Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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鎧武の感想
覚悟を決めるというのは、あのような形もあったのですね…さて、主人公は決められるのか…


今回もこじ付けだらけの40話、どうぞ!


第40話『最後の令呪』

ランサーと激戦を続けていたアサシンは、山門以外から境内へ侵入した妙な気配に感じた。

 

(これは…?)

 

栁洞寺には寺の坊主達や関係者が普段使っている裏口がある。しかし、キャスターの人避けの魔術により人の出入りがなくなったはずであるが、その術を破ったものがいたとしたら…

侵入したのは間違いなく魔術を扱える人間だろう。しかし、動きが早すぎる。それに、生物でありながら、そうではない存在がその人間と一緒に動いている。気にはなるが、今はこの場を動き訳にはいかない。

 

「誰の気配を察したかは知らねぇが、まだまだこれからだぜ!」

「…なるほど。全てそちらの思惑のまま、ということか…」

 

 

栁洞寺への侵入は最初から2段仕込みであった。一本取られたと言いたそうにアサシンは溜息を付くが、それでも自分の役割は変わらない。

 

この槍兵のサーヴァントを一歩たりとも通さぬこと。そして、心行くままに、刃を交える…それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いは勝ったも当然。キャスターはそう考えていた。魔力が衰えたライダーのサーヴァントも、表の手下共と戦う間に力尽き、消滅する。そして捉えた間桐光太郎の救出に現れた少年の策も、所詮は小細工を弄したが悪あがきに過ぎなかった。

 

しかし、今彼女の目の前に現れたのは、予想すらしていなかった存在だった。

 

鉄扉を突き破って現れたバトルホッパーとロードセクターの姿に呆気を取られたキャスターの身体が突然引き寄せらる事に遅れて気付いた。

 

「ッ!?そ、総一郎様!!」

 

2台のバイクによって破壊された鉄扉の破片がキャスターに向けて四散した事に築いた総一郎は咄嗟にキャスターの肩を掴み、後方へ飛んだのだが…

 

「クゥッ!!?」

 

破片のいくつかがキャスターの肩へ刺さってしまう。肩を押さえるキャスターを見て、目を細めた総一郎は倉の中心で停車したバイクを見る。突撃した際には気付けなかったが、白いバイクにはドライバーがいた。フルフェイスのヘルメット、黒いライダースジャケットにジーンズを纏っているが、そんな事を気にしていられない。新手の敵が現れたのなら、即刻に対処するのみ。

ドライバーがバイクから降りたと同時に駆け出した総一郎は、背後から一撃を入れようとしたその時だった。

 

「ッ!?」

 

ドライバーが降りた瞬間、バイクは自らの意思を持っているかのように一人でに動き、総一郎へと向きを変えて走り出したのだ。腕を交差して防御の姿勢を取る総一郎だったが、ロードセクターの突撃を受けきれず、そのまま押し出しをされる形でロードセクターと共に倉の外へと消えて行った。

 

「総一郎様ぁッ!?」

 

叫ぶキャスターの耳に激しく電撃が飛び交う音が響く。振り向くと、もう1台のバイク…バトルホッパーが光太郎の周りを覆う結界へ体当たりをしかけていたのだ。その結界は物理的な接触を阻み、触れた者に多大なダメージを与える。先程慎二が近付いただけ吹き飛んでしまうダメージが、バトルホッパーを蝕んでいた。

 

結界の面に真正面から突っ込んではいるがそれ以上進むことが出来ず、後輪のタイヤがスピンを続けるばかりであった。さらにダメージは段々と蓄積していき、複眼を思わせる赤いヘッドライトがひび割れ、ボディーの面は段々と剥がれていく。それでも、バトルホッパーは結界から離れようとせず、体当たりを続けている。

 

「あ…アハハハ!無駄よ!そんな体当たり如きで私の結界が―――」

「桜ァッ!!『12番』を使え!!」

 

バトルホッパーの姿をあざ笑うキャスターの声は、骨折した左肩を庇いながら立ち上がった慎二の叫びにかき消された。その名前を聞いて、キャスターの思い当たる人物は1人しかいない。まさかと思い、先ほどロードセクターから降りたドライバーの方へと急いで顔を向ける。見るとドライバーはヘルメットを脱ぎ捨て、大人しい外見とは裏腹に慎二に負けない大声で返答した。

 

「分かりましたッ!!」

 

迂闊だった。魔力を使えてたとしてもこのような前線に出てくるタイプではないと決めつけていたキャスターに取って、この場に桜が登場することがありえなかった。キャスターの調べた限り、彼女は義兄達やライダーに守られているだけの存在だったはずだ。だからこそ、桜が何を起こそうとするのか見当も付かない。不確定要素である桜の行動を恐れたキャスターは最優先に彼女を止めようと詠唱無しに発動させた魔力弾を放とうとした。

 

 

 

 

それがまた、キャスターの油断となってしまった。

 

 

 

 

いざ魔力弾を放とうとしたキャスターの靴に何かが当たる。何かと視線を落としたキャスターの目に入ったのは、数分前に自分を苦しめた全く同じものだった。

 

 

「だ~れがアレ一つって言ったかなぁ?」

「ひっ…!」

 

してやったりと言いたいばかりの慎二の言葉など耳に届かず、キャスターは再度、閃光弾により視界を封じられてしまった。

 

 

 

 

 

 

背後で激しい光が放たれているが桜は気に止めず、慎二の指示通りの行動を開始する。ライダースジャケットの内ポケットから取り出したのは、巻物のように収納する布製の工具ケースだ。それを広げると、柄尻に番号が書かれた数十本のナイフが収納されており、桜は迷うことなく慎二が言った番号の柄を掴む。

 

そのナイフの先端は赤く染まっており、刃の中心には、記号のような文字が一つ掘られていた。

 

桜はバトルホッパーによって視覚化させた結界の元へ到着すると、魔法陣の中をゆっくりと回転する文字…術式の部分に向けて、手に持ったナイフを突き立てた―――

 

 

 

 

数時間前の間桐邸

 

 

「メディア…恐らくそれがキャスターの真名でしょう」

「…『裏切りの魔女』か」

 

光太郎の救出作戦を立てる中でまず最初に行われたのが敵側の分析だった。ライダーがキャスターの正体を見抜いたのは光太郎を動けなくするほどの毒を用い、強敵であったビルゲニアでさえ従わせるほどの催眠魔術を扱っていた事。そして慎二と桜を人質に動揺を誘った事…奸計を好むやり口から、ライダーと同じくギリシャ神話に名があったメディアが真っ先に浮かび上がったのだ。

 

メディアの名を聞いて彼女の二つ名を口にした慎二は、調べた知識から彼女の情報を絞り込む。確かにキャスターのやり口を思い出してみると納得がいく反面、対応が難しくなる。

 

彼女はそのクラスに相応し過ぎる程の、『魔法使い』ともいえる程の魔術師だ。ならば彼女が根城にしている栁洞寺も彼女の工房と成り果て、囚われた光太郎の周りにも必ず仕掛けが施されている…

 

どうすると悩む慎二の横で、桜が首を傾げて『あるもの』の操作を続けていた。

 

「あ、あれ…?どうして」

「何やってんだよ桜…」

「あ、いえ。上手く魔力が通らなくて…」

「はぁ…見せてみろ」

 

桜が差し出したモノを受け取った慎二は、一瞥しただけで原因を読み取って、返却した。

 

「これ、僕が前に間違えて術式書き込んだ奴だろ?使えなくて当然だ」

「え?そうだったんですか?」

「そうだよ。術式が完璧じゃなきゃ魔力は通らないし、動かなくて当然…」

 

桜へ説明中だった慎二の口がピタリと止まる。

 

「兄さん…?」

 

突然動かなくなった義兄を案じた桜は声をかけるが、返事はない。いったい何がとライダーへ目を向けるが、彼女も首を横に振るしか出来なかった。

 

「ライダー」

「は、はい」

「頼みたいことが、2つある」

 

突然の頼みごとに驚くライダーだったが、真剣そのものである慎二の視線を受けて、ゆっくりと頷く。

 

「私に、出来る事ならば」

 

 

 

 

 

 

そして現在

 

 

 

桜の持ったナイフが結界に触れた途端、ゆっくりと刃が浸透していく。ナイフの先端に附着していた赤い液体はライダーの血液だった。彼女が宝具を出現させる際に自身の血液を用いて魔法陣を生成していたことから、同じ魔法陣へと干渉が可能と考えた慎二はライダーに血液を提供してもらったのだ。

 

しかし、それでは結界を消し去るまでにいたらない。

 

ナイフの刃が全て結界へ浸透した事を確認した桜は、次足元にある魔法陣向けて刃を動かしていく。

 

「う…くぅ」

 

結界に干渉できるのはライダーの血液が付着したナイフの刃のみであり、それ以外の物は全て弾き返されてしまう。もしナイフの刃意外の部分が少しでも触れれば、慎二同様に吹き飛ばされてしまうだろう。

それだけはなく、発動している結界から放たれる魔力の漏電を受けながらの精密な作業。

 

桜は慎二とバトルホッパーが繋げてくれた役目に神経を研ぎ澄ませ、結界に負けじとナイフを握る手に力を込める。

 

そして刃の先端が魔法陣にあと数ミリまで近づいた時、最後の行程へと移行する。

 

 

キャスターの作り出した魔法陣は完璧なものだ。完璧ゆえに、魔法陣を組んでいる術式に異常が発生した場合、直ぐに効果を失う。たとえば、数式に余計な記号が一つ混じってしまったら、それは式として成り立たないように、魔法陣を形成している術式に、余分な文字を加えてしえば…

 

 

 

慎二が立てた計画はこうだった。

 

桜との会話でヒントを得た慎二はライダーに血液の提供と共に、魔法陣に使われる術式の文字の教えを乞うたのだ。自分の専攻が間桐家にある魔導書の解読に使うドイツ語と英語のみで

あり、他の語学に疎かった。ライダーも魔術は専門ではなかったが、それでも彼女は知る限りの術式で使われる文字を伝えて行った。

 

しかしキャスターは古代ギリシャ語だけでなく、ラテン語など他の語句入り混ぜた術式を使った場合も考えられた。そこで慎二はライダーから聞いた語文字を全て暗記。術式の文字と羅列でそこに最も相応しくない文字を術式に加えてしまえば、魔法陣を解除することが出来るはずなのだ。

 

準備した数十本のナイフの刃に古代ギリシャ文字を予め掘り、術式を崩壊させる…成功させるには幾つかの役目が必要だった。

 

 

 

まずは術式を見極める事。これは慎二が最初に光太郎に近づき、結界と接触して吹き飛ばされる直前に浮き出た魔法陣の術式を見抜く事に成功していた。後は準備していた文字の刻まれたナイフを選ぶだけでいい。

 

 

 

次に魔法陣を常に視界化させておく事。外部から触れた時にしか視覚化されない結界では、当然魔法陣も目に移ることができない。そのために、誰かがダメージを顧みず結界へ接触をし続けなければならなかった。痛みを伴う役割を、バトルホッパーが率先してこなしてくれた。

 

 

最後に結界への干渉と術式の消去。刃を結界へと通し、刃に掘られた文字を術式に加える作業は、誰にでも出来る作業ではない。術式は魔術で組まれたのだから、文字も当然、魔力により作り出さなければならない。だが桜ならば、組まれた術式に魔力を通すことが可能である彼女ならば、造作もないことだった。

 

 

 

 

ナイフの先端が魔法陣に触れたと同時に、桜はナイフへ魔力を送り込む。イメージはナイフに刻まれた文字をなぞり、それをナイフで突き立てた術式へ無理矢理押し込んでいく。

 

 

(兄さん…今、助けます!!)

 

心の中で叫んだその刹那。

 

ナイフに掘られた文字がぼんやりと光り、その文字と全く同じ形がナイフの先端に現れ術式に打ち込まれていく。直後、術式は魔法陣の中でノイズのように乱れていき、その効果を失った。

 

 

 

作戦は…成功した。

 

 

結界が消え、急ブレーキを踏んだバトルホッパーは後輪を軸に回転し、光太郎を蝕む毒の点滴を前輪タイヤで吹き飛ばす。壁へと叩き付けられた毒液は床や壁に附着し、煙を上げている。あんなにも恐ろしいものが義兄の身体へ打たれていたと考えて背筋が凍る桜は項垂れている光太郎の隣へと近づいていく。

 

「兄さん!光太郎兄さん!!」

「おい、生きてるなら返事をしろ!!」

 

背後には起き上がった慎二も近づいて、声をかけるが光太郎に返事がない。まさか、間に合わなかったのか…嫌な予感が過ぎる桜と慎二に、怒声が響き渡った。

 

 

「貴方達ぃ…もう生かしておかないわ!!」

 

振り向くと、目を押さえながらこちらに杖を向けるキャスターは、攻撃用の術式を浮かべて狙いを定めている。二度も同じ目に合い、さらには彼女自慢の結界すらけしてしまったのだ。もはや、怒らない理由を探す方が難しい。

 

「消えなさい!!」

 

一直線で慎二と桜へと向かう魔力弾。詠唱なしで発射された魔力の塊に対して、2人は防御すら間に合わなかった。

 

なぜなら、

 

自分達を後方へ下げたバッタの怪人が身代わりに攻撃を防御していたからだ。

 

 

「なッ…!?」

 

キャスターは驚愕する。いくら毒の点滴を止めたとしても、すぐに動けるはずがない。しかし、現実に光太郎…不完全なバッタ怪人となりながらも鎖を裂いて、キャスターの攻撃を防いでいる。考えられるとしたら、彼の体内に宿るキングストーンの力。キャスターの毒への耐性を作り、回復を早めたのだろう。

 

 

「慎二君。桜ちゃん」

「え…?」

「おい…まさか」

 

バッタ怪人となった光太郎は慎二と桜を担ぐと、天井を見上げる。義兄のこれから起こすであろう行動に嫌な予感しか浮かばない慎二と桜は、反対すら出来ないうちに、光太郎と共に倉の天井へと飛んでいったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれは…!」

 

 

もう何体の竜牙平兵を倒したかもわからない。鎖と鉄杭を振るい続けていたライダーは光太郎が拘束されている倉の天井が吹き飛び、そこから聞き覚えのある悲鳴が木霊することに気付く。見ればバッタ怪人が慎二と桜を掴み、夜空を浮遊しているではないか。

 

「コウタロウッ…!!」

 

急ぎ光太郎の着地点へと足を向けるライダーだったが、それを察してか次々と竜牙兵が襲いかかる。しかし

 

「PIPIPI…!!」

 

傷の再生を終えたバトルホッパーが竜牙兵を吹き飛ばし、ライダーの前で停車する。以前のように、自分に乗れと言っているらしい。

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…なんとかなった」

 

無事に着地し、人間の姿となった光太郎は溜息を付いて身体の調子を確かめる。取りあえず、動くことには支障はないらしい。

 

「なった…じゃないよこの愚兄!」

 

怒鳴り声の方に顔を向けると、慎二が肩を押さえながらこちらに抗議しながら詰め寄っている。

 

「なんで予告なしにあんな無茶な飛び方するんだよ!桜なんて心臓押させてずっと深呼吸してるじゃないか!!」

 

確かに視線を落とすと、桜は膝を付いてずっと呼吸を繰り返し、若干涙目になっている。突然のフライトに相当驚いたらしい。

 

「で、でもあの時は他に手段無かったし…」

「別に手段は問題じゃない!何で話さないんだって言ってんだよ!?」

「全くその通りです」

 

光太郎が後へと振り向くと、バトルホッパーから降りたライダーが静かに近づいてくる。心なしか、怒っているようにも見えた。

 

「ライダー!無事だったん…」

 

光太郎の言葉はライダーの平手打ちを受けたことで止まってしまう。その光景に慎二と、落ち着いて通常の呼吸となれた桜、そして平手を受けた光太郎自身も固まってしまう。

 

「なぜ、貴方は重要な事をいつも話してくれないんですか…今回の令呪をシンジに預けている事も、何で事前に説明…してくれなかったんですか…」

 

段々とか細い声となっていくライダーは、視線を下げたまま、額を光太郎の肩へと乗せる。そして、弱々しく彼の胸を手で叩き続けていた。

 

「…ごめん」

 

それしか光太郎には言えなかった。確かに敵の目を欺く為とはいえ、少なくともライダーには伝えるべきだったと、光太郎は猛省する。その結果が、今のようにライダーを悲しませる結果となってしまったのだから。

 

「…光太郎兄さん」

 

再び頬に走る痛み。光太郎に身を預けているライダーへと当たらないようへの配慮なのか、彼女が肩を乗せている反対側の頬を桜が叩いたのであった。

 

「桜…ちゃん?」

「もう、戦うと決めた光太郎兄さんを止める事は出来ないし、その結果だって受け止めます。けど…それでも、私達を庇って傷つくのは…嫌なんです」

 

涙を拭いながら主張する桜の姿は、先ほどまでの凛々しかった姿から、かつての弱々しい印象の少女に戻ったように光太郎には見えてしまった。

 

「順番から言うと、僕が最後か」

「え、順番って…?」

 

光太郎の質問に答えることなく、慎二はバックから偽臣の書を取り出すと、その背表紙で光太郎の脳天をぶっ叩いた。

 

「おおぉぉぉぉぉぉ・・・・・」

 

これには大ダメージを受けた光太郎は優しくライダーを離すと、叩かれた頭を押さえて蹲ってしまう。その姿に満足したのか、慎二は特に何も言わずに偽臣の書を差し出す。

 

「ほら、受け取れ」

「慎二君…でも」

「僕には荷が重いんだよ。僕には、魔導書を読んで、桜が再現してくれる方が性に合ってる。それに、何時までも仮のマスターじゃ不満がでるだろうしさ」

 

そういってこちらに見られないように眼帯の下を拭っているライダーの姿を見る慎二。立ち上がった光太郎もその姿を見て苦笑しながらも、偽臣の書へ手を伸ばした。

 

「ありがとう。慎二君」

 

義弟に感謝して偽臣の書を手にしたその時、不思議なことが起こった。

 

 

偽臣の書を光太郎の手に触れた途端、偽臣の書から細く、糸状の魔力が放出され、その魔力が光太郎の手の甲へと延びて行ったのだ。その糸は何かを形造るように刻まれていき、一瞬にして模様を作り出した。

 

令呪の最後の一画。

 

再び光太郎の手に刻まれたと同時に、役目を終えた偽臣の書は一瞬で燃え上がり、灰となった。

 

「それも…キングストーンの力なのでしょうか?」

「いや。さっきからずっと沈黙しているから違うだろう。これは…」

 

もし、光太郎の持っていた令呪に、今のように何かしらの理由で令呪が別の媒体に移ったとしても、再び持ち主へと戻る性質を「最初から」持っていたとしたならば…

 

(お爺さん…)

 

自分に令呪を託した人物が、真っ先に浮かび上がった。最後となった令呪をそっと反対の手で触れる光太郎は、さらに兵力を増やし、引き連れて現れたキャスターへと向かい合った。

 

「…もはや、お互い言うことはないでしょうね」

「そうだな。もう、決着を付けよう」

 

飛行するキャスターの目下には洗脳されたビルゲニアを筆頭に、竜牙兵の大群が控えていた。

 

 

「みんな…」

 

慎二、桜、そしてライダー。三人の視線が、光太郎へと注がれる。

 

「勝とう。みんなで」

 

頷いた三人はそれぞれの得物を手にする。

 

 

ライダーは両手に鎖を手にする。

 

桜は髪の毛を頭頂部で縛り、動きやすい姿となると折り畳み式の弓を展開して、構える。

 

慎二は脱臼した痛みを和らげる薬草仕込みの痛み止めを注射し、それを放るとバックから小型のボウガンを取り出した。

 

 

 

そして光太郎は――

 

 

 

「行くぞッ!」

 

 

 

 

 

右半身に重心を置き、両腕を大きく振るうと右頬の前で握り拳を作る。

 

ギリギリと音が聞こえる程込めた力を解放するような勢いで右腕を左下へ突出し、素早く右腰に添える。入替えるように伸ばした左腕を右上へ突き出す。

 

 

「変っ―――」

 

 

伸ばした左腕で扇を描くように、ゆっくりと右半身から左半身へと旋回し――

 

「―――身ッ!!」

 

両腕を同時に右半身へと突き出した。

 

 

光太郎の腹部にキングストーンを宿した銀色のベルト『エナジーリアクター』が出現し、光太郎を眩い光で包んでいく。

 

その閃光は光太郎の遺伝子組織を組み換え、バッタ怪人へと姿を変貌させる。

 

だがそれも一瞬。

 

エナジーリアクターから流れ続ける光はバッタ怪人を強化皮膚『リプラスフォース』で包み込み、黒い戦士へと姿を変えた。

 

 

左胸に走るエンブレム。触覚を思わせる一対のアンテナ。真紅の複眼。そして黒いボディ――

 

 

「仮面ライダー…ブラァックッ!!」

 

 

 

 

名乗りを上げた光太郎は、大群に向かい、力強く構える。

 

 

「いくぞ…キャスターッ!!」

 

 

 




光太郎、折檻されるの回でした。
術式や魔法陣解除の下りは知識に欠ける私の精一杯のこじ付けとなりますのでご容赦を…

ご意見・ご感想お待ちしております!

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