そんな短めな24話でございます
帰宅した光太郎と桜を待っていたのは、鶴野の罵声であった。自分に恥をかかせる気か、自分が父に何かされたらどうするなど我が身可愛さの八つ当たりであり、光太郎が知っている心配した上でのお説教とは程遠いものであった。
光太郎は自分の後に隠れて怯える桜を早く解放するために一番手っ取り早い方法…バッタ怪人となってこの男を黙らせようとした、以外な人物の乱入があった。
「夜に騒がしい…何事じゃ?」
「お、親父!?聞いてくれよ!2人が勝手に外に出てこんな時間に…」
「戻っているなら問題あるまい…光太郎。桜を休ませておけ」
「なっ!?」
鶴野は階段の上から見下ろしている蔵硯に桜が…そしてなぜか彼女を探しに言った光太郎までが,さも無断外出したかのように言いつけようとしていたが、呆気なく不問された事に声を荒げてしまう。
「…桜ちゃん。もう遅いから、寝ようか」
「は、はい…」
養父の混乱に乗じて光太郎は桜の手を引き、階段を上り始める。我に返った鶴野の声が聞こえるが、光太郎は無視して部屋へと直行する。
「なんのつもりだよ親父!あいつら、拾われた分際で勝手に…」
「…儂は言ったぞ。戻っておるのなら問題はないと」
「ぐっ…なんなんだよ!らしくない真似しやがって!!」
そう言って逃げるように去っていく鶴野など目にくれず、蔵硯は部屋に向かった光太郎と桜を見て口を歪ませていた。
一週間後
約束通りに光太郎は桜と遠坂家付近を散歩という名目で歩き回り、ついに目的とした人物たちを発見することが出来た。
「あの人たち?」
「うん…」
そこは街にある静かな公園だった。桜と同じく黒い髪を二つに分けて結んでいる活発そうな少女が砂場で遊んでおり、その姿を優しく見守っている母親らしき人物…桜の姉と母親であった。
桜の要望もあり、光太郎達は2人に気付かれない位置から様子を伺っている。発見してからどれほどの時間が経ったかは分からないが、現在の距離以上近づこうとしない桜に光太郎は問いかけた。
「…いいの?『偶然会う』ことも出来るよ?」
「うん…本当は会いたい。でも、約束したから…頑張るって」
そう言って昨晩からずっと持ち歩いているリボンをポケットから取り出す桜。本当は泣きながら2人の元へ走って行きたい衝動を抑えながらも耐え忍ぶ少女の姿に、光太郎は静かに尋ねた。
「そのリボン、大事なモノ?」
「うん…貰ったの。お守りの代わりに」
「だったら…」
「あっ…」
桜の手のひらにあったリボンを取る光太郎。取り上げられたと思った桜は涙目になってしまうが、直後に光太郎が髪を弄り始めた事に驚き思わず目を瞑ってしまう。
「ポケットに入れたままじゃなくて、こうして身につけなきゃ」
「…わぁ」
義兄が起こした突然の行動の理由を理解した桜。光太郎は桜が肌身離さず持っていたリボンを髪で結び、先日持たされた携帯電話で撮影した画像を見せる。
先程の泣きそうな顔とは一変し、笑顔となった桜は嬉しそうに光太郎へ嬉しそうに伝えた。
「ありがとうお兄ちゃん!わたし、ずっと、ずっとこうしてる!!」
笑顔の桜を微笑み返しながら頭を撫でる光太郎。それからまた暫く公園で遊ぶ姉の姿を見つめていた桜は、光太郎の手を引き、公園の出口へと向かい始めた。
「…もう、いいの?」
「うん、もう…大丈夫」
「また、いつでも付き合うからね」
「うん…」
短く答える妹に連れられ、光太郎も後に続く。そして光太郎が一度振り向いて見ると、桜の母親が見知らぬ男性と会話する姿があった。
同日の夜
絵本を読んだままうたた寝している桜をベットに寝かせ、自室に戻る光太郎。廊下を通過中にの耳に聞き覚えのない声を捉えた。なにやら言い合い…というより2人のうち1人が一方的に声を上げている状況だろうか。
(お爺さんの部屋から聞こえるな…お義父さんじゃない)
耳を澄まし、聴力を高める光太郎。
――桜を助けた時、常人(同学年の平均値)まで力を下げる事に成功した光太郎はその感覚を忘れないように訓練を重ね、人知を超えた力や感覚を任意で調整することが可能となっていた。
そして数キロ先で針を落とした音すら捉えるまで発達した聴覚を先程の会話が聞き取れる程度まで高めた光太郎は、会話に耳を傾ける。
『…約束しろ蔵硯!俺が聖杯を持ち帰ったら、桜ちゃんを解放すると!!』
『よかろう…じゃが忘れるなよ?あの娘は間桐が魔術師としての血を高めるために用意したものじゃと。そう…貴様が逃げ出さねば養子にする必要すらなかったことをな…』
『…くッ!分かっている!!そしてもう一つ、桜ちゃんより前にも引き取った少年がいるらしいな…その子も一緒に間桐から解放しろ。何を狙って引き取ったかは知らないが、これ以上落ちた魔術の犠牲者を出してたまるか!!』
『カカカ…大きく出たな。明日から地獄を見るぞ?』
『…望む所だ』
聞いたことのない単語ばかり行き交う会話の内容がよく分からなかった光太郎であったが、桜が自分同様に間桐家…というよりあの老人にとって利用されるために招かれたことだけは理解出来た。
「そんな所、似なくてよかったのに」
心中を吐露したと同時に扉が開き、出てきた人物と目が合う。その人物…彼は今日の昼間、桜の母親と接触していた男性だった。
「えっと…君が光太郎君?」
「…はい」
遠慮しがちに尋ねる男性の質問に答えた光太郎の反応に安心したかのように男性は微笑みながら話を続けた。
「初めましてだね。俺の名前は間桐雁夜。君の、叔父さんになるのかな?」
と、いうことはいつも罵詈雑言を飛ばす養父の弟に当たるのか…兄弟でここまで態度は違うとは不思議だと考えながら返事をする光太郎は盗み聞きしていたとがバレないように雁夜に話を聞いて見た。
「お爺さんと、何か話してたんですか?」
「うん。ちょっとね…」
言いずらそうに光太郎へと答えた雁矢はそっと彼の肩に手を置くと、まるで宣言するように口を開く。
「光太郎君…少しの間我慢してくれ。そうすれば桜ちゃんと君を…この家から遠ざけることが出来る」
「え…?家、から…?」
突然の事に思わず聞き返してしまう光太郎だが、彼の反応など構わずに雁夜は話を続けた。
「この家は呪われてる。こんな所に君たちはいるべきじゃない。桜ちゃんや君は、『本当の親』と暮らしていくべきなんだ!」
力弁する雁夜だが、光太郎は桜同様に何かの目的があって無理矢理に間桐家に連れてこられていると思い込んでいた。桜が養子となったことで冷静さが欠けていたこともあるが、それ以上に父親である蔵硯が何の目的なしに子供を引き取る事自体が信じられなかったのだろう。その為、光太郎が養子となった経由など、聞く余裕すらなかった。
「待っててくれ…必ず助けるよ。桜ちゃんも、君もね」
雁夜はそのまま廊下を通り、自室へと向かったが、光太郎は立ち尽くしたまま言われた事を整理していた。
(助ける…とてもいい言葉に聞こえる。だけど…)
それは泣きながらも、家族に会いたい願望すら押し留めて耐えてこの家にいる彼女が本当に望むことなのだろうか。突然現れたあの人は、ただの自己満足で桜や自分をこの家から出したいだけじゃないのか?
…いや、それは自分が勝手に解釈しているに過ぎない。雁夜は誰よりもこの家の事を知っている。だからこそ本来無関係の人間である自分達を遠ざけたいのだろう。
そんな建前で雁夜の言葉に不満を募らせた光太郎の本心は…もっと単純なものだった。
(離れたく…ないよ)
ようやく自分が心を開ける存在が、こんな化け物である自分を兄と呼んでくれる『家族』と離れるのが嫌なだけであった。
そして、何よりも光太郎の心に突き刺さった言葉への反論を、光太郎は既にいなくなった雁夜へと問いかけた。
「『本当の家族』がもういない俺は、どうすればいいんですか…」
光太郎の言葉に続くように、彼の耳にポツリと呟かれた声が響く。雁夜と会話する寸前に聴力を人並みに戻したため、虫の息のようにかすかな声で聞こえたものだった。
『馬鹿者めが…』
相手を見透かしたような、狼狽える様子を楽しむ様子もない、ボソリと呟いた祖父の声であった。
光太郎の抱いた事への返答もなく、蔵硯の言葉の意図が分からぬまま、1年の歳月が流れた。
…やべ、ライダーが出ていない!あくまでライダー視点のはずだったのにぃ…
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