Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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鎧武 兄さんの安否が気になるところで次回はサッカー回。おのれまた焦らすか販促回…

では短めの38話となります


第38話『工房の中で』

「――――と言うわけだからキャスターが相手になった場合は下手に攻撃を仕掛けるのは有効じゃない。だから…」

「慎二君、なんでこの本だけは何も書かれて無いんだい?」

「聞けよ人の話をッ!!」

 

聖杯戦争で争うであろう相手への戦略をレクチャーしていた間桐慎二は自分の話を無視して無地の本を手に取る義兄を怒鳴る。悪そびれた様子もなく、義弟へ尋ねる光太郎の姿に溜息をついた慎二は資料を放りだし、桜が用意したお茶を啜る。休憩に丁度いいと踏んだ慎二は面倒そうに光太郎の質問に答えた。

 

「それは偽臣の書…簡単に言えば、誰でもサーヴァントの代理マスターの資格を持てる道具だよ」

「へぇ、便利なものなんだね!どうすればいいのかな…」

 

こいつは本当に理解しているのだろうかとしかめっ面で慎二は本をめくる光太郎に説明を続けた。

 

「…方法は簡単。ただマスターの権限を譲渡するって念じればいいらしい。けど令呪を一つを消費するからくれぐれも…」

「あれ?本と令呪の一つが光って…」

「だから人の話を聞いてよ頼むからあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

その後、正座をさせられた光太郎は聖杯戦争前から散々聞かされた令呪についての説明を書き取りも交えて数時間、慎二の監視下の元で行われたのであった。

 

 

 

 

そんな目にも合いながらも、光太郎は慎二のいない間に自身の令呪を一つを消費させ、偽臣の書を完成させていたのだった。

 

 

 

(慎二君なら…気付くはずだ)

 

義弟達を信じて、あの場を離脱させた光太郎はゆっくりと頭を上げる。

 

光太郎が現在いる場所はキャスターが根城としている柳洞寺内にある倉の一つだ。倉と言っても相当の広さと高さがあり、柳洞寺の歴史に関する資料等を保管されていたのだろうが、今は何一つなく、倉の中央で左右の腕それぞれに天井から繋がった鎖で拘束されている光太郎と、キャスターがいるだけであった。

 

「あら、その状況で笑うとは随分と余裕がありそうね?毒を変えてみようかしら…」

「それは…遠慮願いたいな…」

 

苦笑しながらも光太郎は自分の腕に刺された点滴を見る。針とチューブはよく病院で見かけるものと変わらないが問題は光太郎に打たれている中身だ。毒々しい色をしたその液体はビルゲニアが光太郎の背中を斬り、自由を奪った剣に使われた以上の毒であった。

キングストーンが全身に回っている毒を中和し、死なない状態にあるが、その死なない代わりに毒による痙攣、動悸、身体機能の低下が光太郎を蝕んでいた。もし、キングストーンによる中和に毒が少しでも勝ってしまったら、改造人間と言えど光太郎は生きてはいないだろう。

 

「本当ならすぐにでも殺してキングストーンを取り出したいところだけど、貴方が死んでキングストーンの機能が停止する可能性も考えられる…だから生きたまま取り出す方法が見つかるまでは、大人しくしてもらうわよ」

 

クスクスと笑いながらキャスターは息を荒立てる光太郎を眺める。意識が朦朧としながらも、光太郎はキャスターに尋ねた。自分を浚った本当の狙いを。

 

「なぜ…キングストーンが必要なんだ…?君が持った所で、何の意味がある…」

「持ち主の言う言葉とは思えないわね…考えても見なさい。貴方が体内に宿しているその石…貴方の戦いの中で、どれ程の奇跡を起こしてきたか!」

 

光太郎が聞いたことを愚問であると切り捨てたキャスターは手に水晶玉を出現させると、次々と映像を映し出した。それは全て、光太郎がキングストーンを使用した戦いであった。

 

攻撃力を上げる為の補助効果。敵の放った幻影を消し去り、大爆発に耐える防御壁を生み出す。そして絶対に逃げ切れないはずのランサーの宝具を因果を打ち消し、決められた死を回避する。

 

持ち主の危機に次々と起こした奇跡を…キングストーンの力を見てキャスターは考えた。あの石はただの証ではない。サーヴァントが持つ宝具すら凌ぐ神秘性を持ち、キングストーンがあれば聖杯すら無用の長物であると。

 

「そう…その石さえあれば、私は…」

「もう殺さなくて済む…からか?」

「…ッ!?」

 

光太郎の弱々しい声に反応したキャスターの手から水晶玉が落下――するが、床へ接触する直前に光の粒子となって消えた。恐らくキャスターが魔術で造ったものなのだろう。

 

「…何を言っているのかしら?私が人間を殺す事を躊躇しているとでもいいたいの?」

「ああ…理由は分からない。慎二くんを人質に取られた時は夢中で気付かなかったけど、キャスターの笑い方は、どうも偽悪っぽいというか…似てるんだよ。俺の知っている人に」

「それ以上口を開くようなら、さらに毒を強めるわよ?」

 

ギリっと歯を噛みしめるキャスターに対して、光太郎の態度は変わらない。

 

「…キャスターがどの時代に生きて、どのような事をしていたか、俺は知らない。でも、少なくてもキングストーンを手にしようとする今のお前は、人を手に掛けた事を…極力避けているように見えた。その証拠に冬木の人々を魂喰いしながらも…1人も殺してない」

「…黙りなさい」

「キングストーンを手にすることだって…もう、『魂喰い』をする必要がないからじゃないのか?」

「黙れと言ったはずよッ!!」

 

声を上げたキャスターの手から放たれた魔力の弾丸が光太郎の身体に叩き付けられる。毒により身体の硬度を高められず、常人と変わらなくなった光太郎にそのダメージは大きかった。

 

「がっ…ふ…」

 

繋がれた鎖と共に揺れながらも、光太郎はキャスターへ声をかける事を止めなかった。

 

「ほら…こうして俺を殺しきれない…さっき言っていた『殺さない理由』だって、『殺せない理由』なんじゃないか?」

「――ッ!?貴方はッ!!」

「キャスター」

 

さらに威力の強い魔力弾を放とうとしたキャスターだったが、自身の名を呼ばれたことでピタリとその動きを止める。光太郎も声の聞こえた方へ目を向けると、キャスターの背後に細身の男が音一つ立てることなく立っていた。

 

「そ、総一郎様…」

「そう、いちろう…」

 

聞き覚えのあり過ぎる名を思わず復唱してしまった光太郎はキャスターの背後に現れた男…慎二と桜の通う学校の教員である葛木総一郎を見上げた。油断していたといえ、サーヴァントであるライダー

を拳のみで沈めた男だ。彼がなぜ、キャスターに味方していたか理由は分からない。しかし、キャスターが光太郎の言葉を否定しきれない理由は先程の態度でなんとなくだが、理解出来た。

 

「間桐兄妹の長兄か。以外な人物が世紀王になっていたものだ」

「…葛木先生からその言葉が出ること自体が意外ですよ…」

 

驚く余裕すらなくなっている光太郎にとっては、本当に驚くべき言葉だった。確かに敵からは散々呼ばれている名前ではあったが、光太郎が驚いているのは『世紀王と呼ばれた』ことではなく、『ゴルゴムの世紀王になった』という事を指摘したことだった。

 

「葛木先生…貴方は…何者…ですか?」

 

キャスターから受けた攻撃のダメージと毒により、口を動かくことが難しくなった光太郎は無表情で自分を見る総一郎へ質問するが、武骨の男はまるで報告書を読み上げるように、平然と答えた。

 

「私を暗殺者へと仕上げた組織の元締めがゴルゴムの支援を受けていた。それだけだ」

「――ッ!?」

 

自身を殺人鬼であると言ったことももちろんだが、ゴルゴムの関係者がこんなにも近くにいたとは思えなかった。今度こそ驚いた顔をしている自分を見る総一郎の表情は現れた時と変わらず、ただ無言で光太郎を見据えている。そして気が済んだのか、踵をかえして倉を後にしようとする総一郎をキャスターが呼び止めた。

 

「総一郎様。なぜ、このような場所へ…」

「………………」

 

光太郎に対しての高圧的な態度がまるで嘘だったように、静かに尋ねるキャスターの声を聴いて立ち止まった総一郎は、振り返らず、やはり平然と答えた。

 

「ゴルゴムが『神』と崇めたいた世紀王がどのような者か。それが身体が違えど『人間』であると確認が出来ただけだ」

「総一郎様…?」

 

今度こそ、総一郎は倉の外へと姿を消した。その背中を見つめていたキャスターだったが、何かに感づいたように再び水晶を出現させた。

 

「フフフ…どうやらお客さんが来たようね」

 

水晶に映し出されたのは、柳洞寺の山門へ続く石段であった。その途中、まるで登る者を阻むように立っている男がいた。

 

 

 

 

 

 

陣羽織を身に着け、腰まで届くであろう長い髪を頭頂部で結すんだ美丈夫。侍と呼ぶに相応しい男は刀を手に、石段をゆっくりと登ってくる相手を待っていた。

 

ただの穴埋めのサーヴァントとして召喚された男はこの石段を上がってくる存在を待ちわびていた。聖杯戦争が開始されて手を合わせたのは全力を出し切れない華と例えた剣士の少女のみ。

生前に叶えられなかった戦いを、ここで叶えるため、アサシンのサーヴァント―――佐々木小次郎はようやく視界に現れた相手へと声をかける。

 

 

「ふむ…ここ来て以前のようにただ眺めて帰る…という事はなさそうだな」

 

鞘から刀を抜き、その相手へと向けるアサシン。その相手も、アサシンに合わせるように自身の得物を向けると、楽しそうに口を開いた。

 

 

 

 

「おうよ。監視に飽き飽きしてたところでな…お前さん相手なら、こっちも楽しめそうだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前の間桐家

 

 

 

 

光太郎の救出の準備を進めていた慎二達だったが、ライダーが家の前でサーヴァントの気配がすると様子を見に行った所、ランサーが片腕を上げて立っていたのだった。

 

 

「…何用ですか?今、私達には貴方に構っている時間がないのですが」

「そう殺気立てるもんじゃねぇよライダー。折角の美人が台無しだぜ?」

 

ケラケラと笑うランサーの様子をライダーの背後から見ていた慎二は、その位置から動かずに突如現れた敵のサーヴァントへと呼びかけた。

 

「アンタがランサーか。わざわざ侵入せずに玄関から入ろうとした理由はなんだ?」

 

慎二の質問に最もな意見だと指で鼻を擦ったランサーの答えに、ライダーと慎二は思わず目を見開いた。

 

「おたくらの黒い兄ちゃんを助けるのに、手を貸してやる。キャスターなんぞに殺させるには惜しいからな」

 

 




またもや過去の捏造をやっちまいました。本編で暗殺教室(文字通り)の詳細ってあったかな…?


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