日記にでも書いとけばいい報告はおいといて、55話でございます!
人類最古の英雄 ギルガメッシュ。
彼が間桐光太郎に対して初めてに抱いたものは、殺意だった。
その原因となったのは、彼がただ一人の友と認めた人物と冒険に明け暮れていた時、とある伝説を耳にした事に遡る。
太陽と月の力を持った石を持つ2人の王が殺し合い、2つの石を手に入れたどちらかの王がこの星の支配者となる…
そんな与太話、信じられるわけないと一蹴したギルガメッシュであったが、新たに別の土地に渡る度に細かな違いがあるが同じ伝承が残っている事を知り、遂にはその伝説が事実であった事を記した壁画を発見するに至った。
相対する黒と銀の戦士が天に浮かぶ2つの石を取り合う姿を現した巨大な壁画を見上げながら、ギルガメッシュは事実を認めざるをえなかった。自分の生まれる遥か以前に、強力な力を持った『王』が存在していたことに…
そして興味が湧いた。この世界での唯一無二の王であると自負していたギルガメッシュ以前に君臨していた力を持った王に対して。その力を間近で見てみたいと。
その機会は、彼が聖杯戦争のサーヴァントとして召喚された後に訪れた。
第四次聖杯戦争終結から10年が経過し、これまでにない短期間で再び聖杯が現れる兆しが見え始めた頃、この世界で受肉を果たしたギルガメッシュは夜道を歩いていた。
彼のマスターからは度々苦言されている行動だがそんな事は知ったことではない。
10年前の自分が何を血迷ったのか若返りの薬を飲んだばかりに大人しく身を潜めており、この姿になるまで相当の年月を費やして今に至る。ならば、醜悪なこの世界を見て回り、楽しむなど今しかない。彼の日課となりつつあった夜の散歩で、気まぐれで足を運んだ先に、彼はいた。
「ウオォォォォォォォッ!!」
そんな声が耳に入り、ギルガメッシュは聞こえた方へと目を向けた。場所は雑木林の奥。雑種同士の争いかと思えたが、何かが違う。思わず足を動かして進んでいくギルガメッシュの目に入ったのは、月明かりの下で行われている異形同士の殺し合いだった。
漆黒の戦士と狼を思わせる怪人。
戦いは戦士の方が優位にある状況ではあるが、ギルガメッシュの抱いた分析は―――
(なんと…無様な)
戦士の力は怪人を圧倒している。だが、怪人の首を掴み、何度も拳を打ち付けるなど攻撃は全て力任せに相手を追い詰めるものであり、ギルガメッシュの知る『戦い』とはほど遠いものであった。
野生動物の縄張り争いの方がまだまだ見れたものと踵を返そうとしたギルガメッシュであったが、戦士の腹部で輝く石を見た途端に固まってしまう。
「あれは…」
「ライダーッ!!キィックッ!!!」
石のエネルギーを纏った右足を狼怪人へと叩きつけられた怪人は断末魔を上げて燃え上がる。その光景を見ながら戦士はようやく終わった戦いに緊張の糸が切れ、肩で息をしながら膝をついた。
「ハァ…ハァ…まだ、慣れない…な」
その言葉は、戦いに対してなのか。それとも、自分の手で他の命を絶つことを意味しているのか。ギルガメッシュにとってはどうでも良かった。
これから死ぬ者の言葉など、覚えている必要などないのだから。
「…ッ!?」
初撃を躱せたのは偶然と言っていい。戦士の感覚は人間のそれを凌駕している故に、危険察知も鋭くなっているのだろう。戦士が前転し、背後で発生した爆発に吹き飛ばされた様にギルガメッシュは舌打ちする。あのように弱り切った者を一撃で仕留められなかったとは、自分も焼きが回ったものだと、続いての宝具を展開する。
ギルガメッシュの背後に次々と現れる刀剣や槍の姿を見て驚く戦士だったが、その仮面の奥にある表情すら、ギルガメッシュにとっては疎ましかった。
「ガっ!?グッ!?」
なぜ自分が攻撃されているか理解できないまま、戦士の身体はギルガメッシュの放つ武器に屠られていく。対応のしようがない攻撃に戦士はなす術もなく、追い詰められていた。ギルガメッシュは1秒でも早く戦士の息の根を止めるべく、宝具の斉射を続けていく。
(認めん…このような雑種が、あのような醜態を晒す者が、王の石を持つなどッ…!)
それに気付いたのは、戦士の腹部に赤く輝く石を目にした時であった。一目見れば伝わるその神秘なる力に、ギルガメッシュは黒い戦士こそが自分を圧倒させた伝説の王と同じ存在だと確信する。
じ存在だと確信する。
故に許せなかった。
世界を揺るがす程の力を持ち、『王』とされる者が獣ごときに苦戦を強いられる醜い姿など、『王』などではない。
他の者をねじ伏せ、頂点として君臨する。それが王たる者の姿。だと言うのにあの戦士には力はあっても王としての品位も誇りも見受けられない
だから殺す。故に殺す。
力を持つだけの、名ばかりの王など存在する価値もない。
しかし、戦士は倒れようとしなかった。魔剣に足を裂かれ塞がらない傷を受けても、呪いの槍に腕を貫かれて動かなくなっても、倒れようとはしなかった。
「…………………」
「ハァ…ハァ…グっ…アぁッ!!」
自身の脇腹に突き刺さった剣を強引に引き抜き、投げ捨てた戦士の姿は先ほどにもまして傷だらけとなっている。だというのに、倒れることを知らなかった。
(…生き汚いこの上ない。死ねば楽になれるものを)
止めを刺そうと一振りの剣を握り、戦士へと歩んでいくギルガメッシュ。戦士はこれから自分を殺そうとする相手が近づいていても、未だに攻撃をしかけようとしなかった。
(…………………)
戦士には戦うつもりはない。
そう気付いたのは、戦士の首筋に剣先を突き立てた時だった。
呼吸に乱れがあってもそれは傷の痛みに耐えるためであり、死に直面しての恐怖からではない。この戦士は、ここまでのダメージを受けながらも死のうとすら考えていないようだった。赤い複眼の奥にある強い意志を見たギルガメッシュは自分でも気づかないうちに、戦士へと問いかけていた。
「答えよ」
初めて言葉を放った事に戦士は驚きつつも、ゆっくりと頷く。
「これほどの仕打ちにあっても、なぜ歯向かわんのだ?」
「…戦う、理由がない」
狂っているのかと一瞬考えた。自分が死ぬか生きるかの瀬戸際だというのに、この男は敵ではないのだから戦わないといっているのだ。
「なぜ、そこまで傷を負い、惨めな姿をさらしても死なんのだ」
「誓った…ばかりなんだ」
掠れた声で、戦士は答える。
「俺は…託された願いを、叶えなければならない。それに…生きるって約束を、破るわけには、いかない…ガフッ!?」
口元に当たる部分から吐き出される多量の赤黒い液体。それでも、戦士は倒れなかった。
ギルガメッシュは、10年前に敵対した剣のサーヴァントの姿を連想する。自ら治める国に身命を捧げると断言した儚き少女。あの娘と同類かと考えながらも続けて問いかけた。
「ならば何故、王として力を振るわん。先ほど貴様が下した者は、貴様等の僕ではなかったのか?」
これもかつて見た壁画に記されたものだ。相対する2人の王の足元に、数多くの異形がひれ伏せている。彼らが人間とは別に、巨大な群れであると証明する記録だったのだろう。先ほどの戦いを見る限り、王自ら処刑しているというよりも、敵対していたに近い。
「俺は…王なんかじゃ、ない。あいつらは…敵、だ」
「………………………」
無意識に、ギルガメッシュは手にした剣を下ろしていた。彼の言い分が、理解出来なかったからだ。
王としての証である石と力を持ちながら、自分が従える者に命を狙われる…何より、自分が『王』でないという自覚をも持ち合わせていたのだから。
「…では、なぜ王の力を捨てぬ」
戦士が王としての証を捨てれば、これ以上戦うことも、傷つくことすらない。王と名乗らぬ者が力を持ち続けているなど、意味をなさない。それとも、力を手放したくないなどと下賤な理由が帰ってくると思ったギルガメッシュだったが…
「…ああ。確かに、こんな力は本当ならいらない。けど…」
「これは、みんなを守れる力になる。だから、徹底的に『利用』してやりたいんだ。俺見たいな奴を生み出したことを後悔させるくらいに、ね…」
戦士の放った回答に、ギルガメッシュは目を見開く程に驚く。
なんと傲慢で、下らない使い道を選んでいるのだろう。
ますます、王の器ではないと結論付けたギルガメッシュは、盛大に笑っていた。
「ハハハ…ハァーッハッハッハッハ!!よもや、そのような理由であの力を手にしていようなど抜かすのか、貴様はっ!」
ようやく笑い終えたギルガメッシュは、再び背後の空間を歪めていく。先ほどと同じ攻撃が始まると身構えた戦士であったが、現れたモノに拍子抜けしてしまう。
「こ、小瓶…?」
現れた小瓶を手に取ったギルガメッシュは蓋を開けると何の前振りもなく、瓶の中身を光太郎へとぶちまけた。突然の不意打ちに濡れてしまった顔を拭う戦士は、次第に自分の負った傷や毒による痛みが和らいていくことに気付く。恐らく治療薬の一種だったのだろう。
「これは…」
「気が変わった。貴様はこれから先、時が来るまで生き残れ。その時まで、死ぬことなど許さん」
戦士は、振り返ることなく去っていく金髪の青年がいなくなるまで茫然とすることしかできなかった。
これがギルガメッシュと間桐光太郎との初めての出会いだった。
以来、聖杯戦争開幕までの間に暇を見ては光太郎へ接触し、戦いを遠巻きから観察するなどの奇妙な関係が続いて行ったのだ。
当初は顔を見せるたびにまた攻撃されると思い警戒を強める光太郎だったが、段々と慣れていき最近では「またかよ」と疲れた表情を表にだしていたが、ギルガメッシュにとっては関係のない話である。
そしてその接触は自分にとっては『監視』でもあった。
王石の力をいつか当初とは大きく離れた理由で力を振るう可能性もある。もし、最初に言った誓いとは別の理由で力を振るおうとしたのらば、ギルガメッシュは躊躇なく光太郎を殺すつもりだった。
だが、その決意を変えることなく愚直なまでに自分の信念を貫いて戦い続ける光太郎の姿にギルガメッシュは微笑みながら見ている自分に気付く。
このような姿、親友が見たら笑うだろうかとらしくない考えを浮かびながらも、ギルガメッシュは光太郎や自分に懐いた子供達と共に過ごす時間を楽しむようになっていた。
だが、その時間はあっけなく終わりを告げることになる。
自らの意思で片割れであるもう一人の王との決戦に臨んだ光太郎の戦いを、ギルガメッシュはライダーやキャスターとは別の場所から見守っていた時だ。
ギルガメッシュが光太郎へ告げた『時』…2人の王による決戦。どちらに軍配が上がろうと、ギルガメッシュは光太郎の命運であると受け入れ、それまでの功績を認めるつもりでいた。
だが、2人の全てをかけた戦いに余計な介入が入り、望まぬ決着が付いた後。ギルガメッシュは決戦の地から遠く離れた位置から放たれる巨大な力を感知した。
「そうか…此度の決闘があるということは…それ以前の者が…」
光太郎への不意打ちをした存在を知ったギルガメッシュは、ふつふつと怒りが込み上げ、光太郎とシャドームーンの戦いを汚した存在を口にする。
「…カビの生えた紛い物の王めが…ッ!!」
大怪人ビシュムは決して自らの放っている時空遮断魔術を解除しないよう、意識を働かせながらも目の前で起こっている虐殺を目にしていた。自分の考えがあまりにも愚かであったと後悔しながら。
「どうしたのだ…?まだまだ控えているのであろう?」
また1体のアリ怪人を解体したギルガメッシュは返り血を拭いながら多くの屍を踏みつけて言い放つ。
戦いを初めて既に50体以上のアリ怪人を倒しているギルガメッシュだが、体力を削ることなく、手にした鎖の攻撃を変えながら対応していた。
地中を進む者には地表から串刺しにし、複数で飛び掛かってくる者には自分の周りを螺旋状に高速回転で防御。怯んだ隙を自らの手足で攻撃をしかける。さらに同じ攻撃を2度と見せることもなく、司令塔である女王アリ怪人も指示の使用もなかった。
まさに攻防一体。
ギルガメッシュの宣言通り、彼は盟友の名を持つ鎖だけでこの戦いを終わらせるつもりであったが…
「どうした…あれ程の大見得の張ったのだから少しでも我を楽しめる術がまだあるのだろう?」
あからさまな挑発をするギルガメッシュの歪んだ口元にビシュムは苛立ちを見せるが、隣に立つ女王アリ怪人はそっと耳をした途端に、余裕を取り戻したかのように口元を歪めた。
「ええそうね。では、とっておきの手段をお見せするわッ!」
ビシュムが声を上げた途端、ギルガメッシュの背後から響く悲鳴。振り返ると、彼の背後で戦いを見ていた慎二と桜がアリ怪人によって羽交い絞めにあっていた。
「っく…離せよッ!このムシ野郎ッ!!」
「手が…届かない…っ!」
必死に体を揺さぶる慎二と手甲に炎を宿しても相手に触れなければ効果が出せない桜。必死に抵抗する2人の姿を横目で見ているギルガメッシュは無表情のまま、ビシュムへと向き直った。
「なるほど。雑虫らしいことだ」
「さぁ、鎖を下げなさい。さもないと、あの人間達の命はないわよ!!」
ギルガメッシュの皮肉に反応することなく、ビシュムは彼に対して脅しをかける。
睨み合うこと数秒。
彼の周りで生物のようにうねりを上げて活動していた鎖の動きがピタリと止まり、ギルガメッシュの手首に巻かれている。その姿を見た慎二と桜は唇を噛みしめるしかなかった。
だが
「アハハハハッ!物分りがいいじゃない、では次に―――」
「何を勘違いしている?」
「―――私にひれふして…は?」
ギルガメッシュの言うことが理解できないビシュムは彼の表情を見る。人質がいるというのに、彼の表情は挑発的な笑みを浮かべていた。
「我が手を下げたのは、貴様等の要求を飲んだのではない」
「もう、我が手を出す必要がないからだ」
ギルガメッシュが言い切った直後、彼の背後から2体のアリ怪人が吹き飛んでいき、落下すると同時に炎上してしまったのだ。
「な…ッ!?」
現れたその姿に、ビシュムは戦慄する。自分達にとって恐れていた事態が起きてしまったことに、言葉を失ってしまう。
「ありがとう2人とも…そして、ごめんよ。心配かけて」
黒い戦士は、アリ怪人から解放されて尻餅を付いている義弟と義妹の頭を優しく撫でながら、変わりない優しい声で感謝と謝罪を述べた。
「本当だよ、この、バカ兄…」
「兄さん…光太郎、兄さん…っ!!」
悪態をつきながらも笑っている慎二と既に泣き始めている桜をライダーに任せた光太郎は立ち上がり、こちらを見ているギルガメッシュの方へと足を進めていく。
「王である我を前線に立たせて遅れて登場とは、覚悟出来ての狼藉だろうな?」
「ああ、後は、いつも見たいに後ろで踏ん反り返ってくれるだけでいい」
「フンッ…!」
光太郎とは逆に、今度はギルガメッシュがライダーや信二達の方へと歩いていく。
やがて2人がすれ違う寸前に…
「さっさと片付けろ、光太郎」
「任せてくれよ、ギル」
互いの掌を打ち合った。
まるで選手交代と言わんばかりに。
光太郎の本質を家族以外で誰よりも早く見抜いていたというお話。
ギルの鎖には様々な攻撃ができるはずだと思います。某青○聖○士のように…
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