Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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そういえばFate新シリーズでは葛木先生をシャドームーンでお馴染みのてらそま氏が演じられるようですね。この作品を作っていたためか、なんだが妙な縁を感じてしまいます…

では、43話です。


第43話『囚われの少女』

バーサーカーのマスター…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンにより敵の城へ拉致された衛宮士郎は、駆け付けたセイバーやアーチャー、遠坂凛の協力により城を脱出する。だが、士郎や凛達を脱出させるべく、アーチャーは1人残り、バーサーカーへと戦いを挑むのであった。

 

城から遠く離れた士郎は、凛の持つ最後の令呪がいつの間にか消えた事に気付く。凛へかける言葉が見つからなかった士郎は、自分への敵意を隠そうともしなかった英霊から言われたことを思い出していた。適格に自分を指摘する彼の助言が不思議と忘れられず、全ての言葉が深く心に刻まれていた。

 

凛はパートナーを失った感傷に浸ることなく、自分達に迫る危機への対策を2人へ講じる。城からの脱出に成功はしたが、イリヤとバーサーカーから逃げられた訳ではないのだ。最強のマスターとサーヴァントに対する最後の手段として士郎とセイバーのレイラインを結びつけることで魔力供給を可能とし、反撃に打って出ると決意する。生き延びる為に。

 

明朝。ついにバーサーカーとの決戦が始まった。

 

凛の奇策により、バーサーカーへゼロ距離の宝石魔術を放ち、その頭部を吹き飛ばすことに成功した。しかし、バーサーカーの宝具『十二の試練』が発動。瞬時に蘇生してしまい、窮地に立たされてしまう。

 

 

目の前で苦しむ凛と回復したとはいえ、全力を出せないセイバーを助けられないと苛む士郎の脳裏に赤い弓兵の言葉が蘇る。

 

 

 

――お前は戦う者ではなく、『生み出す者』に過ぎん

 

 

 

 

魔術回路が焼き堕ちると錯覚する程に奔流する魔力が右腕に宿っていく。

 

 

 

 

――忘れるな、イメージするのは常に最強の自分だ

 

 

 

いつも夢に見た『黄金の剣』。いつもは靄が掛かり、輪郭がはっきりとしなかった刀剣が……

 

 

 

 

――お前にとって戦う者は、自身のイメージに他ならない

 

 

 

はっきりとした形で、士郎の手に現れた。

 

 

 

 

『勝利すべき黄金の剣』

 

 

 

セイバーが持つ聖剣の前身であり、王の選定に使われ、既に存在が失われた剣。それが士郎の『投影』により幻想として現れた。その光景にセイバーも、凛も、敵であるイリヤでさえ驚愕を隠せない。

 

士郎はセイバーと共に手にした剣を、バーサーカーの胸へと『約束された黄金の剣』を突き立てた。

 

 

『十二の試練』によりバーサーカーは12の命を持ち合わせていたが、アーチャーと凛により5つの命を消失していた。さらに『約束された黄金の剣』で5つ同時に奪うことに成功したが…

 

 

「ざ、残念だったわねシロウ!投影魔術には驚いたけど、バーサーカーにはまだ2つ命が残っているわ。貴方達を殺すには十分よ!」

「くっ…」

 

その通りだった。剣によりダメージを受けたバーサーカーは立ち上がり、巨大な斧剣をセイバー達に向けている。黄金の剣は既に消滅し、魔力を大幅に失った士郎は膝を付いてしまう。力尽きたマスターを庇うように、セイバーは士郎が令呪一つを消費してまで止められた星の剣を再び顕現させ、バーサーカーと対峙する。

 

「せ、セイバー!駄目だ」

「いえ、シロウだけではなく、リン…そしてアーチャーが繋げてくれたこの好機を逃す訳にはいけません!」

 

あと2回。先程と同じように、2度殺せる一撃を放てばサーヴァントを倒せる。セイバーは力強く剣を構えたその時であった。

 

 

「―――っ!?」

 

 

敵味方関係なく、同じ方向へと目を向けた。この場に現れた圧倒的な存在。隠そうとしない威圧感は弱っていた士郎と凛は呼吸が止まり、イリヤは自分の理解の範疇を超えたモノの接近に怯えている。

サーヴァント2人は敵対関係など忘れ、同時に得物を乱入者へと向けた。

 

ガシャン、ガシャンと金属を打ち付けるような足音と共に現れた姿に、士郎と凛は既視感を覚えた。銀色と身体に手足に生える鋭く黒い棘など異なる部分は多くある。だが、大きな複眼とアンテナ。

見覚えのありすぎる腹部の装飾は彼らの知っている誰かを訪仏させた。

 

「光太郎…さん?」

 

思わず士郎が口にした名が聞こえたのか。銀色の存在…世紀王シャドームーンは士郎へと目を向ける。

 

「…情報通り、ブラックサンとは知己であるようだな」

「ブラックサン…?」

 

シャドームーンの放った聞き覚えのない名に凛は、やはり彼の姿を思い浮かべる。ただ、似ているだけのはずがない。凛が推測している間に、シャドームーンはその姿が消えてしまう。

 

「一体どこへ…?」

 

辺りを見回すセイバーの耳に、少女の悲鳴が届いた。急ぎ声の聞こえた方へと振り返ると、シャドームーンは後方で戦いの行方を見ていたイリヤへと一歩一歩近付いていたのだ。

 

「あ、ああ…」

「…お前か。此度の聖杯は」

「っ!?」

 

シャドームーンの言葉にイリヤは目を見開いた。なぜ、目の前にいる存在は、自分の中にある聖杯を知っているのか。だが、イリヤにはそんな疑問よりも目の前に立つ存在への恐怖が勝っていた。

 

「バーサーカーッ!!」

 

イリヤの叫びに反応し、バーサーカーは咆哮と共にマスターの元まで疾走。振り向こうともしないシャドームーンの背中目がけ、斧剣を全力で振り下ろした。誰もがバーサーカーによりシャドームーンが両断されると確信していた。

 

だが、斧剣はシャドームーンに届くことはなかった。

 

シャドームーンは振り向くことなく、手にした剣…サタンサーベルの切っ先で斧剣を防いでいたのだ。セイバーですら両手で剣を持って受け止めるだけでも精一杯である巨人の一撃を、シャドームーンは微動だにせず受け止めていた。

 

「不意打ちでもその程度なのか…?神話で英雄と称えられたヘラクレスが、聞いて呆れるな」

 

複眼を怪しく緑色に光らせながら、シャドームーンはゆっくりとバーサーカーへ顔を向ける。見る者は命すら止まると思える程の殺気を込めた視線にバーサーカーは気圧されるが、払拭するように振り向き、向き合って対峙するシャドームーンに向けて次々と斧剣の連撃を繰り出した。

 

振るった剣圧だけでアスファルトを削り取る嵐のような乱撃。2人の周辺にある大樹や草が抉れ、吹き飛んでいく。風圧で飛ばされないように腕で顔を庇いながら立ち上がる士郎は目に映っていることが信じられなかった。

 

バーサーカーの攻撃を受けながらも、シャドームーンは一歩も動かず、全ての斬撃をサタンサーベールで弾き、凌いでいたのだ。

 

 

「無駄だ。英霊とはいえ、所詮人間が私に勝つことなど…」

 

サタンサーベールの切っ先ではなく、刀身で受け止めたシャドームーンは腕を天へと振るい上げ――

 

「出来んのだ」

 

巨大な斧剣を空高く吹き飛ばしてしまった。

 

その直後、バーサーカーは斧剣を追うようにその場から跳躍。回転しながら落下する斧剣の柄を両腕で掴むと、真下で自分を見つめるシャドームーンに向かい全力を込めて叩き込んだ。

 

足元が揺らぎ、地面が捲りあがるほどの衝撃。バーサーカーの重量に加え、落下するスピードを合わせた一撃に流石のシャドームーンもただでは済まないはずだ。状況を見守っていたセイバーは

土埃の張れた光景に思わず声を漏らした。

 

「ま、まさか…」

 

 

バーサーカーの全力を込めた一撃は、シャドームーンの受け止められていた。しかもサタンサーベルではなく、緑色のエネルギーを纏った腕で刀身を掴まれた形でだ。

 

「…その名に似合わず器用なことをする。どうやら貴様という存在を侮っていたようだ。私に、この力を使わせたのだからな。いいだろう」

 

斧剣を掴んだ手に力を込める。刀身に亀裂が走り、バーサーカーの斧剣は真っ二つに砕けてしまった。

 

「その身に教えてやる。世紀王の力を」

 

サタンサーベルを振るい、ベルトから放たれた力を両足に宿したシャドームーンはその場から高くジャンプ。エネルギーを纏った両足が、バーサーカーの胸板へと叩き付けた。

 

 

シャドーキック

 

 

光太郎の必殺技であるライダーキックと同等、それ以上の威力を持つ蹴りがバーサーカーを吹き飛ばし、背後にあった大樹を次々と圧し折っていった。やがて地面へと落下したバーサーカーの命はまた一つ削られ、再生を開始している。しかし、シャドーキックを受けた衝撃でバーサーカーは意識を失い、ピクリとも動かなくなっていた。

 

「そ、そんな…バーサーカーっ!バーサーカーァッ!!」

 

必死に自身のサーヴァントの名を叫ぶイリヤはバーサーカーの元へ駆け出すがその途中、シャドームーンが立ちふさがりイリヤの額に手のひらを翳した。それだけでイリヤの意識を奪い、倒れようとした彼女を受け止め、抱きかかえたシャドームーンは士郎達の方を向く。最強のサーヴァントであるバーサーカーをたった一撃で沈めたシャドームーンへ戦慄する士郎達は思わず身構えるが、まるで興味を無くしたように踵を返し、森の奥へと歩いて行った。

 

一度足を止め、士郎達に目を向けたシャドームーンは光太郎へのメッセージを残して、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

「ブラックサンに伝えおけ。聖杯は、我らゴルゴムが有効に使うとな」

 

 

 

 

「………………………」

 

士郎から聞かされたアインツベルンの森で起きた一部始終を無言で聞いていた光太郎は思わず力強く拳を握る。それに気づいた慎二は話題をそらそうと気になっている点を問いただした。

 

「アインツベルンのマスターの事はわかったよ。サーヴァントの方はどうなったんだ?」

「あ、ああ。イリヤの城にいるよ。目を覚まして暴れまわると思ったんだけど、俺達が事情を話したら黙って城へ戻っていったんだ」

「…もしかしたらシャドームーンって銀ピカの攻撃で一時的に狂化が解けただけかも知れないけどね。もしあのまま暴れまわったらと考えただけでもゾッとするわ」

 

士郎の説明に凛は補足するとその時の光景を思い出したのか。身震いしながら紅茶へと手を伸ばしていた。そしてティーカップをゆっくり皿に戻すと、光太郎へと目を向ける。

 

「そして、ここからが本題。光太郎さん。貴方は依然、ゴルゴムにはただ因縁を付けられていたと私達には説明したけど、アレは嘘よね?」

「………………」

 

無言を肯定と受け止めたのか、凛の質問は続いた。

 

「あの銀ピカは光太郎さんと似た姿を持ち、自分達をゴルゴムと呼んだ。さらに『シャドームーン』に対するような名前…『ブラックサン』だったかしら?それを光太郎さんが変身した姿を指しているんなら…」

 

凛は鋭い眼光を光太郎に向けたまま、自分の辿りだした答えを突きつけた。

 

「光太郎さん。貴方はゴルゴムと最初から敵対していたのではなく、深く関わっていた方じゃないかしら?それなら、あの姿に変身出来るのも納得できるんだけど」

「遠坂先輩ッ!!」

 

大声を上げて立ち上がったのは、桜だった。その目は普段の大人しさとは考えられない程の怒りに満ちていた。実姉とはいえ、光太郎が人々を苦しめている悪魔の集団と同列に考えられるのが我慢出来なかったのだろう。実妹に睨まれながらも涼風を受けたように流す凛は冷静に言い返す。

 

「…あくまで私の考えを口にしているだけよ。何も絶対の結論とは思っていないわ」

「それでも、光太郎兄さんとゴルゴムをっ―――」

「桜」

 

一緒にしないで下さいと言いかけた桜を待ったをかけたのは隣に座っていた慎二だった。

 

「話が進まない。座れ」

 

的確であり、冷静な一言だった。しかし、ゴルゴムの被害者である光太郎が誤解されたままでは我慢できない桜は慎二にも物申そうと睨むが、慎二の手を見てハッとする。顔こそ普段通りであるが、拳が震える程強く握りしめている。

以前、光太郎の変身した姿を本人に聞き出そうとした士郎を締め上げた時のように、慎二も凛の言葉に怒り、普段なら絶叫しいているところだ。だが、今は優先するべきことがあると耐えている。冷静になれた桜はゆっくと腰を下ろし、凛に頭を下げた。

 

「すみません先輩。頭に血が上ってしまって…」

「気にしてないわ。誰でも身内を事になれば、ね」

 

心の中では桜にそこまで思われている光太郎が羨ましいと考えながらも、凛は再び光太郎へ目を向ける。桜にここまで言わせておいて、黙っているなど許せないと言わんばかりに睨み、それを理解したのか、光太郎は説明を始めた。

 

「…わかった。話すよ、本当の事を」

「コウタロウ…いいのですか」

「巻き込みたくなかったとはいえ、嘘をついていたのは違いないからね。それに…もう、事態はゴルゴムと俺の問題じゃなくなっている」

 

心配するライダーに微笑みながら答えた光太郎は、説明を始めた。ライダーが夢に見た、自分と家族を失い、手にした悍ましき王の力について。

 

 

 

 

 

話を聞き終えた士郎達の反応は、絶句としか言いようが無い。ゴルゴムの起こした非道、光太郎を襲った悲劇。それでも戦い続ける彼の生き様に、凛は先程自分が抱いた推測は彼の負った傷に追い打ちをかけるようなものだったと理解する。桜が怒るのも当然と言える。どうにか光太郎と桜に謝りたいところだったが、先に光太郎の言葉が続いた。

 

「これは、慎二君と桜ちゃん。無論、キャスター達にも話してある事だけど、衛宮君たちにも説明する。俺が、聖杯戦争に参加する理由を」

 

話を聞いていた限り、光太郎は聖杯に託す願いはない。ならば、彼の戦う理由とは、なんなのか?

 

 

 

 

 

「俺の目的は、聖杯の、いや―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この地にある大聖杯を消滅させることだ」

 

 

 

 




バーサーカーファンの方々、申し訳ありません。

そしてもはや聖杯戦争どころではなくなってまいりました…

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