Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

61 / 80
UA90,000突破です!
みなさん本当にありがとうございます!!

やばい、今回BLACK要素がほぼ皆無…

そんな短めの59話です


第59話『求道の果てに』

自身が『善』であるか『悪』であるかという二択と問われた時、言峰綺礼は迷いなく『悪』であると選ぶだろう。

 

万人が美しいと思えるものよりも醜いものを至福とし、他人の苦しみを悦とする破綻者。

 

それが言峰綺礼という人間だ。

 

彼自身、神に仕える者としてそのような自分の本性に苦しみ、生きていることが許されるのかと自問自答を繰り返していたが第四次聖杯戦争の最中に迷いを捨て、外道と理解しつつも自分を肯定した後に魔術の師を裏切り、聖杯を宿したホムンクルスを殺害するなど暗躍を続けていた。

 

だが、迷っていた綺礼が認め、得られた回答は「自身の本質」のみであり、生まれついての悪である自分が世界に存在することが正しいのかという答えを得れないままであった。

 

歪な自分を認め、愛した女性が最後に言った通りの人間であるかを、綺礼は確かめなければならない。

 

 

そのための聖杯の完成。

 

 

聖杯から溢れる『モノ』で世界を満たし、言峰綺礼という人間が生きているということへの解答を得る。

 

綺礼はその為に人類を滅しようとする自分以上の『悪』すら利用していた。

 

此度の聖杯戦争では完全なイレギュラーともいえるマスター…間桐光太郎を潰す為に。彼が行動を起こす度に戦いは頓挫し、サーヴァント同士が協力するという状況にすら陥ってしまった。だからこそ、同じ力を持った存在をぶつけ、強引にも聖杯を出現させる手段を選んだのだ。

 

言峰綺礼は止まらない。

 

求めていた答えを得るまでは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺の境内で相対する言峰綺礼と弓兵。

 

見守っている凛は自分を庇うように立つサーヴァントの状態に気付き、思わず声を上げかけた。先ほどは消滅していたと思っていたアーチャーが現れたことに動揺していたが冷静となった今、アーチャーを現界させている魔力量が極端に少なくなっていると凛は見抜いてしまう。

 

バーサーカーとの戦いで傷を負ったアーチャーはギルガメッシュの宝具である棺の効果により傷を癒すことが出来た。

だが、『破戒すべき全ての符』の原型により凛との契約が切れた状態のまま棺のもう一つの機能である『時』を止めてしまっていた為、魔力供給がされないままこの場に立っている。いくら単独行動スキルが他のサーヴァントより高くても、一刻も早く魔力を補給するか、マスターと契約しなければアーチャーにまっているのは消滅。

 

そのような状態ではいくら相手が人間であっても苦戦、もしくは…嫌な結果しか見えてこない凛は急ぎ再契約をしなければとかんがえるが綺礼が自ら不利となる行動を見逃すはずない。

彼をサポートできないかと思案する凛に、サーヴァントは普段と変わりない自信に満ちた声を聞かせた。

 

「無用な心配だよ凛」

 

顔をこちらに向けなくても、凛にはわかる。笑みを絶やさず、油断なく相手の様子を伺っていることを。

 

「………一撃で、決着をつける」

「訂正した方がいい」

 

両手に黒鍵を持った綺礼はアーチャーの宣言を否定しながら一歩近づいていく。

 

「あと一回しか攻撃出来ない、とな」

 

凛同様にアーチャーの魔力量を分析していた綺礼は、彼が得意とする攻撃…魔力により武器を創りだすことが出来るのは1度きりと予測する。凛を助け出すために囮として打ち出した無数の刀剣を打ち出したことで、現界するだけなら充分にあった魔力を削ってしまっていた。

綺礼の指摘に歯噛みする凛。彼の得意とする相手への揺さぶりにアーチャーを動揺させようという魂胆なのだろう。だが

 

「ああ、その通りだよ言峰綺礼。今の私には宝具の展開も、アーチャーとして弓で矢を打つことすら出来ない。刀身の短い短剣を一振りを創りだすことが精一杯だろう」

「…っ!?」

「ちょっとアーチャーッ!?」

 

動揺するどころか、相手の言い分をあっさりと認め、さらには自分の手の内すら綺礼に晒してしまった。これには黙っていられない凛はアーチャーに物申そうと隣に移動し、顔を見上げるとやはり不敵な笑みを絶やしていない。だが、凛が視線に映った途端に、ワザとらしく溜息を付いた。

 

「…凛、大人しくしているように伝えたはずだが?」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!?そんな弱ってる状態であの綺礼に1回の攻撃で勝つなんて―――」

「勝つさ」

 

アーチャーは断言した。風前の灯であろうともその身は世界と契約した守護者。英霊として昇華した存在だ。彼に守るべき者がいる限り、敗北するなどありえない。彼の激しすぎる生涯の一片を夢で見た凛だから理解できる。その言葉は何よりも心強く、彼自身を縛る言葉だった。

 

「…負けるんじゃないわよ」

「当然だ」

 

会話を打ち切り、魔力を右手に集中させながらアーチャーは歩き始める。それに合わせて綺礼も前へと進み、両者の距離は徐々に縮まっていく。

 

 

 

先手は綺礼だった。

 

 

投擲された黒鍵は全て人体の急所を狙っていた。だがアーチャーはそれを避けるどころか真正面から駆け出していく。眼前に迫った黒鍵を拳で打ち払っていくが、肩や太腿に突き刺さってしまう。それでもアーチャーは止まらない。突き刺った黒鍵を引き抜き、第二波である剣を撃ち落とし、最後となった黒鍵に向けて同じ軌道へと投げ付ける。

 

相殺され、弾け飛んだ黒鍵の甲高い音が響く中、綺礼とアーチャーの距離はゼロとなった。

 

 

アーチャーの右手に宿った魔力が高まり、形となる前に潰す。

 

綺礼は身体に残った予備の令呪を魔力に変換。強く握った拳を硬化し、打ち出す速度を加速させることでサーヴァントが武器を完成させる前に胸を貫通するべく、轟音と共に突き出した。

 

 

 

 

 

アーチャーの赤い衣服から拳が生えた。

 

 

 

思わず動く右手で口を閉ざした凛だったが、綺礼が貫いたのはアーチャーが脱ぎ捨てた赤い戦闘衣。纏っていたアーチャーは綺礼の頭上を飛び越え、彼の背後に頭から落下しながらも自分の宣言通に短剣を創りだすと同時に、綺礼の背中へ突き刺した。

 

「がっ…」

 

心臓部へ突き刺さった短剣は、綺礼が倒れたと同時に消滅する。だが、凛の瞳に映った短剣を柄は、彼女がよく知っているものと全く同じ形状であった。

 

「あれって…」

 

 

 

 

「これで…終わりか」

「ああ。貴様の命は、ここで終わる」

「そう、か」

 

結局、解答を得られないまま死ぬのか。もしくは、これが答えだったのかも知れない。意識を失いかけている綺礼に、自分を見下ろしているサーヴァントの声が耳に響く。

 

「貴様は、そもそも方法が間違っていたのだよ」

「な…に…」

 

何故、初対面とも言える英霊が自分が胸に抱いき続けていた事を知っているような言葉を吐くのか。

 

「なにが…間違っていた…というのだ」

「自らの存在を自分以外に証明させる。そんなもの、本当の答えとは言わん。そして―――」

 

「誰かを犠牲にしてまで求める貴様のやり方を、俺は認めない。どの時代であろうとも」

 

見上げたその顔は、綺礼が今回の聖杯戦争に参加している者と重なった。それと同時に、彼の正体も。

 

「なるほど…どう足掻いても、私の結末は、決まって…いたのだ…な…」

 

そして言峰綺礼の命は、完全に潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…どう、アーチャー?」

「ああ。再契約は完了した。君の魔力を確かに感じる」

 

 

綺礼との決着後、凛は急ぎアーチャーの元へと駆けより、彼と再び契約を結ぶことに成功する。上手くいったことに安心して大きく息を吐いた後、倒れ伏せている兄弟子の姿へと目を向ける。そして大空洞のある場所へと進んでいった。

 

「行くわよアーチャー。桜達と合流して、聖杯を…イリヤを取り戻すわ」

「了解した」

 

再び赤い外套を纏ったサーヴァントは、マスターの少女に続いて歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

凛達が立ち去った後、黄金の光と共に姿を現したギルガメッシュは倒れている綺礼の元へと歩み寄った。

 

「…………求めていたものは見つからず逝ったか。綺礼」

 

返事はない。無論、ギルガメッシュも彼がこの場で立ち上がり、あの不遜な声を聴かせるなどと期待していない。10年来の付き合いとなる男が死んだ。彼にとっては、それだけだった。以前の、彼ならば。

 

 

ギルガメッシュが手を翳すと、一本の杖が現れた。それを綺礼の亡骸に向けたと同時に、激しい炎が綺礼のみを包む。紅蓮色に燃える自らのマスターに、ギルガメッシュは言葉を送った。

 

 

「さらばだ言峰綺礼。貴様の生き様、周囲から悪と言われようと、このギルガメッシュは認めよう。貴様は、追い求めていたのだけなのだからな」

 

 

そこには、もう灰すら残っていない。

 

ギルガメッシュは杖を収納し凛達の辿った道を見ると、再び黄金の光で自らを包む。

 

下ろしていた金髪は逆立ち、纏っていたライダースーツの上から金色の甲冑が姿を現した。

 

「……………」

 

戦闘態勢に入った英雄王は無言で歩み出す。

 

 

彼がその先に何を求め、何の為に向かうのか。それは、彼自身にしかわからない。

 

 

 

 

 

 

「………………………」

「どうしたの?手、止まってるわよ」

「いえ、なんでも」

 

同僚に指摘を受けた少女は怪我人へ包帯を巻く作業を再開した。

 

世界征服を開始したゴルゴムを「異端を超えた異端」として殲滅に向かったが敗北し、自分のいる教会を駆け込み寺のように占拠した実働部隊を見て呆れながら少女は治療を続けていた。

 

「はぁ…どうせなら片腕もがれたりだけじゃなくて全身に穴が空いてたりすれば良かったのに」

 

治療を受けている人間がゾクリとする言葉を放ちながら、白髪の少女は治療に没頭した。

 

 

 

 




アーチャーVS神父って中々見かけなかったということで…
そして神父にはHFっぽくしていたり。
今回まったく出番のなかった光太郎の活躍は次回!

ご意見・ご感想おまちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。