Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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ついに70話…ほんとよく続いたなぁ

では、どうぞ!!


第70話『この世全ての悪』

「ここは…?」

 

間桐光太郎は住宅の一室であるリビングの中央で立ち尽くしていた。カーテンが敷かれていない窓から日の光が差し込んでいるというのに、何故か部屋全体が薄暗い。

だが、室内の不自然な明暗よりも、光太郎は自分がなぜ部屋の中にいるのかと疑問を抱く。

 

「俺はライダーと一緒に聖杯の泥に…そうだ、ライダーはッ!?」

 

周囲を見渡すがライダーの姿はない。もしや別の部屋にいるのではとドアノブに手をかけようとした光太郎だったが、伸ばした手をピタリと止める。そしてゆっくりと振り返った先…3人程が掛けえられるソファーの上で胡坐をかいている影があった。

 

(いつから…いたんだ?)

 

こちらを背向けている影…としか言いようのない、なんとか人の形を保っている黒い靄のかかった存在は振り返った光太郎を気にした様子もなく、何かに没頭していた。光太郎は気配が察知されないように近づき、影が夢中になっているものを視界に捉える。

 

(アルバム…?)

 

写真を一枚一枚吟味して捲っていく影は手を止めることなく突然声を発した。

 

「こっそり覗き見とはいい趣味してるじゃねーか。ま、別に見られて俺が恥ずかしいわけじゃないからいいけどよ」

「ッ!?」

 

不気味な風貌とは裏腹に陽気な声を出す影に思わず身を引いた光太郎は構えを取る。光太郎の行動に肩を竦ませ、立ち上がる影の姿から靄が晴れ、輪郭が人間のものとなった。

 

「はぁ…。ちょっくら脅かしたくらいでそこまでビビるこたぁないだろ。正義の味方やってんだからドンと構えるもんだろ?なぁ――」

 

「仮面ライダーさんよ」

 

振り返ったその顔を見て、光太郎は一瞬呼吸を忘れてしまう。影…否、少年は褐色の肌の上に無数の刺青があり、それは図形にも、文字にも、魔物の姿にも見えた。しかし、光太郎の思考を停止させたのはその点ではなく、男の顔であった。

 

 

 

 

「衛宮…君?」

 

 

 

男の顔は髪と瞳の色に違いがあれど、義弟の親友 衛宮士郎と瓜二つだった。なぜ、目の前の少年が士郎と同じ顔を持っているのかと疑問を抱く光太郎の反応がとても愉快だったのだろうか、男は笑いながら光太郎へ話しかける。

 

 

「似てると思って当然だ。あんたと話をしやすいようにちょいと殻を借りてることだしな」

「借りている…?

「他にも、ちょうど手頃だったのがたまたまアイツだったって理由もあるけどよ」

「その、理由は…?」

「至極簡単!俺が大嫌いなタイプだからだよ!」

「………………」

 

ケケケと笑う少年の説明に理解が追いつかない光太郎は先に会話の中にあった不可解な発言を整理していく。この少年は自分に用があり、その為に今の姿になったと言っている。なぜ衛宮士郎と同じ顔を持つ必要があったのかはこの際置いておく。まずは男の話を聞いた後、一刻もライダーを見つけ出さなければならない。

 

「んだよ~ちょいとはリアクションとれよなぁ。そんなに自分のサーヴァントが大事かい?」

「ッ!?」

「わかりやすいねぇ。素直な反応は嫌いじゃない。ほれ、さっさと介抱してやんなよ」

 

少年が指差した場所…光太郎の足元には赤い光に包まれ、意識を失っているライダーの姿があった。

 

「ライダーッ!?」

 

横になっているライダーの上体を持ち上げ、ライダーに呼びかけ続けるが目を覚ます様子はない。しかし、定期的に呼吸をしていることから眠っているだけで異常はないだろう。安堵する光太郎は次にライダーが自分のすぐ傍に出現した事へと思考を切り替えた。先ほどの少年もそうであったように、

少年が指を向ける寸前まで、ライダーは間違いなくこの場には存在していなかった。

ならば、この少年は空間を自在に操る能力を持っているのか…?推測する光太郎に少年はニヤニヤと笑いながら指摘する。

 

「その考えは間違っちゃいないな。いや、惜しいってとこか?」

「…俺の考えが、読めるのか?」

「そんな大層なもんじゃねぇよ。目の前でさっき見たいに色々見せれば、そう考えちまうもんだろ?だから、惜しいだ」

 

もしくは光太郎にそう考えさせるために力を振るった…とも取れる。掴みどころのない少年にこのまま翻弄されてはまずいと警戒を強める光太郎はさらに揺さぶられる発言を耳にすることになった。

 

 

「それにしたって、あんたはその石に感謝しなくちゃいけないねぇ。本来だったらそこのお姉さん、触れただけで純黒に染まってるところだぜ?」

「なっ!?…そうか。君が、そうなのか」

「あん?なに、もうわかっちゃったの?ヒント出しすぎたかな~」

 

つまんねーと唇を尖らせる少年は両手を頭の後ろで組み、ふて腐れる仕草を見せた。まるで人間の感情…いや、意思そのものがあるような少年の行動が、光太郎にとって驚くべきことであった。本来であれば純粋な力に過ぎない『それ』に、意思は宿らない。

だが、祖父が教えてくれた情報を知り得ていなければ信二や話を共有していたキャスターですら認めようとしなかったはずだ。

 

「俺とライダーは、別の場所に転移した訳ではない…だから、ここは―――」

「…もう隠す必要ないし、俺から言わせておくれよ」

 

ワザとらしく少年が両手を広げたと同時に周囲が歪む。リビングに設置されたテーブルやソファー、カップが収納された食器棚、少年が手にしていたアルバムが溶け、全てが黒い泥へと変わり果てる。

そう、光太郎の予想通り、ライダーと共に落下してその奥…『底』へと辿りついてしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ聖杯へ!歓迎するぜ、正義の味方(仮面ライダー)!!」

 

 

 

 

 

 

 

少年の声に呼応し、呪いと化した泥が光太郎とライダーを囲った。

 

どの方向へ目を向けても、あるのは黒い泥。どこまでも闇が続く空間の中で光を放っているのは光太郎のベルトの中央にある結晶とライダーを包む赤い光のみ。だが、視界が自分達以外が闇一色だというのに目の前にいる少年の姿ははっきりと見える。光太郎が声をかけることを待っているのか、両手を広げたまま立っている少年の手が段々と震え始めている。

 

「あの家は、俺の記憶を元にして君が作り出したのか?」

「ありゃ、随分冷たい反応。ま、悪気はないよ。いきなり周りが黒い泥地獄ってのも酷だと考えて思い入れのある場所を再現したんだけど…気に障ったかい?」

「いや…懐かしい気分になれた」

 

すぐに手を下ろした少年に首を横に振る光太郎。少年は合えて言葉にしなかったが、あれは光太郎がかつて過ごした秋月家のものだった。無論、少年が捲っていたアルバムにも覚えはある。幼い光太郎や信彦、杏子が無邪気に笑う姿を養父が撮影した写真が収められていたものだ。

もう二度と見る事が敵わなかった記憶の彼方にあった景色と写真。

あの空間は光太郎の中で色あせることなく刻まれているという確かな証だったのだ。

 

「…優しいねぇ。俺としては『よくも思い出を穢したなぁ!!』てな感じで責められるとばかり思っていたけど。ま、あんたの性格からしてそうなるか」

「正体を明かす為にあんな演出をしたのなら、確かに怒るところだね。大切な場所だったんだから」

「うげ、藪蛇」

 

口がすべったかと自分の額を軽く叩く少年だが悪びれた様子はかけらもない。思い入れのある記憶を今自分達の周りにある黒い泥へと変貌させられれば当然だろう。冷静でいられたのは、光太郎が少年の発言で自分達がいる場所にある程度予測が出来ていたからだ。そして、少年の正体も。

 

「…話がそれたね。それで、何故俺の目の前に現れたんだ?」

「そりゃ、今回の聖杯戦争で最初に辿りついたマスターとサーヴァントだからさ。色々あって最初に召喚されたサーヴァントの魂を取り込んでいないけど、こうやって形にはなっちまったし。外ではっちゃけてる自称王様と愉快な仲間達は漏れた聖杯からちょびっとの魔力を利用はしていたが触れたわけじゃない。つまだ。この聖杯戦争で聖杯を手にしたのは、あんたらってことになる。なんたって、聖杯である俺が認めてるんだからな」

「本当に、意思を持っていたんだな」

 

本来ならば無色透明の魔力の塊である聖杯に意思はない。しかし、こうして光太郎と意思の疎通が可能となっているのは、過去の聖杯戦争でその機能が狂ってしまった為だった。

 

 

 

過去の聖杯戦争で、聖杯を確実に手にするためにある陣営によって召喚されたそのサーヴァントは本来現れる7つのクラスに属さないイレギュラーのサーヴァントだった。

しかし、予想に反してサーヴァントはすぐに敗北し、聖杯に魂を取り込まれてしまう。だが、そのサーヴァント…英霊へ『望まれた呪い』を聖杯が『願望』として機能してしまったため、聖杯は殺す事でしか叶うことが出来ない欠落を孕む結果となってしまった。

 

 

この世全ての悪であれ。

 

 

そう望まれ、呪われた人間のなれの果てである悪を肯定する反英霊。

 

 

それこそが聖杯に取り込まれたアヴェンジャーのサーヴァント『この世全ての悪(アンリマユ)』そして光太郎へ接触した少年の正体であった。

 

 

 

「んで、本題だ。社交辞令として聞いとくけど、あんたは聖杯に託す願いは持ち合わせてんのか?」

「ない」

「即答かよおい。でも、俺とアンタの相性考えたらまずありえないだろうしなぁ」

 

頬を指でかきながら笑うアンリマユは今の聖杯が孕む殺す事でしか願いを叶えない機能と光太郎は対極であることは理解している。そもそも、光太郎は聖杯戦争を無くす為に戦い続けてきた。だから、彼が起こす行動も手に取るように予想ができたのだ。

 

光太郎はライダーを起こさないようにゆっくりと寝かせると立ち上がり、目の前に広がる黒い泥に向けて両腕を左右に展開し、両拳をベルトの上で重ねる。同時に照射された赤い光が黒い泥を照らし、呪いを浄化していく。しかし、浄化されて無色となった魔力は再び呪いへと汚染されてしまう。

 

「く…っ!」

「無駄だぜ。あんたが千人いようがこの呪いは消せない。それどころか表じゃどんどん溢れていってる。あんたのやってることは海に砂糖瓶一本持って挑むようなもんだ」

 

構えを解いた光太郎は息を荒立てながら聳え立つ呪いを見上げる。それでも諦めず再びキングストーンフラッシュの体勢へと移ろうとするが、アンリマユの言葉に動きを止めてしまう。

 

「止めとけよ。そうやってあんたはどうにか聖杯そのものを浄化して、その上で大聖杯をぶっ壊すのがそもそもの目的で、最後にあの自称王様をも倒そうとしてる訳だ。けどよ、万が一に上手くいったとしても―――」

 

 

 

 

 

 

 

「あんたにこの先待っているのは、終わりのない戦いだぜ?」

 

 

 

 

 

凍りつく、とはまさにこの事だろうか。アンリマユは、広げた両腕を静かに下げて振り向く光太郎の表情――仮面で覆われて見れないが、理解が出来ないと言っているように強張っていることが分かった。そりゃそうだろうとアンリマユですら考える。全ての事柄には始まりがあり、終わりもある。それは聖杯戦争ですら同様だ。

しかし、彼―――間桐光太郎をはじめ、仮面ライダーと名乗る戦士には、終わりはない。

 

「論より証拠ってな。見た方が早いだろ」

「―ッ!?これは…」

 

光太郎の脳裏に浮かぶ様々な映像。場所も時代もバラバラであり、共通しているのは戦いの場面であるということのみ。

 

「大聖杯ってのはどうも時間軸が並行しててな。それもあってか過去、現在、そして未来から英霊なんてものを呼び出すことが可能になってる。あんたが今見てるのは過去に起こり、そしてこれから起こり得る一つの結果だ」

 

 

それは戦いの歴史。

 

 

光太郎が一度命を失い、戦いを放棄しかけた時に激励を送ってくれた戦士達の姿だった。

 

 

光太郎と同じように人としての身体を失い、大切な人々を無くしながらも彼らは戦い続けた。

 

 

時には孤独に。

 

 

時には力を合わせて。

 

 

同じ境遇の戦士達は巨悪と命を懸けて挑み続けていた。

 

やがて時代は進み、光太郎がゴルゴムと戦い続ける場面へと切り替わる。改めて戦い続ける光景を見た光太郎にとっては、全ての戦いがまるで昨日の出来事のようだった。だが、それももはや歴史の一つにしか過ぎなかったのだと、光太郎は思い知ることとなった。

 

 

「彼らは…!?」

 

 

光太郎が知っているのは、自分よりも先に仮面ライダーとなり、今も世界中でゴルゴム達と戦い続けている10人の先輩達のみ。それ以前の歴史の中で仮面ライダーと名乗る者は存在していない。ならば考えられるのは一つ…光太郎が今見ている戦士達は、これから先に生まれ、戦う宿命を背負った戦士達なのだろう。

 

 

 

人々を殺すためだけに襲う怪人を止める為、笑顔を守る為に甦った同じ古代の戦士。

 

自分達の主と対を成す存在の因子を持つ人間を狩る者に立ち上がった進化を続ける闘士。

 

己の欲望を叶えるための殺し合いを止める為に戦いへと飛び込んだ龍の騎士…

 

 

その後も一つの戦いが終わる度に、新たな悪と、仮面ライダーが生まれ続けていた。

 

 

闘う理由も、時代もバラバラである彼らの戦いと意思は、間違いなく仮面ライダーだった。戦いの場も地上、空、そして宇宙へと広がり続けている。

 

 

その中には、自分も含め全ての仮面ライダーが集い、結束した敵へと立ち向かう場面も見られた。だが、そこに自分が立っているということはアンリマユが言った通りに例えゴルゴムを、創世王を倒したとしても、光太郎は戦いは終わることなく続いていくことを示しているようだった。

 

 

そして、最後に見た光景。

 

 

 

 

 

光太郎が今とは違う姿となり、2つの世界をかけての戦いに苦渋の選択を迫られながらも敵の首領を打倒す場面であった。

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけだ。未来なんて曖昧なもんだから全てが今見た通りとは行かねぇけどよ。確実なのは、あんたはこの先も戦い続けるってことだ…」

「………………………」

 

光太郎は何も言わなかった。ただ映像で見たこの先の未来で起こり得る事を目の当たりにし、放心状態となっている。無理もない。人生を狂わされ、死ぬような戦いを続けてようやく戦いの終結が見え始めた頃に残酷な未来を見せられたのだからと、アンリマユは光太郎の足元を見る。

 

キングストーンの加護すら弱まった今の光太郎の状態に気付いたのか、聖杯の泥が触手のように伸び、光太郎へ迫り始めた。

 

アンリマユは光太郎が飲まれていく様を見ないために振り返える。

 

正直、やりすぎてしまったかもしれない。誰かのためだけに力を使い続けた光太郎に対し、反感を持っていた。それは他人ばかりを助け自分を助けようとしないという、どうしても自分が好きになれない部分であり、少しは自らを顧みることを考えさせる為だったが、効果有り過ぎたようであり、無防備となってしまっている。

 

(あれじゃあ今外に戻しても戦いにならない。さて、どうしたもんか)

 

いっそのこと聖杯の泥を創世王に被せるかと思案を始めるアンリマユは自分の足元に影が出来ていることに気付く。

 

おかしい。

 

ここは聖杯の底の底。影が出来る程の光など届かないはずだ。

 

ならば、原因は一つしかない。

 

 

 

「おい…オイオイオイオイオイオイオイ!!」

 

聖杯の呪いから身を守るためだけなどには留まらい輝きに、光太郎へと向き直ったアンリマユはあまりの眩しさに手を目の前で翳しながらも驚愕する。光太郎に伸びていた呪いは全て浄化されていたが、次第に周囲の呪いへと溶け込んでしまう。

だが、光太郎は全く構うことなく再び両拳をベルトの上で重ねる。

 

「頼むぞ…キングストーンッ!!」

 

光太郎の叫びに呼応したかのように、エナジーリアクターからさらに強烈な光が放たれた。

 

「だから無駄だって…ハァッ!?」

 

あり得ないことがアンリマユの目の前で起きてしまった。

 

光太郎の足元から段々と黒から白へと染め上っていく。否、呪いが浄化され、聖杯本来の無色である魔力と変わり始めているのだ。その変化は徐々に早くなり、アンリマユの足元にすら及んでいた。

 

「一体どうやって…あの赤い石を照らしたところでここまで早く…いや、まさかアイツ…!」

 

周囲の変化に同様したアンリマユは改めて光太郎の姿を見た。そこには当たって欲しくもない予想通りの行動を取っている愚かな世紀王の姿だった。

 

 

「おまえ…聖杯の魔力を取り込んでやがるなッ!?」

 

見れば光太郎のベルトの中央から2色の魔力が渦を描いているように吸収、排出されていた。吸収されているのは黒い呪い。排出されているのは無色となった魔力。無尽蔵とも呼べる黒い泥に対し、浄化された魔力はまだ1割にも満たない。それでも、光太郎は

さらにベルトへ力を集中させた。

 

「ウオォォォォォォォッ!!」

「自殺行為だぜ…お前、あの聖杯の嬢ちゃんと同じ目に…いや、そんな生易しいもんじゃない。あんた、何千年分も溜め込まれた『悪意』を取り込むつもりかよッ!?」

 

 

光太郎の取った手段は創世王が行った方法に近い。イリヤというフィルターを使い、黒い泥から極力呪いを削って純粋な魔力のみを取り込んでいたのであった。だが、この方法ではアンリマユの言った通りに魔力は浄化されても、残った悪意…呪いは光太郎の中に残ってしまう。現に光太郎は体内に宿った呪いに精神が蝕まれ始めていた。

 

「が…あぁッ!?」

「やめろッ!!それ以上やったら死んじまうぞッ!?」

「最初から…いや、最後の手段で、こうするつもりだったんだ。でも、これは予想以上…に…ッ!!」

 

 

 

 

 

それはアンリマユも見た光景だった。

 

光太郎がキャスターと手を組んで間もない頃。

 

光太郎はキャスターに頼み込み、ある特訓を始めていた。

 

 

「く…うぅ…」

「まだよ…まだ最後まで出し尽くしてないわ」

「うぐ…が…ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」

「はいお終い。…どうだったかしら?毒入りの魔力を一度取り込んで、魔力のみを排出する気分は?」

「…柳洞寺に受けた毒より辛いよ」

「そうでしょうね。あの時以上の毒を使っているのですから」

「うわぁ…」

 

せめて最初に言って欲しいと言う前に、光太郎は変身を解除して腰を下ろした。汗だくとなった顔をタオルで拭きながら、光太郎はキャスターの掌で踊っている魔力の塊を見る。それはキャスターによって一度毒が練りこまれた魔力であり、一度光太郎がベルトから取り込んで毒素を抜いて排出したものだった。

取り込む前は毒々しい紫色だったが、今は紫陽花のように澄んだ色になっている。

 

「改めて言うけど、正気を疑うわね。坊やから渡された情報を見たけど、あの呪いは人1人でどうにかできるようなものじゃないわよ」

「俺もお爺さんからそう聞いている。俺にどうにかできるかどうかも、博打に近いってさ」

「その人も相当ね…」

 

同意しながら笑う光太郎がキャスターへ協力を仰いだ理由の一つ。呪われた聖杯を浄化する為の方法をキャスターへ意見を求め、方法を確実にするためであった。

 

「けど、貴方はここ数日でキングストーンのコントロールを確実なものにしているわ。おかげで余計な使い方まで覚えてしまったし」

「あれはあれで使い所はあるさ。またゴルゴムが地脈を悪用するかもしれないしね」

 

立ち上がりながら柔軟体操を始める光太郎にキャスターは怪訝な目を向ける。まだやるつもりなのね、と。

 

「…現段階で分かっていることを伝えるわ」

「えっと、成功させた場合とか?」

「どの道、貴方は死ぬわよ」

 

冷たく言い放たれた言葉に、光太郎は表情を変えずにキャスターの話を黙って聞いていた。

 

今光太郎が行っている特訓はあくまで肉体へ「毒」という形で負担をかけ、身体をなれさせる方法だ。しかし、実際の聖杯の呪いは肉体には勿論だが、「精神」へ浸食する呪いだ。今の方法を繰り返したって身体は無事で済んだとしても精神が死んでは意味がない。

 

キャスターも今の聖杯がどのような状態にあるか知った時は調べた事を後悔するほど嫌悪感を覚えたほどだった。だというのに目の前のお人良しはもし発動した場合は壊すでなく、浄化してから対応するというのだから始末に負えない。

 

「…そうか。わかった、続けようキャスター」

「貴方の耳は飾りなの?」

「確かにキャスターの耳なら遠くまで聞こえ…すいません杖を下ろしてください」

「どうにも貴方は死ぬ事に対して疎いというか…家族だっているんでしょう?」」

 

こんな事を言うなどらしくないと考えながらも話題に出したキャスターへ帰ってきた光太郎の返答は…

 

「ああ。だから死ねない。そのためにも生き残る確率を少しでも上げて起きたいんだ。今以上に心配をかけたくないからね」

「…そう。捨て鉢というわけじゃなさそうね。いいわ。毒のはさっきの10倍は練りこむわ」

「…お手柔らかに」

 

折れることを知らない青年を背に、キャスターは再び魔力と毒の調合を始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからってなんで今そんな手段を取んだよ。先の話を聞いてやけになったのか?」

 

静かに聞くアンリマユに対し、呪いの浄化を続ける光太郎は手を緩めることなく、彼の方へと顔を向けた。

 

「確かに…驚いたよ。俺の後にも、あんなにも仮面ライダーが生まれて、戦う道を選ぶなんて。とても、悲しかった」

「あ…?」

 

どうにも噛みあわない。あの男は、自分が終わらない戦いが待っていると知って絶望したのではなかったのか?それに、なぜこの先に生まれる連中を心配する必要があるのか。

 

「見たんだ…彼らは俺と同じ…いや、俺以上の苦しみを背負って、迷って、それでも戦う道を選んだんだ」

 

その中には光太郎と同じく大切な人を失い、悲しみに明け暮れる暇もなく立ち上がった戦士もいた。それが、仮面ライダーの宿命であるかのように。

 

「けど、それでも…こんな事は考えるのは思い上がりかもしれない。けど…」

 

静かな光太郎の独白に、アンリマユは知らぬ間に聞き入っていた。

 

 

 

「これから先、それこそ顔も知らない誰かの為に立ち上がってくれる…守る為に戦ってくれる彼等の通る道を俺の…俺達の戦いが…鎹となるのが役目なのだとしたら…」

 

 

「こんなにも、誇れることはないッ!!」

 

 

 

光太郎の起こしている呪いの吸引と浄化はますます強まっていく。既に半分以上の呪いが黒から白へと色を変えている。もはや、聖杯としては不完全だとしても本来の機能は取り戻しているだろう。

 

「だからって何であんたがここまでする必要があるんだよッ!?今の状態ならあんたの手で聖杯を破壊が…」

「それじゃあ駄目だッ!!聖杯を、完全な状態になってから破壊しないと、意味がないッ!!」

「何だそれ…意味わかんねぇぞッ!?」

「じゃないと、君を聖杯から救えないッ!!」

「なッ!?」

 

アンリマユは言葉を失った。こいつは何といったのだ?呪いと化した自分を救う?馬鹿馬鹿しい。この身はすでに「そういったもの」なのだ。今だって殻を被っているから意思はあるが、本来虚無の存在である自分に救いなど、意味がない。だというのに、この男は自分を救うと言った。

 

「君は、聖杯の一部となってしまったんだろうッ?なら、今のまま破壊したとしてもまた聖杯に囚われるかも分からない…だから、完全に浄化する必要があるんだッ!!」

「だからって、何でアンタが呪いを背負う必要がる?アンタの言葉じゃねぇがここにある悪意は…顔も知れない、とっくに死んじまった奴のだってあるってのにッ!!」

 

「…俺の知り合いが言ってたんだ。『王は全てを背負うもの』だって…言われるのは好きじゃないけど、俺も『王』と呼ばれる1人なんだッ!!だから、人の悪意だって、それが死んだ人間のものだって、背負い、乗り越えてみせるッ!!」

 

なんて屁理屈…それで、それで死んでしまったらどうするつもりなのか。本人は気が付いていないのか、身体の至るところから血が飛び散っている。精神的に呪いに耐えられても、肉体が悲鳴を上げているのだろう。

 

「それに、約束したんだ」

 

赤い光に包まれ、意識を失っている掛け替えのない存在に目を向け、仮面の下で微笑みながら光太郎は未だ混乱しているアンリマユを見据え、浄化を止めることなく叫んだ。

 

 

 

 

 

「彼女との約束を守る為に、慎二君や桜ちゃん…大切な人を…今を生きる命を守る為に俺は戦う道を選んだッ!!その為に、俺は死ぬわけには行かないッ!!」

 

 

 

 

 

「だから、こんな呪いなんかに、負けるわけには行かないんだああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

そして世界は、白一色へと染まった。

 

 

 

 

 

「く…あ…」

 

悪意を取り込みながらも打ち勝った光太郎は両手をダラリを下げ、前のめりに倒れそうな所を彼のパートナーに抱きとめられた。

 

「お疲れ様でした。コウタロウ」

「ライダー…なんとか、なったよ」

「はい…お見事でした」

 

マスターの功績に涙目になりながら、ライダーは優しく光太郎を称賛する。そんな2人に、手がはち切れんばかりに拍手を送る存在は段々と気薄となっていた。

 

「あー、どうやら俺はあんたって人物を誤解してたみたいだわ。てっきりこれと一緒で誰かのために命を投げ出す死にたがりかと思ったけど違った」

 

と、自分自身を指さすアンリマユの顔は、光太郎の知る少年よりもより子供らしい笑みを浮かべていた。

 

「あんたは命を懸けて戦うが、それ以上に守り続ける為に生きようとする意思が強い。ったく、紛らわしいぜほんと」

 

悪態を付く少年の輪郭は段々と失っていく。まるで先ほどとは逆の現象だった。

 

「アンリマユ…」

「変な同情はいらないぜ。聖杯に戻ろうと元の場所に還ろうと、俺にはさっきまでの記憶は残らない。もともとあってないようなもんだしね、俺は。だから…さっさと元の場所に戻れよ、仮面ライダーさん」

 

存在を失っていく少年に、光太郎は何の言葉も浮かばず、黙ってうなずくことしか出来なかった。

 

「けど、とりあえず礼は言っておくよ。とんでもねぇもんが見れたのもそうだけど、形だけでも俺を助けようとしたのは、あんたが初めてだったしな」

 

もはや、影しか見えない。それでも光太郎とライダーは彼が伝えようとする言葉を聞き漏らさないように黙り続けていた。

 

「それと、ここで見た過去と未来については、表に出たら忘れてるだろうぜ。さっき言ったが時間軸が並行しているのは、この場限りなんだ。それに、未来が分かってちゃ面白くないだろうしな」

 

振り返った少年…影は一歩、また一歩と足を前に進めて、光太郎達から離れていく。

 

 

 

 

「これは最後になるけどよ…あんたはもうちょいと、我が儘言ってもいいと思うぜ。弟さんも言ってたが、そうじゃなきゃ割にあわねぇよ」

 

 

 

振り返ることも、別れの言葉もなく、少年の姿は消えた。

 

 

 

「コウタロウ…」

「ああ、帰ろう。ライダー」

 

 

 

「決着を、着ける」

 

 




アンリ君は自分なりの解釈となっております。

さて、本作ですが残り3~4話で一区切りを付けたい予定となっておりますので、最後までお付き合いしていただければと思います。

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では次回!
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