Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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最近、仮面ライダースピリッツを読み直して、改めて深いテーマやドラマに感銘しいてみたり…第1部ではストロンガー編が大好きです。

では、31話です!


第31話『彼の記憶―別離―』

「トアァ!!」

「…ッツ!?」

 

黒い拳を顔面に受けたカミキリ怪人は体を回しながら吹き飛とんだ。

 

(行ける…!)

 

変身し、仮面ライダーブラックと名乗った間桐光太郎はダロムの操るカミキリ怪人へ次々と攻撃を繰り出した。バッタ怪人の時とは比べ物にならない力に驚きながらも、決着を着けるべく攻め続けていたが…

 

「グッ……なん、だ…?」

 

突如、膝を付く光太郎。先程まであふれるほどに沸き上がった力がいきなり抜けていくような脱力感が全身に走った。

 

『ククク…どうやらまだその姿を使いこなせていないようだな』

 

ボロボロとなっても立ち上がるカミキリ怪人からダロムの笑い声が響く。肩で息をしながらも構えを解かず、接近する怪人を警戒しながら光太郎はこの場を切り抜ける方法を模索していた。

 

(奴の言う通り、この姿での戦いに俺はまだ慣れていない…あの蟲蔵での戦いと合わせて二回目の変身…たった二回の変身と戦いでここまで体力を消耗するとは)

 

両足に力を込めるが、立ち上がれても全力でジャンプできるほどの力は残っていないだろう。あと少し力が残っていたら、『あの技』で倒せる可能性があったかも知れないと考えている間に、カミキリ怪人との距離はどんどん縮まっていく。

 

(俺が全力で攻撃を打ち出せるとしたら、あと一度。それに全てをかけなくては)

 

たったの一回。ダメージを受けつつもまだ余力が見えるカミキリ怪人に対し、どのように最後の一撃を決められるか…悩む光太郎の背後から弱弱しい声が耳に届く。

 

「苦戦しておるようじゃの。光太郎…」

「お爺さん…!?喋っては…」

「いいから聞け。良いか、今から言う名を呼べ。さすれば…」

『何を考えているが知らんが、止めをさせ!!』

 

臓硯の方へと顔を向けたままの光太郎の姿を見たダロムは、カミキリ怪人へ命令する。その声を受けたカミキリ怪人は持ち前の顎で光太郎の首を噛み切ろうと飛び掛かったが、茂みから飛び出た光太郎の助っ人に吹き飛ばされてしまう。

 

『ば、バトルホッパーだと!?創世王様の専用機である貴様が何故ここに!!』

『PIPIPI!!』

 

カミキリ怪人の向こうで動揺するダロムの言葉を聞かず、生体マシン「バトルホッパー」は再びエンジンを鳴らし、怪人へ向かっていった。その様子を見た光太郎はかつて同じように自分と慎二が殺人犯から助けられた事を思い出していた。

 

「バトルホッパー。ありがとう!」

「感謝は後にせい!光太郎よ、この機を逃す出ないぞ…」

「お爺さん…」

 

見れば横になっている臓硯の腰から下は完全に消失している。このまま時間が経てば…

 

光太郎は祖父の痛々しい姿から一度目をそらすが、決意を固めた目で臓硯の顔を見て、頷いた。

 

「わかりました。見ていてください!!」

 

立ち上がった光太郎は臓硯から聞いた勝利を齎す名を呼び叫ぶ。

 

 

 

「来い!ロードセクター!!」

 

 

光太郎の呼び声に応え、バトルホッパーとは別の茂みから猛スピードで姿を現したマシンに光太郎は目を見張る。

 

光太郎の前で停止したそのマシンは月明かりに照らされた白と赤でカラーリングされたオンロードバイク。一目見ただけで従来のバイクを上回る性能を持っていると感じさせる。

 

「これが…ロードセクター」

 

ゆっくりとロードセクターに跨る光太郎。シートに座り、グリップを握った途端、モニターの画面が「sound only」と表示され、聞き覚えのある声が流れ始めた。

 

『どうやらロードセクターは無事、光太郎君の手に渡ったようだな』

「この声は…大門先生!?」

 

自分が通っているバイクレース場で教えを受けているコーチ、大門明の声に驚く光太郎。どうやら音声は録音されたもののようだ。

 

『このマシン…ロードセクターは君の脳波に感応し、どこでも駆けつけられるよう調整してある。脳波のサンプルは、君が通っている診療所の先生から渡された。勝手なことをしてすまない…』

「いえ…助かりましたよ」

『ゴルゴムの研究者であった私の父、大門洋一はこのロードセクターを完成させた直後、ゴルゴムに殺されてしまった。マシンを悪用されることを恐れ、渡すことを拒んだばかりにな…』

「そんな…」

 

ゴルゴムによって家族を奪われた人間がこんなにも近くにいたなんて…グリップを握る手に思わず力が籠る。

 

『ゴルゴムの協力者であったと言えど、あのような最後を迎えるなど、私は納得できなかった。だから光太郎君…君の素性を間桐さんから聞いた時に私は思った。君ならあのマシンを使いこなせる。父の仇を取ってくれると……身勝手なことばかりですまない。どうか、父の無念を…』

「先生…」

 

そこで音声は終了した。

 

厳しくバイクの心得を叩きこんでくれた大門の姿を浮かべる光太郎。自分と共にコースを駆け、バイク談義で笑顔を見せた顔の裏に、自分と同じ悲しみを抱いていた。

自分を利用したなんて言っているが、そんな人がこんな泣きそうな声で言うはずがない。光太郎はバトルホッパーによって攪乱されているカミキリ怪人を睨む。

 

「大門先生…!あなたの気持ち、確かに受け取りました!!」

 

アクセルを回したロードセクターは常識を超えた凄まじいスピードで怪人めがけ突進していく。

 

(なんてスピードだ!これなら…)

 

既に時速200㎞を突破したロードセクターはカミキリ怪人の胴体めがけ突っこんでいく。

 

「ギュエッ!?」

 

カミキリ怪人をフロント部分に乗せたまま、光太郎は森を抜け、今の時間では人一人いない採掘場へと飛び出した。

 

(よし、ここなら…)

 

移動時にモニターに表示されてたロードセクターに備わったシステムも、この広い場所なら使用できる。カミキリ怪人を振り落とし、一定の距離を置くと地につけた足を軸にロードセクターを

反転させる。再びカミキリ怪人と向き合う形となる。

 

「行くぞ!!」

 

さらにスピードを出してカミキリ怪人に向かっていくロードセクターの速度は既に500㎞を突破している。

 

そして600…700…800㎞を超えた時、マシン上部に運転す光太郎を守るように、アタックシールドが展開する。

 

「スパークリングアタックッ!!」

 

イオンシールドで覆われ、巨大な弾丸となったロードセクターはカミキリ怪人を宙高く吹き飛ばす!

 

それだけでは終わらせない。

 

光太郎はスピードを落としたロードセクターから、残された力を振り絞って全力で跳躍。エネルギーを纏った右足を落下するカミキリ怪人に向けて叩きつける。

 

「これが俺の…」

 

都市伝説で聞いた、光太郎の知る『仮面ライダー』と呼ばれた英雄たちの一撃必殺の技。

それまでに多くの悪を葬り、彼らの代名詞とも言える技を、光太郎は咆哮とともに繰り出した。

 

「ライダーキックだぁッ!!」

 

止めを受けたカミキリ怪人は採掘場の壁へと叩き付けられ、ばたりと地に沈んだ。着地した光太郎は油断せず、再び構えながら相手の出方を見る。すると、体を燃やしながらも、カミキリ怪人は立ち上がる。いや、カミキリ怪人自身はとっくにこと切れている。あれはカミキリ怪人を操るダロムの力によるものだろう。

 

『おのれぃブラックサン!いや、仮面ライダーブラックよ!これで終わると思いな…貴様は我らゴルゴムが全力を持って抹殺してくれるわ!!!』

 

ダロムの怨憎の叫びとともに、カミキリ怪人の体は燃え尽きた。

 

「望む所だ!俺は…お前たちゴルゴムを許さない!!」

 

 

 

 

カミキリ怪人を倒した光太郎が臓硯の元に戻ると、体の崩壊はさらに進んでいた。

 

「お爺さん…」

「…どうやら、勝てたようじゃな。これで心残りは一つ消えたわ」

 

臓硯の横で膝を付き、抱き起す光太郎。

 

「お爺さん…あなたは、俺がこの姿になれると知って、あの状況を」

「あの医者を恨むでないぞ。全ては、儂が仕組んだことじゃからな…」

 

臓硯は光太郎の体がバッタ怪人からさらに進化する可能性を医者からの報告で知ることができた。しかし、そのスイッチとなるきっかけがつかめなかった2人は過去に蟲を通して監視していたある状況を思いついた。

 

それまで力をコントロール出来なかった光太郎が、トラックに引かれそうになった桜を助けた時。

 

トラックを止めた手は怪力そのままに、桜を抱き上げた手は人間並だった。

 

彼は近しい人間が危機的状況、もしくは傷つけられた場合に力を発揮する。

 

言いづらそうに報告する医師の姿が目に浮かんだ。

 

「そうじゃ、恨むなら儂だけでいい。これから、お主にもう一つは脅しをかけるのじゃからな」

「…俺に、出来ることなんですか?」

「お主にしか…頼めん」

 

 

 

その内容を聞いたライダーは驚き、思わず手で口を覆う。この老人が光太郎に伝えたことは、想像を絶することだった。

 

「そんな…コウタロウ…貴方は」

 

 

マスターの答えはわかり切っている。しかし、ライダーは聞きたくなかった。

 

(お願いです)

 

 

「わかりました…」

 

 

(もう…これ以上)

 

 

「そのために」

 

 

(自ら、苦しみを背負わないで)

 

 

「俺は、聖杯戦争に参加します」

 

 

「コウ…タロウ」

 

 

変えられない回答を聞いて、ライダーは涙を流す。何故この人はここまでしなければならないのかと。

 

 

 

「ならば、その手を出せ」

「……」

 

頷き、臓硯の前に手をかざす光太郎。震える細い指先が何かを描くように光太郎の手の甲をなぞる。その直後、針で刺されるような痛みと共に、光太郎の黒い手の甲に一瞬紋章のようなあざが浮かび上がり再び消失した。

 

「今お主の手に刻んだものは『令呪』。聖杯戦争に参加するマスターの証であり、サーヴァントを現界させ、率するものじゃ」

「令呪…」

「今の姿では隠れて見えんが、人に戻ればくっきりと刻まれておろう…苦労したぞ?王石の力を魔力へ変換させて放出させる術式を組むのは」

「それは、ご面倒を…お爺さんッ!?」

 

軽口を叩きながらも、先程光太郎の手に触れていた臓硯の右腕が消滅する。

 

「どうやら、時間のようじゃ…光太郎。これが最後の頼みぞ。儂を王石の力で滅してくれ」

「何を言って…!?」

「ただ消えるだけなど儂には許されん。それだけのことを重ねてきたのじゃ」

 

目をつむり、走馬灯のように蘇る自身の所行。ただ消えるのみで消え去る罪ではない。ならば、自分の魂を浄化させた光太郎の持つキングストーンの光で消滅する。それが臓硯の望みだった。

 

「儂の過去を…清算させてくれ。光太郎よ」

「…わかりました」

 

仮面の中でどのような顔をしているかは臓硯にはわからない。しかし、自分を寝かせ、立ち上がった光太郎を見て了承したと判断した。

 

(これで…)

 

「キングストーン…」

 

両拳をベルト「エナジーリアクター」の上で重ねた光太郎の腹部から眩い光が放たれる。

 

(ようやく…)

「フラッシュッ!!」

 

その赤い輝きは穏やかな表情となった臓硯を完全に消滅…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

させなかった。

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうこじゃ光太郎!?」

 

うろたえた臓硯は思わず声を上げる。体の崩壊は止まり、痛みも和らいでいる。元の姿に戻った光太郎は混乱する臓硯を諭すように説明した。

 

「今の光で貴方が消滅する時間を伸ばしました。持って数時間…丁度日の出頃ですかね?」

 

この短期間にキングストーンの力をそこまで操るにいたった事よりも、意図が掴めない臓硯の表情は険しくなる。

 

「何が狙いじゃ…?」

「貴方は言いましたよね。過去を清算すると。けど、その前にやってもらうことがあります」

「なんじゃと…?」

 

自分の願いだがは全て託し、後は消えるだけの自分に一体何させるつもりなのか?その内容に、臓硯は目の前にいる青年の底知らずさに度肝を抜かれた。

 

 

 

「決まってるでしょ。」

 

 

 

 

「ちゃんと家族に挨拶してから消えて下さい」

 

 

 

 

時刻は丑三つ時を差そうとする頃。間桐家で眠っていた慎二と桜は光太郎に叩き起こされた。

 

未成年である2人に過酷な仕打ちであったが、事情を聞いた二人は別々の反応を示した。

桜はパタパタと一階へ下り、慎二は無表情のまま自室へ戻っていった。

 

(さて、後は地方に飛んだ義父さんだけど…)

 

この時間では電話しか手段がないかと考えいると、玄関に近づく足音が耳に聞こえた。

 

 

 

「…どうぞ。時間が無かったので、こんなものしか用意できなくて」

 

桜が申し訳なさそうに食卓に座る臓硯の前に置いたのは小さい土鍋に盛られた卵粥だ。

 

「…頂こう」

「はい…」

 

桜には臓硯と長く接した記憶がないが、この間桐家で普通の生活を過ごせていることに深く感謝していた。実の家族とは引き離され、その裏に光太郎から聞いた事情があったとしても、2人の兄と出会えたことを桜は幸せと感じている。

 

(こうして、桜の前で食事をするのは初めてじゃったか)

 

臓硯は家族揃って食卓にを囲むことをせず、食事はいつも自室で済ませていた。ゾォルゲンとしての魂を取り戻した直後での気まずさもあったが、何よりそこにいてもおかしくない雁夜の命を奪った負い目が会った。

 

だが、盆を両手で抱いたままこちらを不安げに見つめる少女はそれすら知ったうえで手料理を振舞ってくれた。臓硯は崩壊を免れた左手でレンゲを使い、時間をかけて孫お手製の卵粥を食した。

 

やがて空になった土鍋の横にレンゲを置いて、臓硯に向かい頭を下げる。

 

「…美味じゃった。馳走になったの、桜」

「お粗末…さまでした」

 

祖父から聞いた初めての感想に涙目となりながら、桜は食器の片づけを始めた。

 

 

 

「僕からあんたに話すことはない」

 

桜と入れ替わりに現れ、臓硯の対面にどかりと座り踏ん反りかえる慎二。当然の態度だと蔵硯は覚悟していた。魂が歪んでいた時期と言えど、散々自分が魔術師であると信じ込ませ、戻った途端に魔術師になれないと伝え、幼い頃からの目標を壊したのは自分なのだから。だからこそこれから慎二の口から出る怒り全てを受け入れるつもりでいたが、慎二がまずやったことは数冊の本をドンっと食卓に叩き付けページを捲り始めた。

 

「それと、ゴルゴムの因縁ってやつも光太郎とあんただけであって僕には関係ない話だ。けどね…」

 

ペラペラと捲り、ある項目にたどり着くと蔵硯の前に突き出した。そこは、開始当初から記された聖杯戦争についての記録だった。

 

「聖杯戦争は話が別だ。あれは昔から間桐が関わってるんだろう。そこに魔術に関して素人の光太郎を放り込もうなんて考えられない暴挙だよ。だから、あんたの知ってる限りの聖杯戦争に関することを話してもらう。この本に載ってない裏の裏まで全てだ」

 

一度目を逸らした慎二は小さく呟く。

 

「あいつばっかりに…背負わせてたまるか…」

 

そうか…と返した蔵硯はまず聖杯戦争の始まりに至ることから話を始める。慎二も聞き逃さない為にマイクロレコーダーを横に置きながらも、蔵硯の言うことを全て自分のノートに記載をしていた。

 

(儂は…こやつの強さに全く気付けなかったようじゃな)

 

自分の知らない所で成長した姿に、蔵硯は笑いたくて仕方がなかった。しかし、今の慎二が求めているのはそんな孫と祖父の間柄じゃない。慎二は魔術の間桐蔵硯に問いただしているのだ。

いずれ自分の義兄が参加する、魔術師同士の殺し合いの情報を。ならば、最後まで見事演じなければならなるまい。

 

 

それから一時間ほど経過した頃、慎二は時計を見て舌打ちすると、今まで行っていた作業を全て中断させた。

 

「時間かよ…」

 

最後に重要な今の聖杯について伝えようとした直前に、慎二は立ち上がってその場を後にしてしまう。どういうことかと尋ねようとしたが、慎二の言葉に硬直してしまう。

 

「助かった…ちょっと、ほんっの少しだけ…魔術の話が聞けて楽しかったよ。御爺様」

 

それだけ言うと振り向かずに食堂を後にした。

 

「御爺様…か」

 

果たして自分はそう言われるようなことを、あの孫たちにしてやれただろうか。あんなにも、優しく育った孫たちに…

 

「で、最後は俺ということか?」

 

感傷に浸っていた蔵硯の前に現れたのは酒瓶を持った、本日は戻らないはずの鶴野だった。

 

「お主…商談はどうした?」

「思った以上に早く片付いて終電に間に合った…ここじゃなんだからテラスにでも行くぞ」

 

 

鶴野の希望通り、場所を食堂から外のテラスへと移動した鶴野と蔵硯。月はもうすぐ沈み、あと数十分もすれば日も昇るだろう。グラスの注がれた洋酒を蔵硯の前に置くと、特に乾杯などせずに鶴野は飲みだした。つられて蔵硯も飲み始めるが、どちらかと言えば日本酒が好みである蔵硯には形容しがたい味であった。それから暫く無言の時間が続く中、蔵硯が口を開く。

 

「鶴野よ…雁夜は」

「言うな」

 

蔵硯の発現を遮った鶴野は、手に持ったグラスの中身を一気に飲み乾し、蔵硯の目を見ずに続けた。

 

「今更そんな話されたってアイツが生き返るわけじゃねぇ。それに、あいつが望んだことなんだろ。それにアンタが一枚噛んでるってことなら、この後に地獄でアンタ自身が詫びるんだな」

「カカカ…それもそうか…」

 

そんなやり取りがきっかけとなったのか、本当に他愛のない、親と息子のような会話が暫く続いた。

 

そして、ゆっくりと周囲が朝焼けに包まれ始めた時、鶴野は蔵硯に尋ねた。

 

「ここまで長く生きたんだ。もう、思い残すはないんじゃねぇか?」

「そうじゃな…」

 

だんだんと、輪郭が薄れ始めた蔵硯の顔は今までに見たことがない程穏やかになっている。

 

本当に長い時間を生きていた。

 

夢を忘れてしまうぐらいに、時間というのは自分にとって残酷だった。

 

それでも、自分の思いを託した時はこれで終わりだと諦められたが…

 

「なんでじゃろうな…今更になって」

 

 

 

 

「お主らと生きたいと考えてしまうなど」

 

 

 

 

 

ハッと振り向いた鶴野の前から、蔵硯の姿は消えていた。変わりに、蔵硯が腰かけていた椅子の上にはピクリとも動かない、小さな蟲の亡骸があった。それもやがて、日の光を浴びた途端に灰となり、消失した。

 

 

「…言うのが遅すぎなんだよ…クソ親父」

 

 

そのテラスの様子を3人は物陰からずっと見ていた。慎二の肩を借りて泣きじゃくる桜。それにつられてか、天井を見て今にも零れ落ちそうな涙を必死に我慢する慎二。

そして、手の甲に刻まれた令呪を見つめ、改めて蔵硯との約束を果たそうと誓う光太郎。

 

 

長きにわたって生き続けた魔術師 間桐蔵硯の生涯は、最後に自分自身の望みを抱いて、幕を閉じた。

 

 

 

そして、ここからが間桐光太郎の真の戦いが始まった。

 

次々と襲いかかるゴルゴムの怪人。

 

圧倒的な力で光太郎をねじ伏せた黄金の鎧を纏う青年との出会い。

 

自分の存在を確立する為にキングストーンを狙う剣聖の猛襲。

 

 

度重なる戦いの中で、光太郎は地下室に描かれた魔法陣の前に立ち、呪文の詠唱を始めた…

 

 

 

 

 

 

 

ライダーはゆっくりと目を開く。桜を視界に入れないように眼帯を外し、魔眼殺しの眼鏡をかける。

時計を見ると午前2時過ぎ。

隣で穏やかな寝息を立てている桜と寝てから4時間弱が経過したころだろうか。

 

 

(長いようで、とても短い夢でしたね)

 

立ち上がったライダーは部屋のカーテンを開け、夜空を見上げる。これと同じ空の下で、マスターは幾度となく死闘を演じたのだろう。それも、最後に蔵硯との約束のためにあんな

重荷まで背負い…

 

(私のマスター…コウタロウ。貴方は…)

 

と、思考を中断したライダーはあることに気付く。今、この家に光太郎はいない。すぐに霊体化し、間桐家の屋根に上がったライダーは、自分のマスターの居場所をすぐに特定する

ことに成功する。しかし、問題は今光太郎が一緒にいる『存在』だ。

 

「コウタロウ…!!」

 

戦闘装束へと変わったライダーはマスターの元へ駆け付けるべく、その俊足で地を蹴った。

 

 

 

そして、光太郎は…

 

 

「奇遇ってわけではなさそうだね」

「…………」

 

光太郎の言葉に反応を示さず、相手はただ黙って光太郎を見つめるだけだ。

 

 

新都へ続く長い鉄橋の中心に、間桐光太郎と赤い弓兵、アーチャーが対峙していた。




過去編というなの蔵硯編の終了です。

さて、本編戻って早速現れた彼との会合はお話で終わるのか、それとも…?

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