6話、行きます!
間桐光太郎…仮面ライダーブラックがクモ怪人と戦っている姿を見ていたのは
赤いサーヴァントだけではなかった。
白いローブを纏った3人…暗黒結社ゴルゴムの3神官は囲うように水晶玉に映し出される変身した光太郎の姿を目にする。やがて1名が怒りに震えながら口を開いた。
「おのれぃ…ブラックサン!いや、仮面ライダーBLACKめ!!またもや我らゴルゴムの
作戦を邪魔をするか…」
神官ダロムは不気味な白い顔をさらに歪ませた。
「キングストーンの力を使いこなしている…やはり、あの時に逃がさず抹殺するべきだったか」
ブラックの放ったキングストーンフラッシュにより、同胞であるクモ怪人が追い詰められる姿に神官バラオムは悔しさのあまり、その機械のような腕を強く握りしめる。
「………あの女、今回は姿を現さなかったようですね」
「あの女?もしや、BLACKに協力していた鎖を持った女のことかビシュム?」
顔に入れ墨を入れた女性の神官ビシュムは頷くと目を妖しく光らせ、先ほどとは違う映像へと切り替える。水晶玉に映るのは、両目を眼帯で覆った妖艶な女性。
「監視をしていたコウモリ怪人からの情報によると、この女は人間では考えられない運動能力を持ち、倒された怪人とも互角に渡り合っていたようです。我らの情報網を持ってしても、女の素性、どこからやって来たのか不明です」
「むぅ…」
ビシュムの報告を聞いたダロムはうねりながらも考える。はたしてそのような人間は存在するのか?いや、何者かにより『光太郎と同じ』ようにされた者なのか?それとも…
「…そういえばこの女がBLACKと行動を共にする数日前に教会の者より報告があったな」
「報告…?冬木で何らかの儀式を行うという内容のものだったか」
ゴルゴムは太古より人間社会を裏側から操っており、その影響力は本来神と人間以外は認めず、異端を必要悪とする教会―――聖堂教会の一部にまで及んでいた。
「女がその儀式と関係があるというのかダロム?」
「まだ分からん。調べる必要があろう…そして」
バラオムに答えたダロムは振り向くと、ゴルゴムの神殿の奥にある人一人が入れるであろうカプセルを見る。
「これ以上奴が力をつける前に…もう一人の『世紀王』の目覚めを急がなければならん」
クモ怪人たちを倒した翌日。
光太郎は大学内の広場にあるベンチに腰掛け、提出用のレポートをまとめていた。選択したマクロ経済学がいきなり休講となり、開いた時間で仕上げようとしていたが……
(どうしてああなった…)
集中できず、先ほどから広場でサッカーをしている学生たちの歓声を聞きながら空白のノートにペン先を突いているだけの状態だった。
(昨日衛宮君を自宅に送ったあとに帰宅してみたら玄関で桜ちゃんと…ライダーが迎えてくれた。それはまだいい)
これまで光太郎が留守の間にライダーへ兄妹の護衛を頼んだことは何度もある。そして家に戻ると役目が終えたと言わんばかりに霊体化し、その姿を消していた。
しかし昨晩はその姿を消さず光太郎と慎二を出迎え、自分たちに労いの言葉をかけてきた。
『お疲れ様でした。シンジ。夕食の前にしっかりと手を洗って下さいね』
その時、慎二が今まで見たことのない表情で驚いた顔を見て、からかおうとしていたがそれ以上の衝撃が光太郎を襲った。
『貴方もですよ〝コウタロウ〝』
間桐光太郎の心臓は止まった。
無論比喩ではあるが、動かなくなった光太郎を弟と妹による必死な呼びかけと揺さぶりにより目が覚めたのだった。
回復した後もライダーは姿を消さず、桜の要望もありそのまま食事にも同伴(サーヴァントは食事は必要としないが摂取は可能)し、食器の後片付けまで名乗り出た。
その際、ライダーはエプロンを着用したのだが、彼女が身に着けている装束の丈も関係し、キワドイ姿に見えたため、正面から見た光太郎は赤面して自室に避難して行った。
(あの恰好を見たのはともかく…名前呼ばれたくらいで動揺するなんて、慎二君を見習うべきかな…)
この時ばかりは女性に顔の広い弟を羨ましく思った。
光太郎は自他共に認めるように女性に弱い。特に相手が美人となると、慣れるまで目を合わすのも難しいくらいだ。その光太郎がサーヴァントといえ、美女と呼んでも過言ではないライダーに名前で呼ばれたとなれば慣れるまで…いや、慣れることすら出来るのか不安になった。
(とはいえ…俺が望んだ結果にはなってはいるんだよな)
1か月ほど前だったろうか。彼女を召喚した時、光太郎は現れた女性のその美しさに見惚れてしまった。どう声をかければいいのかと考える前に、気が付けば光太郎はライダーを慎二と桜に紹介していた。
何故、彼女と弟達が仲よくすることを光太郎が望んでいたのかは本人もはっきりと理解出来ていない。彼女を見た途端、そのように身体が動いていたようだった。
(何故だろう…彼女を見た時、一人にしてはいけないと…ッ!?)
光太郎の思考は中断された。顔を上げるとサッカーボールが勢いを付けて眼前にまで迫っていたのだ。どうやら先程からサッカーをしていた学生たちが誤って光太郎の方までボールを蹴飛ばしてしまったようだ。
その光景を見ていた誰もが光太郎がボールによって顔を強打される未来を予測していたが…
「ッ!!」
パァンッと音を立て、サッカーボールは光太郎の手のひらによりその動きを止めていた。周りからおお~という驚きの声が上がる中、光太郎は立ち上がると笑いながらボールを持ち主へ放り投げた。
「次は気を付けてくれよぉ!」
「すいませ~ん!」
ボールを受け取った学生は謝罪すると再び仲間とサッカーを再開する。その様子を光太郎は苦笑しながらベンチに腰かけると先程ボールを打て止めた手のひらを見つめ、安心したかのように溜息をついた。
(大丈夫だ…もう、どんな時でも加減は出来きている)
自分へ言い聞かせるように心中で呟く光太郎。そのため、隣に座った人物の接近に気が付くことが出来なかった。
「よもやあんな玩具ごときに気を使うとは…肝の小さいことだな」
「…あまり周りを騒がせたくないんだ。今日は何の用だい?」
光太郎は別の意味で溜息をつくと、隣に座っている男性に目を向ける。
「なに、我の庭で徘徊していた毛虫共を駆除したようなのでな。どの様な顔をしているかと見にきたが…思いのほか慣れてきたようだな」
ニヤニヤと笑う金髪赤眼の青年は面白い物を観察するかのように光太郎に話しかける。
「…嫌でもそうなるさ。あんなことを続けていたらね」
「ククク。自ら望み、始めた戦いを『あんな事』とほざくとはな。やはり貴様は面白い…」
光太郎は見透かしたような言い草をするこの男性の笑いが苦手であった。この青年は一度光太郎を殺しかけたにも拘わらず、その後は一度も光太郎に手をかけようとせず、こうして時折接触している。
「…俺を殺さないのは何でだ?君がその気になれば何時だって…」
「戯け。何度も同じことを言わす出ない」
そういって光太郎が予め買っておいた缶コーヒーを手に取ると勝手に封を開け飲み始める青年。光太郎も特に咎めることはしなかった。
「だが、敢えて言うならば…王である我の決定だ。貴様は聖杯戦争で負けることも、あのカビの生えた雑虫どもに殺されることも許さん」
「…………」
光太郎には青年の言うことが分からなかった。
今から半年前、まだ戦い慣れていない変身した光太郎の目の前に現れた青年は突如、圧倒的な力で光太郎を追い詰めた。
力及ばず膝を着いた光太郎だったが、諦めることなく立ち上がろうとしていた。その姿を見た青年は光太郎と2,3言葉を交わした後、突然笑いだしたのだ。その後、青年は背を向け、光太郎に告げたのだ。
『この先、時が来るまで生き残れ』
正直、意味が分からなかった。こうして生き延びてはいるが、青年にいつ殺されてもおかしくはない。こうして近づき光太郎の様子を見て、飽きたら去っていく彼の行動は謎だらけだ。
「さて、そろそろ約束の時間だ」
「…なにか用事が?」
意外だった。彼 いや、『彼のような存在』が誰かと行動を共にすることがあるのかと光太郎は思わず尋ねてしまった。
「このあと、近所の童どもと狩りをする約束をしているのでな」
と、ズボンのポケットから黄金色で施された携帯ゲーム機を取り出しす姿を見て光太郎はますます彼のことが分からなくなった。
「あ、ああ…うん、頑張って」
「それとだ」
立ち上がった青年は最初に声をかけた時と同様にニヤリと笑って、光太郎に伝えた。
「…そろそろ揃うぞ。七騎全てがな」
「ッ!?」
驚愕した光太郎の表情に満足したかのように、青年は去って行った。
「…始まる…のか」
光太郎は手袋で隠してある令呪にそっと触れた。
三神官とフライング登場した王様の口調にちょいと自身がありません…
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