Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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気が付けばこの話を作り始めて半年が経過…ここまで続くとは自分でもびっくりしてます。

これからもお付き合い下さいませの28話です!


第28話『彼の記憶―英雄―』

「仮面ライダー?」

 

義弟の口から出た言葉を思わず聞き返した間桐光太郎。そんな義兄を間桐慎二は横目で見上げると呆れたように訂正した。

 

「仮面ライダー『みたいだ』って言ったろ。ちゃんと聞いとけよ」

 

 

廃工場を後にした2人は現在、新都のバスターミナルで自宅近くの停留所を経由するバスを待っていた。

 

当初は光太郎が慎二を探していた時と同じく、電柱やビルの屋上を足場にして帰ろうと提案したが慎二がこれを強く拒否。仕方なしに工場から新都まで徒歩で移動し、バスターミナルのベンチに座っているまでにいたる。

そして光太郎を追って現れた生体マシン バトルホッパーは是非とも自身に乗るように勧めたが、免許を所持していないことは勿論、小学生2人が自律走行するバイクに乗車している所など大問題となる。光太郎はやんわりと断り、間桐家の使われいないガレージに向かってもらうようにバトルホッパーに聞かせると、ショックだったのであろうか。光太郎達を救出した際に颯爽と現れた時と違い、よれよれとゆっくり移動しながら工場の闇に紛れてたのであった…

 

(早く免許を取れるように頑張ろう)

 

当面の目標が出来た光太郎は隣に座る義弟に先程の話題を聞き直すことにした。

 

「慎二君。俺が仮面ライダー見たいってどういうこと?」

「…仮面ライダーは噂ぐらい聞いてるだろ?」

 

聞いたことがあるなんてものじゃない。

 

年齢が慎二よりも下だった頃だろうか。仮面ライダーという名は知らぬものなどいない程、彼らの勇姿は語り草となっていた。

 

人類の自由と平和の為。見返りなど求めず、悪と戦い続ける戦士達。無論、光太郎と信彦も彼らに夢中になり、構って欲しいとせがむ妹をそっちのけで話に没頭したことがあった。

しかし、次第に光太郎はサッカーへの興味が強くなってしまい、仮面ライダーの噂は聞き流すようになってしまった。

 

そのような彼らと自分に、どのような共通点があるのだろうか…

 

 

「…仮面ライダーは元々、敵に捕まって、改造された人間って説があるのは?」

「え?」

「…まぁ、これも噂でしかないけどさ」

 

光太郎が覚えているのは、仮面ライダーは複数いる。そして力を合わせて巨悪に立ち向かうという程度だ。彼らが戦える力を手に入れたその根源…原因とも言えるだろう。それが敵による改造手術によるものである話を、光太郎は初めて知った。

 

人としての体を失った彼らはそれでも『心』は失わず、その強大な力を、人の為に使うと決意を固めた。

 

それが、慎二が光太郎に話した仮面ライダーの始まりとなる話の一つであった。

 

「…確かに、似てるよね。バトルホッパーと走れるようになったら益々近づいたかも!」

 

でもね、と明るく振る舞っていた光太郎がほんの一瞬、悲しそうな目になったのを慎二は見逃さなかった。

 

「俺は、仮面ライダーにはなれないよ」

 

光太郎が小さく呟くと同時に、バスが到着した。

 

 

 

 

(仮面ライダーに…なれない?)

 

ライダーはバスに乗り込むマスター達を見送りながら、彼の発言した意図を探った。

 

「コウタロウ…貴方は、後悔しているのですか?」

 

ライダーは先程の慎二が話した事をきっかけに仮面ライダーの名を借りるものと考えていた。

 

まだライダーの良く知る姿に変われないものの、彼はバッタ怪人の力を自在に扱い始めている。まだ幼い彼にとっては過ぎた能力であるが、光太郎であれば自分ではなく、誰かを守るためにその力を使う光太郎なら間違った道を歩むことはないだろう。

 

その彼が、仮面ライダーを名乗れない理由があるとすれば…改造された直後の出来事が原因とライダーは考えた。

 

自分を助ける為に信彦が自分を顧みずゴルゴムの基地を破壊した時。オニグモ怪人に目の前で養父が殺された時。

 

あの時、自分がもう少し早く力を使えていたら、親友と養父だけでなく、養母と義妹も助けられたかもしれない…

 

光太郎は力を持っていながら家族を救えなかった後悔から、力があっても守れなった自分に彼らと同じ名前を名乗る資格はないと自分へ言い聞かせている。

 

その彼が、仮面ライダーと名乗るようになる切っ掛けが、この後に待ち受けているのであろうか…

 

光太郎の抱く苦悩を思った途端、画面は切り替わる。

 

「ええっ!?明後日にまた外国行っちゃうの!?」

「…食事中に大声出さないでよ」

 

場所は間桐家の食堂。祖父である蔵硯以外が席について夕食を共にしているようだ。慎二は帰国以来、食事は自室でしかとっていなかったのでこれは光太郎と桜にとって進歩といえるだろう。しかし、光太郎の声を聴く限り、まだ一波乱ありそうだ。

 

 

「だって、まだ半月はこっちにいられるんでしょ?どうして…」

 

光太郎の疑問に、隣に座っている桜もコクコクと頷いている。当の慎二は鬱陶しそうに口を開こうとする前に、意外な人物が間に入ってきた。

 

「一日も早くあっちの学校のカリキュラムを終わらせてくるそうだ。そうすれば帰国自体が自由な学校だからな」

「ちょっと父さん!?」

 

息子の抗議など聞きもせず、鶴野は黙々と食事を続けた。そのやりとりにぽかんと口を開けている光太郎と桜に、慎二は頬を赤らめながらも席から立ち上がって説明を始めた。

 

「ああそうだよ!さっさとあっちの授業終わらせてこっち戻んなきゃここにある魔導書が宝の持ち腐れだろ!?光太郎は僕と同じで魔術回路持ってないだけじゃなくて知識ゼロだし、桜は魔力持ってても使い方分からないって言うし、僕以外がどうやってこの家を魔術を解析して使えるようにするんだよ!!」

 

肩で息をしながら熱弁を終えた慎二はゆっくりと着席する。

 

「…僕が使い方調べれば、桜だって使えるだろうし、光太郎も直に目にすれば分かるだろ?間桐を名乗ってるくせに、魔術を知らないなんて恥さらしもいいとこだよ」

 

などと悪態をつく慎二に対して、光太郎と桜は互いに目を合わせると、満面の笑みを浮かべている。罵倒したというのに笑っている2人を見て不気味に思った慎二は光太郎に尋ねる。

 

「…何笑ってるんだよ気持ち悪い」

「だってさ、初めてじゃん。慎二君が俺達の名前呼んでくれたの」

「言いたい事はそこじゃなぁぁぁいっ!!」

 

今度こそ顔を赤くして照れ隠しの叫びを上げる慎二を見て光太郎と桜は大笑いする。その光景を見て鶴野はほんのわずかだが、微笑みを浮かべていた。

 

その光景を扉一枚の向こうで、蔵硯が見ていたは、ライダー以外の人物が気付くことはなかった。

 

 

2日後

 

再び転校の手続きを取った慎二を見送りに、光太郎達は空港に訪れていた。

 

「あの、これ…」

 

出国の準備を終えた慎二におずおずと桜は小さな紙袋を差し出した。受け取って中身を確認すると大きさがバラバラのクッキーが包まれていた。そのうち一つを摘まみ、口に放り込んだ慎二は桜に一瞥する。

 

「…美味しくない」

「はぅ…」

 

間髪入れず下された厳しい評価に涙目になる桜だったか、慎二の続いた言葉に思わず顔を上げる。

 

「帰ってくる時にはもっと腕上げとけよ」

「は…はい!」

 

そう言って機内に持ち込むバックに紙袋にしまう姿を見て、元気よく返事する義妹の頭を撫でる光太郎は、そのまま耳を赤くして顔を背ける義弟が可愛く思えて仕方なかった。

 

「…時間だ。行くぞ」

 

鶴野の言葉に、慎二は分かったと言って乗機口へと向かって行った。

 

「…光太郎、さっき言った通り今日は近くのホテルに泊まってから家に戻れ。俺は3日後には戻る」

「わかりました」

「まかせる…」

 

慎二の付添いで同じ飛行機に乗る鶴野に言われた通り、近くのホテルに向かう光太郎と桜。慎二の出発が土曜日の夕方の便であったため、翌日の日曜日に帰宅できれば学校にはしっかりと登校できる。1年前と比べたら、考えられない養父の心遣いに光太郎は変わるものだなぁと考えながら桜と目的地に向かっていた。

部屋に到着後、窓から見える旅客機を見る。時間からして、今動いているのが慎二と養父が乗っている機なのであろう。

 

「桜ちゃん、あれに乗ってるみたいだよ」

「どれどれ?」

「ほら、あの青い飛行機」

「いってらっしゃ~い」

 

窓からその飛行機に向かって手を振る義妹に釣られて手を振り始めた光太郎。次に会う時は、もう少し近づけたらいいなと思いながら、その日はホテルで過ごした。

 

 

そして帰宅した光太郎と桜を待っていたのは荒らし放題となった自宅であった。

 

「うわぁ…」

「ど、どろぼう…?」

 

震える桜は光太郎の背中に隠れてその惨状を目にしている。ともかく金銭類は無事かを確かめながら光太郎はリビングの整理を始めていた。

桜を自室で休ませた後、使用人に臨時出勤させて部屋の整理を行った光太郎は違和感を覚えた。荒らされていたのは通帳や金庫が収納されている場所ではなく、書物やタンスといった家具がひっくり返されているのがほとんどだったのだ。まるでそこにある秘密の入口などを探して

いるかのように…

 

結局は金目の物は手つかずであり、破損されたのは侵入口と思われる窓一つであったことに安堵する光太郎は、その日の夕方に蔵硯に報告するくらいすべきであろうと部屋を訪ねると、もぬけの空であった。

 

「まだ日が出てるのに、珍しいな」

 

また後日にしよう…と扉を閉めた光太郎に悪寒が走った。別に近くで誰かに見られているような寒気ではなく、大きく、そして暗いものが蠢いているような嫌悪感…それがここではないどこかで胎動している。

 

(いや…知った所で俺にどうにかできるようなものじゃない。こんな、こんな大きな…)

 

 

振るえる手を抑えながら、光太郎は自分の部屋に駆け込んでベットに潜りこんだ。こんな違和感、眠ってしまえば忘れるだろう。忘れられるはずだ…

 

光太郎の覚えた違和感は、確かに翌日に目を覚めた時には拭えていた。その変わり、光太郎だけでなく、冬木に住む人々に恐怖へ陥れる知らせが舞い込んだ。

 

 

 

新都で発生した大災害。

 

 

原因は未だ不明であり、その犠牲者の数は日に日に増えていった。

 

幸いに光太郎や桜の学校の友人に被害者がいなかったものの、災害の影響により街を離れなければならなくなった人々は少なくなかった。

 

 

 

光太郎は、学校が終わると度々、その災害地に足を運ぶようになっていた。特に何かをするわけでもなく、ただ、無残にも焼きただれた街を遠くから眺めるだけだった。

 

 

(あの時の違和感って、これだったのかな)

 

足元に転がる煤まみれとなったクマのぬいぐるみの汚れをそっと払った。本来の持ち主は無事なのか、それとも…

 

(なにか…出来たのかな)

 

あの感覚が体を襲った時、この場に来ていれば何か出来たであろうか?と、すぐに考えるだけに留めた光太郎。

 

(何も出来るはずがない。俺に出来る事なんて、なにも…それに、それ以前に怖がって何もしようとしなかった時点で)

 

自身の無力を嘆きながら、数日前に旅出た義弟との会話を思い出す光太郎。

 

 

「慎二君…やっぱり俺は仮面ライダーになれないよ」

 

 

災害地を後にする光太郎は1人の男とすれ違う。ここに来る度に見かける男性だ。よれよれのスーツとコート。無精ひげを生やしたどこか影のある男性だったが、2人は互いに意識することは、なかった。

 

 

 

 

そして、10年近くの歳月が経過した―――

 

 

春休みとなった間桐家の朝は慌ただしく始まっていた

 

 

「ほらほら慎二君、練習遅刻しちゃうよ!副部長になったんだからもっとしっかりしないと…」

「っさいな光太郎は!わかったよ今いくよ!!それと絶対に差し入れ持ってくんなよ!?」

「え~?」

「え~じゃない!」

「あ、おはようございます兄さん達」

「おはよう桜ちゃん。もう入学の準備は?

「はい!ばっちりです!」

 

それぞれがたくましく成長した間桐兄妹であるが、やりとり事態はなんの変化も見られなかった。

 

その年の春から光太郎は地元の大学3年生。慎二は高校2年生。そして桜は高校1年生となる。

 

 

「それじゃ慎二君、後で部活見学しに行くからよろしくね!」

「お願いします慎二兄さん!」

「桜はともかくなんで光太郎まで来るんだよ!?バトルホッパーとそこらを走ってこいよ!」

 

怒鳴りながら玄関を出る慎二を見送った光太郎は靴を履き、春休み中である桜へ昼食のリクエストを伝えると出かける準備を続けていた。

 

「光太郎兄さん。今日もバイクのコースに?」

「いや、今日は大門先生のとこじゃいよ。いつもの検査」

 

幼い頃から今も続けている身体の調査。この10年ですっかり顔なじみになった医者との会話も光太郎の楽しみになっていた。

 

「それじゃ、昼までには帰るよ」

「はい、いってらっしゃい!」

 

 

これまでの奇怪な出来事がなにも無かったかのように生活を続けた光太郎。

 

そしてこの日の夜。彼の運命は再び大きく動くこととなる。

 




鶴野さん、慎二君の付き添いのためにケリィの来襲を間逃れました。その代わりにがさ入れがされてしまいましたが…

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