では、53話となります!
仮面ライダーブラックこと間桐光太郎を倒し、次期創世王となる。
ただ勝つだけではない。己の力を最大限に出し切り、同じ条件である宿敵に打ち勝つ。
ゴルゴムの世紀王シャドームーンにとっては、それが全てであった。
だからこそ、宿敵との決闘でシャドームーンは初めて自分が充実しているのだと考えた。相手を煽るような言葉を放つという下賤な手段を取ってしまったが、そうしなければ決して全力を出そうとしない。
その甲斐があり、宿敵は体内に宿るキングストーンの力を解放することでこれまでにない力を発揮し、自分とようやく対等となれたのだ。
同時に、宿敵には感謝をしなければならい。
これほど胸躍る戦いなど、終わってしまえば今後決して起こり得ないだろう。
故に負けられない。その為に、自分は生まれてきたのだから。
だが、結末はシャドームーンの望んだ形ではなかった。
全ての力を出し切ってなお、倒れようとしない宿敵へ打ち込む最後の一撃。同時に繰り出し、立っていた者が勝者となるはずだった。
お互いが攻撃を放とうとした寸前に、飛来した赤い魔剣。
なぜ、自分が決闘を始める前に投げ捨てた創世王の証が勝手に動き、相手の左胸に深く突き刺さったのだ。
シャドームーンがそう思考を巡らせたのは、魔剣に貫かれて無防備となった相手へ自分の拳を叩き込んだ後であった。
「なん…だ。これは」
シャドームーンは自身の目に映る宿敵の姿に思わず後ずさってしまう。胸にサタンサーベルが未だに突き刺さっており、赤い複眼は光を宿していない。そして段々と輝きを失い失い始めるエナジーリアクター。
「コウタロウッ!?」
シャドームーンの横を抜け、マスターへと駆け寄ったライダーは動かなくなったマスターを肩を揺さぶり、何度も声をかけ続ける。目に涙を溜めながら、何度も。何度も。
しかし、彼女へいつものように優しく、安心させるような声は帰ってこなかった。シャドームーンの攻撃を受け倒れた時から変わらずに、沈黙し続ける、生気を宿さない光太郎を見て、ライダーは認めてしまった。
彼は、死んだのだと。
「…うそ…つき」
光太郎の頭部を胸に抱き、ライダーは嗚咽と共にもう届かない言葉が吐き出された。
「シンジとサクラは…どう、するんですか…?御爺様への誓いは…誰が、叶えるんですか…?私との…やく、そくは…」
返事は、ない。
「うわ、あああああああああああああッ!!」
大声を上げて泣き始めてしまうライダー。神代の存在とは考えらない弱々しい姿を見ても、シャドームーンもまた変わらず、目の前の現実を受け入れられないままでいた。
しかし、その場に居合わせてただ1人、動きを見せる者がいた。
キャスターは立ち尽くすシャドームーンに向けて全力で魔力弾を撃ち込もうと力を収束を開始する。
今背中を見せているゴルゴムの世紀王は光太郎同様に力を使い切り、自分の魔力を防ぎ、避ける余力すら残っていないはずだ。ここで倒せば、敵の統制が完全に崩れるという考えたが、それ以上に彼女の中では別の感情が高ぶっていた。
それは彼女自身が決して認めようとしないことだろうが、キャスターは敵の組織を倒すという以上に、自分を仲間として引き入れた物好きをあのような姿へとしたことに怒りを抑えきれなかったのだ。
そして圧縮された高魔力を解放しようとしたその時、彼女の身体に異変が起きる。
「あぐっ!?」
突如、キャスターは地面に貼り付けにされてしまう。まるで巨大な石に押しつぶされているかのような感覚。自分に何が起きたか理解出来ないキャスターの耳に、どこからともなく何者かの声が響く。
『――亡霊如きがでしゃばるでない』
地の底から響くような声に、シャドームーンが反応する。握った拳を震わせ、悍ましい声の主の名を叫んだ。
「なぜだッ…!なぜブラックサンにサタンサーベルを放ったのだッ!!答えろ、創世王ッ!?」
ゴルゴムの支配者であり、間桐光太郎と秋月信彦に過酷な運命を背負わせた全ての元凶。創世王はまるで当然かの如く返答した。
『――私は貴様の望みを尊重していたに過ぎない。ブラックサンと全力で戦う…それは先程、叶えられた』
「そうだ!そして私は…」
『――だが、次の創世王である貴様が万が一に敗れる訳にはいかぬ。故に手を貸してやったのだ』
「な、に…?」
それは、全てをかけて戦ったシャドームーンの誇りを踏みにじるに等しい言葉であった。
『――それに、抹殺するべき下等な人間どもに味方するブラックサンなど、最初から創世王…しいては世紀王すら相応しくなかったのだ。さあ、シャドームーンよ』
光太郎の胸に刺さったサタンサーベルが光となって消滅したと同時に、シャドームーンの前に現れる。
『――サタンサーベルでブラックサンの持つキングストーンを抉り出し、今こそ創世王となるのだッ!』
シャドームーンは震える手でサタンサーベルの柄を掴み、倒れている光太郎の方へと顔を向ける。宿敵は先程と変わらず、泣き崩れているサーヴァントに抱かれたまま動こうとしない。キングストーンの輝きも、変わらずに弱々しいままだ。
「…っ」
光太郎との激戦で力を使い果たしたシャドームーンではあるが、剣をふり下ろす程度は可能だ。自分の最大の目的、創世王となるにはそれだけで十分事足りる。
身体を揺らしながらも一歩、また一歩足を進めながら光太郎へと迫るシャドームーン。
そして倒れている宿敵の元へとたどり着き、太陽のキングストーンを宿すベルト目掛けて剣を振り上げたシャドームーンの脳裏に、白い少女の言葉が過ぎった。
『アナタ自身は、ライダーのマスターと戦うことをどう思っているの?』
「う、おぉぉぉおおおおッ!!」
世紀王の咆哮と共に振り下ろされたサタンサーベル。だが、その切っ先は目標から大きく逸れ、光太郎の真横の真横へと突きつけられる。
だが、それだけで留まらず、切っ先によって作られた亀裂は段々とがり、ついに地割れを引き起こしてしまう。
「なっ!?」
倒れたままのキャスターが見たのは、発生した地割れに飲み込まれていく光太郎とライダー。立ち上がり、転移魔術で地割れの中へと消えた2人を救いに行こうにも身体が全く動かない。
(う、動いて!このままじゃ、彼も、ライダーも…!)
懸命に自分を縛る力を振り切ろうと身体を動かし、魔術を試していたが、一向に解ける気配はない。彼女は見せつけられていた。この数日間しか付き合いのない、お人好しの協力者とそのサーヴァントがもう、手の届かない場所へと消えていく光景を。
「ライダー…!光太郎ォッ!!」
2人の名を叫んだキャスターの意識は、そのまま沈んでいった。
『――なぜだ』
「はぁ…はぁ…はぁ…」
『――なぜ、キングストーンを奪わなかったのだ』
創世王の問いかけに答えないまま、シャドームーンは去っていった。
荒れ果てた決戦の地には、創世王の力により気を失ったキャスターが一人、倒れているのみであった。
ゴルゴムの秘密基地
「み、見たか…」
震えながら世紀王同士による戦いの結果を自分の背後に並んで見ていた大怪人2人へと問いかける大怪人ダロム。それに頷いたバオラムとビシュムも同様に興奮して、自分達に取って最大の敵が地の底へと落ちていく姿を巨大モニターへと映し出していた。
「つ、ついに憎き仮面ライダーブラックがシャドームーン様の手により最期を迎えた!」
「これで我々の世界征服が確実となったのね!」
歓喜に奮えるだダロムは自分達と同じく戦いを見ていた怪人達へと呼びかけた。
「聞くがいい!!ついに裏切者である仮面ライダーブラックは死んだ!!もはや我らゴルゴムの障害となるべき者は誰もいない!!」
ダロムの演説を聞き、怪人達は鼓舞を受けたように雄叫びを上げる。
「世界中のゴルゴム達よ!今こそ世界を我らゴルゴムのものとせよッ!!」
「うるさいわね…」
大怪人達の放つ声に不満を募らせるイリヤスフィールは、またもや部屋を抜け出して秘密基地の中を出歩いていた。今頃、マーラとカーラは青い顔をして自分を探し回っているのだろう。
その姿を想像して悪戯が成功したかのように笑いながら歩いていくと、先の十字路で誰かが誰かが倒れたような音が聞こえた。不思議に思ったイリヤは小走りで音の聞こえたほうへと向かうと、そこには傷だらけのシャドームーンが壁に背を付けて座り込んでいるシャドームーンであった。
「ど、どうしたのッ!?傷だらけじゃないッ!?」
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…グゥ!!」
「ど、どうすれば…」
抑えていた戦いのダメージによる痛みが全身に走り、苦しむシャドームーンの姿を見て、慌てふためくイリヤだったが、は意を決して彼の隣に座る。
(通用するか、わからないけど…ううん、考えている場合じゃない!)
イリヤは苦しむシャドームーンの耳元でブツブツと詠唱を始めた。それは催眠術であり、対象者の神経を麻痺させ、眠りへと誘うものだった。暫くすると術は成功し、シャドームーンの全身の痛みを和らげ、あれ程苦しそうに息を上げていたが今では定期的に呼吸をしている。
「ふぅ…」
以前はシャドームーンが指を鳴らしただけで自分のの攻撃魔術が無効化されてしまったが、彼の身体に効果が表れるか確証はなかった。術が成功したことに安吐したイリヤだが、あくまで痛みを押さえただけであって回復には至っていないため、急ぎ治療をさせるように撒いた2人の侍女怪人を探すために立ち上がる。
「今、2人を連れてくるから待ってなさい!」
長いスカートをはためかせながら駆けていくイリヤの姿が通路の奥へと消えた後、意識を失ったはずのシャドームーンの口から、まるで願うかのように言葉がこぼれた。
「あれしきのことで…死ぬなど許さんぞ…ブラックサン…」
数日後
金髪の青年、ギルガメッシュはここ数日太陽が顔を見せず、濃い雨雲で囲まれたままの空を見上げながら浜辺を歩いていた。
「………………」
無言で歩き続ける事数十分。海岸の岩場を進んでいくうちに、大きな洞窟へとたどり着いたギルガメッシュは、入口で待っていたと言わんばかりに声を上げるクジラ怪人の頭を撫でる。
それが済むと、クジラ怪人は洞窟の奥へと足を進め、ギルガメッシュも続いていく。洞窟の内部はクジラ怪人が住処として利用している為か歩きやすく、もし子供達が走り回ったとしても転ぶことはないだろう。
だが、それも既に叶わない光景だ。ここに来る前に赴いた子供達との遊び場である商店街や港には誰一人姿を見せず、完全なゴーストタウンと化していた。
ギルガメッシュに対して友好的に話しかけた大人たちも、慕って後姿を追いかけていた子供達も、ゴルゴムの脅威から逃れる為にこの地を後にしている。
もう、あの笑顔を見ることなど、できないかもしれない…
などとセンチメンタルな自分らしくない考えに浸っている間に、大きな空洞へとたどり着いた。
「なるほど…このような辺境の地で、今なお湧出ているとはな…」
呟きながら、壁面から流れ、空洞の中央へと集まっていくどこまでも澄んだ輝きを持つ水に手を当てる。
そして足を進めていくうちに、ギルガメッシュは空洞の中央にある突起物の前に移動する。それはまるで岩で出来たベット…もしかしたら棺のようにも見えてしまうのかもしれない。
その突起の横で敷かれた毛布で横になっている女性に目を向けた後、突起上部の窪みに注がれた水に浸かり、横になっている存在に問いかけた。
「貴様にあの空を照らすことが出来るか?黒曜よ」
傷だらけの光太郎の腹部に宿るキングストーンが、鈍い光を放っていた。
光太郎が倒れ、テンションが上がりまくっているあまり傷だらけの支配者の迎えを忘れて大騒ぎ。それがこの作品でのゴルゴムクオリティ…
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