Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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そろそろタグに「捏造あり」とつけようかしら…?
では、66話となります!


第66話『悪魔の降臨』

シートとハンドルから伝わる振動が、自分達の進んでいる道がいかに悪路であるかを思い知らされる。オンロードバイクとして設計されているロードセクターならなおの事だろう。

だが、操縦する間桐光太郎にとってはそんな状態など些細なことだ。

 

この先に辿りつくために、仲間達が切り開いてくれた道を全力で進んでいく。

 

待ち伏せしていた怪人共などに裂いている時間など、ありはしない。

 

 

 

「どけえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

 

光太郎の叫びに反応したかのように展開されたイオンシールド。本来であればスパークリングアタックの使用時のみ現れるのだが、主の意思へ応えるようにプログラムを強制起動。さらには強化されたキングストーンの力が相乗効果をもたらし、赤いオーラに包まれて爆走するロードセクターに突き飛ばされた怪人達は次々と塵とかしていく。

 

 

 

先行する光太郎に遅れまいと加速するバトルホッパーの意地を操縦席上で微笑みながらも、ライダーはグリップを強く握る。

 

(この先に聖杯が…そして、光太郎の運命を歪ませたゴルゴムの支配者がいる)

 

そこで全ての決着がつく。光太郎の長い戦いも、自分のサーヴァントとしての役目も。

 

視線の先にある黒い背中を見つめるライダーは自分をただの使い魔ではなく、対等の相手として見てくれたマスター…光太郎と初めて顔を合わせた時を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「聖杯の声に応じ、ライダーのサーヴァントとして参上しました。貴方が、私を召喚されたマスターでしょうか?」

「…………………………………………」

「……?」

 

自分のマスターであろう男性に声にかけたても茫然と立ち尽くしている姿を不思議と思ったライダーは手の甲を見る。令呪が刻まれており、彼から自分へと魔力の供給されていることから間違いなく自分のマスターであることは確認できる。

しかし、マスターはずっと自分を見つめている。もしや自分に可笑しな点でもあるのだろうかと身体を見回すが特に汚れている箇所など見当たらないし、姉から貰った衣服にも綻び一つない。

 

ならば、マスターが本来召喚したかった別のサーヴァントだったのだろうかと考えている最中、突如マスターはライダーの手を取って移動を開始した。

 

「これから家族を紹介するよ」

「えっ…?」

 

召喚の失敗に狼狽えていたと思っていたマスターは笑顔を向けて自分を地下から地上へと連れ出していく。重たい扉を開き、清潔を保たれている洋風の造りとなっている通路を抜け、食卓らしき空間に出るとマスターの肉親らしき少年と少女が食事を取っており、彼らが反応するよりも早く、こう告げたのだ。

 

 

 

「今日から暫くこの家の一員となったサーヴァントのライダーだ。二人とも、仲よくしてくれ!」

 

 

 

空気が凍った、としか言いようがなかった。少年と少女は状況を理解できず、マスターはしたり顔で頷き、そのマスターの意味不明な行動にライダーは混乱するしかなかった。

 

 

「…光太郎」

「な、何かな慎二君?」

 

手にした箸を皿に置いた少年の低い声にマスターはビクリと身体を震わせながら聞き返す。ユラリと立ち上がる少年は明らかに不機嫌…というよりも明らかに怒っている様子だ。

 

「…何召喚してんの?あれほど準備が整ってから言ったのにさぁ」

「あ…えっと」

「取りあえず、座って話を聞かせてもらおうかな?」

「慎二君、これには深い訳があって…」

「座ってから話せよ」

「つまりはね、偶然が重なった結果―――」

「座れ」

「はい」

 

歳が下であろう少年の迫力に負けたマスターは姿勢を正し、床へと正座。その姿には威厳の欠片もなかった。

 

 

話を整理すると。

 

かつて蟲蔵と呼ばれた地下に設けられた空間。間桐光太郎はそこで亡き祖父、蔵硯の残した資料を基に義弟と英霊を召喚に必要な魔法陣を作成。後は聖遺物を入手するだけという段階であったがここで事故が発生する。

 

光太郎は暗記した召喚用の詠唱が正確であっただろうか…と、不安にかられて地下の蟲蔵に置き忘れた詠唱の書かれたノートを取りに向かった。桜から夕食がもうじき出来上がると声を聞かされたので手早く済まそうと地下への階段を駆け下り、目当てのノートを手に取った光太郎は念のため、ということでその場で詠唱の発声練習を始めてしまう。その結果…

 

「え?」

 

突然光太郎の手の甲に刻まれた令呪が熱くなったと思った直後に魔法陣から放たれた眩い閃光。その光が晴れた場所には美しき女性の姿があった。

 

 

 

「………………」

 

ライダーは思わず額を抑えた。

 

マスター…光太郎と呼ばれた青年は偶然というより、彼自身の不手際で自分を召喚したことになる。あれ程勝手に…などガミガミと少年に説教を受けている光太郎はマスターとして大丈夫なのであろうかと不安しか浮かばないライダーの隣に、何時の間にか少女が移動していた。

 

「あ、あの…光太郎兄さんと一緒に戦ってくれる方…ですよね?」

 

恐る恐る尋ねる少女にライダーは頷く。

 

「兄を、よろしくお願いしますッ!!」

 

説教をしている慎二と受けている光太郎が思わず振り返ってしまう程の大声を上げた少女は、ライダーが顔を上げてくださいと言うまで、頭を下げ続けていた。

 

 

 

 

これが最初だった。

お世辞にも良い出会いとは言えなかったが、ここから間桐家と自分の生活が始まったとライダーは思う。そして情けないという印象でしかなかった光太郎という人物と一緒に戦っていくうちに理解し、愛した。

そして、彼との時間も、もうじき終わりを告げる。

 

世紀王を倒し、自分をサーヴァントとして現界させている大聖杯を破壊して、聖杯戦争を終結させる。

 

光太郎はその為に、これまで戦い続けてきた。ライダーに出来ることは、光太郎と最後まで一緒に戦い続けること。そして最後は…

 

「PiPiPiPi…!!」

「バトルホッパー…?ええ、そうですね」

 

最後の事など、全てが終わった後に考えればいい。諭してくれた光太郎を自分以上に支えてきたバトルホッパーの声に応え、前を見る。その先にある、決着の場へとたどり着く為に。

 

やがて、2人は洞窟を抜けて大空洞『龍洞』へと到着した。

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

ロードセクターとバトルホッパーを真横に向け、急ブレーキをかける光太郎とライダーの視線の先にあるもの…龍洞の中央に位置する崖の上に聳え立つ物体を発見する。

 

螺旋を描くように隆起しているそれは、浮かぶ黒い月のような球体を求めて必死に伸ばしている手にも見えた。その黒い球体から途絶えることなく黒い泥を崖の内側へと注ぎ続けている。

その球体の下には意識を失い、黒い球体の状態を保つためだけに生まれた少女の姿があった。

 

「あれが…バーサーカーのマスターである少女?」

「ええ、間違いありません」

 

ライダー達とは別に召喚されたサーヴァントの魂を注がれ、聖杯として機能したイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。今の彼女は人でも、ホムンクルスでもなく、黒い泥を生み続けるためだけに組み込まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あれが聖杯と…あの崖の下にあるのが…」

「大聖杯…」

 

ついに見つけた。祖父から受け継いだ意思を、大聖杯を消滅させるという願い叶える時がやっときたのだ。無言で視線を合わせる光太郎とライダーは再度自分の乗る仲間へ呼びかける。

 

「ロードセクター、頼む!」

「あの崖までお願いします、バトルホッパー!」

 

2人の言葉に応えた2台のバイクは急発進。2輪のタイヤで大地を削りながら猛スピードで聖杯となったイリヤ、そして大聖杯へと接近していく。

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

「まずは、イリヤスフィールを聖杯から引き剥がすッ!!」

 

グリップから両手を離した光太郎は左右に両腕を展開する。キングストーンフラッシュを放射し、イリヤを聖杯から解放するために構えを取るが…

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

(なんだ…?)

 

先程から耳に入ってくる異様な音。次第に音は大きくなり、それに合わせて光太郎の中で拭えない不安が生じ、段々と大きくなっていく。

 

(いや、それよりも今は―――)

 

頭を振るい、接近していく聖杯へと意識を向ける。あの白い少女を助け出すことが先決だ。光太郎は力をエナジーリアクターへと集中させる。

 

 

 

「キングストーン―――」

 

 

『―――手を出すでない』

 

 

両手をベルトの上で重ねようとしたその瞬間、光太郎とライダーの頭に響く声。謎の声に気を取られた直後、光太郎達へと落雷が降り注ぐ。

 

 

「グアアァァァァァッ!?」

「アァァァッ!?」

 

突然の出来事に光太郎とライダーは振り落とされ、地面へと落下、地面を転がっていく。

 

「PiPiPi…!?」

 

搭乗者の異変に気付いたバトルホッパーとロードセクターは急ぎUターンし、主達の元へと向かおうとするが、上空から降ってきた光の網に囚われ、動きを封じられてしまう。

 

「ば、バトルホッパーッ!?ロードセクターも…!」

 

身体の痺れに耐えながらも立ち上がった光太郎は未だ痙攣しているライダーへと駆け寄る。

 

「ライダーッ!大丈夫か!?」

「は、はい、なんとか…しかし、今の攻撃は…?」

 

 

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 

「光太郎…この音は一体…?」

「ライダーにも聞こえるか…」

 

もはや幻聴ではないだろう。それに、光太郎がキングストーンの力を放とうとした時、はっきりと声が聞こえた。そう、シャドームーンとの決闘した、あの時と全く同じ声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姿を現せ…創世王ッ!!」

 

 

 

 

光太郎の怒声が龍洞の中で木霊する。しばしの沈黙の後に、聖杯の上で空間に歪が生じた。ギルガメッシュが宝具を取り出す際に浮かぶ波紋などではなく、文字通りに空間を裂いて、それは現れた。

 

 

 

「…ッ!?」

 

 

ライダーには、理解の追いつかない存在だった。

 

 

異空間から現れたそれには多くの管が生えており、小さな穴から蒸気が噴出していた。岩のような表面の隙間から見える赤い光と共にが自分と光太郎の耳に届いた音を定期的に発生させ、その度に光を明暗させている。

その音が「鼓動」…人間の臓器で波打つように発生するものと同じものだとしたら、姿を現したその正体は…

 

 

「心臓…だというのですか?」

「ああ…そして、あれが創世王の正体だ!!」

 

光太郎の言葉にライダーは息を飲む。

 

そう、創世王の姿は人間でいう『心臓』と酷似している。だがその大きさは常人の数倍以上あり、そこから感じられる力は明らかに自分達サーヴァントを凌駕している。それでも、隣に立つ光太郎は臆することなく現れた敵の首領を睨み続けていた。

 

 

『―――よくぞここまで辿りついた。見事であったぞブラックサン』

「……………」

 

頭の中に響く声…創世王は光太郎を称賛しているようだが、当の光太郎本人は返事すらせず、相手の出方を待っている。

 

 

『私の助力があったとはいえ、シャドームーンの攻撃から生還し、我らが施した改造以上の力を手にするとは…お前こそ、私の後に創世王となるに相応しい』

「なんだと…?」

 

自分の命を奪い、キングストーンを奪うようにゴルゴムの神官へと命令した者の言動とは思えない言葉に、光太郎は眉を潜める。ライダーも同様であり、キャスターによれば光太郎が一度死んだ際にシャドームーンへ彼を殺し、キングストーンを奪うように強要したはずだ。

手のひらを返したように光太郎を後継者として迎え入れようとする創世王の言葉は続く。

 

『まもなく私の命は尽きるであろう。その前に、この星の支配者を決めなければならん。さぁブラックサンよ…この先で眠るシャドームーンからキングストーンを奪い、聖杯の泥で世界を覆うがいい…そして、この世界をゴルゴムの楽園とするのだ!』

「断るッ!!信彦を殺すことも、世界を滅ぼすことも俺は望んでいないッ!!」

 

創世王の誘いを拒んだ光太郎は強く拳を握る。光太郎は親友の信彦を救い、守りたいと思う多くの人々の為に今まで戦ってきた。

 

創世王の意思と光太郎の意思は完全に相反しているのだ。

 

『何故だ…貴様は創世王となれば、地球の支配者となれるというのに…』

「この地球に、支配者なんて必要ない!もし必要があるとすれば、貴様という悪を憎む正義の心と、人と人が思い合える絆だッ!!」

 

かつて、自分に絆の大切さを思い出させてくれた大柄の男を思い出す。自分は王だと名乗る変わった男ではあるが、人を導く器量は正に王と呼ぶに相応しい人物だった。光太郎の過去を見たライダーは自分と同じライダーのサーヴァントの姿を連想し、彼の言葉はしっかりと光太郎の中で生きているのだと確信し、光太郎の隣に立つ。

 

「ライダー…」

「では、見せて上げましょう。絆の力を」

「ああッ!!」

 

頷いた光太郎はライダーと共に創世王へと拳を向ける。その直後、光太郎とライダーへ向けて再び落雷が迫る。

 

「くっ…!」

「はぁッ!」

 

真横に飛んで回避した2人は沈黙を続けていた創世王の鼓動がさらに強まっていることに気付く。

 

『愚か者め…ならば、その身体とキングストーンは私が使うとしよう』

「なんですって…!?」

 

聞き捨てならない言葉を聞いたライダーは離れてしまった光太郎を見るが、特に驚いた様子はない。まるで、以前から知っていたかのように…

 

「なるほどな…お前の『意思』は、そうやって何度も創世王として続いていたのか」

『…気付いていたか』

「このキングストーンとも長い付き合いになるからな。でも、はっきりとしたのはついさっきだ」

 

それはフラッシュバックしたように、鮮明に映し出された光景。キングストーンが持つ過去の記憶だった。

 

 

 

かつての光太郎と信彦のように交流を持っていた2人の青年が世紀王へと変えられ、命を奪い合う戦いを繰り広げた。苛烈を極めた戦いの果て、遂に1人の世紀王がキングストーンを2つ手に取った時であった。

 

突然苦しみだした世紀王の意思は先代の創世王によって浸食されてしまう。その苦しみの中、脳改造によって失っていた記憶を取り戻した世紀王は、自らの手で親友を殺したという絶望の中で意識が消滅。立っていたのは新たな肉体を手にし、狂喜の笑いを上げる創世王だった。

 

 

 

「そして今度は俺と信彦…どちらかの肉体を奪うつもりだったんだ」

「なんと…下劣な」

 

創世王の所業にはライダーでさえも怒りを隠せない。だが、自分以上に怒りを上げるはずの光太郎は先ほどから様子は変わらない。むしろ、冷静になってすらいるようだ。人間としての自分を、親友を、家族を奪った相手が想像以上の悪であるというのに。

 

「コウタロウ…」

「…怒ってるさ。でも、それ以上に奴を倒さなければならないって気持ちの方が、強い」

 

このまま創世王の意のままになれば、第2、第3の世紀王が生まれる事となる。自分のような存在を生まれるなんて、もうたくさんだ。

 

 

 

「だからこそ、俺はお前と戦うッ!!ゴルゴムの支配者、創世王ッ!!自らの為に多くの人々を利用し、苦しめたことを俺は絶対に許さんッ!!!」

 

創世王を指差した光太郎の宣言は私怨でも、家族の敵討ちでもなかった。これ以上、ゴルゴムと創世王の暴挙を許さない仮面ライダーとしての決意であった。

 

 

『…ならば、相手をしてやろう』

 

創世王の身体から赤い光が一度強く発光する。

 

「イヤアアアァァァァァァァッ!!」

「い、イリヤスフィールッ!?」

 

聖杯となったイリヤを介して浮き出た黒い泥…聖杯の呪いは軟体生物の触手のように伸びていき、創世王を包んでいった。

 

「…何が起きているんだ?」

 

空を見つめる光太郎とライダーが見つめる中、遂に創世王が完全に泥に覆われると、変化が始まる。

 

 

黒い球体から四肢が生え、段々と人の形へと近づきながら、降下を始めた。

 

 

ついには完全な人の形となったその姿に、光太郎とライダーは硬直する。

 

 

足首と膝にはシャドームーン以上に大きく、さらに鋭利となった刺。表面の泥が剥がれれ落ちた身体は血よりもさらに紅く、返り血で染まったような色だった。

 

 

その全長はバーサーカーよりも巨体であり、3メートル近くはあるだろう。

 

 

全体を見れば、紅くなったシャドームーンという印象だ。しかし複眼はさらに鋭く、邪悪な目つきとなっている。

 

 

そして腹部には、穴が2つ空いている。これから手にする2つの石を入れる為であるかのように…

 

 

 

 

『さぁ、始めようではないか。私を退屈させるなよ…?』

 

 

 

かつての姿を取り戻した創世王は、光太郎とライダーに迫った。




創世王はその位が継がれていくのではなく、意思そのものが続いていたのではないだろうか…という妄想。

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