それでは、29話です!
「ほれ、今回の診断結果だ」
「ありがとうございます、先生」
初老の男性が差し出した封筒を間桐光太郎は笑顔で受け取った。
光太郎が尋ねているのは間桐家に引き取られてから週に一度通っている小さな診療所である。年季の入った外見とは裏腹に最新の医療設備が設置されており、光太郎は10年近く検査を受け続けている。
この診療所でただ一人で勤務している男性は昔から間桐家のかかりつけ医であり、間桐の家が普通ではないと知ったうえで診断や治療を施してくれる主治医のような存在だ。
光太郎の検査も当主である臓硯の依頼されて始めたこともあり、当初は互いに無言で通していたが10年も経てば雑談の方に多くの時間を費やす関係となっていた。
「…前から聞こうと思ったんですけど、先生も魔術を知っているんですか?」
「まぁ、一般人よりは知っている程度さ。父の後を継いで、ここの医者になるまでは微塵も信じていなかったがね」
「何か、きっかけが?」
「私は都内の大学病院に勤めながら個人的な研究をしていたのだがね。行き詰った結果、実家の冬木に戻って余命少ない父と臓硯氏に会ったわけだ」
分かるだろう?と言わんばかりに口元を歪める医者の顔を見て、光太郎は納得する。あの祖父のことだ。魔術を証明して見せろと言われたら後悔するような事を仕出かしたに違いない。
「質問を返すようだが、臓硯氏はどうしてる?ここのところ全くお見かけしていないが…」
「ええ…俺達もここ数年、顔を見ていないんですよ。気の向くままに旅に出たと思ったらいつの間にか帰ってきてますし、家にいても自室から決して出ようとしないんですよ。
食事は桜ちゃんが作ったものを部屋の前に置いておけば、翌日食器は空になってるし。ただ…」
「ただ…どうした?」
やはり医者として容態が気になるのか、医者は食いつくように光太郎の説明に聞いている。
「ここ数日、食事には一切手を付けていないんです。本人は外食で済ませたとドア越しに言うんですけど、出かけた様子はありませんし」
もし本当に出かけたのならば、真っ先に自分が気付くはずである。強化された五感にたよらなくとも、独特である祖父の『気配』は消しようがないためだ。
一人でありながら、多くの存在を内包している。そんな違和感が祖父の発せられているため、光太郎は彼の出入りを見逃すことはありえない。というより、嫌でも感づいてしまうと言うほうが正しい。
「…………」
「あの、先生?」
「ん?ああ、すまない。それは心配だな。一度こちらに来てもらうように言っておいてくれ。積もる話もあるからな」
「はぁ…」
どこか慌てる様子で立ち上がり、キャビネットのファイルをめくり始めた医者を不思議に思いながらも、光太郎は詮索せず、挨拶をして診療所を後にした。
駐車場に止めたバイクに搭乗し、移動する光太郎の姿を窓から見送る医者は、手元に置いてある電話の子機を耳にあてた。
「大門君か?私だ…ああ、『例の』準備を進めてくれ。彼ならば、使いこなせるだろう。…そうだ、後はあの人に任せよう」
「じゃあ、この後はそのまま衛宮君の家に?」
「はい、帰りは遅くなってしまいますけど…」
「大丈夫!楽しんできなよ。藤村先生にもよろしくね」
「はい、それでは行ってきます!!」
帰宅した光太郎は桜と昼食を終えた後、ガレージでバイクの整備をしている途中で声をかけられた。昨年から通っている桜の先輩…慎二にとっては同級生である衛宮士郎の家にお邪魔してくるとの内容だった。
慎二と空港で約束して以来、料理を独学で勉強するもののどうも癖のある味付けに仕上がっていたが、衛宮家に足を運ぶようになってからメキメキと腕を上げ、今では間桐家の台所を預かる身となった。しかし、度々師匠の家を訪ねては遅くまで帰宅しないため、慎二は外食、光太郎は簡単なものを自炊する日も週に何度かあり、本日はちょうど不在となってしまう日となっていた。
元気よく出かける義妹の姿を見て、光太郎は桜と家族になった日々を鮮明に思い出す。
怖がりだった桜がいつの間にかあれ程までに元気に、可憐に、そして恋する少女と成長していた。幼いころは家で騒動が起こると隅で怯えていたが、今となっては花瓶や食器などの家具へ危険を感じると笑顔でフライパンを振りかざすまでになっている。養父の鶴野さえ青ざめるほどだ。
先に出かけている慎二も帰国してからもより一層勉学に励むようになり、高校生となった時には、家の書庫に眠る魔道書の解読は勿論だが、桜の協力もあって、簡単な術式を組み立てられるようになっている。自分が魔術師となることはきっぱりと諦め、代わりに素質を持った桜がその術式で組まれた魔術の再現することで満足しているようだ。
そして光太郎は普通の大学生活を送っている。特に将来の目標を抱いているわけではないが、今の生活に満足していた。
まるで、自分が人間でないことが嘘だったように。
その日の夜。
慎二は女友達とカラオケに、鶴野は地方にある間桐の土地を借りたいと申し出た『あちら側』の人間との商談のため本日は戻らない。
「となると、今日は一人か」
光太郎は間桐となってから、一人となる時間が少なかった。珍しいくらいである。
「…二十歳過ぎて寂しがるなんてなぁ」
ポツリと呟いた光太郎の目に留まったのは、本日の診断書だ。後で祖父の部屋に持っていこうと食卓の上に置いたままにしていたらしい。
「何やってんだか…」
早々に届けて食事にしよう。
光太郎は普段通りに臓硯の部屋の前に移動する。光太郎と臓硯の間では2回ノックしても返事がなければ勝手に入室できることが暗黙の了解となっていた。
ゆっくりと開かれる、相変わらず明かりを一切受け付けない空間。この10年で変わったとしたなら祖父が在室している時間が少なくなったことと、
以前は部屋全体に蠢いていた気配がある日、綺麗さっぱりと消えたくらいだろうか。
「では、いつもの所へ…ん?」
祖父の不在時、いつも診断書を机の上に置いていたが、今回は先に置かれていたものがあった。小さなメモ用紙に、臓硯の筆跡でただ一言、書かれていた。
『地下室へ来い』
「なんで地下室なんだろう?」
書かれていた指示に従い、光太郎は地下室の入口の前にたどり着いた。そこは鉄扉で閉ざされ、子供一人では決して開けられないような作りとなっている。この家に住むようになった頃、ここには決して入ってはならないと鶴野により言われたことがあった。当主である臓硯が同伴しなければ決して入ることが許されない間桐家の仕来りらしい。
「…まぁ、考えても仕方ないか。さっさと会って…」
要件を聞こう。と、扉の取っ手を握った途端、光太郎の逆毛立つような寒気を感じた。
「…俺は、この扉を開けたことが…ある…」
今まで自分は鶴野の言いつけを守ってこの入口に近づかなくなったと思い込んでいた。しかし違った。光太郎は過去に一度だけ、この扉をを開けたことがあった。
間桐家に引き取られてから一年経たない頃。養父の言葉より好奇心が勝ってしまい、扉に手を伸ばしてしまったのだ。子供一人では開けられない扉など光太郎にとってはなんの障害にもならず、重々しい鉄扉は筋力を強化した光太郎の手によって少しずつ開かれていったいった。
その直後だった。
大量に蠢くナニカが這いずる音が響き、それに合わせて『知っている誰か』とよく似た声が絶叫を上げていた。それに紛れて聞こえる、静かな笑い声もあった。
耳にした光太郎は、自分の事を思い出す。
光太郎はすぐに扉を閉め、自分の部屋に駆け込んだ。
思い出しては駄目だ。あんなもは、思い出しては駄目だ。
必死に自分へ言い聞かせながらも、脳裏に走る、自分が人間でなくなった日。いくら泣きわめこうが、止まることなく自分の奪った存在への恐怖が浮かび上がってしまった。
以来、光太郎はその扉には近づこうとしていなかった。いや、近づけなかったのだ。
「……いつまでも、怖がっていられないよな」
取っ手を握っている手の中で汗が滲んでいた。正直、昔のように逃げ出したい衝動に駆られている光太郎だったが、意を決して、ゆっくりと扉を開いた。
「………………」
無言で地下への階段を下る光太郎。その作りは思った以上に古く、西洋の城を彷彿させるものだった。家の外見もそうだけど、何か拘りがあったのか…
冷静になった光太郎はそんな事を考えながら到達したのは異様な空間だった。
松明だけで照らされたその場所は、底が見えないほど深く、広い。なにかの貯蔵庫だったのかと思ったが、そんな考えはすぐに却下した。強化した目で辺りを見ると、次々と見つかる不審な点。
空間の一番下…石煉瓦の床から4~5メートル上の壁に並行して走る線。貯めていた水の水位がそこだったように付いている跡。しかし水ではなく、生物の表面から出た体液が乾いた後のようだった。その生物の正体と言わんばかりに無数の屍骸。水分が完全に抜け、皮のみとなっている幼虫のようなもの。あれはかつて臓硯の部屋に居ついていた蟲と酷似している。
「ここは…一体?」
「蟲倉と儂らは呼んでおる」
光太郎が振り返るより早く、声をかけた誰かは光太郎を深い暗闇へと突き落とした。
「くぅ…」
底へと落下した光太郎だったがとっさに体の強度を上げて負傷は免れたが、全身に痛みが走る。一体誰が、と今まで自分の立っていた場所を見ると、そこには自分を呼び出した張本人が見下ろしていた。
「お、爺さん?」
数年ぶりに姿を現した祖父は変わらず和服姿だった。唯一違った点は、目を除いた顔全体を黒い頭巾で覆っていたことだ。それ故か、光太郎を見るその暗い瞳はさらに迫力が増している。
「一体、なんでこんなことを!!」
当然の疑問が蟲倉と呼ばれた空間に木霊した。臓硯は光太郎の質問を待っていたかのように、頭巾の下で微笑み、杖で床を突く。その直後、臓硯の背後から飛び出したソレは光太郎の背後に着地し、光太郎の頭を掴み上げると壁へと叩きつけた。
「が…ふっ」
背中に走る痛みに耐えながら突如自分を襲った者の姿を見た光太郎の目は見開いた。
「怪人、なのか…?」
それ以外に言い表せない存在だった。背丈は2メートル以上あり、人間のように四肢を持っている。背中から生えている羽を震わせ、大きく開けた口から見える牙は、今にも獲物である光太郎を引きちぎりたいと言わんばかりにガチガチと鳴らしている。
目の前に立つ怪人に光太郎は見覚えがあった。あの羽と、肉食獣を思わせるあの口と頭部の形…臓硯の体から出現し、臓硯の部屋で飛び回っていたあの羽虫が巨大化したかのような怪人だった。
「カカカ…気になるか光太郎よ」
驚く光太郎の姿を楽しむように臓硯は変わらず見下ろしている。
「お主の考えてる通り、そいつは刻印虫の一匹よ。じゃが、その姿となるためにちと加えたものがあるがの」
「加えた…もの?」
ようやく痛みが引き、立ち上がることのできた光太郎。臓硯の言う通り、何らかの遺伝子操作をして光太郎の知る羽虫をここまで変貌させたのか…目の前の存在の詳細を
探る光太郎は臓硯の次の言葉で戦慄してしまう。
「簡単なことよ…お前の血を混ぜて作り上げた作品じゃ」
「なっ…!?」
動きを止めた光太郎に蟲の怪人は再び襲い始めた。突進する怪人の体当たりを横に頃ばることでなんとか回避した光太郎は、怪人が振り返る前に自身をバッタ怪人へと姿を変える。
光太郎の成長に合わせ、バッタ怪人の姿もより強靭な体と力を持ち合わすようになっていた。この姿になれば負けなしない。しかし、光太郎の自信は蟲の怪人に脆くも崩れ去った。
「こ、こいつ…」
光太郎の放った拳や蹴りを一切受け付けず、逆に怪人の攻撃に光太郎の体にダメージが蓄積しつつあった。自分と同じ体格ながら、自分以上に以上に力を振るう相手に次第に追い詰められていた。改造され、怪人となった自分の血液は、このような化け物すら生んでしまうのか…怪人の猛攻に成すすべなく、受け続けていた。
膝を付いてダメージを受けた腕を抑えながら、臓硯の言った事を整理する光太郎。あの怪人が自分の血液を合成されて造られたものであれば、一体何時、自分の血液を採取したのか?
寝ている間?
いや、そんなことをすれば、今の自分は嫌でも気づくようになっている。ならばと、次に浮かんだ可能性に、考えた自分自身で青ざめてしまった。
「血液…検査」
「カカカ、説明する手間が省けたのぉ」
光太郎が週に一度行っていた診断の際に項目の一つであった血液検査。
それも10年以上抜き取られ続けていたのだ。使用する血液に困ることは無いだろう。だが光太郎は血液の出どころより、血液を採取していた人物が頭に浮かぶ。あの医者はそもそも臓硯と繋がりがあった人物だ。だから、臓硯へ血液を提供しても、不自然ではない。
しかし、自分と笑顔で会話するあの日々を、光太郎は嘘と思いたくなかった。そして抉るように、臓硯の言葉は光太郎を攻めて立てて言った。
「どのような気分じゃ?勝手に期待し、勝手に裏切られたと考えてしまう、今の心境は?」
見透かしているような臓硯の言葉に、光太郎は奮い立たせて、立ち上がる。
「こっ…ンのぉぉぉっ!!」
接近する怪人へ繰り出した渾身の一撃であるアッパー。握り拳ではなく、手を広げて繰り出したことで怪人の胸板を爪でわずかながらも傷を付けることに成功するが…
「う…あ」
怪人の傷口から滲み出る血を見て、頭を抑える光太郎。その姿は人間へと戻っていた。これを好機と、怪人は光太郎の首を締め上げ、徐々に力を込めていった。
「殺すのはいいが、体にあまり傷を付ける出ないぞ。儂が使うのじゃからな」
「な、にを……!?」
怪人の手を掴んで必死に抵抗する光太郎の耳に届いた思いもよらなかった言葉。光太郎を追い詰めると言わんばかりに臓硯は話を続ける。
「そもそも貴様を拾ったのも、全てはここまでの為…人間であれば完成したと言っても良い貴様の肉体に儂の『核』たるものを移植する。されば我が大望に一歩近づくのじゃよ」
何かの狙いがあって自分を養子にした。それはわかりきっていたつもりでいたが、まさか肉体を奪うとは想定外であった光太郎は呼吸が辛うじて出来ている間に、聞き出す事にした。
「お、れの体を何故……必要なん…だ?」
「カカカ…それはお主の方がよく判っておろう。世紀王の器よ」
「ッ!?」
まさかここで再びその名を聞くこととなるとは思わなかった光太郎の手は緩んでしまい、怪人の力が一層、強くなってしまった。
「いくら傷を付けても回復し、近づく脅威は体内にある王石で全てを葬る。あの時、お主を見つけたときに放たれた光を見て儂は実感した!次期創世王の肉体を我がものとすれば、完全な不老不死となるとな…」
人類の夢である不老不死。それを叶えるために、ゴルゴムの事も調べげ、自分を子飼いされてきたのか。
「う、ぐは…」
さらに強まる怪人の手に光太郎の意識は朦朧とし始める。手はだらりと下がり、後は自分の命が停止するのを待つばかりだった。
(でも、これで父さん達の所へ…いけるのかな?)
自分を庇い、死んでいった養父の姿を浮かんだと同時に、最後の言葉を思い出した。
自分の分まで、生きろと
「む?」
臓硯は眼下で起こっていることに思わず声を上げた。怪人に首を絞められている光太郎は変わらず人間のままだ。しかし、再度怪人の手を掴むと、少しずつではあるが自身の首を絞める怪人の手を遠ざけているではないか。
そして完全に首を解放された光太郎は怪人の胸板を蹴って離脱し、呼吸を荒げながらも着地する。
「ハァ、ハァ……俺の、命は…俺だけのものじゃない!生んでくれた両親と、父さんと信彦が繋いでくれた命なんだ!アンタのために、使わせるわけには行かない!!」
「…それ程の恵まれた力を取られるのが嫌になったか?」
「確かに俺は改造人間だ!もう、人じゃない…それでも、この体は俺自身のためではなく、俺の守りたいものの為に力を使う!断じてアンタのように自分のためじゃない!!」
臓硯を指差し、自身の意志を宣言した光太郎。だがそれを鼻で笑った臓硯は杖を一度床でつつく。それを合図に怪人は光太郎に襲いかかった。
「くっ!?」
回避を続ける光太郎に、臓硯は光太郎の言葉を否定するかのように口を開く。
「所詮は綺麗事よ。現にお主は過去の出来事に囚われ、そやつを傷つけるだけで戦意を失っておる」
「……っ!?」
確かに臓硯の言う通りだ。例え敵対する相手でも傷を負い、血が流れるだけでも養父が殺された場面がフラッシュバックしてしまう。事実を突き付けられた光太郎は攻撃どころか再び防戦一方だ。
「所詮は口だけか、片腹痛い…さっさとお主の体を奪い、役立たずの孫達を殺すとしよう」
「何ッ!?」
臓硯が飛ばした言葉に、光太郎は硬直する。戦いとは無縁のはずの2人を、何故殺す必要があるのか?
「先程も言ったじゃろう。儂の目的は完全な不老不死。それが叶ったならばもう他の間桐の人間など必要ない。魔術回路を持てない出来損ないも、魔力を高めるために用意した胎盤ものぉ」
冷酷極まりないその言葉に、光太郎の手が震える。そして次第に、腹部から赤い光が漏れ始めた。
口が悪くとも優しい子心を持った義弟。寂しさから立ち直って真っ直ぐ生きる義妹。
その2人を、この老人は簡単に殺すと言った。
「…ない」
「なんじゃと?」
「させない!そんなことは、俺が絶対にさせない!!」
この老人は言った。自分の言った事は綺麗事だと。そして自分は過去に引きずられて、戦いすらできないと。
ならば、変わって見せる。変えてみせる。
自分を助けてくれた家族の為に。
自分を家族と認めてくれた兄妹の為に。
今の自分が戦えないというのなら、戦える為に、心も、身も、変えてみせる!
変わるための言葉を、光太郎は唱えた。
「変身ッ!!」
光太郎の姿は再度バッタ怪人となるが、それも一瞬。腹部に現れた中央に赤い結晶を備えた銀色のベルトから放たれた光が、彼を漆黒の戦士へと姿を変えたのだ。
それを見た臓硯はニヤリと笑う
「ようやく完成しおったか」
「!!!!」
目の前に現れた戦士を脅威と思った怪人は拳を顔めがけ突き出した。
グシャリと
鈍い音を立てて光太郎の顔に当たった怪人の拳は、無惨にもひしゃげていた。
「ウオォォォォッ!!」
光太郎は怪人が痛みに絶叫を上げる間もなく、お返しと言わんばかりに、胸板へ全力を込めた拳を叩きつける。
「!?!?」
光太郎の拳は怪人の胸を貫き、背中を突き破っていた。ピクピクと痙攣する怪人の胸から腕を引き抜き、返り血を浴びるが微動だにせず、ゆっくりと床へ沈む怪人を見下ろしていた。
「間桐臓硯…覚悟!!」
次の標的を臓硯と定めた光太郎は自分を見下ろしている臓硯へ向かい跳躍する。バッタ怪人と比べ格段に力上がっていることなど気にも留めず、臓硯へとその拳を振るおうと
したが…
「ッ!?」
何かに感づいた光太郎は、臓硯に触れることなく背後に着地し、変身を解いた。
「何の真似じゃ。今更怖じ気ついたか?」
あくまで挑発的な言動を辞めない臓硯に対し、光太郎は振り返りながら聞き返した。
「なら説明して下さい。その顔と、その体を」
「やれやれ…気づかれたか。先程の拳で消えるのもやぶさかじゃったが」
言いながら頭巾を外した間桐臓硯の顔は…出会った頃よりさらにやつれ、肌には多くの亀裂が走っていた。
「これは…一体」
「よかろう。では聞け…」
臓硯は小さく息を吐くと、光太郎へ話し始めた。
ご老体の口調ってこんな感じてしょうか・・・?
ご意見、ご感想お待ちしております!