Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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フルスロットル見てまいりました。感想ここでは書ききれないぐらい良かったです!
そして最後にもちろん春映画予告。あの車にけっこうドキドキしていたり…


気が付けば60話。ここまでこれたんだなぁ…


第60話『英霊達の結集』

「ライダーッ!!パァンチッ!!!」

 

エネルギーを纏った光太郎の拳を受けたコウモリ怪人が断末魔の叫びと共に燃え上がる。敵が完全に焼失したのを確認した光太郎は、自分を囲む新手の怪人達へと構えながら、仲間達へと意識を向けた。

 

(…以前と比べてパワーが上がっているけど攻撃が単調になっているから戦いやすい…だが)

 

 

武装した怪人素体達へセイバーは不可視の剣を次々と浴びせていく。怪人と比べ、利用された人間のなれの果てという情報を耳にしてしまったセイバーは彼らへの同情から肩、足など戦う力を奪うように加減しての攻撃だったが、次第にその一撃に力を集中させねばならない相手と思考を切り替えた。

 

それは再生怪人相手に戦っているライダーも同様に振るう鎖と鉄杭に全力を込めて放っていた。セイバーとは逆に敵と認識した相手には非情に徹しているライダーは最初から加減抜きに怪人達と武器を振るっている際に不審な点を見つけていく。

 

(前に戦った時に見せていた固有の能力を全く使っていない…?それに接近した相手にただ闇雲に手足を振るっているだけ…ですが、それ以上に)

 

光太郎と同様に分析したライダーは怪人達の行動に疑問を抱きつつ、怪人と素体の共通点に焦りを感じていた。

 

しぶとい。

 

幾度となく再生怪人と戦ってきた光太郎とライダーだったが、自分達の攻撃を受けた怪人は確実にダメージを与え、個体によっては一撃で粉砕できていた。しかし、今戦っている怪人達はダメージを受けて怯みはするものの、何事もなかったかのように立ち上がっている。怪人素体も同様であり、腕や頭を失っても標的が間近にいる限り相手に迫り、先ほど光太郎がコウモリ怪人に対して必殺技を放ってようやく相手を消滅させることがやっとであり、通常の攻撃では完全に倒しきれないのだ。

 

その上に敵は洞窟の入り口から次々と出現し、光太郎やサーヴァントであるライダー、セイバーならともかく、援護で後方から狙撃している慎二と桜。そして素体相手に干将と莫耶で切り結んでいる士郎にも疲労が見え始めている。

 

 

(やはり、あの『泥』なのか?)

 

今までの怪人との大きな違いが、全ての怪人、素体が真っ黒な液体を浴びている事だった。

 

思えば戦いを始めてから肉弾戦を主とする光太郎はその泥の部分を無意識的に避けて攻撃をしかけていた。得物を使用しているライダーも相手への牽制で蹴りを叩き込んだ際も決まって泥を浴びていない部分に対して放っている。

 

「ライダー…これはまさか」

「ええ。恐らくは…」

 

「フハハハハハ…どうだ我がゴルゴム軍団と聖杯の力は!!」

 

 

 

 

 

「あの怪人は…!」

「ちっ…!重役出勤とは随分余裕かましてくれるじゃんか」

 

岩場の上から援護射撃を行っていた桜と慎二は洞窟の入り口から悠々とした足取りで姿を現した大怪人ダロム達の姿を確認した。見れば復活した光太郎に怯えていたビシュムも何事もなかったかのようにダロムの背後に立っている。

慎二が手にしている武器…キャスター監修の魔力が詰まった弾丸を打ち出せるスナイパーライフルの標準を大げさに手を広げて口を開くダロムへと向ける。

 

「聖杯の力…ではやはりッ!!」

「そうだ…ここにいる怪人共は『聖杯の中身』を浴びている。その役目を全うする為にな…」

「なんて…ことをっ…!!」

 

ダロムの放った言葉に光太郎は怒りを隠せない。

 

怪人達が浴びた聖杯の中身…本来は無色透明の魔力であるはずだったが、今では殺人や破壊でしか願望を叶えるしか機能のない『呪い』に他ならない。それを浴びてしまった怪人呪いの影響で自意識はすでにない。怪人達に残されているのは、『目の前にあるモノを殺し、破壊する』という本能。どのような状態になろうとも、近くにいれば破壊行動を行わなければならないという呪い。怪人たちは、聖杯の呪いを感染させる為に動いているに過ぎなかった。

 

 

「貴様達…自分の仲間をなんだと思っているんだッ!!」

「言われるまでもないッ!!だが、ゴルゴムが世界を征服する為には、もう手段は選ばんのだッ!!」

 

光太郎に反論するバオラムは拳を震わせながら叫ぶ。自分の同胞があのような姿になったのも、全ては憎き仮面ライダーが目の前で生きていた為。クジラ怪人の裏切りなどなく死んでいれば呪いに蝕まれ、生き地獄を味わうことなどなかったはず。

 

「だからこそ、今ここで同胞達を次々と葬った元凶である仮面ライダーを抹殺するのだ!!」

 

バラオムの号令で囲んでいた怪人達が一斉に光太郎へと飛び掛かる。そうはさせまいと光太郎の援護に向かおうとするライダーとセイバーだったが、自分達を囲む怪人達に道を阻まれ身動きがまるで取れない。その身から滴る呪いの泥を光太郎へも浴びせようとする怪人達だったが、轟音と共に降り注ぐ無数の刃に貫かれ、次々と燃え上がり、呪いと共に消滅していった。

 

「こ、これは…」

 

光太郎だけでなく、自分やライダーの周りにいた怪人をも一掃した数多の宝具による射撃。こんな戦法を得意とするサーヴァントなど、セイバーはただ一人しか知らない。

 

「ギルガメッシュ…」

「そこの雑獣は、随分と愉快な事をほざいたな…」

 

黄金のサーヴァントは自分の背後に未だ打ち尽くすことなど出来ない無数の宝具を携えながら、その圧倒的な力に息を飲むセイバーの横を通り過ぎ、怪人達へ命令を下したバラオムを見る。

 

「民を駒として消費するなど支配者として当然の権利だ。そこの娘のように、いちいち散っていく事を気に掛ける方がどうかしている」

「…っ!ギルガメッシュッ!?貴様は、こんな時にまで…っ!」

「だが」

 

かつて自分の王道を否定し、笑ったギルガメッシュに10年前と同様に侮辱されたと考えたセイバーは思わず声を上げるが、光太郎の隣で立ち止まった彼の言葉に息を飲んむ。

 

「散らせていった者を自らの業として背負わず、それどころか己の敵へと擦り付けるなど恥を知れッ!!痴れ者がッ!!」

「ぬぅ…!」

 

王は、全てを背負う存在。

 

この世界全ての生物の命運を背負える覚悟があってこその王と自負するギルガメッシュに取って、バラオムの言った発言は許せなかったのだろう。

 

そして、ギルガメッシュとはまた違う否定の言葉が、怪人達の胸を貫く赤い衝撃と共に放たれた。

 

 

「別にそこの金髪に同意する訳じゃねぇが…互いに納得した上で命がけの戦いしたんだろうが。黒い兄ちゃんばっか恨むのは、筋違いだぜ?」

 

心臓が破壊され、次々と地へ伏していく怪人を背に、真紅の槍で肩をトントンと叩く青い槍兵―――ランサーの獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほう、中々分かっているではないか犬」

「殺されてぇか大将?」

「やめて下さいランサーッ!!」

 

この状況の中で睨み合いを始めるサーヴァント達の姿に唖然とする士郎の耳に、怒号と共にグシャリとトマトを素手で握りつぶしたような生々しい音が聞こえた。ゆっくり振り返ってみると、隻腕の女性が怪人素体の顔へと文字通り自分の拳をめり込ませている光景であった。

 

片腕の通っていないスーツの袖をバッサリと肩の当たりで切り取り、そこから赤い染みまみれの包帯を晒しながらランサーのマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツは硬化のルーンを施した皮手袋を着用し、鉄よりも硬くなった拳で次々と怪人素体を殴り飛ばしていく。

 

「もうサーヴァントを打ち倒してく聖杯戦争はここにはありません!一刻も早くゴルゴムの侵攻を止めるためにも、共闘すべきだ!!」

「あーはいはい、俺も状況くらい理解してるっての!」

 

真のマスターが出会った直後のように生真面目な指示を送る姿に微笑みを浮かべながらランサーは槍を振るっていく。

 

協力を申し出たかつての知人…言峰綺礼の騙し討ちにより片腕と令呪を奪われ、洋館に幽閉されていたバゼットであったが、ランサーに発見され仮死状態にされていた所を救助されていた。

しかし、心許した相手に裏切られ、幼い頃より憧れていた英霊を奪われた状況にバゼットは意気消沈。腕と共に消えてしまった封印指定執行者としての自信を取り戻すまでに時間がかかってしまっていた。

だが、時間がかかっただけだった。

 

ランサーには自覚はないだろうが、傷心したバゼットには彼が傍にいたというだけでも充分に効果があったのだ。心身ともに傷ついた彼女に下手な励ましは不要。彼女に必要だったのは、隣で自分を待ってくれていたサーヴァントがいたという事実。

 

本来後ろ向きな性格である彼女にとってはどんな言葉よりも支えとなったのであろう。

 

 

今彼女が振るっている拳の切れも重さも、普段とは段違いに研ぎ澄まされ、さらに威力が増しているようにも思えた。だが、やはり攻撃出来る範囲が限られており、左半身にどうしても意識を向けてしまっていたが、その問題は直ぐに解決された。

 

「……………………」

 

彼女と同じく拳を武器とする寡黙の男が、いつの間にかバゼットの隣に立ち、予測不可能な軌道で打ち出される拳を怪人達へ打ち込んでいたのだ。突然の登場に驚くバゼットであったが、今は自己紹介する余裕すらない。いや、行動そのものが自分を助けてくれる理由なのだろう。バゼットと葛木総一郎は、互いの背中を任せながら、剛と柔の拳を打ち込んでいった。

 

「葛木…ということは」

 

慎二が空を見上げると、予測通りにキャスターのサーヴァントがローブを翼のように広げ、攻撃魔術を地上に向けて放射を始めていた。魔力の束を浴びた怪人達から悲鳴が上がっていく。しかし、ダメージを与えても倒すまでには至らない。

その止めを打つべく、対照的とも言える2人のサーヴァントが現れた。

 

「さぁ、共に駆けようではないか。この戦場を」

「■■■■■■■■ーッ!!」

 

静かに唱えると同時に抜刀したアサシンに続き、咆哮を上げて斧剣を振り上げたバーサーカー。怯む怪人を全く異なる刃で切り伏せていく。

 

まるで流れるように怪人を斬り倒すアサシンの刀に対し、斧剣に触れただけで怪人を引き千切ぎっていくバーサーカーの斧剣。

 

流水と激流。

 

全く違う剣技により、波に飲まれたるように怪人達は潰えていく。

 

「…こっちも負けてられないな」

「はいっ!」

「そこに、私も混ぜて貰える?」

 

圧倒的な力を見せるマスターとサーヴァント達の姿にたじろく所か対抗心を燃やし始めた慎二と桜の背後に、右腕でガンドを放ちながら駆け寄る遠坂凛が現れる。ボロボロとなり、左腕を固定されている姿に動揺する桜を宥めながらも、凛はサーヴァントと肩を並べて必死に戦っている協力者へ目を向けた。

 

 

 

「すごい…」

 

かつて自分が願った形がここに実現している。

 

ゴルゴムという巨大な悪に対して力を合わせ、立ち向かっている仮面ライダーとサーヴァント達。その姿に心奪われてしまった士郎はだた、感動するしかなかった。そんな彼の背中から響く金属音。急ぎ振り返ると怪人素体が振るった武器を、自分と同じ夫婦剣で受け止め、切り伏せた男の背中があった。

 

「たわけ、戦いの場で余所見をするな!だから貴様はいつまで立っても半人前以下なんだ」

「あ、んた―――」

「説明は後だ。貴様は凛達と合流し、後方に回れ。今の貴様に出来ることは、それだけだ」

「…………………」

 

士郎は自分を助けたサーヴァントの顔を見るまでもなく、駆け出していく。それ以上、言葉を交わさなくてもわかっている。なぜだが、わかってしまう自分が、不思議で仕方がなかった士郎。だが、彼の言うことも最もだ。戦力が増えてもこちらが不利なことには変わりはない。だから、自分に出来ることを全うして見せる。士郎ははやり、振り返らずに走っていった。

 

 

 

 

「本当に、ありえない光景だね」

「はい…」

 

 

戦場を駆け回っていた光太郎とサーヴァント達は、いつの間にか囲まれている状況となっている。しかし、それは相手が自分達を警戒し、距離を一方的に置かれているに過ぎない。数えることすら嫌になる敵の数も半数に減り、何よりこちらを殺すことしか頭にない連中が恐怖するほど、こちらの力が増強しているのだ。

 

 

「みんな、聞いてくれ」

 

光太郎の言葉に、サーヴァント達は微動だにせず、耳だけを傾ける。

 

「俺は、みんなに謝らなくてはいけない。俺がなんとかすべき戦いに、関係のないみんなを巻き込んでしまったことを」

 

それは、謝罪。

 

聖杯の存在をゴルゴムに知られた結果、本来の聖杯戦争は事実上中断され、聖杯である少女も誘拐されてしまった。ゴルゴムにそのような暴挙を許し、彼らが行うべきだった本来の戦いを奪ってしまった事への謝罪だった。

 

「あぁ?何言ってんだよ黒い兄ちゃん」

「痛てっ」

 

いつの間にか自分の隣に移動したランサーに頭頂部を槍の柄で叩かれた光太郎。

 

「戦いなんてもんはいつだって理不尽だ。こっちの都合なんていちいち考えてくれねぇよ。だがよ、ここにいるのはそういった理不尽を乗り越えた存在だってことを、忘れてねぇか?」

 

ニヤリと口元を歪めるランサーにセイバーが続いた。

 

「その通りです。この場で戦っているのは、貴方に巻き込まれたからではなく、自分の意思で始めたからです。故に、コウタロウが謝罪する必要はありません」

「しかし…」

「しつこいわね貴方も。必要がないといっているのですから、言うべき言葉が他にあるのでしょう?」

 

溜息と共に光太郎の言葉を遮ったキャスターは呆れた顔をこちらに向けてくる。その隣にいるアサシンはそんなマスターの言葉が面白いのか、クックと笑っている。

 

「だが、貴様が原因で始まった戦いであることは事実だ。なら、わかっているな。どのようにして決着をつけるのか」

「ああ、分かってるよ」

「フッ…」

 

相変わらず皮肉を口にするアーチャーに対して頷く光太郎を見て、ギルガメッシュは静かに笑う。

 

「コウタロウ。貴方は本当に、すごい人ですね」

「違うよライダー。俺は、恵まれているだけだ」

 

次々と光太郎を認めていく他のサーヴァントの姿に、ライダーは自分のマスターを笑顔で見上げる。その眼帯の下にある瞳も、きっと優しい目をしているのだろうと光太郎は思う。

 

そして、光太郎はサーヴァント達の前に立ち、手をゆっくりと差し出した。

 

最初は意図の読めなかった英霊達だったが、彼の性格を考えてるとすぐに理解が出来た。

 

「この状況だというのに。本当に、貴方は…」

 

呆れながらも、ライダーは微笑んだまま、自身の手を光太郎の手の上に重ねる。

 

「……………………」

 

以外にも続いて手を置いたのはバーサーカーであった。その巨大な手に光太郎とライダーの手が見えなくなり、それがどこか可笑しく、小さな笑いがサーヴァント達の間で生まれていた。

 

「ったく、こんなのらしくねぇってのに」

「その点は、同意するわ」

「いいではないですか。例え、今この時だけでも」

「仕方あるまい…」

「フッ悪くはなかろう」

「…今日は気まぐれだ。特別に乗ってやろうではないか」

 

ランサー、キャスター、セイバー、アーチャー、アサシン、ギルガメッシュ…彼らも順番に手を重ねてく。

 

今の状況は、サーヴァントである彼らにも、マスターである士郎や凛達にとっても不思議な光景だった。聖杯を奪い合うためだけに、殺し合うために現世へと現れたサーヴァント達が『殺し合う』というサーヴァントの本能にすらかられず、こうして手を合わせている。

 

そしてその中心にいるのは、間桐光太郎というイレギュラーのマスター。

 

ゆっくりとサーヴァント全員の顔を見渡した青年頷くと腕を解き、洞窟の入り口で彼らを警戒するダロム達に言い放つ。

 

「ゴルゴムッ!!最後の勝負だ…覚悟しろ!!」

 

光太郎の言葉と共に、立ち並んだサーヴァントが同時に構える。

 

 

8騎のサーヴァントの意思が、本当の意味で統一された瞬間だった。

 

 




ランサー兄貴のキャスターへの野暮用は、バゼットさん探索のための依頼ってことでした。書ききれてねぇ…

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