ちょいとずつプレイ中ですが、バロンさんが以外に使いやすくてビックリ!コンボも軽く1000超えちゃうし。
そしてタジャドルさん…貴方の必殺技は…そうじゃない、そうじゃないんだ…
では37話です!
仮面ライダーブラックこと間桐光太郎との戦いを終えた世紀王シャドームーンはゴルゴムの秘密基地へと帰還し、玉座へと座していた。
肘掛けに預けていた腕をゆっくりと上げ、光太郎の拳を受けた頬に触れる。
(自身以外が傷付かなければ力を発揮しない…相変わらずなことだ)
腕を下ろしながら宿敵であるブラックサン…光太郎が自分を吹き飛ばす程の一撃を繰り出した経緯を思い出す。自分がどれ程傷つこうが耐え、身近な人が傷ついた時にしか感情を爆発させない。本当に、昔から変わっていない。
(それゆえに真の力が出し切れないのが、貴様の弱点だ)
だからこそ今のままでは、勝負にもならない。
自身の力をコントロール出来ず、100%の力を出せない者に勝っても意味がない。
光太郎とは対等の力でぶつかり合い、その上で勝利してキングストーンを奪う。
それが世紀王となった彼の願いであり、勝利した時こそ、自分が世界を統べる創世王となる瞬間なのだ。
「ブラックサン…貴様には強くなって貰うぞ。我が宿敵として…」
相手の成長を願うシャドームーンの脳裏に、自分と同じ事を口にした存在の言葉が過ぎる。
『貴様の相手はまだ成長の過程にある』
サタンサーベルを回収した際に遭遇した、本来は存在しないはずのイレギュラー。黄金のサーヴァントが去り際に言い放った言葉だった。
「…見透かしたような事を言ってくれるな。あのサーヴァントは…」
サーヴァントの意味深な含み笑いを思い出し、不快な気持ちとなるシャドームーンは自分の座する玉座に近づく3つの気配を感知する。
「…ダロム達か?」
『ハッ…』
シャドームーンの声を聞き、3人は一斉に跪く。彼らの姿は、白いローブで身を包んでいた神官でなく、怪人となっていた。
創世王の命令により、三神官は命とも言うべき『地の石』『天の石』『海の石』をシャドームーン復活の為に捧げたことで命を失うはずだったが、神官となる以前の姿を取り戻すことで
より力くなり、より凶悪な姿となって生まれ変わったのだ。
三葉虫の大怪人ダロム
サーベルタイガーの大怪人バラオム
翼竜の大怪人ビシュム
リーダーであるダロムはさらに不気味となった顔を上げると、シャドームーンへ報告を上げる。
「今回、冬木市で行われている聖杯戦争。そこで再現される聖杯について調べておりましたら、ぜひお耳に入れておきたいことがわかったのです」
「ほう。他の贋作と同じように膨大な魔力が発生する…というだけではなさそうだな」
ダロムは己が仕入れた冬木に出現する聖杯について報告する。その特性故に、10年前に起きた事件も含めて、ダロムの報告を聞いたシャドームーンは手に顎を当てフム…と呟く。
「…つまり聖杯を利用すればゴルゴムに忠誠を誓う者以外の抹殺が容易く行えるという事か」
「左様にございます!」
「では、それは誰による情報だ?」
「は?」
シャドームーンの言葉にダロムは思わず間抜けな声を上げる。一歩下がって膝を付いているバラオムとビシュムもしまったと言わんばかりに顔を合わせる様子を見て、シャドームーンは確信を持ってダロム達が隠しているであろう事実を問い質した。
「お前の言う通り聖杯に異常があり、それを生かせる事は事実だろう。だが、聖堂教会や魔術協会にいる隠者共ではそれほどまでの情報は有していまい。その聖杯に『直に触れた者』でしか分からない内容であろう」
「そ、それは…」
「いるのだろう?情報を流した者が。ゴルゴムのメンバーではない『人間』が」
「…ッ!?」
挙動不審となる大怪人達。ゴルゴムは忠誠を誓った以外の人間を抹殺せず、接触を行う事は死刑の対象となる鉄の掟があった。その掟を大怪人であるダロム達が破った事はゴルゴムを揺るがす程の、下手をすれば『創生王』の怒りすら買う恐れがあることだったが、シャドームーンは特に咎める様子もなく、命令を下した。
「連れてこい。その者を」
深山町の住宅街
間桐光太郎とライダーは、慎二達との待ち合わせ場所を目指して肩を並べて歩いていた。
シャドームーンとの戦いを終えた光太郎とライダーは秋月家が眠る場所から離れた後、冬木に戻り慎二と桜に約束通りに外食をするので商店街のレストランで待ち合わせようと連絡し、家に帰ってバイクを置きにいく時間が惜しいと付近の駐車場にバイクを預けて徒歩で向かっている。
「……………………」
「……………………」
歩き始めてから2人に会話は全くない。傍から見たら何故2人は無表情で全く同じ速度で歩いているのか不可解な姿ではあるが、お互いに心中は穏やかではなかった。
(い、勢いとはいえ抱きしめてしまった…)
(雰囲気に乗ってあのまま5分以上も身を任せてしまうなんて…)
((は、恥ずかしい……!!))
中学生ですら鼻で笑う理由で気まずくなっていただけであった。この場に義兄妹がいたのなら、義弟は呆れ、義妹は口を押えて微笑んでいるだろう。そんな光景が目に浮かぶ光太郎はクスリと笑うと、隣にいるライダーが不思議に思い、首を傾げながら尋ねる。
「どうしたのですか?」
「あ、いや、思い出し笑いさ。もし2人が俺達を見たらどうからかう、なん、て…」
やっと会話が出来たと思った矢先に墓穴を掘った光太郎は激しく後悔した。現にライダーは一瞬にして顔を赤くして顔を背けてしまった。どうすればいいと悩む光太郎だが、そんな余裕はなくなってしまった。それはライダーも同様であり、2人はゆっくりと周囲を見渡す。
「…囲まれましたね」
「ああ…」
光太郎とライダーの周りに他の人間の気配がまるで感じられない。その変わりに現れたのは2人を囲うように現れた大勢の骸骨の兵士だった。
「あちらから仕掛けてくるなんて…焦り始めたのか」
「こちらを倒せると踏んだ…のかですね」
背中を合わせる2人に、骸骨の兵…竜牙兵は手に持った武器で襲い始める。
「トァッ!!」
「ハッ!!」
光太郎の拳と足が、ライダーの鎖が迫り来る骸骨を次々と粉砕する。竜牙兵はどこからともなく、次々と出現するが2人の敵ではなかった。しかし、竜牙兵の群に隠れて攻撃を仕かけてきた姿を見て
光太郎は驚き、防御のタイミングを逃してまともに受けてしまう。
「グハッ!?」
「コウタロウ!!」
竜牙兵を蹴散らしながらも光太郎の名を叫んだライダーは、彼を攻撃した者の姿を見る。それは、他の竜牙兵と同じく骸骨で構成されていた。だが、他の竜牙兵と比べ体躯は一回り大きく、動物に似た特徴を併せ持つ骨格をしていた。特に目立つのは頭頂部にある一対の角だ。そこから連想される本来の姿が、ライダーに嫌な記憶を思い出させる。
「あれは…バッファロー怪人?」
「どうやら、そのようだね」
立ち上がった光太郎に向かい、骨の怪人は再び突進を開始した。
「そう同じ手は通用すると思うなよッ!変、身ッ!!」
跳躍すると同時に姿を黒い戦士へと変わった光太郎は突進する骨の怪人が突き出していた角を両腕で掴み、膝蹴りを怪人の頭部へと叩き付け、粉々に吹き飛ぶ。しかし、頭部を失いながらも怪人は膝蹴りを繰り出した状態の光太郎を両腕で拘束し、そのままコンクリートの外壁を目掛けて突進を続けた。しかし、そのまま攻撃を許す光太郎ではない。手も足も塞がっているが、相手と違い頭がある。
狙いは身体を拘束している怪人の腕の延長上にある肩。右肩の関節部に目掛けて光太郎は自分の額を思い切り叩き込んだのだ。怪人の右肩が砕けたと同時に光太郎の身体を拘束した右腕が音を立ててアスファルトに落下すると同時に光太郎は強引に脱出し、外壁に衝突した怪人の背中目掛け、左足を軸に回し蹴りを放った。
光太郎の攻撃を受け、骨の怪人は他の竜牙兵と同様に今度こそ粉々に砕けたのであった。
ライダーの方へと目を向けると、鎖を手に持ったまま光太郎の元へと駆けて来た。どうやら骨の怪人と戦っている間に竜牙兵全てを倒したらしい。
「こちらも粗方片付けました」
「お疲れ様。しかし、理屈は分からないけど怪人の骨まで操るなんて…侮れない相手だな」
「あら、褒めてくれるなんて嬉しいことを言ってくれるのね」
声の聞こえた方へ同時に視線を向ける光太郎とライダー。そこには先ほどと同じ多くの竜牙兵と、バッファロー怪人とは別個体であろう骨の怪人を率いた者が立っていた。黒いローブで身を包んでいるが、声からして女性だろう。だが、彼女が纏う独特の雰囲気が『人間ではない』ことを光太郎とライダーに教えてくれている。
間違いなく、サーヴァントだ。
「キャスター…か」
「御名答。知ってくれているなんて嬉しいわ。世紀王ブラックサン…でいいのかしら?」
「…その名前で呼ばれるのは好きじゃない」
「あら、これは失礼。貴方の汚らしい黒い姿にぴったりのお名前と思ったのだけど…」
ローブで覆っているので表情は読み取れないが、彼女は間違いなく笑っている…嘲笑という方が正しいだろう。自分のマスターを侮辱されているとライダーは鎖を握る手に力が籠るが、光太郎はそれを手で制し、キャスターに向かい声をかけた。
「幾つか聞きたいことがある。構わないか?」
「敵が目の前にいるというのに攻撃を仕かけないで質問なんて、ずいぶんと余裕があるのね。愚かだとは思うけど、いいわ。ただし、こちらにも答えられないこともあるわよ?」
「構わないさ。まず一つ…さっきの骸骨はなんだ?俺達が倒した怪人と随分似ているようだけど」
キャスターの背後にいる骨の怪人達を見据えながら光太郎は質問した。ゴルゴムの怪人はゴルゴムにしか従わない。それがあのような変わり果てた姿でキャスターに使役されるなど考えられなかった。
だが、光太郎の疑問に彼女はさも当たり前のように答えた。
「それにはまず貴方達に御礼を言わなければならないところね。この怪人型の竜牙兵は貴方達が倒した怪人を元に、私が生成したのだから」
「そんなことが…」
「出来るわ。理屈は簡単。貴方が怪人を倒して、怪人が燃焼する時…その命が正に燃え尽きる前に『魂喰い』をさせてもらっていたのよ。その魂の情報を元に作ったというわけ」
「な…ッ!?」
これに驚いたのはライダーだった。ライダー自身にも魂喰いするための宝具を所持しているが、それには『領域』が必要となる。ライダーが展開できるのは精々数キロが限度だ。彼女が言う通り、光太郎が倒してきた怪人を魂喰いをしていたなら、彼女はその領域を冬木全土に展開していることになる。それ程の術式が展開できるなんて、伊達にキャスタークラスとして召喚された訳ではないということなのか…
「…なるほど。それなら、2つ目の質問の答えになったよ」
「気になるわね。取りあえず聞かせてくれるかしら?」
「ああ。なんで俺達の前に現れたのかと聞こうとした」
「あら、これは戦争なのよ?何時、どこで敵に仕掛けようが不思議はないはずよ?」
「最もな意見だ。けどそれが『キャスター』以外の場合だ。これが『ランサー』や『バーサーカー』…まだ見ていない『アサシン』であったなら何時奇襲を受けてもおかしくない。けど、魔術を主として仕掛けてくるキャスターが前に出てくるなんて、余程の力を持ったか、相手に有効な手段を手に入れた時だけのはずだ」
「………………」
光太郎の言葉にニヤニヤと笑いを浮かべていたキャスターの表情が固まる。自分の考えが当たったのだろうかと、光太郎はキャスターの出方を待っていた。光太郎は慎二から相手がキャスターだった場合、想定される事を耳にタコが出来る程に聞かされていた。魔術に対して何の耐性のない光太郎は、キングストーンの加護がなければ簡単に相手の術中にはまると言われまるで反論出来ず、慎二の話を頭に叩き込んでいた。その中でキャスターは前衛よりも後方支援か、自分の工房から一歩も出ないと聞かされていた事を思い出したのだった。
「…以前、ビルゲニアが多くの怪人を蘇生させた。あいつらを倒した時にも魂喰いを起こしていたとしたら…それに、最近新都で多発しているガス漏れによって多くの人が意識不明になるまで衰弱事件が相次いでいる。これも合わせたなら」
「彼女が持つ魔力量は…想像を絶しますね」
ライダーは無言のまま光太郎の話を聞いているキャスターを見る。もし、光太郎の推測通りならば彼女が堂々と自分達の前に現れたことに頷ける。多くの人間が死ぬギリギリまで,そして学校で光太郎が倒した30体以上の怪人…それ以前も合わせば彼女は聖杯戦争を勝ち抜けても余りある魔力を所持していることになるのだ。
「フフフ……」
「…?」
「アハハ…アハハハハハハハハ!!」
突然、キャスターは腹を押さえて笑い出した。本当に愉快にそうに、笑い出した。その笑い声を聞いていた光太郎は彼女が突然笑い出した事を疑問を抱く以上に、嫌な予感だけが膨れ上がっていくように思えたのだ。
ようやく笑い終えたキャスターは目元を擦りながら光太郎達に向かい口を開いた。
「フフフ。正解、大正解よ貴方。本当に、どうしてここまで当たってしまっているのかしら?貴方、『未来視』でも持っているの?」
「…なんの、ことだ?」
「言った通りよ。貴方の言う事は『全て』当たっているって」
ゆっくりど横へと移動するキャスター。その意図が読めない光太郎とライダーは次の瞬間に凍り付いてしまった。それは光太郎の言っていた『相手に有効な手段』をキャスターが見せたためであった。
キャスターの背後にいた怪人型の竜牙兵が2体いた。その手には、寝むらされていた慎二と桜がいたのだ。
「慎二くッ――」
「サク――」
2人は意識を失っている慎二と桜のの名を最後まで呼べることなく、敵の不意打ちを受けてしまった。
光太郎は背中を剣で斬られ、前のめりに倒れてしまった。
ライダーは何の気配も感じられないまま、相手の軌道の読めない打撃を受け続け、地に沈んだ。
光太郎とライダーは、自分達を襲った相手を見上げる形で視界に移す。そこにいたのは、意外過ぎる人物だった。
「ビルゲニア…!?なぜ…」
「貴方は…シンジとサクラの学校の…」
光太郎を切り伏せたのは、セイバーが倒したはずのゴルゴムの剣聖ビルゲニアであった。目の焦点が合っておらず、ずっと何かをブツブツと言い続けている。慎二と桜が通う穂群原学園の教師、葛木総一郎は無言、無表情でライダーを見下ろしている。彼の拳からは魔力を感じる恐らくキャスターによって拳を強化されている。サーヴァントであるライダーにここまでダメージを与えられたのはそれゆえだろう。
「アハハハハハ…どうかしら?私の準備した、有効な手段は?」
「く…なん、だ…!?」
挑発するように笑うキャスターに怒りを向ける光太郎だったが、身体に力が入らないことに気付く。さらに、段々と全身が痺れてきていた。
「フフフ。貴方を傷つけた剣には毒が染み込んでいるわ。普通の人間であればその香気を吸っただけで命に係わるけど、貴方にはそれ程通用しなかったようね」
「くっ…」
「あら、そろそろ目が覚めるようね?」
キャスターの言う通り、意識を失った慎二と桜がうねり声を上げながら目を覚ました。同時に、自分達の置かれている状況に混乱しているようだった。
「あれ…私、みんなとお出かけする準備を…っ!?兄さん、ライダーさん!?」
「くっ…!?何なんだよ一体この状況はッ!?」
無理もないことだった。目が覚めれば自分達は多くの骸骨に囲まれて拘束され、変身した義兄とそのパートナーは倒れており、さらに死んだと聞いていた敵幹部と学校の教師が並んで義兄達を見下ろしている…説明が欲しいほどだった。
「安心しなさい。私の言う事を聞いてくれるのなら、貴方の家族は無傷で解放してあげるわ」
「なるほ、どな。それが最初から狙いか…」
ここまで仕組まれていたと理解した光太郎の全身に毒が蔓延していく。キングストーンと己の再生能力で抑えられてはいるが、回復には時間を要する。最悪の展開であった。さらにキャスターからの要求に、光太郎以外の全員が驚愕した。
「貴方の持つキングストーン…私に譲ってくれないかしら?」
キャスターの狙いは最初から光太郎の持つキングストーンだった。そのために人質をとり、不意打ちをしかけ、もはや頷くしかない状況を作り出した。毒によってさらに苦しむ光太郎の耳に、慎二の声が届く。
「逃げろ光太郎!!バトルホッパーでもロードセクターでも、ここに呼んで早く逃げろ!!!」
「そうです!私達はまだ殺されるはずはずありません!ですから」
「黙りなさい」
苦しむ義兄の耳に、キャスターの魔力を受けて悲鳴を上げる義弟と義妹の声が響く。2人は、自分に体制を立て直す為に大声を上げてくれたのだろう。キャスターの狙いは先程言った通りにキングストーンだ。
ならば手にするまで有効である人質を殺せるはずがない…そこまで読んで自分に逃げろと言ってくれたのだ。本当に、敵わない…だが、光太郎は兄妹の言葉を受けず、別の手段に打って出た。
「慎二君…桜ちゃん…ごめん。ライダー…2人を頼む」
「まさか…コウタロウ!?」
「ま、待てよッ…!?」
「兄さんっ!?」
振るわせながら腕を上げる光太郎。その黒い手の甲に、ぼんやりとではあるが、光が宿っていた。
「令呪を持って命じる…ライダー!」
「慎二君と桜ちゃんを連れて、全力でこの場を逃げ出せ!!」
光太郎の手の甲から光が消えたと同時だった。それまでの痛みが嘘のように無くなったライダーは目にも止まらぬスピードで慎二と桜の元へ移動。2人を拘束する竜牙兵を吹き飛ばすと両手に2人を抱え、倒れているマスターを一瞥する。
(コウタロウ…)
そして跳躍する。その速さは、ライダー自身の最高速すら超えるものだった。
「…まぁ、いいでしょう。本命がわざわざ残ってくれたのだから。けど…」
令呪を消費した光太郎の腕は再び地に沈んでいた。キャスターは光が浮かんでいた光太郎の手の甲に目掛け、歪な形をし、禍々しい色をした短刀を突き立てる。
『破戒すべき全ての符』
あらゆる魔術を初期化させるキャスターの宝具。その刃を引き抜いたと同時に光太郎の変身も合わせるように解除された。光太郎の手の甲には、ナイフで刺された跡以外、何も刻まれていなかった。
「これで貴方の聖杯戦争はおしまい。ゆっくり、ゆっくり時間をかけてその石を取り出して上げるわ。アハハハハハハ!!」
キャスターの笑いが、夜の街に木霊した。
間桐家
中庭に着地し、慎二と桜を下ろしたと同時に、ライダーは自分に供給される魔力が大幅に削れる感覚に陥った。今、光太郎の前にいるのはキャスター。もし、何らかの手段で令呪を消し去ったのなら…自分はそう時間をかからずに消滅するだろう。
「ライダーさん…もしかして」
「サクラ…」
弱ったライダーの様子を見て、状況を察した桜は涙目になった彼女に縋りついた。
「ごめん、なさい。私が…私のせいで兄さんとライダーさんがぁッ!!」
とうとう泣き始めてしまった桜の頭を、ライダーは優しく撫でる。言葉が浮かばない。何を言っても、もう桜を泣き止ますことが出来ない。
「……………」
その様子を見ていた慎二は黙って玄関を通り、自室へと直行した。
部屋に戻り、鍵をかけると、目の前にある本棚へ目を向ける。その本棚に並ぶ魔導書は光太郎と出会って以来、必死に解読し、桜の協力を得て術式を組み上げる事に成功している、今の慎二が実践している成果でもある。その本を、慎二は次々に手に取り、床へ叩き付け始めた。
「ウワアァァァァァァァァァァ!!」
声を上げ、床に広がった本を踏みつけていく。その目には、少しながらも涙が溜まっていた。
「光太郎のバカ野郎ッ!!かっこつけて自分だけ残りやがって!!それに、何で…何で何も出来なかったんだよ僕はッ!?こんな、こんなの読めたぐらいで…!!」
慎二が声を上げているのは自分への怒りだった。人質にされ何も出来ず、義兄の持つ貴重な令呪も消費させてしまい、さらにライダーの様子を見る限り、残る令呪すら相手に消されてしまった可能性すらある。だというのに、魔術書を読めるくらいでいい気になっていた自分に出来たのは、祖父の残した資料からサーヴァントのクラスの特徴を伝えたのみ。読めるだけで、何の役にも立たなかった。
その怒りが今までの自分が行っていた魔導書の解読へと繋がり、今のように本を投げつける形へとなってしまった。八つ当たりということも慎二は充分に理解している。だが、止められなかった。そんなことしか出来ない自分が、人質となってしまった自分の弱さが許せなかったのだ。
「こんなもの!!こんなものぉ!!」
次々と本を投げ捨てる慎二だったが、突然その行動がピタリと止まる。本棚の中に、見覚えのないものが並んでいたからだ。いや、本の厚さや背表紙には自分が所持していた物と変わらない。しかし、その本はここまで『黒かった』ろうか?
「…………」
呼吸を整えながらゆっくりとその本を手に取り、捲っていくがそこには何も書かれておらず、無地の本だった。だが、捲っていくうちに一枚のメモ帳が挟んであることに気が付いた慎二はそれを手に取ると、書かれていた内容に目を開いた。
「ライダーさん…大丈夫ですか?」
「ええ、今は落ち着いています」
リビングでは泣き止んだ桜の横で私服姿となったライダーが並んで座っていた。先程と変わらず、自分へと供給される魔力は弱い。そう、『弱い』だけで、彼女へ送られる魔力は決してゼロではないのだ。状況が掴めないライダーの前に、自室へ上がったはずの慎二が現れた。
「2人とも。光太郎を助ける作戦を立てるぞ」
突然の言葉にポカンと口を開けてしまう。ハッとした桜は立ち上がって、涙目になって慎二に抗議する。
「慎二兄さん!ライダーさんには魔力が送られないんですよ!?このままだと…いついなくなっちゃうかもおかしくないんですよ!!」
「サクラ落ち着いて…しかし慎二。もしコウタロウが助けられるのであれば、私はそれも惜しまない。しかし、コウタロウに令呪がないのなら私は…」
「さっきから消える消えるって…光太郎の令呪はまだ消えてない。ここに…ある」
そして慎二は2人の前に一冊の本を取り出す。その本を見た途端、ライダーはそこから『流れてくる』ものに気が付いた。
「し、シンジ!?これは…」
「ああ。『偽臣の書』だ」
「え?え?」
会話について行けない桜に慎二とライダーはゆっくりと説明をした。
偽臣の書
サーヴァントの指揮権を一時的に譲渡し、マスター以外の人間がサーヴァントへの命令を下せる道具である。そしてそれを生成するには、令呪を一つ、消費する必要があるのだ。
「じゃあ…」
「ああ。逆に返せば、光太郎の令呪が一つここにあるってことだ。これがある限り、遠回りだけど光太郎の力がこの本を通してライダーへ送られる」
「じゃあ…ライダーさんはまだいなくならないんですね!」
そして、慎二は先程発見したメモ帳を2人に見せる。光太郎の文字で、短く記されたものだった。
『何かあったらよろしく! 光太郎より』
その文面を見たライダーと桜は目を合わせると、揃って笑い出してしまった。
「もう…兄さんったら」
「最初から言ってくれれば、ここまで2人を不安がらせることもなかったというのに…」
「その文句はアイツを助けてからだ。もうファミレスなんかじゃ許せない。絶対にもっと高いとこで奢らせてやる…」
「あ、なら私この前新都に出来た―――」
既に助けた後の事を考えている2人の姿に、ライダーは自然と笑みが浮かんだ。本当に頼もしいマスターとその家族だと。そして表情を引き締めると、ライダーはそんなこじゃれたものよりも寿司がいいと自分のリクエストを強調している慎二の前で跪く。
「ライダー?」
「シンジ…いえ、マスター。私にコウタロウの救出する命令を」
「お、おい。マスターってなんだよ?」
「貴方はコウタロウから偽臣の書を託された。ならば、私の今のマスターはシンジ、貴方です」
慎二はライダーから目を逸らさず、ゆっくりと頷いた。手に持った偽臣の書の表紙を見て、サーヴァントへ命令を下した。
「ライダー!最初で最後の命令だ。光太郎を絶対に助け出す…その為に力を貸してくれ!!」
「仰せのままに、マスター」
間桐家の逆襲の始まりです。
結構な距離があっても偽臣書までキングストーンの力が届くのは…ほら、キングストーンだから。
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