Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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靖子さんによる戦隊追加メンバーはなんであんなにも個性豊かな人々が出てきてしまうのでしょうかw
特命の森の番人や、侍の寿司屋など…

鎧武のミッチ、救いの道はあるのか…

感想とは全く関係のない前哨戦の36話をどうぞ!


第36話『世紀王の衝突』

「なにやってんだよ光太郎!」

「あ、信彦…」

 

河原で膝を抱えていた秋月光太郎は背後に立っていた少年の名を呼んだ。少年…秋月信彦は笑いながら光太郎の隣に腰を降ろすと、何の前触れもなく光太郎の背中を手のひらで思い切り叩いた。あまりの痛みに仰け反った光太郎は不意打ちを仕掛けた親友に抗議する。

 

「いってぇッ…いきなりなんだよ!?」

「父さんから聞いた。光太郎が養子だって」

「……」

 

信彦の一言で先程までの怒りは一気に冷め、信彦に発見される前ように俯いてしまう。

 

「…僕、信彦とは双子だと思ってた」

「だよなぁ。生まれた日も時間も場所も一緒なんだし。逆に他人なのが怪しいくらいだ」

「うん…他人、なんだよね」

 

幼い子供が知るには残酷な事実だった。

 

父と思っていた人物のアルバムを眺めていた光太郎は新生児である自分と信彦の写真を発見する。それぞれが別々の夫婦に抱かれており、写真の中では光太郎の姓は『南』と書かれていたを不思議に思った光太郎はさらにページを進めた。二組の夫婦と共に様々な場所での写真が収められていたが、突如一組の夫婦の写真がなくなり、以降は光太郎と信彦、そして両親が妹である杏子の誕生を祝っている写真となっていた。

 

写真を持って総一郎に問い質すが、一向に口を開こうとしなかった。それでも食い下がる光太郎にやがて観念した総一郎は落ち着いて聞きなさいと言葉を添えて、ゆっくりと説明した。

 

光太郎は本当の子供ではなく、親友夫妻の子供であると。

 

話を聞き終えた光太郎は写真を手放すと、総一郎の静止に耳を貸さず、家を飛び出してしまった。

 

 

 

「光太郎は悩むといっつもここにくるよな~。前も家の花瓶をつい壊しちゃって母さんに怒られた時だって…」

「…家族じゃない子供が壊したんだから、怒って当然だったんよ…」

「……」

 

だから、もう迷惑をかけることはできない。家にもいられない。だって、本当の子供ではないんだから。

 

秋月の家にはもう戻らないと決めた光太郎の頭部に激しい痛みが走る。突然の衝撃に頭部を押さえながら顔を上げると、隣にいた信彦が額を押さえてのたうち回っていた。どうやら光太郎の頭部に頭突きを繰り出したらしい。

 

「~っ!さっきっから何がしたいんだよ信彦!!」

「うるさい!俺だって痛いんだからお相子だ!!」

 

赤くなった額をさすり、信彦は再び光太郎の隣に座る。

 

「本当の親とか、家族じゃないとか、そんなの俺は知らない!お前は『秋月光太郎』で、俺と杏子の兄弟だ!!」

「だって…僕が家にいても迷惑を…」

「父さんと母さんが一言でも迷惑だなんて言ったか?それにワザとじゃなくても怒られるのは普通なんだよ。俺なんか父さんの大事にしてたゴルフクラブ使って庭で槍投げしてたら拳骨5回くらったぞ!」

「……………」

 

明らかに不意の事故や悪戯の範疇を超えた行動に光太郎は開いた口が塞がらなかった。そして、兄弟の無茶苦茶な例えに思わず笑い出してしまった。

 

「…何がおかしいんだよ。よーするにだ!!」

 

立ち上がった信彦は自分を見上げる光太郎へ、満面の笑みで告げる。

 

「ちゃんと怒ったってことはさ、何の遠慮もいらない家族じゃんか。光太郎が気にする事なんて、なにも無いんだ」

「僕が…家族でも…いいの?」

 

涙目で尋ねる光太郎に、信彦は頭をワシワシと掻きながら目をそらして答える。

 

「最初からそういってんだろ…帰ろうぜ?」

「…うんっ!」

 

 

空が茜色になる頃、光太郎と信彦は歩きながら自宅へと向かっていた。

 

「光太郎。家につく前に約束しようぜ」

「約束?」

「ああ。もう、あんなふうにいじけるのは無し!そんで悩みがあったら俺に話してくれ。光太郎の問題は、俺達兄弟の問題でもあるからな!」

「何だよそれ…じゃあ、僕からも約束。今日の僕みたいに、信彦が大変な時は僕が必ず助ける。どんな時も!」

「へっ!そんな時は一生こないだろうけど…いいぜ」

 

 

 

 

 

 

 

約束だ、光太郎!

 

 

 

 

 

 

「信彦…」

 

間桐光太郎は目前に現れた自分と同じようにように改造手術を受け、変わり果てた姿となった親友の名を口にする。秋月家の墓を背後に立ち尽くすシャドームーンは一歩、また一歩と光太郎達へ近づいていく。

 

戦闘装束となり、身構えるライダーだが、光太郎は変わらずにただ接近するシャドームーンを見つめるだけだった。

 

やがて光太郎達とシャドームーンの距離が3メールを切った頃、シャドームーンは冷たく、低い声で呼ばれた光太郎はビクリとする。

 

 

「寝言は止めて貰おうかブラックサン」

「…っ!?」

「確かに素体となったのは秋月信彦であることは間違いない。だが、今貴様の前にいる私はゴルゴムの世紀王、シャドームーン」

 

 

光太郎達に向けて、ゆっくりとした動作で掌を向ける。

 

「貴様から太陽のキングストーンを奪い、新たな創世王となる男だ」

 

言うと同時に掌から放たれた緑色の雷撃が光太郎とライダーの周りに放たれた。防御を取る光太郎達の周りを走る攻撃により草木が燃え上がり、一瞬で灰と化してしまった。

攻撃が止まったことを確認し、ゆっくりと目を開ける光太郎の目に映るのは、今度は手をゆっくりと下ろしてこちらの出方をまっているかつての親友の姿。

 

理解している。先の攻撃は先制でも不意打ちでもない。ただ、光太郎に発破をかけただけなのだ。その証拠に、電撃は光太郎は勿論、ライダーに掠りもしていない

 

硝煙の中で光太郎は拳を強く握ると、一歩前へ進んだ。

 

「コウタロウ…」

「少し…早まっただけさ」

 

 

光太郎は振り向かずに、自分の後で心配するライダーに小さい声で答える。さらに一歩進み、腹部にエナジーリアクターを出現させた光太郎は自らを変える言葉と共にもう一歩進んでいく。

 

「―――変身」

 

エナジーリアクターから放たれた赤い閃光が光太郎をバッタ怪人へ、そして黒い戦士へと姿を変える。

 

(……貴方は、戦えるのですか)

 

ライダーは不安を抱いていた。今の光太郎の精神状態は、全力で戦えるものではないからだ。

 

光太郎が多くの人々を守る為に戦いを始め、強くなった事は、彼の過去を見たライダーが一番理解している。自分と同じような悲しみを背負わせないという信念も、決して揺るぎない決意だ。

しかし、だからと言って彼は自分に起きた事を全て乗り越えた訳ではない。

過去では相手が追った傷を見ただけで戦意を喪失していた時期もあったが、今ではちゃんと戦えている。『戦えている』ようになっただけで、全てを克服できた事には決してならない。戦意を喪失する原因となった目の前で養父が殺された事も、巻き込まれた養母と義妹が暗殺された事も、光太郎を助ける為に自らを犠牲にした義兄弟の姿も、彼は絶対に忘れることはできない。

 

その証拠に、学校での事件の時は、ビルゲニアの口から「もう一人の世紀王」の名を聞いた時、動揺した光太郎は決定的な隙を作り、セイバーの救援がなければ死んでいたかもしれなかった。

 

(コウタロウ…)

 

 

光太郎とシャドームーンの距離は既にお互いの攻撃がすぐにでも撃ち出せる間合いとなっていた。

 

 

「…………」

「見せて貰うぞ。貴様の力」

「……トァッ!!」

 

先に打ち出したのは光太郎だった。強く握った右拳を、シャドームーンの胸板に叩き付ける。そして一発では終わらない。右拳を引いた直後に今度は左拳を続けて突出し、再度右拳を繰り出す―――

徐々にスピードを上げていく拳の連打。その速さは光太郎の腕が複数に見えてしまう、まさに拳の弾幕だった。しかし、

 

 

 

「ウオォォォォォォォッ…!!

「…これはなんのつもりだ?」

 

 

背筋が凍るような冷たい声に光太郎の拳が止まる。

 

その一撃で怪人に大きなダメージを与える光太郎のパンチ。それを受け続けたシャドームーンはそこから一歩も動いていない。それどころか傷一つ負わせることすら出来なかった。

 

「そん…な」

「まさか貴様がやっていたのは、こういうことなのか?」

 

ダメージを一切与えていないことにショックを受ける光太郎に対し、シャドームーンはゆっくりと手の甲を光太郎の胸板を小突くように『触れた』

 

光太郎はそれだけで吹き飛んだ。

 

身体をくの字に曲げて数メートル後にあった木に背中を叩き付けられた光太郎。衝撃を吸収しきれず、光太郎が根本に落下すると同時に直径2メールはあろう木はメキメキと音を立てて倒れてしまった。

 

「グ…これほどの…力がある、なんて」

 

攻撃を受けた胸を押さえながら立ち上がろうとするが、身体に力が入らず膝を付く光太郎。シャドームーンは見下ろす光太郎の首を片手で掴むと、ゆっくりと持ち上げていく。

 

「が、あぁ…」

「何を驚くことがある?キングストーンを持つ者ならば、あの程度のことなど造作もあるまい。このようにな…」

 

吊るされるように持ち上げられた光太郎の身体に、緑色の電撃が駆ける。先程のように加減された力ではない。目が瞑れてしまう程の閃光を放つ電撃が、全身をズタズタに引き裂くような痛みが光太郎を襲う。

 

「ウワアァァァァァァァァァッ!!」

 

響き渡る光太郎の絶叫。ライダーは震えながらその状況を見ていた。否、見ているしか出来なかった。

 

(なぜ…なぜ動いてくれないんですか!?)

 

その身は神代の時代に多くに人間から畏怖の対象とて見られた力を持った存在。聖杯戦争のサーヴァントとして規格外の力を持って現界した自分が、目の前にいる敵に対して『恐怖』しか抱けなかった。手と足は震え、絶対に敵わないと本能が先程から告げている。

 

(動いてください…このままでは、コウタロウが…)

 

必死に動くよう自分に告げるライダー。その合間に電撃を止めたシャドームーンは身体のあちこちから煙を上げ、ぐったりと項垂れる光太郎を放り投げた。

 

「…貴様の力はその程度なのかブラックサン」

 

仰向けに倒れた光太郎は答えない。先程と変わらず、身体から煙を上げて動くことはなかった。

 

「ならば、このまま貴様の持つキングストーンを頂こう。幕切れは、呆気のないものだな…」

 

倒れたままである光太郎のエナジーリアクターに手を伸ばすシャドームーン。その手が今にもキングストーンが宿るベルトの中心に触れようとしていたが、鎖が突如シャドームーンの腕柄に絡まり、光太郎から引きはがした。鎖の伸びる方向へ目を向けるシャドームーン。その先には震えながらも鎖を両手で引くライダーの姿があった。

 

「部外者がなんのつもりだ…?」

「理由など…貴方が私のマスターに触れようとした…それだけで十分です!」

 

激昂して叫ぶライダー。眼帯を外して、視界にいれることでシャドームーンを石化を目論んだが、一向に硬化する気配はない。キングストーンの加護がシャドームーンを守っているのだろう。

 

「亡霊どころか聖杯の起こした現象如きがこのシャドームーンに触れるなど…」

「なッ!?」

 

鎖で縛られた腕を引き、逆にライダーを引き寄せたシャドームーンは光太郎にしたように、ライダーの首を片手で掴み、吊し上げた。

 

「く…ぅ…」

「苦しいか。ならば解放してやろう。聖杯戦争からも、ブラックサンからもな」

 

残る掌に電撃を収束し、球体のエネルギーを生成したシャドームーン。ライダーの頭部へとゆっくりと近づけると、ライダーの表情が変わった事に気付く。

 

 

 

 

それはシャドームーンがこれからライダーへ繰り出そうとする攻撃への恐怖ではない。シャドームーンの背後で、立ち上がった者の姿への驚きだった。

 

 

 

 

「コウタロウ…」

 

 

 

 

ライダーの言葉と共にシャドームーンの肩を掴んだ光太郎。その際に、掴まれたシャドームーンは自身の肩に『激しい痛み』が走る事に驚愕を隠せなかった。

 

 

「ッ!?」

 

シャドームーンが急ぎ振り返った途端だった。シャドームーンの頬を光太郎は拳を思い切り叩き付けた。

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

 

拳を受けたシャドームーンはさらに驚く。拳を受けても自分は倒れずにいた。しかし、自分を殴った相手との距離は5メートル以上の距離がある。疑問を抱いたシャドームーンは自分の足元を見てその理由を理解した。

 

光太郎と自分の間に、抉るようにできた線が2本あった。それは光太郎の攻撃を受けきれず、足を引きずったまま吹き飛んだ結果できた抉ってできた線だ。

 

「大丈夫か、ライダー!?」

「は、はい…この恰好、2回目ですね…」

 

シャドームーンを吹き飛ばした際に落下したライダーを抱き止めた光太郎。学校の屋上から落下したライダーを両腕で抱き止めた時と状況が同じことに苦しみながら軽口を告げるライダーに安心しながら、光太郎は木の根にゆっくりとライダーを寝かせる。

 

「…ここで待っていてくれ」

「…はい」

 

微笑んで返事するライダーに頷いた光太郎は立ち上がり、再びシャドームーンと対峙する。

 

「それが貴様の本当の力かブラックサン」

「信彦…いや、世紀王シャドームーン!これ以上、その身体で俺の大切な人を傷つけることは許さん!!」

「なるほど。この素体を気遣って全力を出せなかったということか…舐められたものだ」

 

静かに怒りを露わにするシャドームーンは握りこぶしを拳を作ると、緑色のオーラが宿っていく。光太郎が受けた緑の電撃とは比べものにならない力を感じられた。

 

「…ならばこちらも!」

 

両腕を広げ、エナジーリアクターの上で両拳を重ねる。ベルトの中心から赤い閃光が放たれた直後、左腕を腰に添え、右腕を突き出した構えから両腕を大きく右側に振るい、右頬の前で両拳を作る。さらに右拳を力を込めて握り、赤いエネルギーが収束していく。

 

 

「ライダーァ―――」

 

「シャドー―――」

 

 

『パァンチッ!!』

 

 

 

 

同じキングストーンの力を宿した拳が、大気を震わせながら衝突した。

 

 

「ハアァァァァァァッ!!」

「オオォォォォォォッ!!」

 

雄叫びを上げ、互いの拳をぶつけ合う光太郎とシャドームーン。力は全くの互角だった。だが…

 

「…っ!?」

(なん、だ?)

 

突然何かに気付いたかのように後を振り向くシャドームーンの姿に疑問に思いながらも光太郎は更に拳に力を込めた。

 

(このまま、押し切る……ッ!?)

「クッ!?しまった…!!」

 

シャドームーンは急いで光太郎の方へ向き直り、同じように拳に力を込めるが既に遅い。光太郎が優勢となり、もう少しで押し切れるその時だった。

 

光太郎の脳裏に走るビジョン。それは自分の記憶ではない。ぶつかり合うキングストーンの力を通じて流れてくるシャドームーンの記憶だった。

 

 

 

そこは思い出したくもない。光太郎を改造人間へと変えた忌まわしいゴルゴムの神殿だった。

 

自分を見下ろす、醜い笑みを浮かべる三神官。彼らに向かい、幼い信彦は覚悟を決めて言い放った。

 

 

 

『それでは、これから貴様に月の世紀王の記憶を植え付けるぞ』

『いいぜ…なってやるよ。世紀王にも、創世王にもな』

 

そして神官の不気味な手が、信彦の視界を覆った。

 

 

 

「こ、これは…」

「隙ありだ!ブラックサンッ!!」

 

 

 

力を緩めてしまった光太郎の拳を押切り、シャドームーンのパンチが光太郎の胸板に激突する。

 

「グアァァァァァッ!!!」

 

攻撃を受けた光太郎は地面を転がり、その姿は元の姿へと戻ってしまった。

 

「コウタロウッ!?」

 

魔力を抑える為に服装を私服へと戻したライダーが駆け寄り、光太郎を抱き起した。再び胸板にダメージを負った光太郎は苦しそうに呼吸している。

 

 

「ブラックサン…なぜ、途中で力を弱めた?」

 

まだ余力を残しているシャドームーンはゆっくりと近づく。気付いたライダーは弱っている光太郎を庇う抱きしめ、敵わないと分かっていても手に短剣を握る。

 

「答えてくれ…信彦。お前は…自ら、シャドームーンになったのか?」

 

ライダーの肩を借りて立ち上がり、弱々しく尋ねる光太郎に、シャドームーンは何の躊躇もなく、答えた。

 

「その通りだ。脳改造前後の記憶は曖昧ではあるが、私は自ら望んで世紀王となった。それ以前に、貴様と家族として過ごしたことも覚えている」

「だったら…!!」

「だが、それがなんだというのだ?」

「あ……」

 

シャドームーンの言葉に、光太郎は凍りつく。

 

もし、記憶を書き換えられたというのなら、何かをきっかけに思い出させる事ができるという希望があった。

 

しかし違った。

 

シャドームーンは、秋月信彦は、光太郎との思い出を持ちながら、人格が書き換えられていた。さらに、それは信彦本人が望んだ結果だった。

 

「過去に家族であったことなど関係ない。創世王の座をかけて殺し合う。それが我々の宿命なのだ」

「待ってくれ…待ってくれ信彦!!」

「今日はここで引いてやろう。だが、次に戦う時はいつでも先程の力を何時でも出せるようにしておくことだ。私も、今以上の力を持って挑んでやる」

「信彦ォッ!!」

 

手を伸ばす光太郎の言葉を聞かず、シャドームーンは振り返ると同時に、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

ライダーに応急処置を受けた光太郎は、彼女と並んで墓の前で手を合わせる。段取りは違ってしまったが、当初の目的は達成したことになる。

 

「…コウタロウ。先程、シャドームーンが言った事は…」

「ああ、間違いじゃない。キングストーンを通して、見えた。信彦は自ら選んだんだ」

 

光太郎は腹を摩りながら、自分の見た信彦の過去を思い出す。

 

「もう…引き返せない。あいつがそう望んでいたのなら、この世界を邪悪に染めるというなら、俺がこの手で止めるしか」

 

例え兄弟のように育っても、この世界を滅ぼすことに加担するのであれば…自分のこの手で…

 

「強がるのは止めてください」

「ライダー。俺は強がってなんか…」

「なら、小鹿のように震えているこの手はなんですか?」

 

ライダーに指摘されて、光太郎は自分が震えて…怯えていることにようやく気が付いた。必死に誤魔化そうと手を覆い隠すが、震えは一向にやまない。

 

「コウタロウ…教えて下さい。貴方の、本当に望むことを」

「…いよ」

 

ライダーは黙って、光太郎の言葉に耳を向ける。

 

「助けたいよ!信彦を!!けど、駄目なんだ…あいつを動かしているのは、世紀王として俺を殺して、この世界を征服することだけだ!!どうすれば、どうすればいいんだ!!どうすれば…信彦を救えるんだ…」

 

泣くように告げられた望み。例え変わり果てた姿でも、かつての家族を、親友を取り戻したい。光太郎の本心を聞いたライダーは墓前で嘆くマスターの振るえる手を優しく包んだ。

 

「ライダー…?」

「まだ諦めないで下さい。マスター」

 

優しく、諭すようにライダーは光太郎の耳元で話を続ける。

 

「確かに、シャドームーンは貴方と戦うことを望んでいる。まるでそれしかないように」

「そうだよ…俺との記憶が、思い出があっても。だから」

「ですが、過去を蔑ろにする輩が、この場所に…家族の墓前に立っていたでしょうか?」

 

ライダーの言葉を聞いてハッとする光太郎。そして立ち上がり、先ほどまで激戦を繰り広げた森林の方へと振り返る。

 

「そんな…まさか…」

 

信じられないような目で倒れ、焼きただれた草木に目を向ける。戦いの傷跡は、ある一定の範囲でしか付けられていない。

 

「そうです。秋月家の思い出の場所を極力戦いに巻き込まないように、貴方を森の奥へと追いやりながら戦っていましたそして、なにより…」

「俺と拳をぶつけ合った時に振り返ったのは…」

 

そして、今度は家族が眠る墓石へと視線を移す。

 

あの時、互いの攻撃をぶつけ合った位置はシャドームーンの背後は墓石のある方向であった。もし、あのまま気にせず戦っていたのならば、衝撃波で墓を傷つける結果となってしまったかもしれない。だから、シャドームーンは振り返って墓石を確認したのだろう。

 

「じゃあ、信彦は…」

「無意識かもしれませんが、彼にはまだ家族として残った思い出が強く残っている。ですから、光太郎が強く彼を説得し続ければ…」

「まだ…間に合う」

 

光太郎の頬に一筋の涙が通る。諦めたつもりだった。しかし、まだ希望がある。そう気付いた時、光太郎は泣きながら、ライダーを抱きしめていた。

 

まさか抱きしめられると思わなかったライダーは顔を赤くして狼狽えながら呼び掛ける。

 

「あ、あの、光太郎…!ご家族の前ですし、ここは…」

「ありがとう、ライダー。希望をくれて…」

「…はい」

 

静かに泣いているマスターの背中に、ライダーはそっと手を回した。

 

 

 

待っていてくれ信彦…

 

 

 

約束は、絶対に守ってみせる。




我が家の世紀王の本気はこんなものではございません。まだサタンサーベル使ってもいないので…というか強くあって欲しいので…

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