Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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活動報告にも書いてあった通り、PC故障により遅れてしまいましたが解消したためようやく投稿!

スーパーヒーロージェネレーション、どのステージにもRX出場させてたりしてます。ああ、なんだか彼が活躍する文章も考え始めてしまっている…



それとは関係なしに、54話です!


第54話『戦士達の言葉』

「う…」

 

キャスターはゆっくりと目を開ける。

 

そこは、間桐家に住みついて以来寝床として使用している部屋だと理解するのに、意識がはっきりとしていない為かしばらくの時間を要した。

 

「気が付いたか」

 

自分の慕う人間がすぐそばにいたことに感付くことにも。

 

「そ、総一郎様ッ!?起きて大丈夫なのですかっ!?」

「ああ」

「ね、寝たままで失礼しました…!」

 

即答する総一郎は腕に包帯を巻いているが普段と変わりない姿であった。こうして自分の部屋まで移動して自分の様子を見に来ているところから、順調に回復ている様子に安心しながら、マスターの前で寝たままではいられないと急いで上体を起こし、手櫛で髪を整えるキャスター。一度深く息を吐き、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は、どうしても確認しなければならないことがあった。

 

「…総一郎様、あの2人は…?」

 

目覚める寸前に見た協力者達が地割れへと落下する光景が目に焼き付いてしまったキャスターは、自分が倒れた後の事をマスターへと尋ねる。デジタル時計の日付を見ると、間桐光太郎とシャドームーンの決闘から3日も経過している。

 

「…あの場には、倒れていたお前しかいなかった」

「そう、ですか…」

 

やはり、あの2人は…と事実を改めて受け止めたキャスターはもう一つ気がかりな点をマスターへと尋ねる。

 

「こう…ライダーのマスターの兄妹は、どうしていますか?」

「……………」

 

総一郎の前で他の男性を呼び捨てで口にすることに抵抗があったのか、急ぎ訂正したキャスターの質問に総一郎は特に気にする様子もなく答えた。

 

「…アサシンによると、間桐光太郎が世紀王に倒された時点で間桐桜は気を失い、地割れに飲み込まれた光景を見た間桐慎二は暫くの時間、水晶玉の前から動けなかったようだ」

「………………」

 

当然の反応だろう。血の繋がりが無いとは言え、あれ程慕っていた人物の死に際を見てしまったのなら…というのが普通の反応だ。だが、続いて総一郎から聞かされた情報にキャスターは自分の耳を疑った。

 

「そして数時間後に2人は決闘の場に向かい、間桐光太郎の捜索を始めている」

「…は?」

 

自分でも信じられないほどに間の抜けた声を上げたキャスターの反応を気にせず、総一郎は慎二と桜の行動の経緯を説明した。

 

義兄が敗北し、サーヴァントと共に地の底へと消えた事に大きなショックを受けた慎二と桜。

気を失った桜の横で意気消沈していた信二にアサシンは声をかけることなく様子を見ていたが、肩を落としていた慎二が急に立ち上がり、自分の部屋へと駆け込む。

 

やがて慎二が戻ってくるタイミングで目を覚ました桜も義兄の最後を思い出し、しばし俯くと何かを決意したかのように立ち上がって慎二同様に自室に向かっていった。

 

約10分後、柳洞寺や新都へと向かった際に着用したジーンズとライダースジャケット。手には戦闘用の手甲まで着装した桜は黒い髪をポニーテールにまとめ上げ、自分同様に準備を進めていた慎二を頷き合い、玄関へと向かっていく。

 

自分の役目である『戦いの最中は家から出さない』という条件が既に無効となっているため2人を止めようともしないアサシンであったが、2人に尋ねた。どう足掻いても絶望的な状況でも動く理由を。

 

振り返った2人の目は、とても身内が命を落とし、悲しみに暮れる者とは思えない瞳だった。

 

 

『…約束を反故して惨敗した愚兄に文句を言いに行く』

 

『もう外食だけじゃ全然足りませんッ!!』

 

と、同時に足を踏み出したのであった…

 

 

『よもや、あれを見た後でも、生きていると信じて疑わんとはな…』

 

既にエンジンを温めて玄関の前で待機していたバトルホッパーとロードセクターに搭乗する2人の姿に、アサシンは思わず呟く。

 

『果報者だな。あの者は…』

 

 

 

「以上がアサシンから聞いた話だ」

「前向き過ぎですね…しかし」

 

いくら生きていると信じていても、地割れの底へと落下した光太郎とライダーをあの2人が見つけることなどできるのであろうか?

なんの手がかりなしに探し回るだけでは徒労に終わるだけだろう。顎に手を当てて思いつめているキャスターはふと自分が出発する前にこの家に置いていったモノの存在を思い出す。

 

「総一郎様、居間に私の水晶玉は置いてありますでしょうか?」

 

そう、光太郎とシャドームーンの決闘に付いていけない代わりに、遠く離れたこの間桐家で様子が見れるようにと通視の機能だけを残した水晶玉には他に様々な用途に使用できる。その地に残った記憶を読み取り、映像として映し出す事や魔力の残滓を辿り、サーヴァントを見つけ出すことも可能なのだ。

 

「それならば…」

「小僧が持って行ってしまったよ」

 

総一郎の代わりに答えたのは盆に人数分のお茶を乗せて入室したアサシン…佐々木小次郎であった。

 

「…どういうことかしら。説明なさい」

 

先ほどと打って変わり不機嫌となったキャスターは作務衣をまとっている自分のサーヴァントへと尋ねる。ノックもせず部屋へ入ったのか、総一郎と二人だけの時間を邪魔したのか理由は定かではないが、我関せずとアサシンは給仕を終えて自分のお茶を啜りつつ頬を若干膨らませている、かつては自身で『裏切りの魔女』などと名乗った主へと微笑みながら答えた。

 

「やはり長兄を探すことに難航しているようでな。少しでも役に立つものとお主の水晶玉を持って歩いていたところ、娘が手にした途端に見えたのだと」

「まさか…」

 

 

 

やはり闇雲に探し回るだけでは見つからないと考えた慎二は家に保管されていた道具を手当たり次第持ち歩き、荒れ果てた決戦の跡地で持ち物をブルーシートの上で展開していた時であった。

 

よほど慌ててバックに放り込んでいたのか、居間にあった水晶玉まで持ってきてしまった事にようやく気付いたのであった。これは自分には使えないと他の道具と並べて置こうとした途端、もしかしたらと思い、先に周囲を探し回っていた桜へと手渡し、こう考えるように伝えた。

 

ライダーは、どこにいるのか。

 

義兄の真剣な眼差しに、桜は疑うことなく水晶玉を手に取り意識を集中させる。すると、桜の願いに応じるように水晶玉が僅かながら紫色の光を放ったのだ。

 

 

 

 

「…恐ろしい才能ね。いくら多機能を宿してあるものであっても念じるだけで魔力探知を発動させるなんて。それで?」

「その日は一端打ち切り、今朝方早くに出て行った。どうやら海へと出て流されていった様子らしい」

 

飲み干した湯呑を手でいじりながら補足するアサシンの言葉を聞きながら、光太郎とライダーが生きていた場合の状況を整理する。あの地割れの底がすでに海であり、落下する距離がそれ程でもなかった場合は生存している確率は十分ある。

沖の方へと流されたのなら絶望的だが、桜の探査魔術に反応したというのなら…

 

「少なくても、そう遠くない場所にいることは間違いなさそうね」

「お墨付きということなら、連絡してやるといい」

 

再び湯呑を盆に乗せて退室しようとしたアサシンは、ベット横にあるテーブル上に電話の子機を静かに置く。なんのつもりと目を細めるキャスターにアサシンは答えずに部屋を後にしたのであった。

 

「…………………」

「私にかまわず、連絡すればいい」

「総一郎様…」

 

子機を手に取り、逡巡するサーヴァントにマスターは表情を変えることなく続けて言葉をかける。

 

「お前のしたいことを望むようにやるがいい。もし私の力が必要となるのならば、好きに使えばいい」

 

出会った時と変わらない、自分の味方でいてくれるという言葉に目を見開いたキャスターの顔は自然と優しい微笑みとなっていた。

 

「それでは、総一郎様」

「なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…このデンワを動かすにはどのような詠唱が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ…はいっ!ありがとうございます、キャスターさんッ!!」

 

キャスターとの通話を終えた桜は慎二の元へと走っていく。その様子を見て自分達の予想は正しかったと判断した慎二は頷くとバトルホッパーへと呼びかける。

 

「喜べよ…あの駄兄をタイヤで平手打ちする日が近くなったぞ」

「Pipipipi!」

 

ゴルゴムの支配が進んでいるとはいえ、まだ多くの車両が行き交うサービスエリアの中であることから普段と比べ電子音を小さくしながらも慎二の言う恐ろしいお仕置きに同意するバトルホッパーの姿に、桜は思わず吹き出してしまった。

 

「兄さん、キャスターさんからも太鼓判を貰えました!このままいきますと…」

 

ポケットから折りたたんだ地図を取り出した桜は赤いマジックで丸をつけた地点から様々な方向に付けられた矢印線を指さす。

 

それは光太郎とライダーが行方不明となった地点を起点とし、ライダーの魔力残滓に反応する水晶玉を持って考えられる方向へ全てに向かった記録であった。水晶玉から放たれる光が弱くなった場所はバツ印。強くなった場所は丸を付けて2人の行く先を絞っていった結果、冬木に近い海岸までに場所を特定できたのである。

 

「考えられるのは、ここか…よし、すぐ出発だ」

「はいっ!」

 

元気よく返事をする桜と共に、慎二はヘルメットを装着する。

 

その様子を、はるか上空から怪人に見張られているとも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか、生きているというのか、仮面ライダーは…」

「しかし、創世王様のお力添えもあり、シャドームーン様によって確実に止めを刺されたはず…」

 

コウモリ怪人から送られた映像に大怪人であるダロムとバラオムは動揺を隠せない。シャドームーンも現在治療中で目を覚ます様子もない。もし、宿敵である仮面ライダーが生きているとなると…

 

「ならば話は簡単よ、今度こそ私達の手で葬り去ればいいわ!」

 

背後から現れた大怪人ビシュムの言葉にダロムとバラオムは顔をしかめる。余程の自身があるのか、ビシュムは2人の間を抜けて扉の奥へと向かっていこうとするが、ダロムに呼び止められる。

 

「…ビシュムよ。貴様、よからぬ事を考えてはおるまいな…」

「何をふざけた事を。次期創世王となるシャドームーン様にキングストーンを献上しようとするのは、ゴルゴムである私の使命よ?」

 

ニヤリと笑うビシュムは2人を背にし、通路を歩きながら自分の背後に現れた怪人へと指令を出す。

 

「わかっているわね、女王アリ怪人?」

「はい、クジラ怪人を追っていたトビウオ怪人からの情報も合わせますと、あの人間達の向かう先に必ずや…」

「フフフ…どうやら、風は私に向いているようね」

 

怪人でありながら女性のボディラインを持つ女王アリ怪人。他の怪人と比べ理性があり、ビシュムと会話をしながら通路を歩いていく。

 

「クジラ怪人ならともかく、情報にあったあの英霊がいるとなると…」

「バラオムの言っていた、人間の最初の王となる者ね。でも心配はいらないわ」

 

立ち止まったビシュムの手のひらの上の空間が、まるで捻じれるように湾曲した。

 

「人間共の魔術が、いかに子供騙しであるか思い知らせてあげる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「コ、ウタロウ…」

「目を覚まして最初の言葉がマスターの名とは、大した忠義よな…貴様も」

「…っ!?」

 

思わず飛び起きたライダーは声の主の方へと顔を向ける。見れば岩に腰かけた金髪の英霊がこちらに顔を向けることなく携帯ゲーム機を操作していた。

 

「ギルガメッシュ…どうして、貴方が」

「我はここに貴様達がいると聞いてな…ただ、それだけだ」

「私…『達』?」

 

ここはどこかの洞窟の中なのだろうか。不思議と暗くなく、明かりが上からでなく、下から放たれている事に気付いたライダーは自分の寝かされていた毛布付近の地面に所々穴が開き、そこから光が放射されていると理解する。

 

さらに詳しく調べようと毛布の外へ出ようとした時―――

 

「動くなよ」

 

心臓を射抜くような冷たい一言に固まってしまった。

 

振り向くとゲーム機片手に立ち上がったギルガメッシュが真顔でライダーへと近づき、やがてギルガメッシュが腰を下ろしているライダーを見下ろす状態となると、視線をライダーの背後にある大きな岩の突起に移しながら口を開く。

 

「今さっきまで貴様が意識を失っていたそこが、貴様の存在を保っていられる唯一の領域。少しでも租奴から離れれば、間違いなく消滅する」

 

ゾクリとする忠告に思わず唾を飲み込んだライダーは、ギルガメッシュの送る視線が気になり、その突起を見ようと立ち上がる。

 

そこにいたのは、彼女にとって、かけがえのない存在だった。

 

「コウタロウ…!」

 

突起した岩のベットに寝かされていいる傷だらけのマスター。だが、宿敵との戦いの際に負ったダメージと比べ、幾分か回復しているようにも見える。

 

ひび割れた複眼は小さな亀裂となっており、吹き飛んだ肩のプロテクターも完全な形で再生していた。

 

「この男は、本当に愚かだ」

 

厳しい言葉の中に、どこか暖かさを感じたライダーは自分の隣で光太郎を見下ろすギルガメッシュの顔を見る。何時かのように光太郎と共にゲームを興じていたような、穏やか目。

 

「本来ならば自身の傷を修復に回さなければならない王石の力を、ほぼ貴様の現界させるための力に使っている。本当に、面白い奴よ」

 

言われてみれば、光太郎がシャドームーンによって倒された段階で、自分は消滅するはずだったと考えたライダーは、自身に通る魔力に変換されたキングストーンの力をはっきりと感じた。

自分が死ぬかもしれない瀬戸際だというのに、そんなことを考える余裕すらなかったはずなのに…

 

「…ギルガメッシュ、私達をここまで運んだのは、貴方なのですか?」

「戯け、王は直接民に手を差し出すことなどない。すべては、そこにいる者がやったことだ」

 

ギルガメッシュが視線を投げた先に現れたのは、両手に魚や果物といった食料を持って現れたクジラ怪人であった。今までのゴルゴム怪人と比べどこか愛嬌のある姿と鳴き声にライダーも警戒することなく、自分に近づいて食料を手渡したクジラ怪人に微笑んでお礼を言った。

 

「では、ここも貴方の住処だったのですね…ありがとう」

 

頭を撫でられ、嬉しそうにうねるクジラ怪人の姿を見たライダーは、光太郎の寝かされている岩の下から澄んだ水が注がれていることに気付く。

 

「これは…」

「クジラの一族に伝わる命のエキス…エリクサーと同等の効果を持つと言った方が分かりやすいか?」

「エリクサーと言えば…」

 

世界中に伝承されている万能薬の通称。その効果はどのような病や怪我も瞬く間に治し、生命すら与えると言われている。ギルガメッシュが言った通りに、光太郎が浸っている液体…命のエキスに同様の効果があるのなら…

 

「コウタロウは、生き返る…」

 

ライダーが思わず光明を口にした途端、ギルガメッシュは目を細くして離れていく。

 

「…クジラ。ここを離れるなよ」

 

クジラ怪人の頷きを確認したギルガメッシュは、光太郎の手を優しく握るライダーの姿を一瞥すると、クジラ怪人の歩いていた逆の方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここです!」

「洞窟の奥、か」

 

強く輝く水晶玉の反応を見て、ライダーはここにいると確信した桜と慎二が洞窟の中へと進もうとした時だ。突然洞窟の奥から幾本もの鎖が飛び出し、2人の真横をすり抜けていった。もし自分に当たったのなら貫通では済まないと考えながら、

鎖の行き先を振り返る。

 

まさに予感通りの末路を迎えた存在が、断末魔を上げて燃え上がっていたのであった。

 

「か、怪人…?」

「どうして、ここに?」

「愚か者が。つけられおって…」

「あ、あんたッ…!?」

 

2人は声の聞こえた方へと振り返る。洞窟の中から先ほど飛ばした鎖を引き戻し、腕に巻きつけたギルガメッシュが悠々と歩みながら現れた。

 

「つけられたって…まさか」

 

嫌な予感がした桜は今だに燃え続ける怪人の遺体の向こうで立っている2体の異形…大怪人ビシュムと女王アリ怪人の姿を確認した。焦燥する慎二と桜の様子をビシュムは愉快なのかクスクスと笑っている。

 

「フフフ…道案内、ご苦労だったわね。これで労することなく、キングストーンを回収できるわ!」

 

敵の目的に一役買ってしまった慎二はギリッ…歯を噛みしめる。光太郎とライダーを探すことに集中するあまりにゴルゴムの存在を疎かにしていたことが、このような結果を生んでしまうなんて…隣にいる桜も同様の事を考えているようであり、手に持った水晶玉を思わず強く握っている。

ライダーの反応が強く出ているということは、マスターである光太郎もここにいるのは間違いない。

 

しかし、移動ができない。動けない状態にあるとすれば敵の言う通り、格好の的になってしまう。

 

どうにか敵を退けようと手持ちの武器を取り出した信二と桜の間を抜け、金髪の英霊が前へと立った。

 

「ギルガメッシュ…さん?」

「貴様等は下がっていろ…的になりたくなければな」

 

ゾクリと、彼の放たれた殺気に身震いした慎二と桜は言われた通りにギルガメッシュの後方へと移動する。彼は、明らかに怒りを向けている。だが、自分達に向けられている殺意すら楽しんでいるようにビシュムは軽口を放った。

 

「あら、貴方がお相手してくれるというのかしら、大昔の王様?」

「今すぐこの地から去れば見逃そうと思ったが、止めた」

 

指を鳴らすと同時にギルガメッシュの背後の空間が歪み始める。彼の宝具『王の財宝』が展開されようとしていた。全ての宝具の原典を呼び出し、射出することで一方的に敵を蹂躙する。

 

ギルガメッシュの普段の戦法だ。

 

だが、今彼の背後の空間は普段水に浮かぶ波紋のように歪み、その中心から武器が現れるのだがその空間の歪みは螺旋のように絡まり、武器が出てくる様子は見られない。

 

「………………」

 

「アハハハハハハ!どうかしら、私の時空遮断魔術は?」

 

見れば、ビシュムは両手を前方に出し、ギルガメッシュに向けている。どうやらビシュムがギルガメッシュの周りの空間を歪ませることで『王の財宝』を展開させないようにしているらしい。

 

「さぁ、女王アリ怪人、出番よ!」

「お任せください、いでよ!我が僕たち!!」

 

女王アリ怪人が手に持った錫杖を掲げた途端、女王アリ怪人の背後からワラワラと同じ姿をしたアリ怪人が大量に出現した。数はドンドン増えていき、20…30…50…100を超えた時点で、慎二は数えるのを止めてしまった。

 

「どうかしら、貴方が手にしているのはその貧弱な鎖だけ。裸の王様に何ができるのかしら?」

 

嘲笑するビシュムは、震えだしているギルガメッシュの姿を見て、あまりに不利な状況に恐怖したのだと考えた。当然だろう。人間と比べ高位の存在であったとしても、結局は宝具に頼らなければ怪人一匹にすら叶わない愚かな存在だ。

特にこの英霊は自身ではほとんど動かず、背後から武器を射出されるしか能のない英霊だ。

 

唯一の戦法を封じられたのだから震えて泣きわめくものと、ビシュムは考えていた。

 

だが、彼が震えていたのは恐怖からではない、別のものに耐えるためであった。

 

 

 

 

「…く、クククククッ」

 

 

 

 

 

「ハァーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

 

 

ギルガメッシュは笑っていた。腹が捩れんとばかりに、片手で腹部を抑えながら、爆笑していたのだ。

 

どうやら壊れてしまったのだと判断した女王アリ怪人は1体のアリ怪人に命令し、ギルガメッシュに向かって走っていく。手に持った斧で切り裂こうと彼の前で振りかぶり

 

 

「…グギィッ!?」

 

笑い終わったギルガメッシュに額を掴まれ、悲鳴を上げ始めていた。余りの痛みに、斧を取りこぼして手を振りほどこうとギルガメッシュの手に触れようとした途端…

 

 

「雑虫如きが我に触れるな」

 

ギルガメッシュが拳を引いたと同時に彼の手にあった鎖が突如生物のように一人でに動き、彼の拳を包むように高速で回り始めた。それはまるで拳にドリルを装着したかのような形となり、ギルガメッシュは全力でアリ怪人の腹部へと叩き込んだ。

 

「…………ッ!!!」

 

悲鳴を上げることすらなかった。悲鳴を上げる為の器官も、内臓も、骨も、ギルガメッシュの拳と共に体内へと侵入した鎖が体中から四方八方へと飛んでいき、肉片を散らしてしまったのだから。

 

その光景に背後にいた慎二と桜は勿論、敵であるビシュム達すら絶句していた。

 

 

「…ずいぶんと愉快な事を抜かしたな…財宝がなければ、我は何もできないと…」

 

再び鎖が腕の中へと戻ったことを確認したギルガメッシュは鼻を鳴らして先ほどとは逆に動きを見せないゴルゴム達へと言い放った。

 

 

 

「財宝を所有しているから王なのではない。我が王であるが故に、世界中の財宝が我の元へと集ったのだ。だが、どうやら貴様等に理解ができぬようだから今回は我自身の力を見せてやるとしよう」

 

ゆっくり、ゆっくりと歩んでいくその姿に何体ものアリ怪人が後ずさってしまっている。

 

 

 

「貴様等虫ケラごとき、我と盟友だけで十分だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外で、戦闘…」

 

ギルガメッシュがこの場からいなくなって数十分が経とうとしている。察するにゴルゴムが光太郎がここにいると知り、大群で押し寄せてきたのだろう。万が一に敵が侵入した場合、存在を保っているだけのライダーに戦闘能力はなく、クジラ怪人も多勢に無勢では敵わない。

 

「コウタロウ…」

 

ライダーには、祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…暗い。ここは、どこまでも、暗い場所だ。

 

 

 

間桐光太郎は、そんな場所で浮遊している気分だった。何も見えず、聞こえず、そして、彼が帰るべき場所からどんどん遠ざかっていく感覚。

 

 

しかし、自分の近くで何かが起きている事はわかる。これは、自分が起き上がって何とかしなければならないことなのだ。

 

 

だというのに、体が言うことをきいてくれないのだ。

 

 

どうして、どうして動いてくれないんだ。

 

 

動こうと必死に考える度に、意識がさらに深い闇の底へと沈んてしまう…

 

 

もう、駄目なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――諦めるんじゃないッ!』

 

 

 

 

そんな、叱咤するような言葉が、はっきりと耳に届いた。

 

 

それだけじゃない。光太郎の前に、声を放った存在の姿がはっきりと浮かんだのだ。

 

 

「あ、貴方は…」

 

『間桐光太郎…お前は、このような最期を迎えることなど、あってはならない!!』

 

 

その姿は初めて見る。見るはずなのに、昔から知っていたような不思議な既視感があった。

 

 

赤いマフラーを靡かせ、銀色のブーツと手袋を装着し、変身した光太郎と同じく一対の触覚と巨大な複眼を持つ、伝説の戦士。

 

 

『最初の男』と呼ぶべき存在が、光太郎の前に立っているのだ。

 

 

 

『お前にはまだ、やるべきことが残っている。それもやり遂げもせず、終わらせてしまうのか?』

 

「俺は…」

 

 

 

 

 

『そいつの言う通りだぜッ!!』

 

「ッ!?」

 

 

思わず振り返ったそこは、どこかの外国だろうか。見覚えのない土地で、大量のゴルゴム怪人に向かい、立ち向かっている戦士の姿が映し出されていた。

 

その姿こそ『最初の男』と酷似しているが、ブーツと手袋が赤く、体に走るラインは一本。そしてマスクが黒に染まっていた。

 

 

『最初の男』が技を洗練した戦士ならば、この『2番目の男』は力によって多くの人類の敵と戦ってきたのだ。今も、自慢の拳で次々を怪人をなぎ倒しながらも、光太郎に声をかけている。

 

 

『お前はそんな薄暗いとこでチンタラしてる暇なんかないッ!!とっとと起きやがれぇッ!!』

 

 

その言葉を聞き、必死に体を動かそうとするが、未だにピクリとも反応しない。

 

 

 

「わかっています…けど、体が動かないし、キングストーンも――――」

『何を腑抜けた事を言っているッ!!』

 

 

そこは、また違う国で起きている戦いだった。

 

赤い仮面と白いマフラーを持ち、力と技を引き継いだ『3番目の男』は数多くの怪人に囲まれながらも、怯むことなく立ち向かった。

 

 

『お前が今まで戦ってこれたのは、改造された身体だったからか?それとも、その大層な石コロを宿しているからか?』

 

 

「―――違う。俺が戦ってこれたのは、そんな事じゃない」

 

 

『そう、だからこそ君はゴルゴムの望み通りの存在にはならなかったはずだ』

 

 

そこでは、右腕を様々な兵器に換装しながら戦う『4番目の男』が、多くの兵士と共にゴルゴムによって洗脳された人間達を鎮めるために動いていた。

 

 

『人として、決して失ってはならないもの…それがあるから、君は君でいられたんだ』

 

 

「俺が、俺で…」

 

 

『だからこそ、君は戦えた。誰かの意思をついで、『人』としての心を持ったまま、な』

 

 

場所は深海。そのような環境の中でも自在に動き、ゴルゴムの怪人を1体、また1体を「X」の字に刻んで葬っていく『5番目の男』。

 

 

『誰かの意思を継いでいる限り決して死なない。お前も、託した人の心も』

 

 

「託された思い…そうだ、俺は生きるんだ。両親と、義父さんの分もっ…!」

 

 

 

『…それだけじゃないッ!!』

 

 

自身の技により、真っ二つとなった怪人の返り血を浴びても『6番目の男』は拭うことなく、野生動物のように咆哮し、新たな敵へと向かっていく。

 

 

『お前はたくさんの友達、守らなければいけない!!それだけの力、ある!!』

 

 

「…はい、言ってしまいましたから。親友たちに、絶対また会おうって」

 

 

 

『なら、ますますそんなとこにいる場合じゃぁないよなぁッ!!』

 

 

深夜の空に雷鳴が響き渡り、一帯を照らしていた。『7番目の男』によって放たれた雷撃により、怪人が次々と焼き焦げていく。

 

 

『その約束した連中のためにも、きっちり敵さんに落とし前つけなきゃ、守れるもんも守れないぜッ!!』

 

 

「守る、もの…」

 

 

『そして、戦っているのは、君だけじゃない』

 

 

はるか上空から人間を襲っていた怪人達を次々と叩き落としていく『8番目の男』。応援に駆け付けた怪人の群れに、迷いなく飛行してく。

 

 

『俺達も、君の周りでも、自分なりの戦いを続けている人たちがいるはずだ』

 

 

「俺の周り…慎二くん、桜ちゃん、そして、ライダー…」

 

 

 

『俺達にも何度も絶望的な戦いがあった。それでも、諦めることはしなかった』

 

 

火炎、冷気、電気…多種多様な戦法に加え、華麗な拳法で怪人を地へ鎮めていく『9番目の男』は独特な構えを取り、敵との間合いを詰めていく。

 

 

『君の拳には、それだけの思いが守れる力を宿しているんだ』

 

「拳と、思い…」

 

 

 

『その力の根源は、改造された肉体からでも、特別な石から湧き出るものじゃない』

 

 

大爆発を背後に、右腕にナイフを逆手に持ち、左手に手裏剣を持った『10番目の男』がヘリから降下してくる特殊部隊と共に敵陣へと突入していく。

 

 

『いつでも俺達を動かしている『魂』がある限り、何度でも蘇ることが出来るんだッ!!』

 

 

「魂…」

 

その言葉に、光太郎は震えたと同時に、手を強く握りしめ、失ったと思っていた感覚が鋭さを増して戻っていることに気付く。そして、今まで自分に声をかけた10人の『先輩』が並び立ち、光太郎の前に立っている。

 

 

 

 

『もう、大丈夫のようだな』

 

「はい、ありがとうございます」

 

光太郎の返事に頷く戦士達。

 

彼らもまた、光太郎と同じく戦ってくれている。

 

自分と同じ境遇に会いながらも、自分と同じ志の元、同じ道を歩んでいる…光太郎にとって、これほど喜ばしいことは無かった。

 

だが、感動している場合ではない。彼らが戦っている間にも、ゴルゴムが聖杯に今にも手を伸ばそうとしているのだ。

 

もう、こんなところにいる場合ではないのだ。

 

 

そして光太郎は駆けていく。その背後から聞こえた先輩たちの最期の激励を耳にしながら。

 

 

『駆けろ――』

 

 

『この星のため―――』

 

 

『愛する者のため―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立ち上がれッ!!仮面ライダーBLACKッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変が始まったのは直後であった。

 

「こ、これは…」

 

先ほどまで弱まっていた自分に供給される魔力が力強いものへと変わっていたことに気付いたライダーは光太郎の変化に目を見開く。左胸のマークから光が漏れ、残っていた傷も次々と塞がっていく。

 

そしてエナジーリアクターの弱弱しい光も眩い輝きへと変わっていく。

 

ピクリと動かした指に次第に力が籠り、上体をゆっくりと上げていく。

 

目覚めて最初に目に入ったかけがえのない女性に対して、彼は普段通りに声をかけた。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ライダー」

 

 

 

 

「遅すぎ、ですよ。コウタロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ某所

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

「お疲れ様です…如何でしたか?」

「ああ、成功した。俺達の言葉は、確かに彼に届いた。これも、君の協力があってこだ、感謝する」

 

 

様々な機械が組み込まれたヘルメットを外した青年は、今まで自分の横にいてくれた礼と共に少女へ頭を下げる。

 

「やめて下さい。私の計算でも、この作戦成功率は失敗する方が勝っていました…私こそ、貴方の立てた案を否定していたことを謝罪させて下さい」

 

ヘルメットに接続された疑似神経とも呼べるエーテライトを手首のリングに収納した少女は、椅子の背後にある機械の固まりに目を向ける。

 

「しかし今改めて考えてみても無茶な作戦です。貴方の思考を私のエーテライトでこの機械に直結し、ハッキングした軍事衛星を介してあの少年の脳へダイレクトに呼びかけるなど…」

「俺達と違い、彼とは直接脳波での会話ができないからね…」

 

と、苦笑する青年の耳に共に戦っている仲間の声が響いた。

 

『先輩、聞こえますか』

「ああ、どうした?」

『こっちは前線基地の一つを潰すことに成功しました。けど、別働隊がそちらへ向かっているようです。どうやら、日本にいる彼へ通信する作戦が傍受されたかもしれませんね』

「そうか…ならばこちらで向かい打つ。一也は、他の方面へ向かってくれ!」

『わかりました!」

 

通信を終えた青年は扉を開ける。どうやら通信している間に、敵は到着していたようだ。

 

「数は多いな…だが、些細な問題だ」

「それは、貴方にとって取るに足らない相手だから、ですか?」

 

隣に立ち、拳銃に弾丸を装填する少女に対して青年は笑いながら答える。

 

「いや。俺達と同じ道を歩んでしまった若者が、前を見て立ち上がったんだ。先輩として、恰好の悪い所を見せるわけにはいかないと思って、ね」

「…理解できませんね。日本人とは、みなそのような思考なのでしょうか?」

「さてな。不思議に思うなら、一度行ってみるといい。平和な世界となった後に」

「考えておきましょう」

(タタリの出現する可能性もありますし、候補には入れておきましょう)

 

 

青年は一歩前に歩き、ゆっくりと息を吸いながら両の掌を合わせ、水平に延ばす。そして右腕、左腕という順番に左右に展開。

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

気合と共に叫んだと同時に、青年の腹部にベルトが出現。

 

そして『正』から『動』へと切り替えるように左腕を腰に添え、右腕を左上へと延ばす。

 

 

 

「ライダァーッ…」

 

 

扇を描くように、右腕を左から右へ旋回し…

 

 

 

「変身ッ!!!」

 

 

素早く右腕を腰に添えると同時に、左腕を右上へと突き出した。

 

 

 

ベルトの中央にあったカバーが展開され、隠されていた風車が七色の光を放ちながら回っていく。

 

 

 

 

風が起きた。

 

 

 

 

 

周りの木々をしならせ、砂塵を起こし、怪人達が思わず吹き飛びそうになる風が止んだその先に、姿を変えた彼は立っていた。

 

 

 

 

「行くぞッ!シオンッ!!」

 

「了解です、タケシ。いえ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カメンライダーッ!!」

 

 

 




と、いうわけで感想欄にありました意見を参考に先輩ライダーをゲスト出演回となりました。

次回も通常通り投稿できたらいいなぁ…

ご意見・ご感想ガンガンお待ちしております!!

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