Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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さらなる捏造設定にご注意ください。

では、69話です。


第69話『愚者の真意』

宿敵シャドームーンと共にゴルゴムの支配者創世王と対峙した間桐光太郎は、シャドームーンの助言によりついに敵へダメージを負わせることに成功する。

 

逆上し、雄叫びを上げて迫る創世王に対し、光太郎とシャドームーンは世紀王としての力を解放。同時に駆け出したのであった。

 

 

 

(何故だ…?)

 

これまでも、そしてこれから先も繰り返していくはずの儀式が、狂った。

 

5万年ごとに見つけ出す新たな『肉体共』が反旗を翻すなど、これまであり得なかった。

 

何処で間違っていたのか。

 

シャドームーンの言う通り、決闘を邪魔したからか。

 

10年前、脳改造をする前にブラックサンを逃がしてしまったからか。

 

そもそも、2人を世紀王として選んだこと自体が原因なのか。

 

自問する創世王に2人の世紀王の攻撃が次々と降り注いだ。

 

「トアッ!!」

「ハァッ!!」

 

『ヌォッ!?』

 

強く握りしめた光太郎とシャドームーンの拳が創世王の腹部へとめり込む。腹部から響く衝撃と痛みに身体の動きを止めた創世王に対し、2人の攻撃は止まらない。

背中を丸める創世王に再度拳を打ち込む為に腕を引くシャドームーンの肩に左手を乗せたまま光太郎は体を宙に浮かせる。左腕を軸にした光太郎の蹴りとシャドームーンの拳がそれぞれ腹部と肩へ鈍い音をたてて当たるのは同時だった。

 

『…ッ!?』

 

咄嗟に声を上げるのを耐えた創世王の視線から2人の姿が消える。いや、正面を見る創世王の真下へ移動した2人は身体を屈め、次なる攻撃の準備を終えていた。創世王がそれに気付いたが既に遅く、飛び上がった2人のアッパーが創世王の顎を捉えた。

 

『が…あっ…』

 

上体を仰け反らせる創世王。手ごたえのある攻撃を決めた2人であったが、着地を待たずに両足を屈め、創世王の胸板へキックを叩き込む。

 

「これで―――」

「どうだぁッ!!」

 

炸裂する世紀王2人のダブルキック。アッパーにより体勢が崩れかけていた状態へ更なる追い打ちにより、ついに創世王は背中から地面へと倒れることとなった。

 

 

 

 

「や、やったッ!!ライダーさん、兄さん達が創世王を倒しちゃいました!!」

「ええ。このまま行けば…」

「はい、兄さん達は勝って…あれ?」

 

光太郎とシャドームーンの優勢に喜ぶ桜は隣に移動してきたライダーの手を取り、ブンブンと上下に振り、彼女の目を見ながら興奮して状況を伝える。ライダーも微笑みながら同意して、視線を再びマスターへと向けるが、桜は違和感に気付く。桜の漏らした声に反応したライダーは再び目を少女へと戻すとジッとこちらを見つめる。

 

「さ、桜…私の顔に、何か…?」

「ライダーさん…眼帯外してるのに、どうして…?」

「え…?あッ!?」

 

桜に指摘され、慌てて手で目を覆うライダーだったが、桜だけでなく、自分の視界に入った他のサーヴァントやマスター達が石化する様子がない。そして、桜が疑問に思っているのはその点だけではなかった。

 

「それに、ライダーさん苦しくないですか?光太郎兄さんが赤く光ってるのに」

「そう言えば…」

 

光太郎から送られてくる膨大な魔力による苦しみが感じられない。キャスターの助けにより魔力を排出し続けなければ消滅しかねないはずだったが、その兆候がまるで見られない。その会話が耳に入ったキャスターは自分を抱きかかえている宗一郎に頼み、ライダーの元へと移動する。

宗一郎にゆっくりと地面に下ろされたキャスターはライダーと鼻同士が接触する距離まで接近した。

 

「…ちょっと見せて見なさい」

「キャスター…近いのですが」

「我慢なさい。私だって宗一郎様以外の方の顔を凝視なんてしたくありません」

 

両手でライダーの頬に手を添えてジッと彼女の両目を見つめること10秒。ライダーの瞳が淡く赤い光に覆われている状態にあることを見て、キャスターはある推測を立てた。

 

「…なるほど。貴方の両目から彼と同じ力が常に放出されている状態にあるようね。本来貴女を苦しめる過剰な魔力も眼を覆う光へと変わっていると同時に、その光が貴女の魔眼を遮るレンズのような役割を果たしてる…」

 

キャスターやあの英霊王すら敵わなかった魔力を吸引する魔法陣を自力で破る程の力を秘めたライダーの両目に宿る赤い光…これは光太郎のキングストーンフラッシュと同等の力を常に放っているような状態にあり、それはライダーの存在を消しかねなかった過剰魔力によって生成されていた。

さらに瞳を覆うは光はライダーの眼から常に発していた石化を魔眼殺し無しでも封じる役目もはたしていたのだ。

 

「ますます反則染みてきたわね、貴女も…」

「恐縮です…」

「あ、あははは…」

 

溜息を付くキャスターにもはや謝るしかないライダーの気まずい表情を見て、桜は笑うしかなかった。

 

ライダー達は再び戦いに視線を戻すと、立ち上がろうとする創世王を、2人の世紀王は油断なく構えている所であった。このまま押し切れると考えたライダー達は、創世王の眼が禍々しい光を放ち始めていたことに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

「すごい…」

 

戦いに魅了されていた衛宮士郎はただ、そう呟くしかなかった。自分達を絶望へ追いやった創世王を光太郎とシャドームーンが押していき、ついには大きなダメージを負わせるまでにいたった。士郎の中でこのまま倒せるという期待が膨らむが、それは少女の悲鳴によって打ち消されてしまう。

 

 

 

 

「キャアアアアァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

空洞に木霊する少女の悲鳴。その発生源は聖杯の一部となったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンのものであった。

 

「イリヤッ!?」

 

思わず見上げた士郎が目にしたのは、大聖杯のある崖の中で満ちた黒い呪いが触手のように伸びてイリヤの背中へ深いな音を立てて浸透し、腹部から再び姿を現した呪いが創世王が負傷した箇所へ巻きついていくという異様な光景だった。

 

やがて創世王の傷が完全に回復したと同時にイリヤの身体を伝って流れていた呪いが途切れると、再びグッタリと項垂れてしまう。

 

 

「創世王…貴様ッ!!」

『理解できているようだな。そうだ、私に傷を付ければあの小娘を通して魔力を吸引して回復する。その度に苦しむことになるだろうがな』

 

シャドームーンへ感情なく答えた創世王は再び立ち上がり、もう自分へは手出しはしないと判断した上で2人の世紀王へと前進する、 。

 

 

 

「…………ッ!?」

「やめよ。今飛び出しても返り討ちだ」

 

奥歯を噛み、自分の前に立って制止させたアサシンを睨むバーサーカー。彼の言う通り、光太郎とシャドームーンによってダメージを受けた状態ならまだしも、創世王は完全に回復している。そうなれば先ほどの二の舞となるだろう。

バーサーカーである彼にそのような言葉で止められるとは思えなかったアサシンではあるが、予想に反しバーサーカーは立ち上がったはいいが留まっている。

しかしその表情は怒りに満ちており、自身の不甲斐なさを呪うかのように斧剣を地面へと叩きつけている。

 

(本能が察しているか。彼奴が如何に強大であり、外道であるか)

 

冷静を装いつつも、アサシンとて相手の取った最悪の手打ちに黒い感情が沸々と湧き上がっていく。自分のように隠そうとせず、ありのまま感情を爆発させるランサーを羨ましく思える程に。

 

「あの野郎ッ…!だったら回復なんざさせないように一瞬で―――」

「いけないランサーッ!今の状態で宝具を作動させる前にまた…!」

「くっ…!」

 

頭に血が登っていたランサーは前に出て自分を止めるマスターの言葉に一瞬で自分達を切り伏せた光景が脳裏を過る。自分が今飛び出した所で聖杯に更なる力を注ぐだけに過ぎない。充分に理解しているランサーではあったが、それでも納得はできなかった。

自分達の戦いを奪うだけでなく、聖杯と成り果てた少女を人質にするような悪党を見過ごすことを。それを前にして、何もできない自分が許せなかった。

 

 

『さぁ、どうするのだ?世紀王共よ』

 

回答が分かり切っている質問をする創世王に対し、構えたままの光太郎とシャドームーンであったが、光太郎は身体から世紀王の力である輝きを消し、ゆっくりと構えを解いてしまった。

シャドームーンもしばし逡巡するも、苦しんでいた少女を一度見上げた後に光太郎に続く。

 

『よい決断だ』

 

創世王の膝に胸板へと叩きつけられ、仰向けに倒れた光太郎。それだけでは飽き足らず、足の裏で胸板を踏みつける創世王に対し、思わず手に力を集中させるシャドームーンであったがイリヤの姿が脳裏に浮かぶ。僅かな間だが、こちらが冷たくあしらっても付いてくる少女の笑顔が彼の行動を鈍らせた。

 

(…ブラックサンのことを笑えんな)

 

自嘲するシャドームーンに対して創世王は五指を向け、指先から怪光線を次々を発射する。ギルガメッシュの甲冑を易々と貫い威力を誇る光線は次第にシャドームーンの装甲に亀裂を走らせ、ついには地面へ両膝を着いてしまう。自分の名を叫ぶ宿敵の声が聞こえるが、このような時にまで他人を優先する性格に呆れながら地面へと伏してしまった。

 

「信彦ぉッ!!」

 

必死に手を伸ばす先で動かなくなってしまった友の名を叫ぶ光太郎へ踏みつける足へ力を込める創世王は自分の勝利に余韻しながらも声を発した。

 

『これ以上私の肉体となりうる者を傷つけることもなかろう。だが、仮初の身体とはいえ私に傷を負わせた罪は重い。しばしの間は苦しんでもらうぞ、ブラックサン』

「がぁッ!?」

 

メキメキと軋む音と共に強まる創世王の力に光太郎はなす術もなく、ただ痛みに伴って声を出すことしか出来なかった。

 

 

 

 

「どうすれば…どうすればいいのよッ!?」

「…………………」

 

自分に出来ることは何もなく、立ち向かったとしても時間稼ぎにすらならないと分かっている上で叫ぶ凛に、普段ならば小言を言うアーチャーすら何も言うことが出来なかった。聖杯を目の前にしてサーヴァントとマスター達に出来ることは、光太郎の苦しめる創世王の姿を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

ただ1人を除いて。

 

 

 

 

(おかしい…)

 

慎二は先ほど創世王がイリヤを経由して魔力を呼び寄せていたことがどうしても納得のしきれないことであった。

 

(なんで目の前にあんな大量な魔力があるにも関わらず、ダロム達みたいに直接取り込もうとしないんだ…?それに、さっきもサーヴァントの動きを止めるだけじゃなく魔力を吸収していたなんて…)

 

創世王の行動を考察し続ける慎二は今の創世王の姿と本物の化け物と成り果てた3大怪人達を比較し、幾つもの可能性を組み立てていく。そしてある一つの可能性に結びつくが、確かめるためにはもう一度イリヤの身体を呪いが通過する状況を見直す必要がある。

 

「くそ、ただでさえ胸糞悪くなる事なのに…」

 

慎二だって1人の少女が苦しむ姿など見たくはない。それに今、創世王に再びダメージを与えられる唯一の存在は動くことすらできないのだ。

 

「ちくしょう、あの時にまで時間が遡れさえすれば…」

「なにか、できるというのか?」

 

頭を掻き毟る慎二にギルガメッシュは胸を押さえながら促した。逆立った頭髪は創世王の攻撃を受けた際に降りてしまい、普段着と変わらない髪型となっている。

 

「…ああ、もし僕の考えが正しかったら、創世王に魔力の供給を止められる」

 

はっきりと物申した慎二の目を見たギルガメッシュは尽かさず背後の空間を歪ませ、出現した宝物庫から古風な手鏡を手渡す。それは慎二が口走ったことを可能とする宝具であった。

 

「…手にした者の望む過去を移し出す珍品だ。汚した際には…わかっているな?」

 

傷だらけになってもその見る者を凍えさせる獰猛な笑みを浮かべるギルガメッシュに慎二は臆することなく頷くと、鏡に向かって念じる。どうか、自分の考えが間違いでないことを祈って。

映し出されたのは白い少女の苦悶する姿。彼女の背中へと浸食する黒い呪い。そして腹部から延びる…

 

「…やっぱりッ!!」

 

だがまだ確信には至らない。映像を止めたまま、慎二はマスターに支えられ目を逸らしていたキャスターの元へと全力で走る。突然呼びかけてきた慎二に驚きつつも、彼の手短な説明を聞いたキャスターは鏡を奪い取ると、食い入るように見つめる。

キャスターは目を見開くとすぐに慎二へと顔を向け、ゆっくりと頷いた。

慎二は推測が確証されたことで、付近でこちらの話を聞いていたライダーへと顔を向ける。光太郎へと伝えられるのは、彼女しかない。

 

 

 

 

 

 

「グ…がぁ…!」

『まだだ…もっと苦しむがいい…』

 

全身が段々と地面へめり込んでいく光太郎は追い詰められながらも今の状況を打破する方法を思案し続けていた。創世王へのダメージを与える方法は掴んだ。だが、これ以上聖杯の少女を傷つけず、どう戦えばいい…考え続ける中、光太郎の頭に、パートナーである女性の声が響いた。

 

(コウタロウ、聞こえますか!?)

(ら、ライダーか?)

 

首を横へと向けるとこちらをまっすぐ見つめるライダーが頷く姿が目に入った。

 

(コウタロウ、どのような方法でも構いません。彼女を…イリヤスフィールを聖杯から解放して下さい!そうすれば、創世王へ魔力が供給されることはありません!)

(何だってッ!?)

(シンジが、見抜いてくれました)

 

そもそも聖杯の呪いを力として供給することにイリヤを通す必要がないほどこの場所では黒い泥は満ち溢れていた。それでも彼女を通して力を吸いだしていたのは彼女が小聖杯故の行動と思い込んでいたが、全く別の理由があった。

慎二がギルガメッシュから受け取った鏡でイリヤの身体を呪われた力が通過する状況を知りたかったのは、身体を通過する前と後。

目を凝らしていなければ見抜けなかったが、イリヤの背中に到達した時点では漆黒だった呪いは彼女の腹部から出現する際に所々が薄く、透明になっている部分を発見する。さらにキャスターの見立てでこれは魔力から『呪い』が限りなく削り取られ、純粋な魔力に限りなく近いものとなっている。

つまり、創世王はイリヤというフィルターを通して泥から呪いを避け、魔力のみを吸収していたのだ。

理由は定かではないが、創世王はダロム達のように直接黒い呪いを自らの力として取り込むことを極端に避けている。だからこそ、イリヤを聖杯から解放すれば…

 

「そういう…ことか」

『どうした…諦めがついたか?』

「いいや、お前が…あの子を利用した本当の理由と、お前が恐れていることがさ」

『な…に…?』

 

光太郎の言った事に創世王の余裕に陰りが刺す。光太郎は自分の胸を圧し続ける創世王の足を両手で押し上げながらも、創世王が余裕を取り戻す前に畳み掛ける。

 

 

「創世王…お前は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「死を、恐れているな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

それまで以上の力が光太郎へと伸し掛かる。光太郎は負けじと両手に力を込めるが、やはり力では敵わない。そして創世王の行動自体が、自分の言った事へ馬鹿正直に反応している証拠となった。

 

「…そうだ。5万年ごとに世紀王同士で戦わせ、新たな肉体を見つけ出すことも―――」

 

『黙れ…』

 

「ゴルゴムなんて組織を作って、俺や信彦、過去の世紀王達の身体を改造する技術を向上させたことも―――」

 

『黙れ……』

 

「その為に、ダロム達を選ばれたゴルゴムの民なんて吹き込んで利用し続けたのもの―――」

 

『黙れ………』

 

「お前がサーヴァント達から魔力を吸い上げ、自分の密度を高めたのも―――」

 

『黙れ…!』

 

「聖杯の魔力に直接触れようとしなかったもの…お前が恐れていたからだ!!」

 

 

 

 

「己が死ぬかもしれないという、恐怖心からッ!!」

 

 

 

『黙れえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

 

 

ついに咆哮を上げる創世王の足を押しのけ、横に転がって脱出した光太郎は急ぎ立ち上がり、構えを取る。

 

『貴様に、貴様等に何が分かるというのだッ!?』

 

初めてダメージを与えた時とは違う。創世王が内に秘め、ゴルゴムのメンバーにさえ打ち明けなかった本心の吐露であった。

 

『世界を自由に動かす力を手にしながらも、迫りくる死の恐ろしさが…貴様などに分かるものかぁッ!!!』

「ああ、わかりたくもない」

 

創世王の主張をバッサリと切り捨てた光太郎は、慎二達の助けでたどり着いた回答を認めた敵の首領に対し、それまでにない怒りを覚えた。

 

「確かに死ぬことは恐ろしい。けど、だからこそ人々は毎日を懸命になって生きている。後悔しない為に。愛する人と共に過ごす為に。そして、後の世代へ託す為に…なのに、死の恐ろしさを分かっているというのに貴様は自らの延命の為に、多くの人々を『死』へ追いやった!!」

 

光太郎の生みの親、育ててくれてた秋月家の人々、祖父とその親友達…そして数えきれないゴルゴムの犠牲者。その全てが、創世王の『死にたくない』という恐怖の為に散らされていった。

 

「まったく…聞いていれば随分と滑稽な話だ」

 

ゆっくりと身体を起こすシャドームーン。姿はボロボロとなったが、弱っているなど微塵も感じさせない迫力を放っていた。

 

「私は…私達は貴様の弱さを補うために散々利用されたということか…ならば、ここで全てを清算しなければならん」

「シャドームーン。行けるのか?」

「愚問だな。貴様こそ、ここでくたばるなど許さんぞ」

「ああ」

「そして…」

 

シャドームーンは救う手だてが見つかった少女へと目を向ける。なぜこうも彼女を救う方へと思考が動いているかは自分でも分からないが、彼にはイリヤに確かめなければならないことが残っている。

 

(確かめなければならない…貴様の意思を)

 

 

 

 

 

『どうやら貴様達とは、どうしても相容れないようだな』

「そんなもの、最初から分かりきっているはずだ」

 

先程とは逆に沈んだ声となった創世王の雰囲気を不気味に思い、警戒しながらも切り返す光太郎達に向け、創世王が動いた。

 

手を突出し、掌から赤い電撃を放出。シャドームーンの得意とするシャドービームと同等の技だが、その狙いは光太郎でも、シャドームーンでもなかった。

 

 

「…っ!?」

 

その先にいたのは、自分達の戦いを遠くから見守っていた少女、間桐桜であった。

 

自分に狙いが定められていたことに気付くが既に遅い。あと数センチで赤い雷が到達する瞬間、彼女を押しのけたライダーが身代わりに拘束され、宙へと浮かされてしまう。

 

「ぐ、うぅ…」

「ら、ライダーッ!?」

 

 

苦しむライダーの姿に思わず叫ぶ光太郎に向かい、創世王は冷徹に言い放った。

 

 

『人間の娘であれば、このまますり潰すところだったが趣向を変えるとしよう』

「貴様…何をするつもりだッ!?」

『どうやら亡霊共はあの呪いに触れるだけで反転し、さらに凶暴化してしまうらしいな…』

 

創世王は空中でライダーを固定したまま、崖の上で溜まっている黒い泥へと顔を向ける。それだけで、光太郎は創世王が起こそうとする行動が理解できてしまった。

 

「創世王…貴様、まさかッ!?」

『死の恐怖…貴様にも味わってもらおうではないか』

 

直後、創世王は腕を振るい、ライダーを黒い沼へと向かい投げ出した。

 

「ウアァァァァァァッ!?」

 

「ライダあぁあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

黒い沼へと落下するライダーの姿を見た途端に光太郎は赤い光を纏い、地を蹴って跳躍する。

 

懸命に手を伸ばし、受け身が取れずに頭から落下するライダーを抱きとめる事に成功するが、光太郎自身も落下していき、既に黒い呪いの塊は目の前に迫っていた。

 

(ああ…確かに、この方法なら俺も味わうことになるな)

 

ライダーを泥へと放り込もうとすれば、必ず光太郎も動きを見せる。完全に、光太郎の動きを読んでのことだったのだろう。

 

(ライダー…ごめん)

 

光太郎は投げ出された直後、既に気を失ったライダーに謝罪し、彼女の頭部を庇うように抱きしめながら、黒い泥へと沈んでいった。




恐怖心 俺の心に 恐怖心

てなダディ(ブレイド)の五七五が一時期ツボにハマっておりました。

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