが、人前に出る機会が多くなった今、騒ぎを起こさないために姿を自在に変えられる訓練を繰り返していた。
「…変わる時間だけはドンドン早くなってるのにな。力加減は出来ないのに」
溜息をついてバッタ怪人のままベットへと腰を下ろす。そのまま机の上にある鏡で今の自分の姿を見て、木材で殴り掛かってきた生徒たちの顔を思い出した。あの、怯えきった多くの顔を。
(なんだ…この姿に変わっても変わらなくても、一緒じゃないか)
人間の姿と違い、表情が何一つ変えようのない今の顔を片手で覆う。力の加減できず、周りの人間を無駄に怖がらせてしまう。それだけじゃない。さっきの少女…桜に言われるまで自分が笑う事すら出来なくなっている事に気付かなかった。光太郎は今の自分が改めてゴルゴムの連中と同じく『化け物』であると自覚するしかなかった。
「オイこうたろ…ヒぃッ!?」
「…何か、用ですか」
「そ、それより、それ!俺の前では人間でいろって言っただろうが!!」
「あ、すみません」
またもノック無しで入室した鶴野は光太郎の姿に怯えながら指示をだす。光太郎が元の姿に戻ったことを確認した鶴野は呼吸を荒くしながら本来の目的を告げた。
「桜がどこに行ったか知らないか?部屋にいやしねぇ…」
「桜ちゃんが…?」
「そうだ!もしいなくなったことがバレたら親父に何を言われるか…」
桜よりも自分の身を案ずる鶴野など目にくれず、光太郎は時計を見る。時刻は夜の8時を過ぎていた。
「お、おい光太郎!!何やっている!?」
上着を持った光太郎は鶴野の制止に構わず、全開にした窓から飛び降りて行った。
(もしかしたら…前の家に帰るつもりなのか?)
電柱の上を飛びまわりながら桜の姿を探す光太郎。こういう時は、便利な体であるなと考えながら感覚を研ぎ澄ませる。
辺りはもう暗く、街灯しか道を照らすものはない。家までの道のりを知っているとしても、危険すぎる。最近隣町では一家惨殺の事件が相次いでいる事を思い出した光太郎は焦りながら耳に、目に力を集中させた。
いた。
辺りを見渡しながら道を進む少女。片手には昼間見たようにリボンを握りしめ、恐る恐る歩いている。
良かったと安心した光太郎は桜に気付かれないよう近くの電柱からアスファルトへ着地し、声をかけようとするが――
「桜ちゃ―――」
「えっ?」
振り向いた途端に桜を強い光が照らす。大型トラックが桜に迫っていたのだ。このような時間帯に人が通行していないと思ったのか、速度を緩めずにトラックは走行していた。
動転している桜に動く気配はない。このままでは最悪の事態になると考えた光太郎はすぐに行動を開始した。
アスファルトに足がめり込むまで強く踏み込み、地を蹴ると同時に人間からバッタ怪人へと姿を変えた。光太郎はすぐにトラックと桜の間に入ることに成功する。
周囲に響く衝突音。
トラックに轢かれたと思った桜は、いつまでも痛みがないことが不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。最初に目に映ったのはバッタの顔。そのバッタは自分の体を『優しく』抱き上げ、片手でトラックの動きを止めていた。受け止めたというより、手をめり込ませて動きを無理矢理止めている状態だ。
「…桜ちゃん。大丈夫?」
「は、はい…」
聞き覚えのある声に、桜は反射的に返事をした。
「運転手は…気を失ってるね。人が来ないうちに離れよう。桜ちゃん、舌をかまないようにね」
両手で桜を抱き上げた光太郎は再び電柱を足場にしてその場を後にした。
公園のベンチに座っている桜の隣に座り、自販機で購入したホットココアを手渡した光太郎は、ベンチのパイプ部分を握ってみる。
(少し強めに握っているのに形が変わらないし、壊れない…それに『固い』感じがする)
まるで改造される前に戻ったかのように…桜を救出したあの土壇場で、力の制御が成功したのだろうかと自己分析する光太郎に桜が声をかけた。
「あの…さっきの恰好ですけど」
「ああ。隠すつもりはなかったんだけど。怖かったよね…」
「えっと、怖いの、忘れてました」
「忘れた…?」
「お車が急に来たり、空を飛んだりしてビックリばっかりだったから…怖がるの、忘れてました」
状況を見たら確かに怖がる暇がないほどの出来事が立て続けに起こってしまった。しかし、桜の言い方が、どうにも光太郎のツボにハマったらしい。
「ぷっ…ハハハ!忘れてた、かそりゃ仕方ないよね」
「わ、笑わないでぇ!」
「ごめんごめん、え…?」
桜に言われてふと気づいた。今、自分は『笑えた』。こんなにも、簡単に。
ベンチの傍らに立ちながら2人を見守るライダーは光太郎が抱いていた自身の問題があっさり解決した理由を笑いながら呟いていた。
「コウタロウ…家族と自分を失ったショックで一時は心を閉ざしたのでしょう。けど、貴方はそれでも心を失うことはなかった。そして感情が表に出なかったのは、単に貴方が人と触れ合おうとしなかっただけなのですから」
何時狙われてもおかしくないと考えた光太郎は自分との接点を持たせないため、周囲に壁を作っていた。その為無意識的に自分の感情を殺し、何が起きても表情を変えずに生活してきたのだろう。
だから部屋で話した時、自分の顔が怖いと桜がはっきり伝えてくれなければ、気付くこともなかった。
滑稽な話だった。迷惑をかけまいと行っていたことが逆に周囲に不信感を振りまいていたのだから。それに光太郎が気付くのは、もう少し先の話だ。
「そうだ桜ちゃん。どうして家を勝手に出てったの?」
「…最後にもう1回、お母さんとお姉ちゃんを見たくて…」
「…最後に?」
頷く桜に光太郎は、自分の考えが検討違いであったと理解した。家の決まりで家族と離れる事となった桜。部屋から聞こえた言葉は本心だろう。しかし、それでも逃げ出す訳では無かった。
この時の光太郎は知らないが、彼女は魔術師の家に生まれた娘としての道を全うしようとしている。幼いながらもその強さに光太郎は心を強く打たれた。
「でもね桜ちゃん。勝手に家を出ることは許されることじゃないよ」
「はい…」
「だからさ、今度は僕と一緒にここいらを散歩しようよ」
「…え?」
「散歩中に『偶然』会ったなら、仕方ないよね?」
今度は自分から優しく微笑む光太郎につられて、初めて笑顔を見せる桜は光太郎を見上げた。
「本当に…本当に一緒に来てくれるの?」
「ああ、約束だよ」
「ありがとう、『お兄ちゃん』!」
(あ…)
初めて兄と呼んでくれた桜の姿に、光太郎は違う誰かを重ねてしまった。
『光太郎お兄ちゃん!』
もう会う事が出来ないもう一人の妹に。
「お兄ちゃん、どこか痛いの?」
「え…どうして?」
先程の笑顔と違い、心配そうに自分を見る今の妹の言葉に光太郎は驚く。
「だって…お兄ちゃん、泣いてるよ」
「…っ」
頬に触れる。すると、自分が大粒の涙を流していることに初めて気付いた。
「あ、ハハハ。お、かしいね。どうして…どう…してッ…」
限界だった。光太郎は両目を抑えて、声を上げないように静かに泣き始めた。家族を失ったあの日から、ようやく心許せる存在が現れた事への歓喜か、家族の死を再び思い出したのか。
理由は分からない。光太郎は自分の頭を撫でてくれる優しい少女の傍らで、暫く泣き続けた。
光太郎と桜は手を繋いで家に向かっていた。自分の手を強く握る妹に、光太郎は優しく、握り返した。
(一緒にいたら巻き込むかもしれない…だったら…今度こそ守んなきゃ。僕は…『俺』は、この子の兄なんだから)
新しい家族を守るために決意した光太郎の目は、以前のような絶望に染まったものではなく、ライダーの知る強さを秘めた瞳となっていた。
次回はお待ちかね(?)義弟との馴れ初めの内容でお送りします。
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