この小説もサブタイトル付けていたのならそうなっていたのかな…と考えている今日この頃。
では、61話です!
異変は突然起こった。
「っ!?」
バゼットと対峙していた怪人素体が武器を取りこぼし、頭を押さえて苦しみだす。油断なく構え続けるバゼットの目に映ったのは、怪人素体から黒い霧が立ち上り、身体に付着していた黒い泥が段々と薄れていく現象だった。
「これは…」
バゼットの前にいた怪人素体だけではない。総一郎が拳を放とうとした他の素体や怪人も同じ状態となっている。そして霧の上昇が止まり、黒い泥が完全に消えた怪人は…
「ギエエエェェエエエエエェェェェェッ!?」
鼓膜が破れるような奇声を上げた直後、ボロボロと身体が崩れていった。怪人達は泥を被った時点で意思だけでなく命も奪われており、呪いがその身体から離れると同時に活動は停止する。
次々と戦場に響く断末魔と地へと形を保てなくなり地へと落ちる怪人だったモノ。様々な任務を請け負っていたバゼットすら目を背けたくなる、正に地獄と例えられる光景。怪人達の最期の叫びが収まった時、その場に立っていたのはバゼットと総一郎のみ。
怪人だったモノは風に飛ばされ、宙を舞い続けていた。
「何が起きているんだ…?」
バゼット達と戦っていた怪人達と同様に聖杯の泥が霧となって怪人が消滅していく中、霧となった聖杯の呪いが大怪人ダロムの真上で収束し、形成されたドス黒い雲となったことを警戒する間桐光太郎は、警戒心からダロムに向かい叫けんだ。
「ダロムッ!何をするつもりなんだッ!?」
「もう貴様を倒す方法はこれしかない…!」
決意を固めたダロムは雲に向かって両腕を翳すと同時に、再生怪人達の身体にこびり付いていた黒い泥がダロムに降り注ぐ。僅かに触れれば気が狂う呪われた力を身体に受けるダロムの取った行動に光太郎以上に隣で立つバラオムとビシュムが動揺した。
「だ、ダロムッ!?なんと言うことを…!?」
「そんな事をすれば貴方は…」
「ヌオォォォォォォォォォォッ!!!」
仲間の忠告を余所に、自身を覆う黒い泥を、そして泥の集合体でもある黒い雲すら引き寄せて、飲み込んでしまう。
泥と雲を完全に取り込んだダロムの身体に変化が起き始めた。
人間の形を保っていた顔がひび割れ、剥がれ落ちるとその下から甲殻類と思わせる眼球と顎が飛び出し、背中が節足動物のように巨大な尾と数本の足が現れる。
かつて融合した三葉虫の特徴が強く表れた姿へと変貌したダロムの姿に、光太郎は身構える。ダロムから放たれる力は、先程自分達が戦っていた怪人や素体達の力を…命を凝縮した姿だ。1体1体の力は大したことは無くても、いくら傷付こうが他の命を殺し、呪おうとする執念の力は油断できない。
「フハハハハハ…凄まじい力ではないかダロム!!」
ダロムが自らの強化に成功した事に安堵したバラオムは称賛を送りながら身体を光太郎達へと向ける。
「さぁ、その力で今度こそ仮面ライダー共を―――」
ズブリと、貫く音がバラオムの背後から聞こえた。
言葉を止めたバラオムはゆっくりと振り返り、目に暗い輝きを宿した仲間の名を震えながら唱えた。
「ダロ、ム…なぜだ…」
光太郎は、仮面の下で目を見開いて驚くしかなかった。ダロムが禍々しい腕を仲間であるバラオムの背中に突き刺していたのだから。
「き、キさまモ受け入レるのダ…コの素晴らシい『力』ヲ…」
「あ、ガアァァァァァァァァァァアアアアアァアアッ!!」
バラオムの背中を貫いた手を経由し、ダロムの体内に蓄積された呪いがジュルジュルと嫌な音を立てて流れていく。その不快感とバラオムの絶叫に恐怖したビシュムは逃げ出そうとするが、背を向けた途端にダロムの触覚に身体を拘束され、バラオム同様に呪いを流し込もうとダロムの身体から新たに発生した幾本もの節足が眼前に迫っていた。
「い、嫌…イヤアァァァァァァァァッ!?」
悲鳴を上げるビシュムへ伸びた節足は口、鼻腔、耳へと侵入し、黒い泥を流していく。
正に阿鼻叫喚と化した大怪人達の姿に桜は思わず目を逸らし、震えながら凜の肩に抱き着いた。妹の肩に手を置いて安心させようとするが、凛自身もダロム達が起こした行動を目にして正気を保っていられるのが精一杯だった。
それは士郎と、自分よりもゴルゴムとの戦いで耐性の出来ている慎二も同様であり、苦しみながらさらなる異形へと姿を変えていく敵の姿を眩暈を起こしながらも負けじと立ち続けている。
「負けず嫌いよね、男ってのは…」
バラオムとビシュムが完全に姿を変えたのは間もなくだった。
鋭い牙を光らせる四足歩行の猛獣となったバラオム。
巨大な翼を広げて翼竜となったビシュム。
ダロムと同じく基となった生物の特徴が現れた姿となった大怪人達は並び立つと同時に口を開き、エネルギーを溜め込んでいく。
「みんなっ!!散るんだっ!!」
光太郎の言葉でサーヴァント達がバラバラに移動した直後、3大怪人の攻撃が轟音を上げて放射される。3色の力が大地に激突、抉りながら大きな爆発を起こした。爆風に吹き飛ばれそうになりながらも岩場や樹木を掴んで免れた慎二達。
「くそ…どうなったんだ?」
爆発が収まり、砂埃が晴れたその先ではすでに光太郎達の戦いが開始されていた。
分散された光太郎達は大怪人達と個別に戦闘を繰り広げている。
大地を駆けるバラオムと衝突するランサー、アサシン、バーサーカー。
上空から怪光線を放射し、回避を続けるライダー、セイバー、キャスター。
その剛腕で押しつぶそうと腕を振るうダロムの攻撃を避けながら間合いを取るアーチャーと光太郎…達を離れた位置から戦いを眺めているギルガメッシュ。
必死に攻撃を避けている2人の戦いを腕を組んで観察する金髪のサーヴァントへ標準を合わせる慎二と桜を士郎と凜が必死になって止めていたのは全くの余談である。
「チッ…随分とすばしっこいじゃねぇかよ!!」
真紅の槍で突き刺そうとする直前に目にも止まらぬスピードで回避を続け、こちらの死角から爪と牙で攻撃をしかけるバラオムにランサーは苛立ちながら回避を続ける。だが完全な回避ができずに先ほどから身体のあちらこちらに
傷を受けてしまう。
アサシンやバーサーカーも同様に攻撃を振るうと同時に肩や足に傷を負い、段々とダメージが重なっていく。
「さァどうダ!オれの攻撃は?少シずツ切り刻ンでくれルわっ!!」
「ふむ…獣にしては理性的で姑息なことをほざく。だが、一撃で我らを仕留めなかった事を後悔することとなろう」
陣羽織を所々赤黒くそめながらもアサシンは笑いを絶やさず、長刀を構える。
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ますアサシンの頬に傷が走る。相手は完全に自分達を…サーヴァントを見下しての攻撃だ。ジワジワと獲物を追い詰めているつもりだろうが、彼らはただの人間ではない。
それを思い知らせるために、アサシンは待つ。相手が自分の射程距離へと迫る瞬間を。
(…………捉えたっ!!)
アサシン唯一無二の奥義『秘剣・燕返し』
多重次元屈折現象により3つの異なる斬撃を同時に打ち出し、相手に回避を許さない技である。だが―――
「なっ…」
刀を振り下ろしたと同時に、アサシンの背中から鮮血が舞う。刀を杖替わりにして膝を付くことなく踏みとどまったアサシンの耳に、あざ笑う獣の声が響く。
「ハハハははハ…人間ニしてハ中々の攻撃ダ…先程ヨりスピードを上げなケれば危なかッたゾ!!」
「野郎…さらに加速したってのか?」
アサシンの背後に回って辺りの気配を探るランサーは焦り始めた。聖杯の泥を飲み込んだことで高速移動を得意としていたバラオムのスピードはもはや神速まで上り詰めている。俊敏性を誇る自分とアサシンすら手玉に取られるこの状況をどう対処するべきか…
ランサーの槍であるならば確実に敵の心臓をつらぬけるだろうが、構えたと同時に攻撃を受けてしまう。運がよく心臓を貫いてもおそらく足止めになるに過ぎないだろう。
心臓を穿いたとしても、あの黒い泥が変わりにバラオムの身体を動かし、自分達を殺すまで動き続ける。だからこそ確実に倒す方法を考えなければと槍を強く握るランサーの前を過った寡黙の巨人の行動に、思わず声を上げた。
「お、おいバーサーカーッ!?なんの真似だそりゃ!?」
ランサーが叫んだのも無理もない。バーサーカーは斧剣を大地に突き立て、仁王立ちとなっているのだから。あれではバラオム相手に狙ってくださいと言っているようなものだ。
「何のつモりか知ラんが、望み通リ切り刻ンでくれルわァッ!!」
吠えるバラオムの宣言通り、拘束移動する攻撃でバーサーカーの全身に爪痕が刻まれていく。同時二カ所、三カ所と一度に受ける攻撃の傷も増えていく中、バーサーカーは微動だにせず攻撃に耐え続けていた。
「何のつもりなのよ、バーサーカー」
一度戦いを経験した凜は彼らしからぬ行動に目を細めてる。彼のクラス特有の『凶化』により理性なく突っ込んでいくと思われたが、バーサーカーは攻撃を受け続けても逆上せず、立ち続けている。
「たぶん…何かを狙っているんだ」
「何かって…そうなる前にまた命を消費しちゃうじゃない」
士郎の推測に凜はバーサーカーの所持する宝具を思い出す。『十二の試練』は士郎達との戦いとシャドームーンの襲撃により残り一つまで減らされ、回復していたとしても片手で数えられるほどだろう。
「ああ…でも、バーサーカーが…真名通りの英雄なら、化け物相手に考えなしに突っ立っているとは思えない」
「先輩。バーサーカーさんの真名って…」
桜の質問に士郎は頷いて答えた。
「ヘラクレス…怪物じみた相手での戦いだったら、光太郎さんにだって負けてないさ」
「…………………………」
鉛色の体が赤く染まっている。全く動かない巨人は生きているのか、死んでいるのかすら分からない。ランサーは未だに爪で刻まれ続けるバーサーカーの目が一度目が合った時から、槍へと込めた魔力を解かないまま待ち続ける。
無言の彼から受けたただ一つの勝機を、ひたすら待ち続けいた。
どれ程の傷を受けても何の反応も示さないバーサーカーに、バラオムは苛立ち始めている。獲物の分際で泣くことも、命乞いすらしない。ならばとっとと始末し、残るサーヴァントと、マスターである人間達を殺し、最後に憎き宿敵との決着を付けてくれる…
バラオムはバーサーカーの正面からさらに加速し、力を纏った爪先をその分厚い胸板目がけて突き出した。
「止メだァッ!!」
獣の咆哮と共にバーサーカーの胸を突き刺さった攻撃。バラオムの手は体内へと深く潜りこみ、確実にバーサーカーを始末したと実感した。これが、バラオム最大の油断となったと知らずに。
「…っ!!」
「ヌぉっ!?キ、貴様…ッ!?」
一度その命を削ったバーサーカーは宝具により一瞬で蘇生し、両腕でバラオムを拘束した。腕を抜こうにも筋肉を引き締められ一向に動かない。必死に抜け出そうとするバラオムはこちらに向けて駆け出す槍兵の存在に思わず振り返った。
「ようやく恰好の的になってくれたなぁ!!」
「ま、まサか…!?こレが狙いデぇ…!?」
「ご名答ッ!!」
相手が動き続けてしまうなら、止めてしまえばいい。バーサーカーの考えを察したランサーは、彼がバラオムの動きを止める瞬間を待ち続けていたのだ。
「『刺し穿つ死棘の槍』…!その心臓、貰ったァッ!!」
ランサーの真紅の槍に魔力が宿る。一度放ては相手の心臓を貫く必殺の一撃。放たれた紅い閃光はランサーの宣言通り、バラオムの背中を貫通して心臓を破壊した。
「ゴハァ…こ、こレしきのことデ…ハ…」
バラオムごとバーサーカーの心臓まで貫いたランサーは一気に槍を引き抜き、バラオムの次の行動を警戒して再び構えた。
「ダが…愚かニも仲間ごト殺スはな…これで動けルのは貴様ダけ…」
心臓を破壊され、ダラリを腕を下げたバーサーカーから脱出したバラオムは胸から聖杯の泥と混じりあった血液が流れ続けることに構わずランサーに迫る。体内にある聖杯の泥が心臓の代わりに働くまで時間を要するが、それがすめば目の前の男を確実に殺せる。
そう考えていた故に、自分を覆う影の主への対抗もできなかった。
バラオムが気が付いた時、その身を100回に渡り斧剣による攻撃を受けた後であった。
本来彼が持つもう一つの宝具『射殺す百頭』
一度の攻撃に重なる程の剣撃に見えるほどの連撃を打ち出すのが本来の技であったが、バーサーカークラスである今の彼には使うことは出来ない。だが、それに限りなく近い程のスピードで打ち出すことは可能であった。
全身をナマス切りとなったバラオムはなぜ、自分がこれ程までのダメージを受けていたかも理解できないまま、その耳に自分の攻撃で動けなくなったサーヴァントの存在に気付く。
「あれほどの技を見せれてしまうとは、つくづく自分の剣技が芸と思えてしまうな…」
「だが、そのような芸とて、貴様には止めはさせよう」
陣羽織をはためかせた侍の繰り出した三つの斬撃により、バラオムの身体は3つに分断される。
バラオムは最後まで、自分がどのような最期を迎えたのかは、理解できないままであった。
3大怪人、クリーチャーとなるの巻でした。
さて、次回で今年最後の更新となりますかね…
気軽に感想等を書いて頂ければと思います。
ではまた次回!